シャドウハントの霊廟

 『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の最新版、第4版の日本語展開に合わせ、全国で展開されている「WORLDWIDE DUNGEONS&DRAGONS GAME DAY 2008」のシナリオ「シャドウハントの霊廟」で遊びました。
 GAME DAYとは、北米だけでも400万人以上のユーザー数を誇るモンスターRPGダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下、『D&D』)を愛するゲーマーたちによる、世界1000ヶ所以上の会場で、2万人を超えるゲーマーが、共通のシナリオを用いていっせいにRPGのセッションを行なうという、驚天動地の試みだ。北米やドイツはもちろん、ロシア、ウクライナなどの東欧諸国、ペルーなどの南米諸国、北アイルランド、マルタ、果てはイスラエルでさえも開催されているのだからすさまじい。

ダンジョンズ&ドラゴンズ プレイヤーズ・ハンドブック第4版 (ダンジョンズ&ドラゴンズ基本ルールブック)

ダンジョンズ&ドラゴンズ プレイヤーズ・ハンドブック第4版 (ダンジョンズ&ドラゴンズ基本ルールブック)

 今回は、版上げに伴ない、まったく新しいルールで参戦と相成った。
 「ぶっちゃけ、シナリオのバランスはメリケン仕様です。世界のゲーマーと同じ苦しみを味わいましょう!」というキャッチコピーで参加者を集めました(笑)せっかくの機会なので、いっさい手を入れず遊ぼうという魂胆。でも定員はすぐに埋まった。
 プレロールドキャラは、さほど使い勝手の悪い者はいない印象。ただ、せっかくなので舞台はフォーゴトン・レルムに変更しておき、準備万端だ。ちなみに、『フォーゴトン・レルム』というと、それこそ『ムーンシェイ・サーガ』や『プール・オブ・レイディアンス』、『バルダーズ・ゲート』に『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』など、古典的名作がすぐに浮かんでくるものと思うが、古き革袋に新しい葡萄酒をということで、かなり斬新な仕様なっていたりするのである。


※「WORLDWIDE D&D GAME DAY 2008」で使用したシナリオのネタバレがあります。ご注意下さい。

 まず、事前に街での情報収集パートを入れた。街は、バルダーズ・ゲートという有名な街にしておいた。ここでフォーゴトン・レルムらしさを強調しておいたつもり。
 次に、ダンジョンへ向かう。最初はなんとリドル。ダブルミーニングの言葉遊びと象徴を解釈するというもの。実時間30分くらい悩んでようやく解けた。リドルに苦悩するファイター(ケルリック)の姿が印象的。

 最初の遭遇、ホブゴブリンの傭兵には、いきなりいちばん奥にまで突っ込み、挟み撃ちに遭う。そこそこダメージを受けたものの苦戦せず。
 その先、とんとん拍子にダンジョン探索をしていったのだが、いきなりボスのところに突っ込んでしまう。スケルトン・トルーパー4体と、攻撃を受けづらい祭壇の上から遠隔攻撃を仕掛けてくるエルフの制御役に出くわしたのだった。
 打撃役のローグ(デザンド)がかなり頑張ってスケルトンを倒していったが、背後からアニメイテッド・スタチューが迫る。防御役のディフェンダーのファイター2人、とりわけドワーフのダージェンが頑張って粘ったけれども、転ばされ、起き上がってはすぐに殴られ、また転ばされ、さんざんな目に遭う。



 途中、遺跡に掬うシャドウ・スピリットはPCたちにそれほど悪意をもっていなかったので、敵のボスが重傷状態になったので勝機は見えた。
 しかしながら、ペイロアのエヴォンの回復も尽き、パーティの面々は次々と斃れていく。
 最後は、hp11のスタチューと、hp3のウィザード(アルティア)が追いかけっこ。

 で、ウィザードが押し負け、結果、全滅となった。



 だが、アルティアは最後に、人質になっていた少年たちを逃がすことに成功していたので、彼らの尽力により、全員が「レイズ・デッド」の儀式をかけたもらうことができた。
 こうして生き返ったが、儀式にかかった費用はそのまま借金として背負わされることになったのはご愛嬌。彼らは借金を返すため、バルダーズ・ゲートの近くの山に巣食うホワイト・ドラゴンを対峙に向かうことに……。
 確かに彼らはいちど全滅した。しかし全員が、「死力を尽くし、やり遂げた」というすがすがしい顔つきになっていたのだ。不思議と誰も文句を言わず、かえって「冒険(D&D)って面白い」というノリになった。『D&D』ならではの、裁定の公平感がそうさせたのかもしれない。
 いやあ、スリリングな冒険だった。これだから何年経ってもRPGはやめられない。


