ガッサーン・カナファーニー


 他所を知る、というその一点において、SFを読むのも他の国の小説を読むのも、僕にとっては同じことなのだけれども、たまたま図書館のリサイクルコーナーで手に入れた、河出書房新社が80年代前半に出していた『現代アラブ小説全集』(編集委員にはなんと、野間宏がいる)の端本が積読に入っていたので、崩す。これが驚くほど面白い。
 僕が読んだのは、ハキーム・バラカートの『海へ帰る鳥』だ。序盤から既に、溢れんばかりに詰め込まれた(シオニズムに関連する)怨念のすさまじさにちょっと圧倒される。
 実際、彼女が風邪を引いた際、病院に連れて行って、その待合室で読んでいたものだから、印象のみが一人歩きしている感は拭えない。 が、(うまく言い募ってはいるものの)俺が生きている世界というのは実にヌルいのだな、と考えざるを得なかったものだ。
 生きている現場の空気感が違う。彼らとガチで闘って、勝てる気がしませんよ。


 で、バラカートもすごかったのだけれども、もっとすごい作家がいる(らしい)ということが判明した。エドワード・サイードいわく、「アメリカの知識人はみな、彼を読んでいる(というより、彼しか知らない)」とのこと。
 その名は、ガッサーン・カナファーニーパレスチナのジャーナリストという肩書きではあるが、実際のところ、正真正銘のテロリストである。暗殺目的で爆殺されたこともわかっている。


 テロリストの書いた小説というものは、たいていさほど面白いものではない。「想い」が純粋すぎて、複雑な構成を要求される小説というジャンルとかみ合わないことが多いのだ。
 実際のところ、ロシアのニコライ2世の暗殺行(未遂)に加担したとされるボリス・ザヴィンコフ(筆名ロープシン)の小説を5年ほど前に読んだことがあるが、そのときは素朴すぎるように思えて、あまり楽しめなかった。
 なんだかねぇ。鹿児島の知覧にある特攻隊記念館所蔵の特攻隊員の手紙。あれを見ているような気分になるんだよねぇ。 でも、カナファーニーに関しては、ネットの紹介文を見るにつけ、そんなことなさそうだ。

 ここの紹介文とか、いいねぇ。
 [http://matie.net/index.php?text=11051


 Wikipediaもなかなかよい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%83%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%BC


 最近、短編が雑誌にぽつぽつと訳出されているようだが、唯一のまとまった著作である『現代アラブ小説集7 太陽の男たち/ハイファに戻って』(河出書房新社)は絶版で久しく、かつ古書価もすさまじく高騰している模様。なんだよAmazonマーケットプレイスで25000円って。
 とりあえず、図書館にはありました。
 案の定、大江健三郎が解説をつけている。

太陽の男たち・ハイファに戻って (現代アラブ小説全集)

太陽の男たち・ハイファに戻って (現代アラブ小説全集)