『その男ゾルバ』がいい感じ!


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復刊ドットコム――カザンザキスその男ゾルバ
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 『その男ゾルバ』とは、20世紀前半を生きたギリシアの作家カザンザキスの小説です。
 もともとギリシアは、『オデュッセイア』の国として、西洋文化の根源を為す国であったのですが、近代においてはオスマン・トルコの影響下で、小国の悲哀を舐めさせられてきました。


 ただ、それゆえに近代化が遅れ、土俗的なもののリアルさが、いまでも根強く残っている国でもあります。
 現代の小説は往々にして、なにか寄る辺となるものを失った悲哀が、文章全体を満たしているものが多いのですが、カザンザキスのこの小説は正反対。みずみずしく、美しく、ある種の西洋的イメージの原風景となる、それでいて泥臭さも相持つイメージに溢れています。このようなイメージは、現代の小説ではカザンザキス以外に見られない特異なものだと思います。


 なお、ゾルバとは、小説に登場する素朴な好人物で、シラーが賛美したような「素朴」なギリシア性を全身で引き受けているような人物です。
 立ち居地には主人公の片割れ(対照的な人物)。無学で、女ったらしでどうしようもないやつですが、屈折した知識人であるところの主人公とは対比的に、全身で自分の生を生きている人であったりします。


 セルバンテスの『ドン・キホーテ』では、知識人であるドン・キホーテが往々にして従者のサンチョをたしなめました。 『その男ゾルバ』はその反対。知識人である語り手が、無学なゾルバにたしなめられているのです。
 そのたしなめ方は、ある意味、三島由紀夫が直面したような仮構された近代の欺瞞へきちんとアンテナが向けられているがゆえに、単なる人生論ではなくより深い部分で読み手に突き刺さってきます。
 

 もともと僕が、『その男ゾルバ』を読もうと思ったのは、テオ・アンゲロプロスの映画にはまったのがきっかけでした。その後、アンゲロプロスから発展しギリシア文学も読んでみようと、現代詩文庫のセフェリスや、『現代ギリシア短編小説選集』などへ手を伸ばしたのでした。その流れで知ったのが、カザンザキスです。

現代ギリシア短編小説選集 (1980年)

現代ギリシア短編小説選集 (1980年)

 しかし当時すでに現代ギリシア文学のほとんどは絶版で、見つけるのにかなり骨が折れました。
 セフェリスは高田馬場の戸山口にある謎の書店で埃をかぶっていたのを見つけ、確保できたのでしたが、そのうち、カザンザキスに至っては、『その男ゾルバ』はすでに絶版で20000円程度の値段がついていたので買えなかったので、バスに乗って遠くの図書館にまで行って読んだものでした。当時僕は、最も生活的に辛い時期であったのですが、そこを生き抜く力になりました。
 見てくださいな。いまでもものすごく高いか、「お取り扱いできません」状態でしょう? ありえないですよ。
その男ゾルバ (東欧の文学)

その男ゾルバ (東欧の文学)

その男ゾルバ (1971年)

その男ゾルバ (1971年)

 その後も『その男ゾルバ』に関する尊敬の念は衰えず、最近読み直してかなり感動した、というか精神の「湿布」(室井光広)になりました。『その男ゾルバ』を最初に読んだときあまりに感動したため、いつかカザンザキスを全作読もうと思って果たせておりません。
 ですが『その男ゾルバ』は、このまま時の流れとともに消えて言ってしかるべき作品だとは思いません。むしろこのようなご時勢だからこそ、読まれるべき作品だと思います。
 ぜひ、復刊投票にご協力下さい!


追記:id:wtnbtさんに教えていただきましたが、いま、まさにギリシアでは暴動が起こっているようです。カザンザキスが抱えていた問題系がまるで古びていないことを、皮肉にも証し出してしまいました。しかも、その問題は日本のそれとも無関係とは思えません。

ギリシャアテネで若者暴動


 【ローマ藤原章生ギリシャの首都アテネで6日夜、警察官の発砲により少年が死亡し、これに抗議する若者らのデモがアテネから各都市に拡大した。7日にはアテネで高級店の略奪や放火など暴動に発展し、警察との激しい衝突で数十人のけが人が出ている。


 ロイター通信などによると、アテネで6日夜、巡回中の特別警察官2人が約30人の若者に囲まれ発砲し、15歳の少年が胸を撃たれて死亡した。抗議デモは北部テッサロニキ、南部パトラスクレタ島などに広がった。


 アテネ中心街では7日、火炎瓶を使う若者らに警官隊が催涙弾で応じ、約40人が負傷した。デパートやブティックが略奪に遭い、銀行への投石などの破壊行為を繰り返され、13人が逮捕された。


 格差問題や失業などで支持率の低い中道右派、カラマンリス首相は、少年射殺事件への公正な対処を誓い、鎮圧を急いでいる。これを受け、検察庁が8日、射殺にかかわった警官2人を殺人罪などで起訴した。


http://mainichi.jp/select/world/news/20081208k0000e030030000c.html