東海大学文芸創作学科2021年度春学期シラバス(幻想文学・SF論)

東海大学文芸創作学科2021年度春学期シラバス幻想文学・SF論)

 今年度も東海大学文芸創作学科での非常勤講師として勤務します。以下、利便性を鑑み、シラバスをこちらにも公開しておきます。

 

021年度 秋学期  
授業科目名 「サブカルチャーと文学」
曜日 時限 水-4
テーマ 「反サブカルチャー」としての幻想・SF・現代詩論
キーワード 幻想文学・SF 現代詩 批評


【授業要旨または授業概要】

 シラバス編成の都合上、本講義タイトルには「サブカルチャー」と掲げられていますが、講師はこの水曜4限の講義を「幻想文学・SF論」と呼ぶことにしています。皆さんも、講義内や講師への連絡ではそう呼んでください。
 本講義では広義の幻想文学・SFを扱います。幻想文学・SFは――いまや素朴なリアリズムでは捉えきれない――複雑な現実を的確に表現することができる方法ですが、しばしば文学史においては周縁的な「サブカルチャー」だとみなされてきました。また、大学で講じられるカノン(正典)としての文学は、硬直的なものになることが珍しくありません。
 しかし、本講義では、幻想文学・SFを周縁的でエキセントリック(ex-centric)なものではなく、そこから再帰的に文学の中心そのもの(centric)であるとみなし、その前提で議論を組み立てていきます。ゆえに本講義は、「幻想文学を媒介とした“反”サブカルチャー論」と言うのが正確でしょう。
 本講義では、古典から最新の幻想文学・SFを、徹底的に読み込むという方法をとります。一つの軸は、西洋(とりわけ英語圏)との往還です。翻訳小説はもとより、最初から日本語で書かれた小説であっても、常に「日本」の外部との往還を意識します。
 また、幻想文学・SFの最良の精華として、現代詩(とりわけ形而上詩)の方法に着目します。レポートの提出は通常の論文形式だけではなく、現代詩の実作の提出も認めます(ただし、客観的に見て、実作の方が作業としての負担は大きいかもしれません)。
 課題のテクストを、時には声を出して精読していきながら、その表現されている細部の機微を身体レベルで自家薬籠中の物としていきます。というのも、いま、創作や批評を試みるにあたって、もっともネックになるのが、絶対的な読書量と咀嚼の不足であり、先人の成果を適切に認識し、身体化できずにいることです。
 幻想文学・SFの講座や研究は英語圏では普通に存在しますが、日本では限られた大学でしか講じられていません。それゆえ、これらの方法を身に着けていれば、並み居る(広義の)作家志望者たちとは異なる“ものの見方”を獲得することができるでしょう。
規範となるのは、「日本」的なムラ意識とは異なる価値観に触れることです。端的に言えば、最高に楽しくやり甲斐はあるが、ラクに単位を取得したい人には向いていません。
 

 同名の講座が水曜3限・水曜4限で展開されます。意欲のある受講者は、両方の受講も歓迎します(ただし、単位は片方しか出ません。自由聴講扱いとなります)。既習者の受講も歓迎します(こちらも自由聴講扱いとなります)。

<実務経験のある教員による授業>

【学修の到達目標】
・日常的に接する文化環境に対しての批判的な視座を持ち、そのルーツを探り新たな表現を産むために必要な(最低限の)知識と好奇心を涵養します。
・悪しき意味で「世間」の流行り廃りに右顧左眄しない、文学を精読する知的な「粘り腰」を身に着けます。そこから、理論を噛ませて視座を広げるコツと学びます。
・既存の文化史・文学史の常識を、徹底的に掘り下げながら盲信しない批評性を獲得し、それをオリジナリティへ昇華させることを目指します。
現代文学とSF・ミステリ・幻想文学の各「ジャンル」で蓄積されてきた批評理論の基礎を習得します。またカルチュラルスタディーズ、ジェンダーポストコロニアル理論といった、文化批評の基礎を習得します。
・批評の執筆や現代詩の創作の基礎をも学ぶことで、学術的な視座の批評や創作の応用を目指します。

