怒りの葡萄


 知人が、『ウォーハンマーRPG』のシナリオ集『略奪品の貯蔵庫』に収録されている、「怒りの葡萄」をプレイしたと言っていた。すっごく嬉しい。『略奪品の貯蔵庫』には、それまでのRPG界の常識を覆すような奇想天外なシナリオが溢れんばかりに入っていて、もう大好きで仕方がないんですが、なぜか、冒頭に入っている「怒りの葡萄」は、スタインベックの小説がそのままタイトル名になっている。中味は全然関係ないんですけどね。


 なぜ「怒りの葡萄」なのか?
 つまりは本歌取り、というわけです。といっても、ジェイムズ・ジョイスばりに真面目くさっているわけではないという、この手のパクリというほどでもない「引用」。つまりは、既存のオーソリティをスタイリッシュに(?)、小馬鹿にするようなセンスは、『ウォーハンマーRPG』では比較的よく見かける気がします。


 例えば、私が最近訳したシナリオ『ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ』。これ、タイトルは、ビートルズの「サージェント・ペパーズ〜」ですが、中味は全然、関係ない。曲から、雰囲気は似ている気がしないでもないのだけれども、なぜか、なかに出てくる「アルフォンソ・エルキュール・ド・ガスコーニュ」はビートルズのメンバーではぜんぜんなくて、まんまムッシュー・ポアロなキャラクター造形になっている。ただ、「ポアロのとぼけた感じが、たぶん、リンゴ・スターの情けないボーカルによく見合うのでしょうね」と、なんとなく「空気」だけで意図がわかってしまう。いわば、それくらいのシンクロ率なのだろう。


 同様に、「怒りの葡萄」について考えてみる。何にも裏を取ってないので、ぜんぶ想像なのだけれども、おそらく『ウォーハンマーRPG』のデザイナーたちは、学生の時分に、教科書でスタインベックの勉強をしたり、レポートの課題として無理やりに『怒りの葡萄』を読ませられたりしたのではなかろうか。


 私も高校のとき、スタインベックの『エデンの東』を読んだものだが、どうにもクサくてたまらなかった(好きなんだけどね)。たぶん、イギリスの高校生もおんなじだろう。
 そこを開き直って、「せっかくだからシナリオに使ってやろうぜ。『怒りの葡萄』というくらいだから、葡萄畑で怒った頭蓋骨が出てくるのってどうよ?」と、アナーキーたっぷりな解釈をしてのけた。


 そう、推理してみるとする。
 単なるパロディではなくて、突き抜けたお馬鹿さと反抗的精神がウリ、というわけね。


 映画の『レポマン』
http://yojikinoshita.blog7.fc2.com/blog-entry-48.html
 を見直したり、70年代のパンクを聞き狂っていると、こういうセンスがスムーズに理解できて(いつるもりになって)しまうのだから、不思議といえば、不思議である。小粋でありつつ、ピリリと辛い。そんな感じ?


 単なるお約束にだけ集約されない。むしろお約束から逸脱する楽しさ。
 『ウォーハンマーRPG』の魅力は、こんなところにもあるかもしれない。


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略奪品の貯蔵庫 (ウォーハンマーRPG 冒険シナリオ)

略奪品の貯蔵庫 (ウォーハンマーRPG 冒険シナリオ)