「アホフェミ」について(笙野頼子さんの見解)

 2018年10月18日、私はツィッターにて、以下のようなコメントをしました(コメントツリー形式になっていますので、クリックすればツリーの全体が読めます)。言及されるお店の(大学地下部室のような)アジール性を評価しつつ、それを他人に(とりわけ「女性」を「アホフェミ」などとラベリングして)振りかざす武器とするべきではない、という主張です。

 

 

 こちらのツィート、および、それに関連したやりとりを見た作家の笙野頼子さんから、ベルクを擁護する人たちと批判する人たちに関して、「本来は和解できる問題だと思います」、「和解してほしいと思います」としたうえで、不意に湧いてきた「アホフェミ」という罵倒表現について、示唆に富んだコメントをメールにて頂戴しました。

 というのも、笙野頼子さんの小説に出てくる「イカフェミ」という造語を「捕獲」する形で、「アホフェミ」が正当化されようとしたので、それについての「正しい解釈を述べたいのです」ということでした。

 私も、とりわけこの点に関しては、ジェンダーについての本質を突くものであり、大きく蒙を啓かれた(この問題について発言しようと思うに至った違和感が解消された)と考えましたので、以下、笙野頼子さんご本人の許諾を得たうえで、当該箇所をご紹介します。

 なお、文中で言及される『日本のフェミニズム』(河出書房新社)は、次の書籍です。全体的に良書で、私も「図書新聞」の2018年1月20日号の連載「〈世界内戦〉下の文芸時評」で論じたことがあります。

 (岡和田晃・文芸評論家)

日本のフェミニズム

日本のフェミニズム

 

 

 岡和田晃さま

 


 アホフェミってフェミの属性と関係ない嘲笑侮辱の言葉
 イカフェミがあるからアホフェミといってもいいといった男のツイッタラーがいたのでイカフェミの正しい意味をまず書きます。

 イカフェミは拙作に登場する偽のフェミニズムイカサマのイカ、偽という意味、それは原初的な女性の戦い、怒り、悲しみを乗っ取ってその本質や大切な部分を、無効化してしまう捕獲装置である。マスコミや研究の腐敗によって、本質を欠いたまま形骸化、巨大化したものである。これをすでにフェミではないとして小説の中で、私は十年以上前から批判している。同時期にロリフェミ、途中からはヤリフェミとも表現している。
 つまり私がもともとフェミという言葉をあまり使わず、ウーマンリブとか、女性解放という言葉を多用するのは、前世紀から一部のマスフェミが権力にこび、少数派にすぎぬのに代表としてふるまい、性表現万能的な立場だけを表面化していることを間違いだと思うから。その上に冷笑的で無神経であるケースがあるためそれを作中で批判している。『日本のフェミニズム』のインタビューを読めばわかる。
 前世紀既に、あるマスフェミ兼アカフェミがフェミ全部の代表化している風潮を、私は発言で批判している。
 ウーマンリブの時代に十代であった私は最初の怒りを大切にしたかった。昔はリブと言っていた。
 なので世間に流通している「大きいフェミニズム」を、その立場、方向性、真贋、過激さの程度、等から、作中で戯画化して批判したのである。
 「アホフェミ」などという人を見下した言いっぱなしの言葉とは違う。

 形容に関して、否定でも肯定でも、ラディフェミ、リベフェミ、ぬるフェミ、ガチフェミという言い方はあって良いと思う。程度や方向性をあらわすから。
 もしそのような語が立場の違う相手との罵り合いに使われるとしても、それは派閥や個人の議論のための言葉である。

 しかしアホフェミ、ブスフェミはない。
 フェミの立場、方向性、真贋とアホやブスという評価は関係ない。上から決めつけて威張っているだけだ。批判になっていない。批評性がない。

 アホフェミという言葉はむしろバカ女とかだめ母、毒嫁という言葉と同じものだ。

 

 笙野頼子

 

2018.10.29付記:私はこの記事を、クリティカルなポイントに絞り、かつ「煽らない形」で書いております。中傷の連鎖を断ち切り、またその渦中に笙野頼子さんを巻き込まないためです。コメントを参照する方は、この点を念頭に置いてください。(岡和田晃

