「Role&Roll」Vol.187に、『エクリプス・フェイズ』の入門シナリオ「敏腕ネゴシエーターは今日も完璧」が掲載

 発売中の「Role&Roll」Vol.187に、『エクリプス・フェイズ』の入門シナリオ「敏腕ネゴシエーターは今日も完璧」が掲載されています。

「太陽系全土に放映される政治番組で、自分を擁護してほしいという依頼。持論を補強する材料を確保し、視聴者の支持を得られるだろうか?」

 私のシナリオでは、タイトルからして雰囲気を変えています。

 RPGでは定量化しづらいがゆえにシナリオとしての記法が困難とされる交渉戦について正面から扱い、読者が容易に運用できるようにした自信作です。
 また、未訳サプリメント『Transhuman』から追加義体3体のデータに、関連装備や特徴を翻訳・紹介しています。

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Role&Roll Vol.187

Role&Roll Vol.187

  • 発売日: 2020/04/21
  • メディア: 大型本
 

 

「Role&Roll」Vol.187に、中世社会史を楽しく学べる「戦鎚傭兵団の中世“非”幻想事典 第五十六回 悲劇に見舞われた自営業者――中世の娼婦」が掲載

 「Role&Roll」Vol.187に、中世社会史を楽しく学べる「戦鎚傭兵団の中世“非”幻想事典 第五十六回 悲劇に見舞われた自営業者――中世の娼婦」が掲載されています。ディジョンやロンドンの事情を例に、たくましく生きた娼婦たちの位置を紹介、またシャリヴァリという風習についても書いています。

 見田航介さんのイラストも情報たっぷり。参考文献はジャック・ロシオ『中世娼婦の社会史』、赤阪俊一「中世末期ロンドンの娼婦たち」、『叢書 「アナール」論文選1 魔女とシャリヴァリ』、エマニュエル・ル=ロワ=ラデュリ『ジャスミンの魔女』等で、サザークについて各種サイトにもあたりました。

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Role&Roll Vol.187

Role&Roll Vol.187

  • 発売日: 2020/04/21
  • メディア: 大型本
 

 

寿郎社の創業20周年セールおよび購入特典の『20周年記念紙JUっ!2020』に記念メッセージを寄稿

 寿郎社の創業20周年セールが始まりました。コロナ禍への巻き返し企画です。
 拙著『反ヘイト・反新自由主義の批評精神』、編著『北の想像力』、寄稿誌「メタポゾン」、解説担当『「物語る脳」の世界』などが、驚くほどお安く入手できます。
 私は購入特典の『20周年記念紙JUっ!2020』に記念メッセージを寄せました。どうぞ、ご支援をお願いいたします。

www.ju-rousha.com

 

 

「SF Prologue Wave」2020年4月号に伊野隆之「ザイオン・イン・ザ・シャドウ(Part1)」および「Role & Roll」Vol.186「『エクリプス・フェイズ』シナリオ 土星の円卓の騎士、あるいは改竄された記憶の悦楽」が掲載

「SF Prologue Wave」更新。2020年4月20日号で、以下が掲載されました。

 

「SF Prologue Wave」2020年4月号、伊野隆之さんの『エクリプス・フェイズ』シェアード・ワールド小説「ザイオン・イン・ザ・シャドウ(Part1)」。

prologuewave.com

 

『月刊アナログゲーム情報書籍「Role & Roll」Vol.186「『エクリプス・フェイズ』シナリオ 土星の円卓の騎士、あるいは改竄された記憶の悦楽」』の紹介記事。

prologuewave.com

「TH(トーキング・ヘッズ叢書)」 No.82「もの病みのヴィジョン」 に『いまわしき死の使い』、『ハンセン病』、『リバティーン』レビュー、「山野浩一とその時代(11)」が掲載

 「TH(トーキング・ヘッズ叢書)」 No.82「もの病みのヴィジョン」 が2020/4/30頃発売になります。

 コロナ・ウイルス禍を考えるために必読の一冊です。

athird.cart.fc2.com

 

 私はブライアン・クレイグ『いまわしき死の使い』(社会思想社現代教養文庫)、三宅一志・福原孝浩『ハンセン病』(寿郎社)、ローレンス・ダンモア監督『リバティーン』(Amazonプライムで観られます)を特集レビュー枠で、連載では、「山野浩一とその時代(11)佐野美津男の「橋」に空いた穴」が掲載です!

koichiyamano.blog.fc2.com

 その他、岡和田晃は以下の特集論考の監修をしています。

■アポローの贈り物〜梅毒をめぐる幾つかの逸話と謎●仁木稔
■病んでいるのは、誰なのか?〜草間彌生の小説『すみれ強迫』●宮野由梨香
■近代の病からポスト近代の病へ●石和義之
北條民雄〜療養所文学に咲いた大輪の徒花●阿澄森羅
■生命の深淵を窃視する〜野村芳太郎監督『震える舌』●松本寛大
■『当世病気道楽』に学ぶ病との距離感〜追悼・別役実●高槻真樹
■真珠とペン軸、あるいは変幻するサラマンドラ〜澁澤龍彥と病●渡邊利道

 また、特集レビューは以下を監修しました。
石牟礼道子「新装版 苦海浄土」、E・ヘミングウェイ&W・S・モームほか「病短編小説集」●待兼音二郎
ジョージ秋山「シャカの息子」、ロジャー・コーマン監督「赤死病の仮面」●松本寛大

 さらに、特撰街レビューは以下を監修しました。
テッド・チャン「息吹」●放克犬
◎笠木拓「はるかカーテンコールまで」●関根一華

 今回も相互査読が行き届き、状況に鋭く切り込む高品質な批評として、太鼓判を押せます。ぜひご購読ください。

もの病みのヴィジョン (トーキングヘッズ叢書 No.82)

もの病みのヴィジョン (トーキングヘッズ叢書 No.82)

  • 発売日: 2020/04/30
  • メディア: 単行本
 

 

児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる「猫のいぬ間に」リプレイ

 絶好調の齊藤飛鳥さんによる『コッロールの恐怖』リプレイですが、今回は表題作とカップリングで収められた「猫のいぬ間に」のリプレイになります。まさに抱腹絶倒といった塩梅ですが、同じく齊藤さんの『傭兵剣士』リプレイシリーズと一緒に、お楽しみいただければ幸いです。

 

