川村二郎逝去


 享年80歳。私にとっては、ヘルマン・ブロッホの『ウェルギリウスの死』の翻訳者としての仕事がいちばん大きいですね。


 『ウェルギリウスの死』はものすごい小説だ。
 しばしば映像関連でのみ取りざたされるドイツ表現主義が、ドイツ・ロマン派の正嫡の子であることを証立てるとともに、小説に籠められた思想がどれだけ深いものたりえるか、ということを見事に示した証左だと思う。
 僕は3回くらい読んでいるが、これを通読して世界観が少し変わった。
 物語性の原型としての神話を、物語ではなく記述そのものとして描くとどうなるのか、関心がある向きには激しくお勧め。じっくりと読むのは時間がかかるが、ぱらぱらと見るだけでもそれなりに価値はある。


 そういえば、佐藤亜紀先生は『ウェルギリウスの死』を読んだ際、この作品にユーモアを見出したと、どこかで言っていたように記憶している。驚くべき読解力の高さである。確か、後半に出てくる、アウグストゥスの所作の部分だったか。聞いたとき、すっかり見落としていたな、と驚いたものだった。


 ヘルマン・ブロッホ入門に最適な短編『ウェルギリウスの帰郷』が、翻訳者の許可を得てウェブに掲載されている。こちらはもともとラジオドラマ(!)だったというから驚きだ。
 現代人が「神話」を再解釈する際の糸口のひとつとなると思う。


http://www.geocities.jp/oldpapyrus/wayakuhyosi.htm


 そのうち、トーマス・ベルンハルトが褒めている『夢遊の人々』も読まなければいけないな。


夢遊の人々 上 (ちくま文庫)

夢遊の人々 上 (ちくま文庫)

夢遊の人々〈下〉 (ちくま文庫)

夢遊の人々〈下〉 (ちくま文庫)