「ジャーロ」(光文社)38号に「ミステリとSF あるいは「リセットの利かないゲーム」」を寄稿させていただきました。


 第5回SF評論賞の優秀賞をいただきました関係で、引き続きありがたいお褒めの言葉やはてなスターをいただいております。私淑する小説家の方よりお祝いのシャンパンまで頂戴してしまいました。
 身に余る光栄というほかありません。ありがとうございます。



 さて、本題を。
 光文社から発行されている本格ミステリを主題とした雑誌「ジャーロ」の38号に「ミステリとSF」についての評論を掲載いただきました。

EQ Extra GIALLO (イーキュー エクストラ ジャーロ) 2010年 01月号 [雑誌]

EQ Extra GIALLO (イーキュー エクストラ ジャーロ) 2010年 01月号 [雑誌]

 具体的には、『社会は存在しない』でおなじみ限界小説研究会によるリレー式の連載「謎のリアリティ ミステリ×モバイル×サバイバル」の第3回を担当させていただいたということになります。
 「謎のリアリティ ミステリ×モバイル×サバイバル」とは……。

 多様性の加速度を増すいっぽうの社会状況に晒され、
 ミステリが直面する前面化した問題と潜在化した問題。
 重層化した「謎」を複数の視座から論ずることで、
 真の「リアリティ」に迫りたい。

 連載の冒頭に毎回掲載されている上記の緒言に現れておりますように、毎回「ミステリ」と何かを組み合わせて論じることで、ミステリをめぐる「リアリティ」の現在形がいかなるものであるのか、そしてミステリはどこへ向かうべきかを素描するのが連載「謎のリアリティ」の目的です。


 さて、今回、私は……。
「ミステリとSF あるいは「リセットの利かないゲーム」」
という表題にて、主に伊藤計劃『ハーモニー』と、千澤のり子『マーダーゲーム』を論じています。

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

マーダーゲーム (講談社ノベルス)

マーダーゲーム (講談社ノベルス)

 最新型のSFとミステリに共通している問題を社会状況に着目し、そこから『マーダーゲーム』が基盤にしているカードゲーム『汝は人狼なりや?』(『タブラの狼』)をはじめとした「ゲーム」性の根幹に着目することで、コミュニケーションと歴史性、そして「顔」の問題へ再考を促すという内容になっております。いわば境界解体型の論文だと捉えていただけましたら幸いです。
Lupus in Tabula

Lupus in Tabula

 私は商業誌にミステリ論を発表するのは初めての経験になりますので――拙い部分もあることでしょうが――SFとミステリ、両者に共通する(表象としてだけではなく)機能としての「ゲーム」に着目した例はまだまだ少ないのではないかと思っており、それゆえにオリジナリティを持たせることができたと自認しております。


 特に、このブログをご覧になって下さっている多くの方が関心を抱いているだろう「物語とゲーム」の関係性について、何かしら新しい視座を付け加えられたのではないかと僭越ながら考えております。
 なお、「物語とゲーム」については、以下の記事も参考になるのではないかと思います。
http://d.hatena.ne.jp/Thorn/20080208
http://d.hatena.ne.jp/Thorn/20090624/p2
 また、先月、id:nacky7さんとのお話で触れた商業媒体での原稿とはこちらになります。
http://d.hatena.ne.jp/Thorn/20091127#c1259335950


 ミステリのあり方に興味のある方、他のジャンルとも共通するSFの特性に感心のある方、そしてゲーム(特にアナログゲーム)に関心をお持ちの方には、ぜひとも手にとっていただけたら幸いに存じます。
 加えまして、主題となる両者の他にも、ミステリの文脈では東野圭吾容疑者Xの献身』、歌野晶午『密室殺人ゲーム2.0』、松本寛大『玻璃の家』の3冊にも言及をさせていただいています。

容疑者Xの献身 (文春文庫)

容疑者Xの献身 (文春文庫)

密室殺人ゲーム2.0 (講談社ノベルス ウC-)

密室殺人ゲーム2.0 (講談社ノベルス ウC-)

玻璃の家

玻璃の家

 よろしければ、どうぞ「ジャーロ」38号をご覧下さい!
 そして願わくば、取り上げた素晴らしい作品群にも触れていただけましたら幸いです。


 特に『クトゥルフ神話TRPG』に興味のある方には、ぜひとも『玻璃の家』をお読みになってほしいと思います(とりわけこの作品には惚れ込んでおりますので、いずれ何かの折りに取り上げさせていただきたいと考えています)。


 なお、最後になりましたが、拙稿へ色々とアドバイスをいただきました限界小説研究会の皆様には、この場を借りて厚くお礼を申し上げます。ありがとうございました。