『見習い魔術師たちのトラジコメディ』
~『猫のいぬ間に』リプレイ~

著:齊藤飛鳥

 ☆フェリッドの語り☆

ケチな魔術師の使い魔をしていて何が楽しいかって?
そりゃあ、あいつの弟子である見習い魔術師どもを観察することさ。
例えば、最初の弟子の見習い魔術師は、こんな奴だった。


Case1~〈魅力溢れし〉モーティマー~

やあ、僕は〈魅力溢れし〉モーティマー!
黒髪と黒い瞳が特徴で、魅力度17のイケメン見習い魔術師。種族は、人間。レベルはたったの1さ。ハハ!
お師匠様がつけてくれた二つ名は〈顔だけ男〉だったけど、センスを感じられないから自分で考えた二つ名の〈魅力溢れし〉の方を魔術師組合に届けておいたよ!
今日は、お師匠様がお留守だから、お城の普段は行けない所を探検するぞ!
ハハ! まずは東の廊下の奥の部屋を探検だ!
中には、いったい何があるのかな?
ハハ!入ってみたら、辺りに満ちる魔力が一気に上がった!
左側にカーテンのかかった部屋があるから、ちょっとのぞくか!ハハ!
これはすごい!
部屋の中に、クリスタルでできた建物がある!
詳しく見てみよう。
風呂かサウナかな……おや?中に入れるぞ!
さっそく入ってみよう。ハハ!
床のタイルがすべりやすいから、転んじゃったよ!
鋭い金属の柱にぶつかっていたら、大怪我どころではすまなかった!
あれ?
いつの間にか、外にフェリッドがいるぞ?
何をし……グワアァァーッ!!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛…。


~Case1:End~


☆フェリッドの語り☆

ヒャッヒャッヒャッヒャッ!!
今思い出しても、モーティマーの最期は傑作だったぜ!
見習い魔術師ってのは、どうしてああもマヌケなのかねぇ!
さて、モーティマーの死は、皮むき器に自分から入った不慮の事故として片づけられた。
それから、あのケチな魔術師は、新しい弟子を見つけてきた。
それが、これから話す二人目の見習い魔術師さ。


Case2~〈か弱き〉オズワルド~

我が名は、〈か弱き〉オズワルド。
耐久度が3と、極端に低いため、我が師サーバルドによって、この二つ名をつけられたエルフの見習い魔術師。
髪は金髪、瞳は緑だ。
我が二つ名の付け方から推し量れるように、サーバルドは唾棄すべき人物である。
そこで、我はかの悪漢へのささやかなる叛逆として、今まで行ったことのないサーバルドの書斎に向かった。
書斎は、長くて脆そうな螺旋階段の頂点に懐かれていた。
この螺旋階段、初めこそ大工の腕を疑ったが、どうやら我が師の悪意を反映したものらしい。
すなわち、侵入者を拒む罠だ。
ここは引くか、否か?
否に決まっている。
書斎に行き、あの唾棄すべき悪漢サーバルドを倒す呪文の一つや二つを手に入れるまで、我は決して引かぬ!
だが、我を嘲弄するかのごとく、螺旋階段の揺れはますます大きくなる。
ついに、我はふり落とされてしまった!
そんな!
書斎まで、あと三段だったのに…!!
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…!!


~Case2:End~

 

☆フェリッドの語り☆

あひゃひゃひゃひゃひゃ!
螺旋階段の頂上付近から落ちたオズワルドときたら、バラバラのグチャグチャだったぜ!
転がり出た眼球を試しになめてみたら、けっこう美味だったね!
これは、家庭内の不幸な事故として処理された。
ただし、オズワルドの右目だけは行方不明だったんとよ。怖いねぇ。
そして、こりずに魔術師の奴は、三人目の見習い魔術師を弟子にした。
それが、これから話す奴のことさ。


Case3~〈小賢しき〉ビストロウシュカ~

ワタチは、〈小賢しき〉ビストロウシュカ。狐色の髪と狐色の瞳をした見習い女魔術師デチ。
二つ名の由来は、種族がいたずら好きなレプラコーンだからという、差別と偏見に満ちたものデチ。
今日は、そんな因業じじいなお師匠様が留守のすきをついて、いつも奇妙な物音がするダンジョンに行ってみるデチ!
ダンジョンのドアの前に立つと、あの奇妙な声がいつもより大きく聞こえて怖いデチ!
でも、だからこそ、行きたくなるデチ!
うまい具合に、ドアには魔力も鍵もかかってないから、ダンジョンに入る好機デチ!
中はとっても暗くて、奇妙な声は泣き声から悲鳴に変わって、最後は小さなつぶやきに変わったデチ!
暗くて心細いから、《猫目》の呪文を使うデチ。
ダンジョンの奥へ進むと、廊下が二手に分かれていたデチ。
怪しい音が聞こえるのは右だけど、左の方がダンジョンの奥へ進めそうだから、左にするデチ。
左の通路を歩いて行くと、大きな魔力を感じる赤い絹のようなカーテンがあったデチ。
これは危なそうだから、引き返すデチ。
うにゅ!? ワタチのすぐ後ろにフェリッドがいるデチ!
しかも、ワタチをここにとどめたデチ!
こいつめ、魔法でとっちめてやるデチ!
《猫目》の呪文ですでに魔力度を消耗しているから、ここは残りの魔力度で唯一唱えられる《いっちまえ》を使うデチ!
「ギニャー!!」
呪文はきれいに決まり、フェリッドは死に物狂いで逃げていったデチ。
おかげで、ワタチはダンジョンを出て、モップ掃除に戻れたデチ。
それから、数日後。
お師匠様が帰ってきたデチ。
今まで、お師匠様のベッドの下に隠れていたフェリッドは、そそくさと出てきて、お師匠様に甘えるデチ。
ワタチを見て「ダンジョンのことは秘密にしてくれよ?」と言いたげなウィンクをしてきたので、笑いをこらえるのが大変だったデチ!
さあ、次にお師匠様がお留守にされるときは、何をするか今から考えておくデチ!


~Case3:End~


☆フェリッドの語り☆

くやしい!
くやしいくやしいくやしい!
このフェリッド様ともあろう者が、見習い魔術師にしてやられるなんて!
あの魔術師野郎がつけた二つ名どおり、なんて小賢しいんだ!
こんなの、ちっともおもしろくねえ!
こうなったら、とことんビストロウシュカを付け狙ってやるぜ!


