MAGIUS PUNK:FLYING RUBBER


 『MAGIUS』という汎用RPGシステムがあったのをご存知だろうか。
 余分なルールを極限までそぎ落とし、3つの主要能力値で判定を行なうというルールシステムだ。
 各種サプリメント……というか、単体で遊べるバリアントルールのついた作品が多数出版された。身内の理系ゲーマーの中には、未だにロケット発射のシミュレーション性が高いとして、『マギウス・ロケットガール』を崇拝している者もいる。


 さて、その『MAGIUS』をベースにしたプレイリポートをご紹介しよう。ただし、既存のバリアントルールではなく、山寧さんオリジナルの『MAGIUS』だ。題して『MAGIUS PUNK』。
 シド・ヴィシャスも真っ青なNo Futureなカスどもの生態を手軽にプレイしよう、というコンセプトのゲームで、FIGHT技能や「世界で最も人気のあるスポーツ」ことFUCK技能を駆使したりして、うまくLEGENDレベルを上げることがRPGとしての目的だ。
 が、もちろんそこまでいかず、あるパンクスはチンピラ同士の私闘の果てにストリートの塵と化し、あるパンクスは実家の農場を継ぐため田舎に引っ込んでしまい、あるパンクスは性病で二目と見られぬ顔となり、そしてあるパンクスはドラッグのやり過ぎで恋人をメッタ刺しにするわけだ。


 なっ、最高だろ!?


 というわけで、またもや山寧さんが素敵なプレイリポートを提供して下さった。
 さあさ皆の衆、刮目して見よ。紛れもなく、RPGの未来がここにある。
 「RPGの可能性は無限大!」(妄想性RPG
 なお、『MAGIUS PUNK』のルールシステムは現在非公開ですが、『バイオレンス』あたりでこのシナリオは簡単に再現できることと思いますよ。

VIOLENCE - The Roleplaying Game of Egregious and Repulsive Bloodshed

VIOLENCE - The Roleplaying Game of Egregious and Repulsive Bloodshed


勝手にしやがれ(紙ジャケット仕様)

勝手にしやがれ(紙ジャケット仕様)

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MAGIUS PUNK』プレイリポート:「Flying Rubber」


ゲームマスター&プレイリポート執筆:山寧


プレイヤー・キャラクター:
ポール・ディッキンソン……口のうまい配管工。
ビル……FUCKが巧みな好青年。
リー・テケシ……ヤク中の落書き好きな英国人。東洋系。


《STORY》


「ファッキュー!」


 ブライアンはビルに中指を突きつけた。土曜日のスタジアムで彼が入れこんでいる『ロンドン・プッシーウィロウ』とビルが応援する『バッキンガム・ファッキンビッチ』のどちらのクラブチームが勝つかで口論となったのだ。
 2人ほどフットボール好きではないリーとポールはその様子を冷ややかに眺めていた。 この1979年の秋にブライアンのアパートメント入り浸たっているのは忌々しい『サッカー』の話をする為でも、家主のハドソン婦人に色目を使う為でもない。ブライアンがキャンディマンとウマく渡りをつけてくれるからなのだ。だが現在、ストックは底をついてる。早々に彼等のキャンディマン、ドゥウォーフのスティーヴンを訪ねて行かなくては。


 ビル、リー、ポール、ブライアンの4人は、ゲイのジョナサンのフルーツパーラーを襲って手に入れたペアーとマネーを懐に、スティーヴンのパブにやって来た。昼間の事でパブは未だ準備中。130cmの売人は、4人を地下室に案内する。
 そこには鋼鉄のケージがあって、何故かって言ったら、それはスティーヴンがここで秘密のケージファイトを営業しているからだ。客の前で首尾良く勝てばキャンディーはフリーだとか。悪くない話だ。拳法家気取りのトンマなリーは早速名乗りを上げる。


 その内に客席が埋まり始めて、賭けが始まる。どうやらいよいよ試合開始ってムード。で、相手が現われて皆が驚いたのは、そいつがすごくでっかくて、オウガ鬼そのものの迫力だった事で、スティーヴンと並んだショットはまるでトールキンじゃないか。
 ブルースとか言うそのオウガは英国紳士然とした意外な調子でリーを見下して、燃え上がったリーはハンディキャップとして与えられたアックスを振り回した。ネックが反り返っちまって武器にしかならない重い樫のテレキャスターを頭に何回か食らったら、英国紳士はブッ倒れた。
 おめでとう。リーの勝ちだ。


 これでまあ薬物は手に入ったんだが、問題なのは死体も一ケ手に入ってしまったって事。観客はそれなりに満足したのかも知れないけれど、スティーヴンはショックでサウロンがどうしたとか言い出すし、リーは完全にチキンになっちまった。
 ビルが落ち着かせようとしてスティーヴンになんか落ち着くやつを大量に注射したら奴まで死んでしまうし、ブライアンはスティーヴンの店の金を持って梨を買いに行くって出かけたたまま雲隠れしちまうしで、とにかく大変だったんだけど、なんだかんだ言って結局土曜日には3人はスタジアムにいた。大観衆の中に死体を紛れ込ませて処理しようって作戦。
 薬はそこらを歩いてたオボッチャンに押し付けたし、証拠隠滅はこの2体を処理すればバッチリ完了。チキンのリーはなんか病気にもなってしまって病院で死にかけたりもしてて足手まといなんだけど、それも趣向で。