●プレイヤー・キャラクターについて
※最初の台詞は、それぞれのプレロールドキャラクターに割り当てられていたもの。後の台詞は、自己紹介シートの「一言」欄に書かれていたもの。


ダージェン・ダークスティール/「私は悪人の気まぐれに惑わされはしない。」「善属性のロールプレイはまかせろ!」ドワーフらしいのんびりとした感じを出しつつ、ひたすら壁に徹するという職人ぶり。
ペイロアのエヴォン/「ペイロアの神性の輝きは、悪しきものを退けるだろう!」「がんばって回復しますよ。」さすがにキャンペーンで鍛えられているだけあって、意思決定が速やか。
デサンド・クィックフット/「何でもこの袖に入っているよ。」「位置取り命。」突撃役として、状況を少しでも好転させるべく奮闘していた。お疲れ。
アルティア・ギルドリーフ/「問題は、あなたが私の呪文を避ける位置にいるかどうかね。」「私の呪文効果範囲にいないことね」唯一の制御役にして、後一歩のところで生還できそうだった。お疲れさま。
ケルリック/「もしそれが良い話なら、私ものるから勘定に入れてくれ。」「押し潰せ!」『D&D』はクラシック以来だということでしたが、すぐに馴染んでいたご様子。新しい『D&D』を、楽しんでいただけたならば幸いです。


●シナリオ・マスタリングについて

 2008年6月に発売された第4版において、『D&D』は大きく設計思想を変えた。それまでの『D&D』は、いわば箱庭ファンタジーシミュレータ。ゲーム世界のすべてを、資料に記述し網羅するというスタンスだ。とりわけ『D&D』第3.5版からできた新しいワールド、エベロンは、その傾向が強いワールドだ。僕は「Lead&Read」という雑誌に、エベロンを舞台にしたリプレイを書いたので、興味がある向きは参考にしてほしい。
 こうしたコンセプトの変化は、戦闘の考え方にも強い変化をおよぼした。以前某所で書いたが、「『D&D』第3.5版は、サッカーだった。でも、『D&D』4版はラグビーになった」と感じました。 「『D&D』第3.5版は、柔道だった。でも、『D&D』4版はボクシングになった」とも言ってもよいかもしれない。
 事前に長考して、エンチャントして、BAFして、それから一発勝利を狙うというゲーム性が、とにかく血路を切り拓き、打撃を浴びつつ、相手のトリッキーな「隠し玉」を少しずつ暴いて行く方向に変わった模様。この方法の利点は、意思決定のミスにおけるリスクが少なくなり、かつ初心者でも入りやすくなっているということ。
 この「入りやすさ」は『D&D』第4版がもっとも気にしているところで、世界随一の分量を誇ったワールド、フォーゴトン・レルムも、大胆に間口を開けている。
 第3.5版のラインも、『Pathfinder』というシステムにおいて継続されることが確定している。ここでヘヴィ路線が継続して、一方で古参と新人、ゲーマー同士の共通言語として『D&D』第4版が根付けばいい、と切に願っている次第。
 その意味で、今回の、現役と古参、第3.5版の経験者と未経験者が入り混じった状態で、全滅したにもかかわらず『D&D』第4版を楽しめたというのは、意義のあることだったと思う。
 若いの方々も、今後ますます『D&D』を遊んでいてほしいし、OBの方も、ぜひまた地下竜と迷宮が綾なす饗宴に舞い戻ってほしい。忙しい社会人でも、月に一度くらいはゲームしても罰が当たらない、というのが僕のスタンスなので。
 ともあれ、楽しかったです。ありがとうございました。


●印象に残ったシーン


DM「なかなかリドルが解けないでいるのを見て、シャドウ・スピリットがイライラし始めました」
ケルリック「こっちもイライラしているよ!」


ケルリック「ふう、やれやれ。ようやくボスのエルフを倒した。これで……」
DM「あの、スタチューがまだ襲ってきますが」
ケルリック「あれ、ボスが死んだら部下も死ぬんじゃないの?」
DM「何をおっしゃる。スタチューはスタチューで、自律して生きているんです。装いは変われど『D&D』はリアリズムの世界。行きますぜ、ふもー!(走ってくる)」