さて、『Role&Roll』Vol.42に「オリジナルシナリオを創ろう!」という第二特集を書かせていただいたわけなのですが、せっかくなので私も、個別システム用のシナリオ創作ガイドを、(ごく簡単なものですが)書いてみましょう。
システムは、お気に入りの(古いシステムですが、バリバリ現役でキャンペーンに参加している)『混沌の渦』を用いることとします。ただし、『混沌の渦』をよく知らない人も多いことでしょうから、システムの紹介を兼ねた文になっているので、ご容赦下さい。
【『混沌の渦』 のシステム紹介と、簡単なシナリオメイキングガイド】
● 『混沌の渦』を知っているか!?
『混沌の渦』とは、社会思想社現代教養文庫に収録されている、中世後期〜近世にかけてのヨーロッパ(主に16世紀イギリス。テューダー朝イングランド)を舞台にしたRPGの名前です。
奥付によると、初版は、1988年の6月30日となっています。「この一冊でRPGが始められる!」をキャッチコピーに、およそ4刷を重ねるまでに売れたようです。
作者はアレクサンダー・スコット。原著はPenguin Booksより出版されました(洋書好きなら知っている、あのペンギンですよ!)
ちょっとRPG歴が長い人ならば、誰もがその名を知っているという有名なシステムです。
かつては、色々なひとと『混沌の渦』ネタで盛り上がったものでした。
本格的なヒストリカルRPGであるにもかかわらず、安価で手に入るメリットが、多くの人に受け入れられたのでしょう。
去る2002年の夏に、発売元の社会思想社が潰れてしまったので、残念ながら「絶版」となってしまったのですが、まだ古本屋やネットオークションなどでは、大量の在庫がだぶついています。
これを見逃す手はありません。持ってない人は、いますぐ入手しましょう。持ってる人は、押入から取り出し、シナリオを創りましょう。
- 作者: アレクサンダースコット,佐脇洋平,清松みゆき
- 出版社/メーカー: 社会思想社
- 発売日: 1988/06
- メディア: 文庫
- クリック: 5回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
いま劇場公開中の「エリザベス:ゴールデンエイジ」をはじめ、16世紀のヨーロッパの資料は、山ほどいたるところに転がっています。ちょっと変わった、ヒストリカルRPGをプレイしたいという方、お勧めです。
●『混沌の渦』の魅力とは?
まず、なんといっても渋くてカッコイイ! これにつきます。古典的な小説を読むように、異なる視点に、ユーザーがフレームを合わせ、その差異を楽しんで行くという感触。たまらなく魅力的です。
あと、歴史をそのまま題材に使える。これもメリットとして大きいです。
ともあれ、『混沌の渦』のルールブックを開いてみましょう。
……あれっ、普通にルールを説明しているはずなのに……。
「<防御力>は同じように武器に関係した能力を示します。しかし、それは相手を傷つけることにではなく、相手が使う武器をかわすことに関係しています。キャラクターが多くのインカ人と闘っている場面を想像してください。」
……インカ人ですよ、やっほう!
気を取り直して読み進めていくと、
「あなたは長いテーブルの上に寝かされています。あなたの手と足は鎖につながれ、鎖はゆっくりと引っ張られ、あなたの身体を裂こうとしています。あなたはぼんやりと拷問にあっているのだとわかります。火鉢の中で焼きごてのあげるしゅうしゅういう音が、耳のすぐそばから聞こえてきます。尋問者がよりかかってきます。彼がおどしをこめてゆっくりとしゃべるたびにニンニク臭い息がふりかかってきます。『おまえは妖術師か、おまえは妖術師か、認めるなら今のうちだぞ……』
あなたはくじけてしまうでしょうか? それはあなたの<意志力>によります。」
何? この例は? 能力値を説明するはずだったのに、なんで? どうしてニンニク臭い息が?
