東海大学文芸創作学科2020年度秋学期シラバス(ゲームデザイン論)

東海大学文芸創作学科2020年度秋学期シラバスゲームデザイン論)

 今年度も東海大学文芸創作学科での非常勤講師として勤務します。以下、利便性を鑑み、シラバスをこちらにも公開しておきます。

 

2020年度 秋学期  
授業科目名 「サブカルチャーと文学」
曜日 時限  水-3
テーマ 「反サブカルチャー」としての文学的ゲームデザイン入門
キーワード  ゲームデザイン シナリオ創作 文芸評論

 

【授業要旨または授業概要】

 シラバス編成の都合上、本講義タイトルには「サブカルチャー」と掲げられていますが、講師はこの水曜3限の講義を「ゲームデザイン論」と呼ぶことにしています。
 本講義(ゲームデザイン論)では、現役でゲームデザイン/ゲーム研究の現場で活躍している教員の指導により、創作の一環として、古くて新しい表現形式であるところのゲーム、とりわけストーリーゲーム/ナラティヴゲームと呼ばれるものを実際に創作することを目指します。
 過去の受講生たちは、ロールプレイングゲームのシナリオやソロ・アドベンチャーをデザインしたり、あるいはリプレイ小説を書いたりしてきました。シナリオのなかには講師が監修のうえでリライトし、商業誌への掲載を果たしたものもあります。
 しかしながら、創作には必ず発想の源泉となる教養が必要です。そのため、古典的な幻想文学・SFの実作や文学理論を、時間をかけて講読することで、土台の構築をしていきます。
 また、巷では「ゲーム」というと、日本製の“アニメ・漫画・ゲーム”という粗雑なくくりに置かれ、のみならず、それらが語られる際には、従来「文学」とされてきた領域を敵視して「日本」の文脈に閉じこもることがままあるのですが……本講座はそういった“クールジャパン”的な文脈とは基本的に無関係です。
 むしろ、この講義では「世界文学」との連関性を重視し、その一環としてゲームを捉えています。真に“クール”なのは、ゲームを「サブカルチャー」として居直らない姿勢だと考えるからです。その意味で、本講義は文学を媒介とした“反”サブカルチャー論」言うのが正確でしょう。このことは、講義内でも絶えず強調していくので、忘れずにいてほしいと思います。

 

 

 同名の講座が水曜3限・水曜4限で展開されます。意欲のある受講者は、両方の受講も歓迎します(ただし、単位は片方しか出ません)。既習者の受講も歓迎します(自由聴講扱いとなります)。

 ※より詳しくは、続けて【授業計画】の項目をご参照ください。

<実務経験のある教員による授業科目>


【学修の到達目標】
・日常的に接する文化環境に対しての批判的な視座を持ち、そのルーツを探り新たな表現を産むために必要な(最低限の)知識と好奇心を涵養します。
・文学を中心にしつつ、哲学・歴史学・美学といった人文科学についての基本的な知識をも習得します。
・レッシング以降の古典的な文学理論を習得します。
・カルチュラルスタディーズ、ジェンダーポストコロニアル理論といった、文化批評の基礎を習得します。
ゲームデザインクリエイティヴライティングの基礎をも学ぶことで、学術的な視座の批評や創作へ応の応用を目指します。
・学術的なゲーム研究の基礎を習得します。

 

【授業計画】
◆スケジュール
<注意:水曜3限では、ゲームデザインを中心に学習します。水曜3限と4限では内容が異なります>

 ブロンテ姉妹が架空の王国を創造して「ごっこ遊び」を展開した19世紀から、21世紀、スマートフォンを駆使したAR(拡張現実)ゲームまで、ストーリーゲームは多様な形態が存在しています。
 あるいは、史学的なシミュレーションの一環としても、プロイセン帝国期の「クリークシュピール」から現在のシリアスゲームに至る、ウォーゲーミングの方法論というものも連綿と存在しています。

 そこで本講座では、ゲームと「文学」が交錯したわかりやすい事例として、会話型(テーブルトーク)のロールプレイングゲーム、あるいは関連したゲームポエムやウォーゲーミング等を中心に扱います。
 ただし、規範として意識するのは、国内に留まらず海外の(主として英語圏の)作品です。

【従来は、文献講読とストーリーゲームの体験を前半回での講義では組み合わせて行い、後半回の講義では本格的なワークショップで実際にゲームをプレイするという形をとっていました。

 しかしながら、今年度はコロナ・ウイルス禍の影響で、途中から遠隔講義へ移行する可能性があります。
 幸い、今年前期は遠隔講義でも、講師がゲームマスターとして主宰するワークショップを行うことができました。それを介して、実際に創作のための経験を積んでもらうわけです。
 ただし、多人数で遠隔講義となった場合は、ゲームデザインの基礎的文献の講読中心に、研究や創作に必要な教養の基礎を身につけることを目指します。
 学生の志向性に合わせ、ナラティヴ・ベースのデザインによるゲームか、シミュレーション性に重きを置いたデザインなのか、それぞれ調整して焦点を合わせていきます。
 いずれにおいても、Zoom等の活用も視野に入れますが、例年以上に、授業外での課題製作とメール等での提出を重視することになります】