2018年9月の仕事

・【イベント】『ハーンマスター』体験会(2018年9月1日、TRPGフェスティバル2018内、於:ホテル大野屋、サンセットゲームズの招聘による)
・【イベント】『ハーンマスター』体験会(2018年9月2日、TRPGフェスティバル2018内、於:ホテル大野屋、サンセットゲームズの招聘による)
・【イベント】「Role&Roll」新作発表会(2018年9月2日、TRPGフェスティバル2018内、於:ホテル大野屋、アークライトの招聘による)
・【批評】「「語ること」の深い喪失 倉数茂『名もなき王国』の書評」(「共同通信」2018年9月6日配信記事)
・【批評】「〈世界内戦〉下の文芸時評 第四三回 身体感覚を突き詰めて世界の全体性を記述する、リトルマガジンの出発点」(「図書新聞」2018年9月13日号)
・【批評】「在野での写真批評に活路 『デュラスのいた風景 笠井美希遺稿集』書評」(「北海道新聞」2018年9月9日号)
・【監修】【ゲームデザイン待兼音二郎朱鷺田祐介岡和田晃「『エクリプス・フェイズ』インターミッション&運用ガイド 即身仏とカリスマ美女モデル」」(「Role&Roll」Vol.168、新紀元社
・【レポート】参加者:デーナ・ルイス(翻訳家)、高橋良平(フリー編集者)、大和田始(翻訳家) 司会・本文構成:岡和田晃 「山野浩一氏追悼パネル 電子版限定(3) SFセミナー2018本会企画 於:全電通労働会館【東京】」 (「読書人」ウェブサイト、2018年9月12日)

https://dokushojin.com/article.html?i=4127&p=7
・【紹介】「月刊アナログゲーム情報書籍「Role & Roll」Vol.167「『エクリプス・フェイズ』入門シナリオ&運用ガイド ヴァイキング・マーダーズ または、火星八つ墓村」」(「SF Prologue Wave」2018年9月20日号)
・【紹介】選者コメント寄稿(「はじめての海外文学vol.4」フェア)
・【座談会】「北海道文学」の誕生とタコ部屋労働(1)~国木田独歩空知川の岸辺」(シミルボン)https://shimirubon.jp/columns/1691732
・【座談会】「北海道文学」の誕生とタコ部屋労働(2)~国木田独歩空知川の岸辺」(シミルボン)https://shimirubon.jp/columns/1691741

・【座談会】「北海道文学」の誕生とタコ部屋労働(3)~「空知川の岸辺」から「監獄部屋」へ(シミルボン)https://shimirubon.jp/columns/1691796
・【座談会】「北海道文学」の誕生とタコ部屋(4)~羽志主水「監獄部屋」(シミルボン)https://shimirubon.jp/columns/1691800

 

2018年8月の仕事

 

・【批評】「〈世界内戦〉下の文芸時評 第四二回 大量処刑という現実が露わにする歴史の断層」(「図書新聞」2018年8月10日号)
・【批評】「シナリオ・ドリヴンなRPG」(「FT新聞」2018年8月16日号)
・【単著】『反ヘイト・反新自由主義の批評精神 いま読まれるべき〈文学〉とは何か』(寿郎社
・【監修】【ゲームデザイン朱鷺田祐介岡和田晃待兼音二郎「『エクリプス・フェイズ』入門シナリオ&運用ガイド ヴァイキング・マーダーズ あるいは火星八つ墓村」(「Role&Roll」Vol.167、新紀元社
・【歴史コラム】文:岡和田晃、イラスト:見田航介「戦鎚傭兵団の中世“非”幻想事典」の第46回は、「ベギンとベアータ フリーランスの「修道女」」(「Role&Roll」Vol.167、新紀元社
・【紹介】「月刊アナログゲーム情報書籍「Role & Roll」Vol.166「『エクリプス・フェイズ』入門シナリオ&運用ガイド 焦土の衛星シンダーの秘密」」(「SF Prologue Wave」2018年8月20日号)
・【批評】『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』レビュー(「SFマガジン」2018年10月号、早川書房
・【批評】「『幻獣辞典』と〈怪物〉をめぐる解釈学」(「ナイトランド・クォータリー」Vol.14、アトリエサード

・【ゲームデザイン】「『トンネルズ&トロールズ』完全版 ソロ・アドベンチャー 無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中~“再来のグリンボウ城”へ~」(「ウォーロック・マガジン」Vol.2、グループSNE

