エベロンとオールド・ワールドの魔法について


 テッド・チャンの『商人と錬金術師の門』についてのテクストを上梓したのは、RPGと関係がないわけじゃない。 いま、RPG世界における魔法というもののありかたについて、ちょっと考えている最中だからだ。


 例えば、『D&D』のエベロン世界の魔法は、いわゆるクラーク的な「テクノロジーと化した魔法」そのものだ。『ドラゴンマーク』を読めばわかるが、テクノロジーとワールドセッティングの関わり方については実によく考え抜かれていて、資料をきちんと押さえていけば、さながら都市工学におけるインフラストラクチャーを観るような感じで、魔法=テクノロジーの立ち位置を把握することができる。


 だが、一方で『ウォーハンマーRPG』の背景世界オールド・ワールドでは、魔法はとらえがたく、このうえなく危険なものとなっている。"Realms of Sorcery"などを読むと、さながらファウスト的に危険なもの(魔法は混沌の力。使えば、いつ悪魔に魅入られるかわからない力)である魔法が、社会でどのような立場に追いやられているのかを非常に鮮明に理解できる(同時に"Tome of Salvation"を併読すると、そうした認識がさらにひっくり返される)。その意味で、こちらも非常によくできている。かつて、『トンネルズ&トロールズ』(5版の方)や、『混沌の渦』を呼んで得られたピリピリ感が、ピリピリしたまま、籠められているのだから。


 この、エベロンとオールド・ワールドにおける「魔法」の取り扱い方の差異は、それぞれのワールドセッティングの本質を如実に表している。その本質をうまく咀嚼し、どうすればわかりやすくセッションに落としこめるのか。このあたり、非常にデリケートで、気を使うところだと思うのだ。