東大講演「「北海道文学」を脱構築する「アイヌ文学」――モダニズムと惑星思考」(阿部賢一准教授「文化批評」内)

 2020年6月23日に、東大の阿部賢一准教授の「文化批評」の講義のゲストスピーカーとして、「「北海道文学」を脱構築する「アイヌ文学」――モダニズムと惑星思考」というタイトルで講演をしました。しばらく前からお話をいただいていたものですが、コロナ・ウイルス禍の影響で、Zoomによる遠隔講義形式をとりました。

 これまでの私の商業・学術原稿では、引用してこなかった資料をベースに組み立て直しました。綿密に準備をしたので学会発表みたいになりましたが、コーディネイター阿部賢一さん、ゲストの東條慎生さん、目野由希さん、ご参加いただいた皆さんに感謝します。

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講演で使用した「ウタリと教育」4号

 いずれ論文にしたいと考えていますが、かい摘んで講演内容を紹介します。

 「北海道文学」に馴染みがない人の出逢いの契機になっている柄谷行人日本近代文学の起源』で引かれる国木田独歩の「空知川の岸辺」、独歩がアイヌ民族を黙殺した状況を、小金井良精(東大には小金井が盗掘した遺骨の「コレクション」があります)らの言説を批判的に検討し、分析。
 ここまでは明治。そこから、坂田美奈子・児島恭子らの研究をベースに、旭川アイヌの置かれた「状況」へと推移。そうした旭川モダニズムにおけるアイヌ表象を確認するため、昭和初期モダニズムについて。今野大力の詩篇を分析……ここまでが戦前です。質疑応答では小熊秀雄についても話しました。
 戦後は、向井豊昭御料牧場」で言及される掛川源一郎『若きウタリに』の「まなざし」から、向井が「御料牧場」で他者としてのアイヌを表象しようとして「逆襲」をされる模様を考察。そこからバチェラー八重子の短歌について、中野重治・丹菊逸治・天草季紅らの仕事を軸に分析。「文化批評」としては、主に押韻と意味解釈。
 「ウタリと教育」4号に寄せた向井豊昭の論で惹かれたアイヌの子どもの詩を軸に、上野昌之・森田俊男らの仕事を軸に国民教育運動を再検討をしました。あわせて、田宮輝夫・川村湊西成彦らの仕事を介し綴方教育と「外地」、植民地主義の関係についても論じました。

 最後は、地域研究・比較文学スピヴァクの「惑星思考」で締めるという流れです。

 

 講演の前前週から、阿部さんのZoom講義を聴講し、準備をしました。

 「翻訳論」と「文学とトポス」が二大テーマで、井伏鱒二による唐詩の翻訳、柴田元幸訳の『ハックルベリー・フィン』、スピヴァクやイブン・ゾハールを引きつつ翻訳の政治性が論じられ……あるいはソース・テクストとターゲット・テクストをめぐるスピヴァクの「翻訳の政治学」の問題から、トニ・モリスン『ビラヴド』の歴史的な時間の堆積と連動した場所認識へ移り、イーフー・トゥアン『空間の経験』の現象学的アプローチ、そして崎山多美や石牟礼道子の作品へ、という流れでした。

 講義後には、学生からのリアクションシートをいただきました。院生が混じっているとはいえ、レベルはとても高いという印象です。「東大だから」というより、実感としては、阿部賢一さんの指導の賜物だと思います。質問群へは応答をしました。