・【批評】「FFによる遊戯史学のススメ」(「ウォーロック・マガジン」Vol.2、グループSNE

・【イベント】「『ハーンマスター』体験会」のゲームマスター(2018年8月31日、TRPGフェスティバル2018内、於:ホテル大野屋、サンセットゲームズの招聘による

・【イベント】「ウォーロック・マガジン&GMマガジン編集長対談」(2018年8月31日、TRPGフェスティバル2018内、於:ホテル大野屋、グループSNEの招聘による)

 

10月27日に書評研究会で『反ヘイト・反新自由主義の批評精神』が取り上げられます

神山睦美さんがコメンテーターをお勤めになる、書評研究会で、拙著を取り上げていただきます。ご関心のある方は、ぜひお越しください。

 

■日時 10月27日(土)午後2時00分~午後6時00 

岡和田晃反ヘイト・反新自由主義の批評精神』(寿郎社 

 

■コメンテーター 神山睦美

■会場 大阪経法大麻布台セミナーハウス 4階中会議室

新しい文芸評論のスタイルを切り開いた画期的な書といえます。岡和田さんの本は、『世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷〜SF・幻想文学・ゲーム論集 (TH SERIES ADVANCED)』(書苑新社 2017年)が出版された時点で採り上げなければならなかったのですが、今回、これまでの仕事も含めて岡和田批評の意義について考えていこうと思います。(神山睦美)

世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷〜SF・幻想文学・ゲーム論集 (TH SERIES ADVANCED)

世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷〜SF・幻想文学・ゲーム論集 (TH SERIES ADVANCED)

 

 

未来の他者へー『サクリファイス』『希望のエートス』批評集

未来の他者へー『サクリファイス』『希望のエートス』批評集

 

はてなダイアリーより引っ越しました

はてなダイアリーのサービス終了に伴い、はてなブログへ移行いたします。

つきましては、この「Flying to Wake Island 岡和田晃公式サイト」のURLも変更になります。

旧URL:http://d.hatena.ne.jp/Thorn

新URL: https://akiraokawada.hatenablog.com/

もっとも、リダイレクト設定は済ませておりますので、旧URLをクリックしていただいても、新URLの該当箇所へ自動ジャンプいたします。

引き続き、よろしくお願い申し上げます。

 

岡和田晃

東海大学文芸創作学科2018年度秋学期シラバス(SF文学論)


東海大学のサイトのシラバス検索でも見られますが、こちらにも掲載しておきます。また、一部の誤記を修正したので、こちらが正確です。

 
2018年度 秋学期  
授業科目名 サブカルチャーと文学
曜日 時限 水-4
テーマ 「サブカルチャー」から「文学」を読み替える「文学を介した“反”サブカルチャー論」
キーワード サブカルチャー SF 現代思想現代文学


【授業要旨または授業概要】

 大学で「サブカルチャー」を勉強すると聞いて、面食らった方もいるのではないでしょうか?
 もともと「サブカルチャー」は社会学の用語ですが、昨今では日本製の“アニメ・漫画・ゲーム”のことを指す場合が多いようです。こうした周縁的と思われてきた分野のインパクトを、もはや大学教育の現場でも、無視できなくなっているということです。
 他方で、これらを「クール・ジャパン」と一括りにして闇雲に称揚する言説が存在しています。しかし、その文脈においては、従来「文学」とされてきた領域はむろんのこと、狭い日本における商業的な価値観に閉じこもり、海外との(相互的な)影響関係に関する視点が、すっぽりと抜け落ちてしまっています。
本講座は、そうした「サブカルチャー」観を再生産するものではないことを、まずは強調しておきます。むしろ、かねてから「サブカルチャー」として軽んじられてきた表現を、「文学」と等価に扱い、それどころか、既存の「文学」を読み替える可能性を内包したものとして捉えていくというのが、本講座の趣旨なのです。

 資本主義が高度に発達した現在においては、私たちの接する文化は中心を欠いたものとなってしまっており、経済効果のみが作品を語る指標として用いられがちです。
 しかしながら、欲望の無自覚な肯定に終始し、「文学」をはじめとした人文科学の成果を敵視するような悪しき意味での「オタク」を再生産するのでは、わざわざ大学で学ぶ意味がありません。
 本講座は、狭い世界に閉じこもらず、外へ向けての「窓」となる、認識の枠組みと教養の土台づくりを目指します。

