お前のものは俺のもの有限会社ふたたび――あるいはウィル・ウィートン


 この前、このブログで『ダンジョン・マガジン年鑑』のシナリオ「嵐の塔」の紹介をしたのですが、http://d.hatena.ne.jp/Thorn/20100927/p1、なんとタイムリーに「嵐の塔」に関係した出来事が、アメリカはシアトルのPAX2010というイベント内で開催されました。教えて下さった方に感謝を!


 PAXというのは、アメリカの人気ウェブコミック、Penny Arcade(おそらくビートルズの「あの頃ペニー・レインと」と「文無しゲーマーズ」をかけた文句)のことで、このPenny Arcadeの名を冠したデジタル・アナログを問わない一大イベントなんですね。今年で4回目の開催、70000人もの動員数を誇る一大イベントだった模様です。
 ちなみに一緒にゲームをしているアメリカ人に尋ねたところ、ばっちりPenny Arcadeのことを知っていました。


 で、『ダンジョン・マガジン年鑑』に収録されているシナリオ「嵐の塔」は、ワーキング・タイトルはそのまま「ペニー・アーケードと嵐の塔」で、もとはPenny Arcadeのライターやイラストレイターたち、それに古くは『スタンド・バイ・ミー』の語り手役の少年、最近では『NUMBERS』、『クリミナル・マインド』などに登場している俳優のウィル・ウィートンが参加したセッションで使用されたシナリオだったのですね。
 パーティ名は“Acquisitions Incorporated”。日本語訳では「お前のものは俺のもの有限会社」と充てられています(笑)
 このセッションの模様はPodcastという形で配信され、50万ヒットを記録したとか。

※『ダンジョン・マガジン年鑑』では台詞などが日本語訳されています。

ダンジョン・マガジン年鑑 (ダンジョンズ&ドラゴンズ第4版 アドベンチャー集)

ダンジョン・マガジン年鑑 (ダンジョンズ&ドラゴンズ第4版 アドベンチャー集)

 そしてこの「嵐の塔」の面々は、その後も例えば第4版でサポートが開始されたワールド、『Dark Sun』を舞台にした冒険などを収録し、Podcastで配信していたのですが、ついにPAX2010では動画にも大々的に進出。イベントならではの演出で魅せてくれます。このボンクラ度の高さにどうしても惹かれる(笑)

 そして今回のPAX2010でフィーチャーされているのは、『D&Dスターターキット』というタイトルで日本語版が12月に発売される予定の、「Red Box」=「赤箱」。ラリー・エルモアの表紙が懐かし素晴らしい。


 壇上に用意されている城の模型の迫力から、ちょいアブない感じの妙にハイテンションな兄ちゃんがダンジョン・マスターのクリス・パーキンズ。「嵐の塔」の作者でもあり、「Dungeon」誌に寄稿しているライターの中では、最も多産な書き手でもあります。
 「お前のものは俺のもの有限会社」のCEO(笑)、オーミンを担当しているのが、ジェリー・ホルキンズ。「Penny Arcade」のイラスト担当。
 続いてビンウィン・ブロンズボトムというドワーフを担当しているのが、スコット・クルツ。こちらは『PvP』という最低な名前のウェブ・コミックの作者です。
 そしてウィザードのジム・ダークマジック(イラストで高笑いしている人)を演じるのは、スコット・クルツ。「Penny Arcade」のライティング担当です。こう見えても、ジェリーとスコットの2人は、「TIME」誌の「世界で最も影響力のある100人」にノミネートされたとか(笑)
 最後にもったいぶって登場するのは、エルフのアヴェンジャー、エオフェルを担当しているウィル・ウィートン。ただしそのマントの下に隠されているTシャツには、「AEOFEL IS ALIVE!」と書いてある。ゲーマーは大喜び。おいおいおい(笑)
 こういう一種独特のコンベンションの熱気がライブで伝わってくるというのは、良いのか悪いのか……。ただ、なんだか楽しそう、というのはあるかもしれません。


 面白いのは、こうしたイベントでの成果がシナリオにフィードバックしているということですね。『ダンジョン・マガジン年鑑』が日本語になって嬉しかったのは、なかなか日本には伝わってこないアメリカのイベントでのライブ感覚。そうした要素は、実際のセッションを通して追体験できるいように、シナリオに盛り込まれてきたのです。
 アメリカではリプレイ文化がありません。その代わり、セッションでのノウハウはシナリオという形式に集約されてきたのだと従来私は考えていましたが、それが確信に変わったきっかけが『ダンジョン・マガジン年鑑』の翻訳に携わったことでした。
 RPGのシナリオには独自の豊か差があり、その好例として「嵐の塔」という、いわばイベントのスポイラー的な楽しみ方もできるシナリオが提示されたというわけです。この動画に出てくる妙にテンションの高い兄ちゃんたちは、果たしてどんなシナリオを遊んでいたの? そういった形で、いわばイベントに参加できない人でもイベントを追体験できる。こうしたひと味違った楽しさをも「嵐の塔」はもたらしてくれる、というわけなのでした。
 そうそう、「嵐の塔」は3レベル用のシナリオなので、初心者と遊ぶにもぴったりです。