~Case4:〈小賢しき〉ビストロウシュカ再び~

今日もまた、お師匠様がお出かけになられたすきに、ダンジョンを冒険するデチ!
この前は、ダンジョンの左の廊下に行ったから、右の廊下に行って、奇妙な声の正体を突き止めるデチ!
はりきって、ワタチはダンジョンに入ると、右へ曲がって、奇妙な物音がする方向をたどったデチ。
そこにいたのは、レプラコーンのワタチと同じくらい小柄な体格をした、茶色い毛むくじゃらだったデチ。
「困りますよ、お嬢さん。あなたが逃げてくれないと、私が大変な目に遭うんです」
毛むくじゃらは、奇妙なことを言い出したので、ワタチは詳しく話を聞いてみたデチ。
毛むくじゃらの名前は、インシ。
お師匠様に雇われて、ダンジョンに不法侵入者が入らないように、奇妙な物音を出す仕事をしているとのことデチた。
ワタチが、不法侵入者ではなく、お師匠様の弟子だと知ると、インシは安心したデチ。
それから、ワタチを自宅に招待してくれて、一緒にトランプで遊んだデチ。
そこで、ワタチは、銅貨30枚を稼いでから、モップ掃除に戻ったデチ。
冒険したおかげで、友達ができてよかったデチ!
またお師匠様がお留守にしたら、どこを冒険するか考えるのが、今から楽しみデチ!


~Case4:End~


☆フェリッドの語り☆

「よかったデチ」じゃねえよ!
何を無事に帰ってきているんだよ、てめえは!
しかも、銅貨30枚を稼いで帰ってきてやがる!
無言の帰宅を果たして、俺を喜ばすって気遣いはねえのか!?
こうなったら、ビストロウシュカをダンジョン以外に行くように仕向けるしかねえ。
俺は、モップ掃除をするビストロウシュカに、さりげなく東の廊下の奥にある秘密の部屋のことを話してやった。
ビストロウシュカは、無関心を装っていたが、狐色の瞳がキラリと光ったのを俺は見逃さなかったぜ!
ウェヘヘ!
こいつは、次の冒険が楽しみだぜ!


~Case5:〈小賢しき〉ビストロウシュカみたび~

待ちに待ったお師匠様がお留守にされる日が来たデチ!
今日は、東の廊下の奥にある秘密の部屋に冒険してみるデチ!
立ち入り禁止の札がかかっているけど、たからこそ入る価値があるのデチ。
中に入ったら、90㎝はある醜いドワーフの像があったデチ。
ワタチは身長60㎝なので、ちょうどドワーフ像の手と、その手にある瓶と目線が合ったデチ。
もしかしたら、お師匠様の大好物のフルーツジュースかもしれないデチね。
ちょっと飲んでみるデチ!
うにゃ!
耐久度が1上がるおいしさデチ!
いい気分になったところで、カーテンのかかったドアのある部屋を見に行ってみるデチ。
クリスタルの建物と台座が置いてあるデチね。
すぐに調べられそうだから、台座を調べてみるデチ。
台座は、ワタチと同じ60㎝。突起がたくさんあるデチ。
おもしろそうだから、押してみるデチ!
あれ? クリスタルの建物のドアが閉まってしまったデチ!
他の突起を押したら、元に戻る……と思って、色々と押したら、色々とクリスタルの建物の中が動いたデチ!
やっと元通りにドアが開いて中に入れるから、入ってみるデチ!
中には、金属が柱があったデチ。
もっとよく見ようと思ったら、いつの間にか来ていたフェリッドが、台座の突起を押して、クリスタルの建物のドアを閉め始めているデチ!
ワタチは、急いでドアを目指して走ったデチ。
ドアにはさまりかけた時、フェリッドがニヤリと世にも楽しげに笑ったデチが、何とか外に出られてよかったデチ。
ヒヤリとさせられたから、今日の冒険はここまでにして、モップ掃除に戻るデチ!
それからしばらくして、お師匠様が帰ってきたので、フェリッドもワタチも、何食わぬ顔で、お迎えしてやったのデチた。


~Case5:End~


☆フェリッドの語り☆

あと……あともう一歩のところで、ビストロウシュカを皮むき器にかけられたのに!
しかも、師匠のジュースをつまみ食いして肌つやよくなっているんじゃねえよ!
せっかくあいつの死にゆくさまを楽しもうと思っていたのに、とんだ番狂わせだぜ!
何なの、あいつ!?
幸運度8だが、測定不能の強運に恵まれすぎだろう!?
こうなったら、お次は書斎に誘導してやるぜ!
俺は肉片になったビストロウシュカを思い浮かべる。
それから、無心にモップ掃除をしている風のビストロウシュカに書斎の話を吹き込んでやった。
ビストロウシュカは、気のない相づちを打っていたが、耳がピクピクと小刻みにうごめいていたので、しっかりと興味を抱いたようだ!
これで、次の冒険のビストロウシュカの行き先は、書斎に決定だ!


~Case6:〈小賢しき〉ビシュトロウスカよたび~

待ちに待ったお師匠様の外出日が来たデチ!
今日は、書斎を冒険するデチ!
とても揺れる階段だけど、負けないデチ!
うにゃ!ふり落とされたけど、空中でもがいたおかげで、何とか階段に戻れて助かったデチ!
ふぅ……死ぬかと思ったけど、やっと階段を全部登りきったデチ。
これが書斎のドア?
気味悪いデザインだし、鍵がかかっているみたいデチね。
でも、大丈夫!
ワタチは、レプラコーンの乙女なら誰でも持っているお守り、別名針金を持っているデチ。
こうして、鍵穴につっこんでから、一度抜いて針金の先を微妙に曲げて、また鍵穴に入れて一回転。
やった、開いたデチ!
うわぁ、書斎の中には本だけではなく、怪しい物がたくさんあるデチ!
まずは、エルフの頭蓋骨を見てみ……しゃべったデチ!?
頭蓋骨さんと話すのは生まれて初めてなので、おしゃべりをしたら、お師匠様の秘密や、この書斎で調べ物をする場合の助言をポエム仕立てで教えてもらえたデチ。
何か最後の方に水晶と言っていたから、水晶を見てみるデチ!
うにゅ? 水晶の中にだんだん映像が見えてきたデチ!
おいしそうな果物!
レプラコーンサイズの使いやすそうなモップ!
良識のあるお師匠様!
友好的なフェリッド!
そしてそして、ワタチの理想のタイプの美しい男性がいるデチ!
あまりにも強く深く大きく美しいデチ……。