 文学研究や文芸批評の方法論を軸に、学術的なゲーム研究における最新の成果も紹介しながら、他ジャンルにまたがる普遍的なストーリー構造や、原型となる神話素、「語り」をはじめとした表現スタイルの微妙な差異などを検証することで、総合的な教養を培うことが目標です。
 本気でゲームや小説の仕事につきたい人は、大いに歓迎します。講師の仕事も講義内でその都度、紹介し、現場の空気を知ってもらうきっかけといたします。
 しばしば誤解されますが、「サブカルチャー」と授業名で冠されているからといって、「ラク」というわけではありません!
 過去履修者の継続出席、学部・他学科からの聴講も歓迎しますが、途中で離脱するケースが少なくないので、いちどやると決めたら、最後まで受講することを推奨します。さもなければ、実になりません。

<※2020年度前期(春学期)の内容を、参考までに以下に示します。受講生の関心や状況に応じ、随時変更を加えていきます。講義内での指示を聞き逃さないようにして下さい>

1:オリエンテーション~ゲームポエム入門
・ガイダンス
・ゲームポエム(ナラティヴ・デザインをベースにしたRPG)に親しむことを目的に、「三老人」(マーク・メイヒャー作、中村俊也訳)のワークショップ

2:ゲーム研究の基礎(1)
・コンピュータ・ゲーム史入門~「なぜ「ゲーム研究」が必要なのか? 書籍「ゲーム学の新時代」から読み解く,ゲーム研究からの人文社会科学」の視点から」(岡和田晃作)を参考に、コンピュータ・ゲーム史を考察し、コンピュータ・ゲーム以外のゲームの広がりを実感する
・ノルマンディー上陸作戦を題材にしたゲームポエム「カレーの陣地」(マーク・メイヒャー作、中村俊也訳)をワークショップとして体験し、歴史学とシミュレーションの関係を確認する

3:ゲーム研究の基礎(2)
インターフェイス・デザイン論の視点から『ドラゴンクエストⅠ』の序盤を分析する
ノーベル賞作家ペーター・ハントケにインスパイアされたゲームポエム「プレイヤー罵倒」(岡和田晃作)をワークショップとしてプレイし、プレイヤーとキャラクターの違いを理解する

4:ハイ・ファンタジー入門(1)
・国産ハイ・ファンタジー小説の傑作・門倉直人「ホシホタルの夜祭り」を購読する
・「ホシホタルの夜祭り」と共通の幻想世界ユルセルームを扱う『Wローズ』簡易版(門倉直人原案、岡和田晃作)のキャラクターメイキングを行う

5:ゲーム研究の基礎(3)、ハイ・ファンタジー入門(2)
インターフェイス・デザイン論からカント『判断力批判』に移り、ゲーム研究の文脈における古典であるホイジンガとカイヨワの理論を学ぶ
・『Wローズ』簡易版を実際にワークショップとしてプレイする

6:SF-RPG入門(1)
スペースオペラ、サイパーパンク、ポストヒューマン、シンギュラリティといったSFの基礎概念を確認する
・ポストヒューマンRPG『エクリプス・フェイズ』(ロブ・ボイル作、朱鷺田祐介岡和田晃他訳)の世界観を、サンプル・キャラクターを介して確認する

7:SF-RPG入門(2)
・本格的なRPGセッションの開始。「Role and Roll」Vol.166の『エクリプス・フェイズ』シナリオ「焦土の衛星シンダーの秘密」(岡和田晃作)の前半をワークショップとしてプレイする
・いかなる要素が「SFらしさ」を生み出すのかを考察する

8:SF-RPG入門(3)
・本格的なRPGセッションの続き。「焦土の衛星シンダーの秘密」の後半をワークショップとしてプレイする
・「焦土の衛星シンダーの秘密」のプレイリポートをまとめる

9:マーダーミステリー入門(1)
・2版に分かれ、「ウォーロック・マガジン」Vol.7に掲載のマーダーミステリー・ゲームブック「空蝉の島」(おいしいたにし作)をワークショップとしてプレイする
ゲームデザインとミステリ批評、双方の観点から「空蝉の島」を分析する

10:マーダーミステリー入門(2)
・「GMマガジン」Vol.12掲載のマーダーミステリー「囚獄島の殺人」(麻宮楓作)をワークショップとしてプレイする
ゲームデザインとミステリ批評の双方から、「囚獄島の殺人」を分析する