 ゆえに、正確に言うと本講座は「サブカルチャー論」ではありません。反対に、「文学を媒介とした“反”サブカルチャー論」です。このことは、講義内でも絶えず強調していくので、忘れずにいてほしいと思います。



同名の講座が水曜3限・水曜4限で展開されます。水曜4限の講座では、SF文学について学びます。とりわけ、狭義の「文学」と「SF」の合間にあるような、スリップストリーム(変流文学)、あるいはスペキュレイティヴ・フィクション(思弁小説)としてのSFの講読と批評にスポットを当てます。

※より詳しくは、続けて【授業計画】の項目をご参照ください。


【学修の到達目標】
・日常的に接する文化環境に対しての批判的な視座を持ち、そのルーツを探り新たな表現を産むために必要な(最低限の)知識と好奇心を涵養します。
・文学を中心にしつつ、哲学・歴史学・美学といった人文科学についての基本的な知識をも習得します。
カルチュラル・スタディーズジェンダーポストコロニアル理論といった、現代批評理論の基礎を習得します。
・ヌーヴェル・クリティーク以降の文芸評論の基礎を習得します・
クリエイティヴ・ライティングの基礎をも学ぶことで、学術的な視座の批評や創作へ応の応用を目指します。


【授業計画】
◆スケジュール
<注意:水曜3限では、SFの講読と批評を中心に学習します。水曜3限と4限では、授業内容が異なります>

 映像資料の分析も交えますが、基本的には小説・批評を講読していきます。
 いま、創作や批評を試みるにあたって、もっともネックになるのが、絶対的な読書量の不足です。ただ、やみくもに数をこなせばよいというわけではありません。プロの作家や書評家でも、作品の読み込み、全体的なパースペクティヴの提示、状況への批判の三つを兼ね備えている人は少ないのが現実です。
 しかしながら、複雑化する現実を、既存のリアリズムでは捉えきれなくなっている現状は確かに存在します。SFの講座は英語圏では普通に存在しますが、日本では限られた大学でしか講じられていません。それゆえ、SFの方法を身に着けていれば、並み居る(広義の)作家志望者たちから、一歩抜きん出ることが可能になるでしょう。
 そこで講座では、実際にSF評論、文芸評論、ロールプレイングゲーム創作の現場における最新の知見を、随時紹介する予定です。
 本気でプロの物書きになりたい人は、大いに歓迎します。前期履修者の継続出席、他学部・他学科からの聴講も歓迎しますが、途中で離脱するケースが多いので、いちどやると決めたら、最後まで受講することを推奨します。さもなければ、身につきません。
 しばしば誤解されるのであらかじめお断りしておきますが、「サブカルチャー」だからといって「ラク」というわけではありません!


※2018年前期の内容を、参考までに以下に示します。受講生の関心や状況に応じ、随時変更を加えていきます。教室での指示を聞き逃さないようにして下さい。
 講義では、担当テクストを輪読し、解釈に必要なキーポイントとして、文学史現代思想に関するトピックを解説していきました。