……いけない、意識が一瞬天国に到達しかけたデチ。
ワタチが水晶の中で見たもの……あれは何だったのデチ?
何か「貴様、見ているな!」と美声で言われた気がする……と思いをはせるうちに、知性度が1上がったデチ!
ちょっと賢くなったところで、次は本を読んでみるデチ!
ページがベタベタして読みにくいけど、何とかページを開けたデチ。
きれいな挿絵や飾り文字の本デチね。
うにゅにゅ!
呪文《治療》を覚えられたデチ!
こんなに早く呪文を習得できるのに、ワタチに雑用ばかりさせているとは、やっぱりあの因業じじいが本当に必要としているのは雑用係で、弟子ではないんデチね……。チッ。
むしゃくしゃしたから、カーテンをめくって中に何があるか見てやるデチ!
うにゃ!なんてきれいなステンドグラスの窓!
この窓の向こうには、どんな景色が広がっているんデチ?
「あらあら、かわいらしいお客様なこと。あなた、サーバルドの弟子ね?どうぞ、こちらへ来てわたしとお茶を飲まない?」
上品な赤毛の美女が、窓の向こうからワタチに語りかけてきたデチ!
因業じじい、こんな美しい女性を隠しているとは、助平じじいでもあったデチね!
さっきから、ワタチの中でどんどんお師匠様に対する評価が下がっていっているから、遠慮なく彼女のお誘いに乗るデチ!
ワタチは窓をくぐり抜け、彼女と一緒に楽しいティータイムをすごしたデチ。
久しぶりに同性と話せて、楽しかったデチ。
なので、ワタチは彼女が出した「酔っ払っていると好人物で、酔いが覚めると凶悪な岩悪魔について、どちらが彼の本性だと思う?」という話題に、もっと話を盛り上げようと、賢明ぶって「ランプに油を入れて火を灯そうと、油が切れて火が消えようと、ランプである本質に変わりがないように、どちらも岩悪魔の本性デチ」と答えたら、とてもほめられたデチ!
「とても賢いあなたに、わたしから提案があるの」
彼女は、わたしの頭をなで始めたデチ。
……このなで方、お気に入りのお人形さんやぬいぐるみをなでる時の手つきと同じデチ。
さては、レプラコーンのワタチがお人形さんぽいから、気に入ったみたいデチね。
サーバルドは、知ってのとおりケチな男でしょう?  だから、わたしからあなたへ呪文を教えるわ」
「ありがとうデチ!」
こうして、ワタチは《翼》の呪文を習得できたのデチた。
彼女と別れ、窓から書斎に帰って、お師匠様にばれないように、きれいに元通りにしたことだし、そろそろモップ掃除に戻るとするデ……チ……。
「よう、ビストロウシュカ」
書斎を出ようとドアを開けたら、フェリッドが待ちかまえていたデチ!
なんで、殺意と敵意を帯びた笑みを浮かべて、ワタチを見ているデチか!?
きっと、何かに腹を立ててご機嫌斜めなだけかもデチ。
機嫌がよくなるまで、待ってみるデチ……と思ったら、フェリッドの方が噛みついてきたデチ!
この噛みつき方、ワタチを殺す気デチ!!
「痛いデチ!なんで、ワタチに攻撃してくるデチか!?」
ワタチは、必死になってフェリッドに尋ねたデチ……。


☆フェリッドの語り☆

階段から落ちても、途中の手すりをつかんで無事。
書斎に入ってから、色々と魔法のかかった物をいじくりまわったのに無事。
しかも、呪文を二つも習得したし、知性度も上げてきやがった。
ビストロウシュカ。
どんだけおめえは俺を楽しませる気がないんだよ!?
どうして死なねえんだよ!?
おめえが生きている限り、こんなにつまらねえ気持ちを抱えこむなんざ、まっぴらごめんだ!!
死ね!!
そうしたら、あの魔術師野郎は、新しい弟子を取る!
俺は、ビストロウシュカに思いきり噛みついた。
「痛いデチ! なんで、ワタチに攻撃してくるデチか!?」
必死こいて叫ぶビストロウシュカ。
やっと俺を楽しませてくれたぜ!
だが、急所に今一歩とどかなかったせいで、ビストロウシュカはまだ生きていやがった。
そうは言っても、死ぬのは時間の問題だ。
さあ、ゆっくりいたぶってやるぜ、ビストロウシュカ!
「呪文詠唱《これでもくらえ!》」
二つ名どおり、小賢しい奴だ!!
だが、今の俺より、おめえの方がダメージが上だ!
とっとと、とどめを刺してやるぜ!
「呪文詠唱《これでもくらえ!》」
なにぃ!?
こいつ、まだ呪文を唱えられたのか!?
しくじった!
さすがに二度もあの呪文を食らうのは、やばい!
俺は、見習い魔術師どもが出演する悲喜劇の演出家かと思っていたが、俺もまた出演者にすぎなかっ……!
……
……
……

~フェリッドの語り:End~
~Case6:End~


~エピローグ~

なんて惨状デチ……。
そこら中に散らばる血まみれの青い毛皮と肉片と骨片を、ワタチは愕然としながら見たデチ。
これまでの冒険でためていた冒険点で、魔力度を上げてなければ、ワタチがこんな姿になっていたかもしれないデチ。
そうは言っても、やりすぎたデチ……。
ワタチにはいけすかないフェリッドだったとは言え、お師匠様にとってはかわいい使い魔だったデチ。
それを殺してしまったなんて……。
……。
……隠蔽するしかないデチ!
ワタチは、モップを取ってきて、フェリッドの残骸を片づけ、床や壁をきれいにふきとったデチ。
そして、フェリッドの死体を袋にしまうと、急いでダンジョンのインシを呼んだデチ。
ワタチは、インシにすべて正直に打ち明けると、深々と頭を下げたデチ。
「インシ、ワタチが持っている全財産をあげるから、こいつの死体を始末するのを手伝ってほしいデチ!」
インシは、ワタチの肩に優しく手を置いてくれたデチ。
「顔を上げてください、ビストロウシュカ。私は常々サーバルドもフェリッドも気に食わなかったので、ちょっとした仕返しをしたいと願っていました。……フェリッドからは、よく胸の悪くなる話を語り聞かされていましたからね……」
インシは、苦々しげに顔をしかめたデチ。
「ビストロウシュカは、私に彼らへの仕返しの材料を提供してくれたのです。だから、全財産なんかいらないです」
インシは、心の底から嬉しそうな笑顔を見せたデチ。
「いいですか、ビストロウシュカ。その代わり、私の言うとおりにして下さい」
インシは、ワタチにとてもよいアイディアを授けてくれたのデチた。