気になってしまったあなた。
残念ですが、すでに『混沌の渦』の虜です。
●気を取り直して、真面目に解説
といっても、ほんとに真面目に書くと疲れてしまうので、箇条書きでお茶を濁しておきましょう。
▽1、簡単に、中世後期〜近世にかけてのヨーロッパを再現できる。
なんといいますか、ルールブックのそこかしこから、生活感が漂ってきて、「普通の」ファンタジーRPGとは一線を画した趣があります。キャラクターを作っただけで、なんか「それっぽい」ものになりますよ。
▽2、ロールプレイのための余地が残されている。
ルールが簡単なんです。そして、やってみればわかると思うんですが、結構柔軟に機能するんですよ、これ。でもって、舞台に史実を使うわけですから、ルール化されていない、キャラクターの内面もあれこれ考えていかなければ、面白くありません。
あまりルールにとらわれず、その分シナリオやロールプレイに懲りたい人にお勧めです。
また、望めば、追加で上級ルールを入れることもできます。荷重ルールと出血ルールはかなりへヴィです。
▽3、「呪文リストがない」魔法システム!
『混沌の渦』の一つの目玉です。
そう、ヒストリカルRPGなのに、魔法使いが存在するのです。
この職業は非常に面白いので、レフリー(『混沌の渦』におけるゲームマスター)をやられる方は、パーティに一人、魔法使いを入れるようプレイヤーに勧めるのが吉です。
魔法使いの何が面白いのかと言えば、それはなんといっても、「呪文リスト」がないことです。
魔法を使いたいと思ったときには、まず、自分が何をしたいのかを厳密に決めたうえで、レフリーに申告します。
それでもってその難しさをレフリーが階級づけするわけです。
基準としては、「偶然で起こりうる」可能性が高いほど、達成値が簡単になります。
つまり、「見張りが偶然眠っているようにする」、「蝋燭の火を吹き消す」ことは比較的簡単に成功しますが、「ファイヤーボールで敵を倒す」こと、「魔法の船を作り出す」ことは、とっても難しいのです。
●職業紹介
ここでは、プレイヤーが演じることになる職業を紹介します。
■貴族
社会的身分が高く、金持ちです。望むなら、家臣を持つことも可能です。
■専門職(書記官、医者、建築家、公証人)
文化的レベルの高い仕事に従事する人たちです。
■職人、職工(鎧職人、鍛冶屋、刀鍛冶、彫板師、石工、絵描き、仕立て屋、皮なめし職人、木彫師)
生活に即した「モノ」を作り出す人たちです。職人と職工の違いは、ギルドに属しているか否かによります。
■商人(肉屋、魚屋、果物屋、乾物屋、呉服商、ワイン商)
商売で一旗あげようと思っている人たちです。一つの商品にしぼるのも、手広く商いを行うのも自由です。
■自由労働者
現代で言うところのフリーターです。開始時の年齢が非常に若くなるところに特徴があります。
■傭兵
戦闘のプロフェッショナルです。が、社会的にはごろつきと同様に扱われます。
■盗賊(乞食、泥棒、暗殺者、ペテン師、夜盗)
盗みを生業とする者たちです。それぞれの盗賊はさらに細分化されると同時に、いくつもの専門的な技能を身に付けることができます。アブラハム人(笑うしかないね、これ)になるのも一興かと。
■聖職者
神に仕える者たちです。説教で聴衆に感銘を与えたり、悪霊を追い払ったりすることができます。功徳を積めば、奇蹟を起こすことすら可能になります。
■旅芸人(音楽家、吟遊詩人、役者)
芸術で身を立てている人々です。社会的には乞食のように思われています。
■魔法使い
黒魔術に手を染める人たちです。普段は、別な職業を持ち、素性を隠しています。
■薬草師
庶民のための医者です。さまざまな薬草を駆使することができます。
●『混沌の渦』シナリオ作成ガイド
『混沌の渦』は、シナリオを作るのが難しいと言われるシステムです。おそらくはプレイヤーキャラクターが「普通の人」なうえに、舞台が史実だから、敷居が高く思われるのでしょう。
しかし、実際のところ、懸念されているほど、シナリオ創造が難しいわけではありません。
その証として、簡単なシナリオ作成の手引きを作ってみました。
▽1、一人用シナリオから
『混沌の渦』のルールブックには、ご丁寧にもゲームブック形式の一人用シナリオが掲載されています。まずは、雰囲気をつかむために、このシナリオを(ちゃんとマッピングしながら)プレイしてみましょう。