1:オリエンテーションJ・G・バラード「内宇宙への道はどこか?」、山野浩一〈四百字のX〉講読
 キーポイント:SFの定義について、「サイエンス・フィクション(科学小説)」ではない「スペキュレイティヴ・フィクション(思弁小説)」のあり方
2:山野浩一NW-SF宣言」と未来学(小松左京)批判
 キーポイント:現代日本の文芸ジャーナリズムを取り巻く、大ベストセラー中心主義(ブロックバスター)という構造を考える
3:山野浩一「死滅世代」、伊藤計劃The Indifference Engine」を講読
 キーポイント:1980年代以後の文学と批評、吉本隆明『マス・イメージ論』、
4:パトリック・マクグーハン企画・主演『プリズナーNo.6』を分析する
 キーポイント:相互監視装置としてのパノプティコン、流動的な監視社会
5:伊藤計劃From The Nothing, With Love.」を講読
 キーポイント:ベンヤミンの複製芸術論、パリンプセスト(重ね書き)、語りの構造と自己言及のパラドックス帝国主義とスパイ形象
6:山野浩一「X電車で行こう」、「赤い貨物列車」を講読
 キーポイント:疎外論マルクス主義)の視点、彼岸と此岸、ユークリッド幾何学的世界観とそこからの逸脱
7:寺山修司原作『田園に死す』(映画版)を分析、つげ義春ねじ式」、藤原月彦『王権神授説』、藤原龍一郎『ジャダ』を講読
 キーポイント:1960年代〜1970年代におけるアバンギャルド表現と、それが不可能になったポストモダニズムの位置
8: J・G・バラード「コーラルDの雲の彫刻師」、山尾悠子「月齢」を講読
 キーポイント:シュルレアリスム、作家の「体験」の反映、長編を中編へと圧縮すること
9:ケイト・ウィルヘルム「掃討の村」、ケイト・ウィルヘルム「計画する人」を講読
 キーポイント:シュミットの言う「世界内戦」の恒常化、社会ダーウィニズムチンパンジーを知性化させるSFの系譜
10:ケイト・ウィルヘルム「ベイビィ、やっぱりきみは素晴らしかった」、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア接続された女」を講読
 キーポイント:文化収奪としてのアイドル表象、ジェンダーSF、文芸ジャーナリズムの制度とリアリズム
11:アレクセイ・ゲルマン監督『神々のたそがれ』を分析、ストルガツキー兄弟「神さまはつらい」を講読
 キーポイント:カメラワークによる監視社会の表現、ロシア・東欧SFの歴史と特徴
12:ケイト・ウィルヘルム「翼のジェニー」を講読
 キーポイント:「SF」を成立させるガジェット、ロマンスの擬装
13: ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「そして私は目ざめると、この肌寒い丘にいた」を講読、丹生谷貴志『女と男と帝国 グローバリゼーション下の哲学・芸術』を講読
 キーポイント:キーツらイギリス・ロマン主義詩学、『精神現象学』ほかヘーゲル哲学、アニマル・スタディー
14:アーシュラ・K・ル=グィン「オメラスから歩み去る人々」、ハーラン・エリスン「「悔い改めよ、ハーレクイン!」とチクタクマンは言った」を講読
 キーポイント:ユートピア文学と革命、リベラリズムコミュニタリアニズム、「世界精神」型の悪漢像(ヴィラン)、ヴィジュアル・メディアのエッセンス


◆予習・復習
 前回の講義で課題に指定されてきたテクストを読んできて下さい。できれば購入すること。
 また、各種メディアを駆使して、精力的に文章を発表するような機会を作ってください。講師に見せてもらえれば、できるだけコメントをするようにします。


◆集中授業の期間

【履修上の注意点】
 講義の際には、相当分量の論文や小説を読み進めていくことになります。関連して文献も紹介しますが、少々難解かもしれない理論も含まれます。講義へのフィードバックを毎回記入してもらい、それを講義内容へ反映させていきます。その他、双方向的な講義になりますので、積極的な協力・参加が求められます。


【成績評価の基準および方法】
 評価のポイントは、以下の4点です。

1)取り扱った作家・作品の内在的特性が理解できているか(約20%)
2)作品の周辺に存在する文脈が理解できているか(約20%)
3)テクストへ積極的に取り組み、読解・創作ができているか(約40%)
4)批評的であることの意義が理解できているか(約20%)

 毎回、フィードバックシートへの記入を行ってもらい、それを小テストの代わりとします。それとは別に、期末レポートを課します。なお、レポート執筆の際にWikipediaを参考資料に用いることを禁止します。代返等・コピペ等の不正行為に関しては厳正に対処します。各種文章がしっかり書けていることは、評価の前提条件とします。
 上記の学習目標が達せられているかどうかを、フィードバックを含む出席点(40点)、レポート(60点)、のウエイトで評価して総合的に判定します。具体例として、その合計が90点以上をS評価、80点以上90点未満をS評価、70点以上80点未満をB評価、60点以上70点未満をC評価とします。
 ただし、出席回数が7割未満の場合、この限りではありません。

 なお、2018年度前期のレポートは、書評SNS「シミルボン」を活用し、「文学」と「SF」の間にあるようなスリップストリーム作品について、6000字程度の批評を執筆するというものでした。
 最優秀作を、以下に公開しています。参考までにご覧ください。
https://shimirubon.jp/columns/1690934