数日後。
「帰ったぞ、ビストロウシュカ。モップ掃除はそこまでにして、食事の用意だ」
「もう用意できているから、ただ今よそるデチ」
ワタチは、お師匠様に具だくさんのシチューをよそったデチ。
「悪くない味だ。ところで、ビストロウシュカ。ワシのかわいいフェリッドはどこか知らんかね?」
お師匠様は、シチューを食べながら、部屋の中にフェリッドの姿を探し求めるデチ。
ワタチは、インシに教わったとおり、こう答えたデチ。
「『ダンジョンを制覇する』と、ダンジョンに入ったきり、かれこれ三日も帰ってこないんデチよ。ワタチも心配で心配で……」
ダンジョンの赤いカーテンの前に、ワタチとインシが協力しあってフェリッドの血まみれになった青い毛皮をばらまいておいたことを、ワタチはおくびにも出さなかったデチ。
「何だと!? それはいかん!! シチューを食べ終えたら、すぐにダンジョンへ行かねば!!」
お師匠様が、シチューを食べるペースが上がれば上がるほど、お師匠様とフェリッドとの永遠の別れが加速していくデチ。
そう言えば、次にお師匠様がお留守にされたら、インシがカードマジックを見せてくれると言っていたのを思い出したデチ。
今から、待ち遠しいデチ!

(完)

子ども食堂 かみふうせん

子ども食堂 かみふうせん

 
屍実盛

屍実盛

 

※歴史ミステリの『屍実盛』は、また一味違った齊藤飛鳥さんの顔が窺える作品です。平家物語で描かれる武家の苦悩に、首のない死体の特定という「本格」要素が重ね合わされ、新たな「謎」が生み出されるのが新鮮です。時代のコード、ということにこだわりがあり、それが二重、三重になっていく点にも興趣があります。この方法をヒントに、中世騎士物語で創作的応答もできそうですね。

児童文学・ミステリ作家の齊藤飛鳥さんによる「廃都コッロールのトークティパス」リプレイ

 児童文学・ミステリ作家の齊藤飛鳥さんによる『コッロールの恐怖』関連リプレイですが、続いて掲載するのは「廃都コッロールのトークティパス」(「Role&Roll」Vol.183収録)、つまり『コッロールの恐怖』のスピンオフ(前日譚)です。

 「Role&Roll」Vol177の「魔法の酒樽を取り返せ!」とも連続させてプレイできる作品ですので(齊藤飛鳥さんのプレイリポートはこちら)、共通したキャラクターが使われています。

『屈強なる翠蓮とシックスパックの魔都コッロールのトークティパス』
~『魔都コッロールのトークティパス』リプレイ~

著:齊藤飛鳥 

akiraokawada.hatenablog.com

Role&Roll Vol.183

Role&Roll Vol.183

  • 発売日: 2019/12/17
  • メディア: 大型本
 

 
0:屈強なる導入

あたしの名は〈屈強なる〉翠蓮。
黒髪色白黒目ロリ体型がチャームポイントの人間の戦士ネ。
数々の冒険を乗り越え、気がつけば耐久度が30で体力度が15のレベル3になったから、ますますの二つ名どおりヨ。
知性度は、あいかわらず9と低めのままだけど、気にしないネ。
武器は、前の冒険で手に入れた〈モンゴーの歪みの剣〉。
うっかり自分を攻撃する危険もあるけど、使える剣だから許すヨ。
防具は、冒険で稼いだお金で新しく買ったキルテッド・ファブリック(完全鎧)。
そして、仲間は……。


1:屈強なる幕開け

「今日こそ兄貴の〈青蛙亭〉に寄って、酒を飲もうぜ。前と違って冒険が終わった後だから行かねえ理由はねえよな?」
野太い声で強引にあたしを引きずる、岩悪魔のシックスパックが、あたしの冒険の仲間だ。
飲んだくれのアル中岩悪魔で、酒が切れると手当たり次第かつ見境なく攻撃をしてくる、迷惑野郎ネ。
こんな野郎とまともに付き合えるのは、あたしくらいだから、今も一緒に組んでいる。
「〈青蛙亭〉だけは勘弁ネ~。故郷のじいちゃんが青蛙を食べて死んだから縁起悪いヨ~」
あたしは、シックスパックに抵抗しながら、嘘をつく。
前に〈青蛙亭〉で料金を払えず、店主に叩き出された苦い思い出があるから、絶対に行きたくないネ!
「おめえのじいちゃんはまだ生きていて介護受けているとこの前言っていただろうがよ!ほれ、我が親愛なるクォーツ兄貴の経営する〈青蛙亭〉に到着だぜ!」
シックスパックは、あたしの嘘をさっさと見破ると、容赦なく〈青蛙亭〉まで引きずりこむ。
店内は、ストゥールの残骸が散らばり、まるで酒が切れたシックスパックが暴れた後のような荒らされっぷりだった。
もし、シックスパックと一緒にいなかったら、こいつが犯人だと思ったところサ。
シックスパックが言うには、この店は“青蛙の守り”で守られているからこんな風に荒らされることはないらしいネ。
不思議がるシックスパックと一緒にあたしも考えたけど、ちっともわからない上、窓がパリンと割れて見慣れないクリーチャーが現れたヨ!
あたしらは、すぐに戦いを始めた。