そうすると、『混沌の渦』の何たるかがよーくわかるはずです。無限ループがあったり、どう考えても制作側のミスとしか思えないところも多いですが、それにもめげずに(汗)がんばりましょう。衝撃のラストが、あなたを迎えてくれます。きっと、あなたは悔しくて夜も眠れないことでしょう。
一人用シナリオを無事終えたら、館の地図が出来上がると思います。そうしたら、適当な理由をつけてPCをそこに放り込みましょう。ファンタジーRPGにおいてのダンジョン探索のノリで。
▽2、多人数用のシナリオから
続いて、巻末についている多人数シナリオをやってみましょう。セント・アルバンズという街から、ロンドンまで、ひたすら一本道を歩いていくというだけのシナリオですが、これがなかなか面白いんです。
道中色んなイベントが起こるのですが、それらがほとんど脈絡がないために、不思議なリアリティが感じられるシナリオになります。 まあ、大抵ハック&スラッシュになってしまいますが、それがいやな人は、軽く事前準備を行って、イベント間の因果関係などを造り上げていけばいいのではないか、と思います。
▽3、『ウォーハンマーRPG』のシナリオからコンバート
実は、同じ社会思想社現代教養文庫に収録されており、現在はホビージャパンから新版が出ている『ウォーハンマーRPG』というシリーズがあります。
このRPG、実はむちゃくちゃ『混沌の渦』と相性がいいんですねぇ。
シナリオ集に載っているシナリオを、モンスターを敵役の人間に置き換えれたりすれば、すぐさま、『混沌の渦』のセッションに使用できます。セッションの目的に合わせ、共有できるリソースを共有してしまうというのが賢いGMというものでしょう。
特に、単発セッションでは『ウォーハンマーRPG』風『混沌の渦』など、なかなか味があって面白いものです。余談ですが、『混沌の渦』は『ウォーハンマーRPG』の資料としても、秀逸であったりします。
- 作者: ベン・カウンター、ブレイム・デイビス、ブライアン・ビー・カービィ、ネイサン・グリービー、カール・サージェント,鶴田慶之
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
- 発売日: 2007/07/31
- メディア: 大型本
- 購入: 2人 クリック: 11回
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▽4、既存のフィクションを下敷きに
慣れたら、既存のフィクションを下敷きにしてシナリオを作ってみましょう、そう、プロットやキャラクターを顴骨奪胎して、シナリオに使ってしまうわけです。つまり、本歌取りです。
詳しくは、『Role&Roll』Vol.42(アークライト/新紀元社)にある、「オリジナルシナリオを創ろう!」を読んでみてほしいのですが(宣伝)、具体例として、以下にあげるプレイリポートを見ていただいても面白いと思います。
『トム・ソーヤーの冒険』で知られるマーク・トウェインの童話『王子と乞食』を下敷きとしている話です。傍らに、『王子と乞食』(岩波文庫)を置いて、見てみて下さい。
基本的に、原作をトレースし、そこからひとひねり加える形になっております。
プレイヤーにはエドワード6世(『王子と乞食』に登場するキャラクター)もいますが、こちらはハンドアウトとして、レフリー(ゲームマスター)から提示させてもらったものです。
- 作者: マーク・トウェーン,Mark Twain,村岡花子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1934/07/25
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 3回
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■『混沌の渦』プレイリポート:「灰の中から火は甦り、影から光がさし出づるだろう」
【主な登場人物】
《PC》
・エドワード6世/イギリス国王ヘンリ8世の息子。ぼんぼん。
・コーラス/病人を装って暮らしている乞食。黒魔術の心得がある。
・ベリー・モア/旅役者。誠実な性格。
・ブラッド/セント・アルバンスの街の聖職者。実は裏で黒魔術に手を染めているくせに、異端審問をやっているというどうしようもない男。