【教科書・参考書】
区分 書名 著者名 発行元 定価
教科書 『世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷 SF・幻想文学・ゲーム論集』 岡和田晃 アトリエサード 2970円
参考文献 「SF Prologue Wave」 日本SF作家クラブ公認ネットマガジン    
参考文献 「TH No.75 ケイト・ウィルヘルム特集」 岡和田晃ほか アトリエサード  
参考文献 『J・G・バラード短編全集4』 J・G・バラード 東京創元社  
参考文献 『The Indifference Engine伊藤計劃 ハヤカワ文庫JA  
参考文献 『愛はさだめ、さだめは死』 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア ハヤカワ文庫SF  
参考文献 『山野浩一傑作集? 鳥はいまどこを飛ぶか』 山野浩一 創元SF文庫  
参考文献 『死の鳥』 ハーラン・エリスン ハヤカワ文庫SF  
参考文献 『反ヘイト・反新自由主義の批評精神 いま読まれるべき〈文学〉とは何か』 岡和田晃 寿郎社  
参考文献 『風の十二方位』 アーシュラ・K・ル=グィン ハヤカワ文庫SF  
参考文献 『翼のジェニー ケイト・ウィルヘルム初期傑作選』 ケイト・ウィルヘルム アトリエサード  


【その他の教材】
 

東海大学文芸創作学科2018年度秋学期シラバス(幻想文学研究・ゲーム論)

東海大学のサイトのシラバス検索でも見られますが、こちらにも掲載しておきます。
 

2018年度 秋学期  
授業科目名 サブカルチャーと文学
曜日 時限 水-3
テーマ 「サブカルチャー」から「文学」を読み替える「文学を介した“反”サブカルチャー論」
キーワード サブカルチャー ロールプレイングゲーム 幻想文学

担当教員 岡和田晃


【授業要旨または授業概要】

 大学で「サブカルチャー」を勉強すると聞いて、面食らった方もいるのではないでしょうか?
 もともと「サブカルチャー」は社会学の用語ですが、昨今では日本製の“アニメ・漫画・ゲーム”のことを指す場合が多いようです。こうした周縁的と思われてきた分野のインパクトを、もはや大学教育の現場でも、無視できなくなっているということです。
 他方で、これらを「クール・ジャパン」と一括りにして闇雲に称揚する言説が存在しています。しかし、その文脈においては、従来「文学」とされてきた領域はむろんのこと、狭い日本における商業的な価値観に閉じこもり、海外との(相互的な)影響関係に関する視点が、すっぽりと抜け落ちてしまっています。
本講座は、そうした「サブカルチャー」観を再生産するものではないことを、まずは強調しておきます。むしろ、かねてから「サブカルチャー」として軽んじられてきた表現を、「文学」と等価に扱い、それどころか、既存の「文学」を読み替える可能性を内包したものとして捉えていくというのが、本講座の趣旨なのです。

 資本主義が高度に発達した現在においては、私たちの接する文化は中心を欠いたものとなってしまっており、経済効果のみが作品を語る指標として用いられがちです。
 しかしながら、欲望の無自覚な肯定に終始し、「文学」をはじめとした人文科学の成果を敵視するような悪しき意味での「オタク」を再生産するのでは、わざわざ大学で学ぶ意味がありません。
 本講座は、狭い世界に閉じこもらず、外へ向けての「窓」となる、認識の枠組みと教養の土台づくりを目指します。

 ゆえに、正確に言うと本講座は「サブカルチャー論」ではありません。反対に、「文学を媒介とした“反”サブカルチャー論」です。このことは、講義内でも絶えず強調していくので、忘れずにいてほしいと思います。



同名の講座が水曜3限・水曜4限で展開されます。水曜3限の講座では、古典的な幻想文学を講読し、その成果を、ロールプレイングゲームのシナリオ・デザインやヒストリカル・ノートの作成、リプレイ小説の執筆という形で表現することを目指します。