2:屈強なる遭遇

そのクリーチャーは、翼付きのっぺらぼうと言った姿で、店内をはばたいていた。
うぅ、アル中岩悪魔もなかなかひどい外見だけど、あいつは何だか薄気味悪いヨ!
あたしの精神安定度が1下がる。
「あの翼付きのっぺらぼうめ、飛び回っているから、倒しにくいったらないネ!」
「しかも素早いぜ、翼付きのっぺらぼうの奴!」
だいぶ手こずらされたけど、あたしらは何とか翼付きのっぺらぼうに勝利したヨ。
「ナイトゴーント……僕の名前はナイトゴーントです……」
何か、翼付きのっぺらぼうが最期につぶやいたけど、聞き流すネ。
戦闘が終わると、シックスパックがカウンターの奥に落ちていた手紙を見つけて読み始めた。
それは、シックスパックの兄のクォーツの置き手紙で、“青蛙のお守り”を奪われたから〈青蛙亭〉の地下にある迷宮に、腕ききの雇われ戦士を連れて潜っているとのことだったヨ。
「雇われ戦士の名前が〈幸薄き〉ジークリットとなっていたけど、ジークリットちゃんは魔術師だったネ?」
ジークリットの奴は、確かガレー船の奴隷になったはずだぞ?」
あたしとシックスパックは、共通の友人である〈幸薄き〉ジークリットちゃんが「波瀾万丈すぎ!」と言いたかったけど、不意に嫌な予感がして、あたしらは割れた窓の外を見た。
そこには、赤いローブが胡散臭い3人の僧侶団がいたネ。
「また戦闘かよ!」
「面倒くさいけど、やるしかないヨ!」
あたしらが迎撃態勢に入ると、僧侶団は襲いかかってくる。
「カエル面の岩悪魔が帰ってきたか!」
僧侶団の一人が、シックスパックを兄のクォーツと見間違えて叫ぶ。
「どこに目をつけているんだ、てめえ!俺のどこがクォーツの兄貴に似ているんだ!?俺様の方が、目元涼やかで鼻筋の通ったいい男だろうがァァーッ!」
シックスパックの怒りはすさまじく、失言した僧侶は瞬く間に血祭りにあげられたネ。
残り二人の僧侶を二人がかりで倒した後、シックスパックは腕組みをした。
「人間は、俺様とクォーツの見分けがつかねえみてえだ……」
「自分が兄そっくりのカエル面だと認めろヨ」
「このままだと、またバカな僧侶どもに兄貴に間違えられて狙われちまう。どこかに行かねえと……そうだ!」
頑なに自分が兄そっくりだと認めないシックスパックだったけど、急に何か閃いたようネ。荒らされていない地下蔵の扉へ駆けて行ったヨ。


3:屈強なる穴蔵

「〈青蛙亭〉には、クォーツ兄貴が行った迷宮以外にも通じる複数の穴蔵があるんだ!そこへ避難しようぜ!」
「でも、鍵がかかっているネ」
しかも、錆びていてかなり重い。
「何を言っているんだ。こういう時こそ〈屈強なる〉翠蓮の出番だろう?」
「わかったネ。力まかせに開けるけど、壊れた場合はちゃんとおまえの兄貴に事情を説明しろヨ?怒られるのは、ごめんサ」
あたしは、念を押してから、扉を開ける。
きしんだ音と共に、ほこりくさいこもったにおいが扉の中からもれてきて鼻をつく。
あたしは思わず顔をしかめたけど、シックスパックは顔を輝かせたヨ。
「秘蔵の蜂蜜酒がたくさんあるじゃねえか!」
扉の向こうは、アル中飲んだくれの天国、別名酒の貯蔵庫だったネ。
黄金色の蜂蜜酒は、見るからに甘くておいしそうで、今回ばかりはシックスパックの気持ちがわかったサ。
「うめえ!一緒に飲もうぜ!」
「賛成ネ!」
あたしは、蜂蜜酒を四本もらい、そのうちの一本を飲み干した。
甘くておいしい蜂蜜酒は、故郷の母ちゃんが作ってくれたお菓子と同じ味がして、癒される!
おかげで、さっき減ったあたしの精神安定度が全快したヨ!
すっかりいい気分になったあたしらは、貯蔵庫に保管されていた二週間分の食糧とそれを乗せる荷車を見つけて、ちょうだいすることにしたネ。
これだけあれば、遠くに避難できるヨ!
すると、荷車を引いて、外に出ようとしたところで、地下蔵の奥に意味ありげに横穴が開いているのを見つけたのだった。


4:屈強なる未体験領域

「シックスパック、この横穴はどこへ通じているネ?」
あたしがきくと、シックスパックは行ったことがないから知らないと、にべもなく答えた。
それから、地上と地下道のどちらかを選んで進もうと提案してきた。
シックスパックもろくに知らない地下道より、地上を歩いて行った方がましネ。
あたしらは、荷車を引いて店の外に出た。
いつの間にか、とっぷりと日が暮れて夜になっていた。
あたしらが根城にしている、カサールの〈トロールの脳漿亭〉が、暖かい布団にポカポカお風呂と、ファビュラスな美人の恋人のジーナをそろえて、あたしの帰りを待っているから、早く帰るのが一番ネ。
そんなことを考えつつ、荷車を引いて歩き出したところで、頭上から聞いた覚えのあるはばたきの音がしてきた。
「翠蓮、また翼付きのっぺらぼうだ!」
「しかも、翼付きのっぺらぼうの奴、今度は大量発生してやがるヨ!」
あたしらがうろたえているすきに、翼付きのっぺらぼうはあたしらにつかみかかってきた。
「ナイトゴーント……僕らの名前はナイトゴーントです……」
未知のクリーチャーどもは、あたしらのネーミングが気に入らないのか、名乗ってくる。
でも、どんどん上空へと舞い上がっている状況で自己紹介されても、ちっとも頭に入らないネ!
〈青蛙亭〉があんなに小さくなって…ちょっと意識が遠のいたけど、意識が戻ったら戻ったで、宇宙空間にいるって、上空高く登りすぎヨ、翼付きのっぺらぼうども!
嗚呼……星が近いネ……。
トロールワールドをすべて俯瞰できる日が訪れるとは思いもしなかったヨ……。
精神安定度が減っていくのを感じたそばから、翼付きのっぺらぼうどもは、とどめのようにあたしらを宇宙の「何か」に合わせた。
戻っていたあたしの意識は、またも途切れたネ……。