 

【授業計画】
◆スケジュール
<注意:水曜4限では、幻想文学・SFの講読と批評、現代詩の講読と実作を中心に学習します。水曜3限と4限では、授業内容が異なります>

 映像資料の分析も交えますが、基本的には小説・現代詩・批評を精読していきます。
課題のテクストを、時には声を出して精読していきながら、その表現されている細部の機微を身体レベルで自家薬籠中の物としていきます。というのも、いま、創作や批評を試みるにあたって、もっともネックになるのが、絶対的な読書量と咀嚼の不足であり、先人の成果を適切に認識し、身体化できずにいることです。
 本気で将来、何らかの形で「仕事」として文章を書いていきたい人は、大いに歓迎します。前期履修者の継続出席、他学部・他学科からの聴講も歓迎しますが、途中で離脱するケースが多いので、いちどやると決めたら、最後まで受講することを推奨します。さもなければ、身につきません。

【原則として対面講義ですが、コロナ・ウイルス禍の影響で、途中から遠隔講義へ移行する可能性があります。いずれにおいても、Zoom等の活用も視野に入れますが、遠隔講義のスタイルは、受講生の人数によって流動的に変化します。例年以上に、授業外での課題製作とメール等での提出を重視することになります】

<以下の計画は、受講生の関心や状況に応じ、随時変更を加えていきます。教室での指示を聞き逃さないようにして下さい>

1:ガイダンス、日本のSFを読む
 講義の概要を解説し、受講生の自己紹介を行なってもらった後、山野浩一「死滅世代」を読み、周辺の歴史的・思想的な文脈を確認します。

2:日本の幻想小説を読む(1)
 現代の幻想小説の佳作である谷崎由依舞い落ちる村』を読み、先行する作品である三枝和子『月の飛ぶ村』と比較・分析します。

3:日本の幻想小説を読む(2)
 引き続き、『舞い落ちる村』を読み、先行する作品である三枝和子『月の飛ぶ村』と比較・分析します。

4:日本の幻想小説を読む(3)
 引き続き、『舞い落ちる村』を読み、先行する作品である三枝和子『月の飛ぶ村』と比較・分析します。

5:形而上詩を読む(1)
 形而上詩誌「白亜紀」の1950年代~60年代の初期の号を輪読していきます。また、そこから生まれた詩集である加藤須賀『クラシカルな話』を読み、技法を確認します。詩人の朗読も実際に聞いてみます。

6:形而上詩を読む(2)
 形而上詩誌「白亜紀」の1960年代~70年代前半の号を輪読していきます。また、そこから生まれた詩集である野上光子『泉への巡礼』を読み、技法を確認します。詩人の朗読も実際に聞いてみます。

7:形而上詩を読む(3)
 形而上詩誌「白亜紀」の1960年代~70年代前半の号を輪読していきます。また、そこから生まれた詩集である宇野雅詮『少年の森』を読み、技法を確認します。詩評も実際に読み、その妥当性を検証していきます。

8:形而上詩を読む(4)
 形而上詩集、武子和幸『ひとつ火燭して』、星野徹『PERSONNAE』を読み、関連する理論書を参考に、批評的な背景を探っていきます。

9:海外の幻想小説を読む~シェアード・ワールドの可能性(1)
 ロバート・L・アスプリン「盗賊都市へのいざない」(「ナイトランド・クォータリー」Vol.24)を読み、シェアード・ワールドとは何かを考えていきます。

10:海外のSF小説を読む~シェアード・ワールドの可能性(2)
 ロブ・ボイル&デイヴィッドソン・コール「融解」(「ナイトランド・クォータリー」Vol.24)を読み、シェアード・ワールドとは何かを考えていきます。

11:海外のホラー小説を読む~モダン・ホラーの歴史と現在
 マンリー・ウェイド・ウェルマン「〈ショノキン〉ども」、ウィリアム・ミークル「ロングドックの空」(ともに「ナイトランド・クォータリー」Vol.24)を読み、英語圏の本格ホラーが何を描こうとしているのかを考察します。