※より詳しくは、続けて【授業計画】の項目をご参照ください。


【学修の到達目標】
・日常的に接する文化環境に対しての批判的な視座を持ち、そのルーツを探り新たな表現を産むために必要な(最低限の)知識と好奇心を涵養します。
・文学を中心にしつつ、哲学・歴史学・美学といった人文科学についての基本的な知識をも習得します。
カルチュラル・スタディーズジェンダーポストコロニアル理論といった、現代批評理論の基礎を習得します。
・ヌーヴェル・クリティーク以降の文芸評論の基礎を習得します。
・ゲーム・デザイン、クリエイティヴ・ライティングの基礎をも学ぶことで、学術的な視座の批評や創作へ応の応用を目指します。


【授業計画】
◆スケジュール
<注意:水曜3限では、ゲーム・デザインと幻想文学の講読を中心に学習します。水曜3限と4限では、授業内容が異なります>

 ブロンテ姉妹が架空の王国を創造して「ごっこ遊び」を展開した19世紀から、21世紀、スマートフォンを駆使したAR(拡張現実)ゲームまで、ストーリーゲームは多様な形態が存在しています。
 そこで本講座では、ゲームと「文学」が交錯したわかりやすい事例として、会話型(テーブルトーク)のロールプレイングゲームを中心に扱います。
 ただし、意識するのは、規範となる海外の(主として英語圏の)作品です。

 ワークショップ形式で実際にゲームをプレイするのはもちろん、文学研究や文芸批評の方法論を軸に、学術的なゲーム研究における最新の成果も紹介しながら、他ジャンルにまたがる普遍的なストーリー構造や、原型となる神話素、「語り」をはじめとした表現スタイルの微妙な差異などを検証することで、総合的な教養を培うことが目標です。
 本気でゲームや小説の仕事につきたい人は、大いに歓迎します。講師の仕事も講義内でその都度、紹介し、現場の空気を知ってもらう縁といたします。
 
 しばしば誤解されますが、「サブカルチャー」だからといって「ラク」というわけではありません!
 前期履修者の継続出席、他学部・他学科からの聴講も歓迎しますが、途中で離脱するケースが多いので、いちどやると決めたら、最後まで受講することを推奨します。さもなければ、実になりません。


※2018年前期の内容を、参考までに以下に示します。受講生の関心や状況に応じ、随時変更を加えていきます。教室での指示を聞き逃さないようにして下さい。


1:オリエンテーション〜ハイ・ファンタジーへのいざない
 ルイス・キャロル不思議の国のアリス』やJ・R・R・トールキン指輪物語』といった古典的なファンタジー文学が、いったい何を表現しようとしていたのか、映像化やゲーム化された作品と対照させながら検討していきます。
2:20世紀の幻想文学を読む〜H・P・ラヴクラフトダゴン」講読(1)
 「クトゥルー神話」の祖とも言われる、ラヴクラフトの小説「ダゴン」を、原文と複数の訳を交えて講読します。 
3:20世紀の幻想文学を読む〜H・P・ラヴクラフトダゴン」講読(2)
 S・T・ヨシ、ダニエル・ハームズらのラヴクラフト研究も、あわせて参照します。
4:20世紀の幻想文学を読む〜E・F・ベンスン「アムワース夫人」講読(1)
 吸血鬼小説の名作、E・F・ベンスン「アムワース夫人」を、原文と複数の訳を交えて講読します。作家についての伝記的研究や、下楠昌哉や講師による批評も、サイドリーダーに用います。
5:20世紀の幻想文学を読む〜E・F・ベンスン「アムワース夫人」講読(2)
 吸血鬼小説の名作、E・F・ベンスン「アムワース夫人」を、原文と複数の訳を交えて講読します。作家についての伝記的研究や、下楠昌哉や講師による批評も、サイドリーダーに用います。
6:文学の原点と構造を学ぶ
 瀬田貞二『幼い子の文学』と、講師の記事「オリジナル・シナリオを創ろう」(「Role and Roll」Vol.42、アークライト)を講読し、文学の出発点が何であるのか、物語構造を把握する方法と注意点とを学びます。また、ストーリキューブを用いて、簡単なストーリーメイキングを実践します。
7:架空のキャラクターを創造する
ロールプレイングゲーム「Tunnles and Trolls ラヴクラフト・バリアント」のキャラクター・メイキングを行い、各種データを設定させつつ、資料を調べて必要な設定を肉付けしていきます。
8:ワークショップ(1)
 ロールプレイングゲーム「Tunnles and Trolls ラヴクラフト・バリアント」のシナリオ「魔女の復讐」(「トンネル・ザ・トロール・マガジン」Vol.4、グループSNE)を実際にプレイします。
9:ワークショップ(2)
 ロールプレイングゲーム「Tunnles and Trolls ラヴクラフト・バリアント」のシナリオ「魔女の復讐」を実際にプレイします。
10:ワークショップ(3)
 ロールプレイングゲーム「Tunnles and Trolls ラヴクラフト・バリアント」のシナリオ「怪人の島」(「ウォーロック・マガジン」創刊号、書苑新社)を実際にプレイします。
11:ワークショップ(4)
 ロールプレイングゲーム「Tunnles and Trolls ラヴクラフト・バリアント」のシナリオ「怪人の島」を実際にプレイします。
12:ヒストリカル・ノートを作成する
 トール・ヘイエルダール『アク・アク』を講読し、「怪人の島」のヒストリカル・ノート(歴史的な背景をまとめた資料)を自作します。
13:ゲーム・デザイン入門(1)
 吉里川べお「Tunnels and Trolls 研究室」(「トンネル・ザ・トロール・マガジン」〜「ウォーロック・マガジン」連載)を講読し、ロールプレイングゲームを数値的に成立させる、ゲームシステムの仕組みを学習します。
14:ゲーム・デザイン入門(2)
 講師の「やってみよう、ゲームマスター!」(「Role and Roll」Vol.30)、「うまいプレイヤーになりたい!」(「Role and Roll」Vol.38)、「オリジナル・シナリオを創ろう!」を講読し、具体的なロールプレイングゲームのシナリオ・デザインの作法を学びます。