5:屈強なる頼まれごと

気がついたら、トロールストーン山の中で岩トロールどもに囲まれているという、とんだ目覚めを果たしていたヨ!
前にモンゴーの塔で酒を飲んで意識が飛んで目覚めた時も、とんだ目覚めだと思ったけど、今回はそれに匹敵するネ!
シックスパックの大事な魔法の酒樽と、〈青蛙亭〉から調達した食糧の積まれた荷車が無事なのはいいけど、あたしらは無事にすみそうにないヨ!
と、あたしが心配したそばで、シックスパックが岩トロール達に、カルギッシュ語でしゃべり出した。
いきなりあたしの知らない言語でしゃべり出したから、酔いが覚めたのかと警戒しまくったけど、岩トロール達をひれ伏させた後でまたいつもの言語であたしに語りかけてきたので、あたしの勘違いだとわかったネ。
「いったい、岩トロール達に何て言ったヨ?」
あたしが尋ねると、シックスパックは自分達は神の使いだとはったりをかましたとの答えただった。
「魅力度13の女戦士を神の使いと信じこませたのはともかく、よく岩トロールどもは、小汚い飲んだくれ岩悪魔を神の使いだと信じたネ」
「岩悪魔きっての美丈夫と謳われる俺様の魅力がわからねえとは、かわいそうに……。まあ、個人の趣味や嗜好はさておき、俺達を宇宙の彼方から連行してきた、あのナイトゴーントどもを岩トロール達も見たんで、俺の話を信じてくれたってわけよ」
つまり、シックスパックは、宇宙から地上に戻ってくる間の一部始終を見ていても、精神安定度が揺るがなかったことになるヨ!
酔っぱらいの精神力、けたはずれすぎネ!
「あと、宇宙のお偉いさんに頼まれ物をしたんだ。『北のコッロールにいる我が眷属にこの金属の小箱を届けてほしい』ってな」
どう考えても、宇宙のお偉いさんなんて存在と出会ったり、会話したりしたら、精神安定度なんかあっという間に消し飛ぶのに、シックスパックときたら、頼まれごとまで引き受けているヨ!
「それと、小箱の中は決して見るなとも言っていたぜ。そうそう、お礼は眷属がしてくれるってよ!早いところ用事をすませて、お礼をたんまりもらって〈トロールの脳漿亭〉で飲もうぜ!」
「おまえの精神安定度、実は無限大だろ!?」
トロール達に道案内させて、意気揚々と歩き出すシックスパックの後頭部に、あたしは思いの丈をぶつけたのだったヨ。


6:屈強なる道中

あたしらは、岩トロール達の道案内で、トロールストーン山の比較的平坦な道を進んだネ。
でも、この「比較的」がくせものサ。
崖とうねりまくった下り坂の連続で、危うく足を滑らせそうになって、肝を冷やしたヨ。
やっとの思いで下りたトロールストーン山のふもとは、かつては砦だと思われる廃墟が建っていたネ。
「何かよ~、こういう廃墟の地下室には酒蔵が眠っていそうだから、ちょっくら寄ってみねえか?」
「うるせえ。ただでさえ、てめえが勝手に宇宙のお偉いさんから引き受けた頼まれごとにつきあってやっているんだ。寄り道して、こっちの貴重な時間をこれ以上削ったら、額に肉の字を刻みこんで、てめえの自慢のハンサム顔を台無しにしてやるヨ」
あたしの真心が通じたのか、シックスパックは先を急いでくれた。
数日後、さらに道を下ったあたしらは、森の一角に出たネ。
何て森なのか知りたかったけど、あたしの知性度では無理な相談だったヨ。
「ここはどこかネ?」
「さあな。俺が知りてえくらいだぜ」
あたしらが森の中を歩いていると、3人の泥男が現れたヨ!
「翠蓮、森に棲む泥男にはロリ好きが多いときいたことがある!おめえの魅力で奴らに交渉すれば、戦いを避けられるかもしれねえ!」
どの筋から入手した情報か知らないが、あの噂の恐怖のコッロールへ行く前に無駄な体力や耐久力を減らして死にたくないから、ここはシックスパックの言うとおりにするネ!
あたしは、泥男達の方へ一歩踏み出した。
「あー……泥男さん達。あたしらは、ただの届け物をしに行く途中の冒険者ヨ。ここを通してもらえたら、ありがたいネ」
泥男達は、あたしとシックスパックをじっと見る。
それから、三人で相談を始めた。
「かわいそうに……まだあんな若いのにアル中の岩悪魔に引っかかってしまって……」
「これから先の長い人生で苦労を重ねていくであろう若者に、今のうちから苦労を増やしたら気の毒だよ」
「まして、あんないたいけな女の子だからね。さあ、お嬢さん。急ぎの用があるなら、お行きなさい」
シックスパックの目論見は、思いきりはずれていたけど、あたしらと泥男達は戦闘にならずにすんだ。
泥男達の人情で、あたしらは先に進めたけど、森があまりにも深くて迷いそうになったヨ。
そのタイミングで、呪われた遠吠えが聞こえてきたので、あたしの精神安定度はまた1減少した。
そろそろ、黄金色の蜂蜜酒を飲んで精神安定度を回復させた方がよさそうネ。
「悠長にしている場合じゃねえ!こいつは魔王や邪神の間で人気No.1犬種である災厄の猟犬バーゲストの遠吠えだ!暗くなる前に森を抜けねえと命がねえぞ!」
シックスパックは、自分の命に関わる時は絶対に嘘をつかない。あたしは、すぐにシックスパックの言葉に従い、バーゲストに追いつかれないように、さっそく隠密行動を取ったサ。
それなのに、追いつかれてしまったヨ!
不幸中の幸いで、まだ暗くなりきってないから、バーゲストは本来の力を出せてないみたいネ。
だったら、勝てるかも!
あたしらは、それぞれの武器をかまえた。