 あれから二晩ばかりかけてスティーヴンの店の冷凍庫でカチンカチンになったマグロ2本は、盗んだアイスクリーム販売車のボックスの中に入ってる。
 フットボールにアイスクリームはつきものだから、軽快なミュージックとともに車がスタジアムに入って行ったって誰も気にしなかった。スタジアム係員なんか試合がすぐ始まるから急げって言ってたくらいで、フラフラなジャンキーや両目の下にクマを作ったチキンが運転席にいたっておかまいなしだ。


 そしてフィールド上。殺気だった労働者や失業者や警察官や犯罪者が東西スタンドに分かれて怒声を張り上げる中、名前に似合わずそれなりのランキングの両チームは割といい試合をしてた。
 3人も『バッキンガム』側の通路でクーラーボックスを押しながら観てたんだけど、そうしたらまあ、『ロンドン』側の客席にブライアンがいるじゃないか。持ち逃げした金が結構な額だったみたいで、取り巻き連中をはべらしつつ脳味噌は天国まで旅行中だ。
 当然、チキンになってるリー以外の2人は怒った。そうしたら、タイミング良く試合終了。なんか『バッキンガム』が1点差で負けちまった。あっちのスタンドの全員が歓喜し、こっちのスタンドの全員が怒った。


 怒り狂う群集があっちのスタンドに向かって物を投げ始めたんで、ポールは素早く自分のクリームを持ってたラバーに詰めて投げた。
 よく飛んだ。
 それが愉快だったもんだから、誰もが真似して尻のポケットに入れてたスキンをバンバン投げ始めた。当然気の効いた連中は自分のクリームを詰めて投げた。
 そうなれば相手も黙っておらず、すぐにフィールド上空を無数のゴム製品が飛び交い始める。勿論スタンド間じゃ届きゃしない訳で、群集はすぐにフィールドに雪崩れ込み始めた。絶叫し、走りながら投げつける分身に、色んな想いを託しつつ。


 この時こそ死体処理のチャンスだって言うんで、2人はゴロリとマグロを2つ転がした。
 誰も気にしない。
 でも、その脇にもう一つマグロが転がってるのを見たら2人は気にしない訳には行かなかった。
 リーはすでに踏み付けられて死んじゃってた。


 怒りをぶつけるのに一番の相手はブライアンで、しかもまだ客席にいるとなれば当然戦闘しか道は無く、ビルは彼の前に仁王立ち。
 ストリートファイトじゃそこそこ知られたブライアンはカラテかなんかの構えをし、ファックで知られたビルはそれなりの構えをした。
 ビルは最初の一撃で巧みにブライアンの衣服を剥ぎ取り、続く一撃を狙い過たず尻に。「痛い」と呻いたブライアンに、ポールは持ってたスプーンを噛みしめさせた。


 長く苦しい戦いが終わった頃には、既に群集は何処へかと去っていた。
 スタジアムに残ったのは3人の愚か者と死体が3つ。冷たさを増す晩秋の風が小さな小さな渦を巻き、打ち捨てられたゴムの切れ端を吹き上げた。
 バビロンの80年代はもうすぐそこだった。





《PLAYERS&CHARACTERS》

ポール・ディッキンソン
☆口のうまい配管工。
★なんか細かく色々やってて愉快だったが、何と言っても最後のアレはヒドい。クレイジー。(山寧)

ビル
☆FUCKが巧みな好青年。
★FIGHT技能対FUCK技能。あんな戦闘シーンは史上初でしょう。クレイジー。(山寧)

リー・テケシ
☆ヤク中の落書き好きな英国人。東洋系。
★チキンマンのロールプレイが素晴らしかった。クレイジー。(山寧)


《GAME MASTER》


☆別にマスタリングする気もなく3時頃に来たんだけども、なんとなくやる雰囲気になっちまったんで、持ってたマギパンを取り出して一席ひねってみた。1時間強で終わったんだけど、スピード感があってなかなか面白いセッションだったと思う。適当にデッチ上げて行った割に展開にもメリハリがあったし。ガンガン予想外の流れになって愉快であった。
★しかしまあ、やはり基本的に戦闘シーンが殆どないゲームなので、物凄く素早く進行するな。だからマスタリングする上で息を継ぐ時間も全然ない訳で、その点は非常にキツい。でもそれだけに、気分が乗ってうまい具合にハイテンションなプレイができた時には、とても気持ち良く充実感のあるセッションになるのではないかな。適当かつ自然に、そしてそれなりに真剣にやるスタイルが良いっぽい。あとは引き出しをどんどん開けて行きつつ、テンポを損なわない様にするという事だな。
★ともかくこういうバカバカしく気楽なゲームは好きだ。勿論自分で作ったんだから自分のマスタリングスタイルに合ってるのは当然な訳で、他の人がマスタリングした時にこのシステムの真価が問われるのであろう。(山寧)


(1998年10月25日)

Special Thanx! fahさん