◆予習・復習
 毎回、前回の講義で課題に指定されてきたテクストを読んできて下さい(できれば購入すること)。
 また、レポート作成のためには、自分たちで実際にゲーム会を、最低1回は運営してもらうことになります(楽しく、やりがいのあることです!)。


◆集中授業の期間

【履修上の注意点】
 講義の際には、相当分量の論文や小説を読み進めていくことになります。関連して文献も紹介しますが、少々難解かもしれない理論も含まれます。講義へのフィードバックを毎回記入してもらい、それを講義内容へ反映させていきます。その他、双方向的な講義になりますので、積極的な協力・参加が求められます。


【成績評価の基準および方法】
 評価のポイントは、以下の4点です。

1)ゲーム・デザインという作業の特性が理解できているか(約20%)
2)作品の内実や、周辺に存在する文脈が理解できているか(約20%)
3)課題へ積極的に取り組み、読解・創作ができているか(約40%)
4)批評的であることの意義が理解できているか(約20%)

 毎回、フィードバックシートへの記入を行い、それを小テストの代わりとします。それとは別に、期末レポートを課します。なお、レポート執筆の際にWikipediaを参考資料に用いることを禁止します。代返等・コピペ等の不正行為に関しては厳正に対処します。各種文章がしっかり書けていることは、評価の前提条件とします。
 上記の学習目標が達せられているかどうかを、フィードバックを含む出席点(40点)、レポート(60点)、のウエイトで評価して総合的に判定します。具体例として、その合計が90点以上をS評価、80点以上90点未満をS評価、70点以上80点未満をB評価、60点以上70点未満をC評価とします。
 ただし、出席回数が7割未満の場合、この限りではありません。

 なお、2018年前期のレポート課題は、プロジェクト・チームに分かれ、それぞれRPGのシナリオ、ヒストリカル・ノート、リプレイ小説を製作するという課題でした。
 2018年後期では、前期で提出された作品を実際にプレイしてみるかもしれません。


【教科書・参考書】
区分 書名 著者名 発行元 定価
教科書 『世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷 SF・幻想文学・ゲーム論集』 岡和田晃 アトリエサード 2970円
参考文献 「Role and Roll」   新紀元社  
参考文献 「ウォーロック・マガジン」   グループSNE  
参考文献 「トンネル・ザ・トロール・マガジン」   グループSNE  
参考文献 『H・P・ラヴクラフト大事典』 S・T・ヨシ エンターブレイン  
参考文献 『見えるもの見えざるもの』 E・F・ベンスン アトリエサード  
参考文献 『幼い子の文学』 瀬田貞二 中公新書  


【その他の教材】
 必要に応じ、講義内で指示ないし配布を行います。