7:屈強なる仲間

結論を言うヨ。
あたしらは、バーゲストから逃げきれたネ。
これは、あたしの作戦勝ちだったヨ。
まず、あたしのターンはひたすら攻撃。
そして、シックスパックのターンは、ひたすら呪文《千鳥足》を唱えさせたネ。
おかげで、シックスパックの魔力度はがっつり減ったけど、あたしらはたいしたダメージもなく、森の開けた一角まで逃げられたヨ。
「こんなに呪文を使ったのは、初めてだぜ……ふぅ、酒でも飲……む……か」
「すごくきれいなグリフィンがいるネ!」
酔いどれ岩悪魔が、酒を飲むのも忘れて魅入られるほど、その深い藍色の羽毛を持つグリフィンは美しかったヨ。
見とれるうちに、あたしの精神安定度は全回復した。
そこへ、突然グリフィンが目を開けたネ!
「夜の申し子、ブルー・グリフィンがロリかどうかは存在が伝説すぎて情報がねえ! 気をつけろ、翠蓮!」
「気をつける必要はないぞよ。わらわは、小さきものたちに危害を加えるはしたなき真似などいたさぬ」
あたしが行動に出る前に、ブルー・グリフィンが、どうして自分がここにいるのか、あたしらに説明してくれた。
それは、怪しげな宇宙船に奪われた自分の卵を取り戻すための戦いの記録でもあったヨ。
卵を取り戻すためとは言え、たった一頭で怪しげな宇宙船に立ち向かった話は、涙なしでは聞けなかったネ。
その後、宇宙船がコッロールの方へ不時着していくのが見えたと聞いて、あたしは目をしばたかせた。
「コッロールなら、これからあたしらが頼まれ物を届けに行く先サ」
「そうなのか?それは、ちょうどよい。頼む。わらわの大事な卵を取り戻してほしいぞよ」
誇り高いブルー・グリフィンが、生まれてくる我が子を守りたいがために、アル中飲んだくれ岩悪魔にまで涙ながらに頼む姿……母の愛は美しくも強いネ!
その愛に、心があるのかかなり怪しい酔いどれ岩悪魔すら、目に涙を浮かべたヨ。
「その依頼、引き受けたぜ!」
あたしも、異論はない。
すると、ブルー・グリフィンはあたしを背中に、シックスパックをおなかの袋に入れて夜空に舞い上がったネ!
そのまま、あたしらは空からコッロールへと続くカザン街道まで連れて行ってもらえたヨ。
そこへ、ウルク2体が現れた!
「わらわも戦うぞよ」
「とても心強いネ!」
「では、さっさとやっちまうか!」
ブルー・グリフィンが仲間にいてくれたおかげで、バーゲスト相手にしていた時とは違って、あたしらは快勝!
街道を西へ西へと進んで行った。


8:屈強なる廃都

西へ進むうちに、ついに廃都コッロールの城門が見えてきたヨ。
地上に見えるのは廃墟のみだけど、地下にはヴァンパイアどもが眠っている、呪われし都ネ。
奴らと出くわして血を吸われたら、ヴァンパイアになって、下僕にされるとか。
しかも、普段は都の中にたくさんの〈スケルトン・マン〉という、アンデッドどもが暮らしているそうだ。
どう転んでも、怖すぎヨ!
あたしが縮み上がっていると、血を吸われる危険のない岩悪魔は、遠巻きにコッロールを見ながら、あごに指をかける。
「さて、どこからコッロールに入ったものか……? 処刑場へと続く東門か、〈スケルトン・マン〉のキャンプがある南門か、〈スケルトン・マン〉の住居が点在する西門か……」
あたしも、恐怖に震えてないで、考えてみたネ。
今のシックスパックの選択肢の中で、唯一〈スケルトン・マン〉に会う確率が低そうなのは、処刑場だ。
だったら、東門から入るのが一番サ!
決断すれば、後は早い。あたしらは、東門からコッロールに入ったヨ。
処刑場に到着すると、生贄の変わり果てた姿が悪趣味なディスプレイのようにあったネ。
カラス達には、かっこうのビュッフェらしく、カアカア鳴きながら群がっているヨ。
生贄達を見ているうちに、あたしの耳元にたくさんの声が聞こえてきた。
「こっちだ、翠蓮……て、首が360度回ってやがるだと!?」
「どうもゴーストに取り憑かれたみたいぞよ!」
シックスパックと、ブルー・グリフィンは、あたしに取り憑いたゴーストに、必死に説得。
おかげで、これから2回何らかの行動を邪魔したら、昇天すると約束してくれた。
あたしは、ようやく、シックスパックが見つけた物を見に行くことができたネ。


9:屈強なる大団円

シックスパックが見つけたもの。
それは、処刑台の南に不時着していた怪しげな宇宙船だったヨ。
宇宙船のまわりには、蛸の頭をしたヒューマノイドトークティパスが5体いたネ!
あんなおぞましい顔面の連中を目撃したのに、「こっちだ」と、あたしとブルー・グリフィンに知らせに来られるとか、シックスパックの精神安定度はオリハルコンでできているヨ!
「ひぃ! 原住民が来たぞ!」
「あいつらきっと野蛮だから、僕らを酢でしめて食べちゃうんだ!」
「どうしよう! 俺、この任務が終わったら結婚する予定だったのに!」
「やめろ! 危機に瀕した時に結婚などの明るい未来を語るな! ろくでもないことになる!」
「グダグダ言ってねえで、ここは自衛あるのみ! 食らえ、《ボンボン爆弾》!」
「待つネ、あたしらは、友好的な原住民……ギャアァァーッ!!」
ゴーストに取り憑かれて動きが鈍っていたあたしは、見事に《ボンボン爆弾》を食らう。
耐久度が、一気に10も削れてしまったせいか、星が見えるヨ……。
目の前に見える星で、あたしは思い出した。
シックスパックは、宇宙のお偉いさんから、謎の小箱を自分の眷属へ届けるように頼まれてなかったネ?
そして、あいつらはどう見ても、この星の住民ではないヨ。
すなわち、今こそ小箱を使う時!
「シックスパック、こちらさん達に、お届けものを渡すネ!」
あたしが、まだ目の前の星をちらつかせながら叫ぶと、シックスパックは思い出したように小箱を取り出した。
「宇宙のお偉いさんから、あんた方へのお届けものだぜ」
《ボンボン爆弾》を投げてもくたばらないあたしにおびえていたトークティパス達だったが、小箱を渡されると、初めはおそるおそる、次には割れんばかりの歓声をあげたヨ。
「これで元の星系に帰れます!」
大喜びしたトークティパス達は、たくさんのお礼の品をくれた。
その中には、ブルー・グリフィンの卵があったので、ブルー・グリフィンも大喜びしたネ。
何もかもめでたしめでたし……と思ったところで、あたしらは大事なことを思い出した。
〈青蛙亭〉と、シックスパックの兄のクォーツがどうなったか、すっかり忘れていたヨ!
ブルー・グリフィンの親切に甘え、あたしらは彼女の背に乗って〈青蛙亭〉に引き返したのだった。
無事に帰ってきていたクォーツから「俺の店で過去最高の金額で無銭飲食した小娘が何しに来やがった!?」と、たたき出されかけたネ。
けど、シックスパックが柄にもなく「兄貴が無事でよかったぜ」と涙ぐんでいたから、めでたしめでたしってことにしたネ。

(完)

 

子ども食堂 かみふうせん

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屍実盛

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