SF Prologue Waveに伏見健二新作「メタフィシカの融和」が掲載!

 ゲームデザイナー・小説家の伏見健二さんの新作『エクリプス・フェイズ』小説「メタフィシカの融和」が日本SF作家クラブ公認ネットマガジンSF Prologue Waveに掲載されました。エッジの利いた力作です!


・メタフィシカの融和
http://www.prologuewave.com/archives/3477

 伏見健二が、『エクリプス・フェイズ』シェアードワールド小説企画に帰ってきた。今回お披露目するのは、新作「メタフィシカの融和」である。前作「プロティノス=ラヴ」は、伏見健二の10年ぶりの新作小説として、少なからぬ反響を呼んだ。かてて加えて、ふだんゲームのシェアードワールド小説を読まない層や、あるいは現役の編集者からも、熱い賛辞が送られた。


 伏見健二の本格SF作品、「プロティノス=ラヴ」や、『レインボゥ・レイヤー 虹色の遷光』(ハルキ文庫)、そして本作「メタフィシカの融和」に共通してみられるのは、宇宙冒険SFの緊張感と、古代から近代に至る哲学が保持してきた無限なるものへの憧憬や超越性への志向とが、違和感なく融合していることだ。
 サイバーパンクが打ち立てた、人間を情報として捉える世界観。それを幾重にも推し進めたポストヒューマンSFは、ともすれば極度に無機質で、物質主義的な因果律に支配されているとみなされがちである。だが、そもそもポストヒューマンとは、ヴァーチャルなものにすっぽりと覆われた世界において、逆説的に人間性とは何かを問いかけるものだ。ルネッサンスに確立されたヒューマニズムから、幾重にも切断を経ているからこそ、そこから探究される精神性もあるだろう。「メタフィシカの融和」は、小品ではあるが、伊藤計劃『ハーモニー』が打ち立てた現代SFの新しい相(かたち)をふまえ、それを咀嚼し、スタニスワフ・レムフィリップ・K・ディックを“にせものたちに取り巻かれた幻視者”と表現したような、独特の、しかし流麗なヴィジョンを見せてくれる。とりわけ、これまでの『エクリプス・フェイズ』小説であまり注目されてこなかった、AIとバイオテクノロジーへの切り込みが素晴らしい。シリアスでダークな色調を保持しながら、単なるどんでん返しに終わらない、余韻ある短篇の妙味を堪能されたい。


 本作「メタフィシカの融和」は、木星共和国の衛星、カリストの近くに位置する、工場プラント宇宙船を舞台にした作品だ。『エクリプス・フェイズ』宇宙のなかでも異様な木星共和国の設定は、SF Prologue Wave掲載の「蠅の娘」、あるいは「Role&Roll」Vol.98掲載の「カリスト・クライシス」などで、紹介されてきた。木星共和国とは、もとは大破壊(ザ・フォール)から逃れてきた軍閥によって建国され、極度に原理主義化したローマン・カトリックと「バイオ保守主義」を奉じている。つまり、『エクリプス・フェイズ』世界の前提となっている、インプラント身体改造を前提としたトランスヒューマンの存在や、魂(エゴ)のバックアップを完全に否定しているのだ。木星共和国は、強力な艦隊を擁しているが、その艦隊も、バイオ保守主義をベースに活動している。


 なお、本作に登場するエイリアンAIの設定には、著者が独自に想像を膨らませた部分がある。


 伏見健二は日本を代表するゲームデザイナーの一人。代表作『ギア・アンティーク』は、国産スチームパンクの傑作として名高い。近年も旺盛な創作活動を継続しており、大軍で迫る豊臣秀吉の軍勢にトリッキーな防衛戦を繰り広げる斬新なウォーゲーム「八王子城攻防戦」(「ウォーゲーム日本史」15号)や、グリム童話をベースに児童文学の世界にも読者を広げた『ラビットホール・ドロップスG』など、作家性豊かなゲーム作品を多数、世に送り出している。小説家としては、『ウィザードリィ? ベイン・オブ・ザ・コズミック・フォージ』のノベライズ『サイレンの哀歌が聞こえる』(JICC出版局)などコンピュータ・ゲームを題材とした小説や、クトゥルー神話を題材にした『セレファイス』『ロード・トゥ・セレファイス』(ともにメディアワークス)等、著書は30冊近くにのぼる。また、朝松健が編集したクトゥルー神話アンソロジー『秘神界 現代編』(創元推理文庫)に「ルシャナビ通り」が収録された。(岡和田晃