12:スペキュレイティヴ・フィクションという可能性
 アルヴィン・グリーンバーグホルヘ・ルイス・ボルヘスによる「フランツ・カフカ」」(「ナイトランド・クォータリー」Vol.24)を精読し、作品の射程をどう引き受けるべきかを議論します。

13:現代詩の実作ないし幻想文学批評執筆の進捗確認・添削(1)
 レポート提出に向けた、現代詩の実作および幻想文学批評執筆の進捗を確認し、具体的に添削していきます。

14:現代詩の実作および幻想文学批評執筆の進捗確認・添削(2)
 レポート提出に向けた、現代詩の実作および幻想文学批評執筆の進捗を確認し、具体的に添削していきます。

 

◆予習・復習
 毎回、前回の講義で課題に指定されてきたテクストを読んできて下さい。
 毎回のフィードバックが出席のかわりとなります。
また途中で行う中間レポートのために、ハードな予習復習が必要となります。
 レポート形式で提出する場合、書評SNSに登録して批評を書くのですが(匿名登録可能)、講義を離れても一般読者の評価に堪えるだけの作品を書けるようになるため、各種コンテストへの積極的な応募も推奨します。
 現代詩を執筆する場合、例えばヒットチャートを賑わせているJ-POPの歌詞の引き写しのようなものではなく、独自の表現まで昇華しえているのかを確認します。

予習:講義で指示された課題について構想を練り、具体的に批評文ないし実作を執筆し、講義前日12:00までに提出する(100分)

復習:講義での講評に従い、批評文ないし実作を改稿し、さらに完成度を高めていく(100分)


【履修上の注意点】
 講義の際には、相当分量の論文や小説・現代詩を読み進めていくことになります。関連して文献も紹介しますが、少々難解かもしれない理論も含まれます。講義へのフィードバックを毎回記入してもらい、それを講師が講義内容へ反映させていきます。その他、双方向的な講義になりますので、積極的な協力・参加が求められます。期末レポートのほかに、中間レポートがあります。

 

【成績評価の基準および方法】
 評価のポイントは、以下の4点です。

1)取り扱った作家・作品の内在的特性が理解できているか(約20%)
2)作品の周辺に存在する文脈が理解できているか(約20%)
3)テクストへ積極的に取り組み、読解・創作ができているか(約40%)
4)批評的であることの意義が理解できているか(約20%)

 毎回、フィードバックシートへの記入を行ってもらい、それを出欠確認と小テストの代わりとします。それとは別に、中間レポート、期末レポートが課されます。
なお、レポート執筆の際にWikipediaを参考資料に用いることを禁止します。共作を行う場合は、事前に申請して講師の許可を得てください。代返等・コピペ等の不正行為に関しては厳正に対処します。各種文章がしっかり書けていることは、評価の前提条件とします。
 上記の学習目標が達せられているかどうかを、フィードバックを含む出席点(40点)、レポート(60点)、のウエイトで評価して総合的に判定します。具体例として、その合計が90点以上をS評価、80点以上90点未満をS評価、70点以上80点未満をB評価、60点以上70点未満をC評価とします。
 ただし、出席回数が7割未満の場合、この限りではありません。

 なお、2020年度秋期(春学期)のレポートは、学生に最低10作品を収めた小詩集を実作する、といった内容でした。提出された課題のうち優秀な作品については、現役のプロの詩人・批評家・小説家等に見てもらう場合があります。あらかじめご了承ください。

 

【教科書・参考書】
区分 書名 著者名 発行元 定価
教科書 「ナイトランド・クォータリーVol.24 ノマド×トライブ~多世界における異質の再定義」   アトリエサード/書苑新社 1700

ナイトランド・クォータリーvol.24 ノマド×トライブ〜多世界における異質の再定義
 

 

 

 

【その他の教材】
講義内で随時指示していくので、聞き漏らさないようにしてください。

 

【教員との連絡方法】

 akiraokawada@gmail.comで事前にアポイントを取ってください。

 初回授業終了時に、自己紹介のメールを送ってください。