11:SF-RPG入門(4)
・『エクリプス・フェイズ』のシナリオ「ソードダンサー・オン・マーズ」(岡和田晃作、「Role and Roll」Vol.154)をワークショップとしてプレイする
RPGにおける戦闘システム、義体の乗り換えといった特殊ルールの扱いを学ぶ

12:マーダーミステリー入門(3)、SF-RPG入門(5)
・『エクリプス・フェイズ』のマーダーミステリー風シナリオ「光のコーデックス、あるいはGLC」(朱鷺田祐介作、「Role and Roll」Vol.183)をワークショップとしてプレイする
・個別に与えられた裏設定を、どのように主体的にストーリーへ絡めるのかを分析する

13:ソロ・アドベンチャー入門
・「ウォーロック・マガジン」Vol.7掲載の『アドバンスト・ファイティング・ファンタジー』第2版用ソロ・アドベンチャー「盗賊都市からの脱出」(友野詳作)をワークショップとしてプレイし、一人用シナリオの書法を学ぶ
・「ウォーロック・マガジン」Vol.7掲載の『トンネルズ アンド トロールズ』完全版用ソロ・アドベンチャーソーサラー・ソリテア完全版」(J・L・ウォーカー、岡和田晃訳)をワークショップとしてプレイし、一人用シナリオの応用を学ぶ

14: オリジナル・ゲームの創作
・ゲームポエム「ヘロドトス」(岡和田晃作)をワークショップとしてプレイする
・受講生のデザインしたゲームポエムのテストプレイを行い、ディヴェロップ(改良)案を討議する

 

◆予習・復習
 ゲームデザインは場数を踏まなければまったくシナリオが書けません。ソロ・アドベンチャーや多人数用アドベンチャーを積極的にプレイしてみてください。
 創作は研究あってこそ成り立ちます。幅広い人文科学的素養も必要です。講義で指示した文献を確実に消化してください。
 各種フィードバックを含め、授業外でも積極的な学習が求められます。これを怠るとレポートが書けず、挫折を余儀なくされることになります。

予習:講義内で指示された課題をこなし、講義前日12:00までに提出する(100分)

復習:講義内での指摘を中心に作品を書き直し、また講義外でテストプレイの機会を確保し、ディヴェロップメント(改良)を行う(100分)

 

【履修上の注意点】
 講義の際には、相当分量の論文や小説、各種ルールを読み進めていくことになります。関連して文献も紹介しますが、少々難解かもしれない理論も含まれます。自前でのゲーム会の運営など、授業外でも相当な努力が必要になります。講義へのフィードバックを毎回記入してもらい、それを講師が講義内容へ反映させていきます。その他、双方向的な講義になりますので、積極的な協力・参加が求められます。

 

【成績評価の基準および方法】
 評価のポイントは、以下の4点です。

1)ゲームデザインという作業の特性が理解できているか(約20%)
2)作品の内実や、周辺に存在する文脈が理解できているか(約20%)
3)課題へ積極的に取り組み、読解・創作・論文執筆ができているか(約40%)
4)批評的であることの意義が理解できているか(約20%)

 毎回、フィードバックシートへの記入を行い、それを小テストおよび出席の代わりとします。それとは別に、中間・期末レポートを課します。なお、レポート執筆の際にWikipediaを参考資料に用いることを禁止します。代返等・コピペ等の不正行為に関しては厳正に対処します。各種文章がしっかり書けていることは、評価の前提条件とします。
 上記の学習目標が達せられているかどうかを、フィードバックを含む出席点(40点)、レポート(60点)、のウエイトで評価して総合的に判定します。具体例として、その合計が90点以上をS評価、80点以上90点未満をS評価、70点以上80点未満をB評価、60点以上70点未満をC評価とします。
 ただし、出席回数が7割未満の場合、この限りではありません。

 なお、2020年度前期(秋学期)のレポート課題は、オリジナルのゲームポエム等をデザインするという試みでした。しかし、今期は論文形式へ変更する可能性もあります。指示を聞き漏らさないようにしてください。

 

【教科書・参考書】
区分 書名 著者名 発行元 定価
教科書 「ウォーロック・マガジン」Vol.8   グループSNE/書苑新社 1800
参考書 エクリプス・フェイズ ロブ・ボイル/岡和田晃他訳 新紀元社 7500

参考書 ウォーハンマーRPG アンディ・ロー他/岡和田晃他訳 ホビージャパン 6800

※複数訳で教員が関わっているものは、便宜的に筆頭としています。


【その他の教材】
ウォーロック・マガジン」Vol.5(グループSNE/書苑新社)掲載、岡和田晃/豊田奏太「ドルイドの末裔」(2018年度の最優秀レポートを、受講生の同意のもとに講師が商業水準まで徹底改稿した作品です)。本講義の一つの成果として参考になさってください。
 その他、講義内で随時指示します。


【教員との連絡方法】

 akiraokawada@gmail.comで事前にアポイントを取ってください。

 初回授業終了時に、自己紹介のメールを送ってください。