《NPC》
・ヘンリ8世/現国王。なかなかマッチョなオヤジだったが、今や死にかけ。
・メアリ/エドワードの姉。陰謀家。フェリペにお熱。
・フェリペ2世/「陽の没する事なき」スペイン王国の国王。策謀大好き。
・トム・キャンティ/エドワードのそっくりさん。
・マイルズ/エドワードの武術の師範。
・アベリャネーダ/スペインの密使。
・フランシスコ・ザビエル/イエズス会の有力者。
・マグナス・ブロート/スペインとの内通者。
【ストーリー】
骨肉相食む薔薇戦争の激しさも、今や過去の話となった1547年、テューダー朝イングランド。
類希なる精力をほこり、自らを国教会の首長に仕立て上げた時の国王ヘンリ8世も、寄る年波には勝てず病床に伏せっている。
国を富ませるために作り出された数々の過酷な法令は、無辜の民にいたずらに恐怖の念を起こさせる以上の効果は生まず、いわゆる「自由な」人間、とどのつまりは不況により土地を追われた小作人たちや組合の不自由な制限を嫌った職人たちは劇的に増大し、結果として、都市はますます肥大化し、犯罪者や金で雇われる兵隊が街道を闊歩するようになった。
高邁な理想を追い求めるはずの教会も、その多くは類型化、退廃化の一途を辿り、二、三枚のコインのために神の許しをばらまく。それでも救いは必要とされているのだ。
彼方の大陸は新大陸をめぐってのにわか景気で盛り上がってはいるものの、宗教改革に端を発した戦争がいつ果てることもなく続き、閉塞された社会から抜け出そうとする人々の思惑が複雑に絡み合って、混乱と同乱に一抹の彩を添えている。
未曾有の混乱の中、改革は渇望され、そして、改革はやってこなければならない。
そんななか、国王ヘンリ8世の一人息子、エドワード6世は、ロンドンのウェストミンスター宮にて、日々学業に勤しんでいた。
だが、将来を嘱望されていた王子も、やはり胸のうちは一人の少年にすぎなく、外の世界への憧れは日に日に増すばかり。
ある日、ふとしたきっかけで自分とそっくりな少年トムを見掛けたエドワードは、好奇心から服を入れ替え、外に出ようと決心する。
だが、同じ年頃の少年たちとの交流は新鮮だったものの、現実は厳しく、彼はトムの父親に引きずられ、ロンドンを逃げ出さなければならない羽目になった。
一日だけだと思っていた入れ替わり。それが、こんなことになるなんて。絶望が少年を支配する。その時、少年の頭に古来より伝わる成句がよぎる。
「いずれ無冠の者が、ふたたび王となろう」。
一方、時を同じくしてロンドンから20マイル離れた小都市、セント・アルバンスでは、一人の乞食が馬を駆り、一路ロンドンへと向かっていた。
彼の名はコーラス。町で出会った大教会の司祭の「秘密」を握ってしまい、処刑されそうになったところを、時計台に住む老人に救ってもらい、辛くも逃げおおせたのだ。
彼のポケットには銀の指輪が入っている。身を確保し、「指輪を届けよ」との老人の最後の願いを聞き届けるため、一日でも早くロンドンに到着しなければ。
だが、途中、コーニーグリーンという小さな村落に差し掛かったとき、おりからの大雨のために川が増水し、進路をはばんでいた。
仕方なく、近くの「おんどり亭」に泊まるコーラス。
街道を挟んでとなり合わせた「ベル亭」には、旅の役者ベリーが停泊していた。
数奇なことに、彼女もコーラスと同じく追われる身となっていた。
しかも同一の人物に。
セント・アルバンスの市で一人芝居を行い、糊口をしのいでいたベリーであったが、「ちょっとした出来心から」、町の司祭に「悪魔として」追われる羽目になってしまったのだ。
だが、運命の歯車は、彼女を容赦しなかった。
氷の心を持つ司祭、ブラッドは、容易にベル亭を発見し、口先三寸で彼女を奴隷商人に売りとばそうとする。
しかし、その隙をついて、コーラスは同じ宿屋に宿泊していた商人・アベリャネーダと逃げ出した。
あわてて後を追うブラッド。二人の間の壮絶な追跡劇。
その頃、エドワードは父王ヘンリ8世の訃報を耳にする。
もし、新王の認証式、戴冠式の日までにロンドンに戻れなければ、王位は自分のものではなくなり、入れ替わった少年のものとなってしまう。
道中で出会った、マイルズという忠臣(エドワードの武術教師の弟)とともに、トムの父ジョンの手を逃れ、一路ウェストミンスターへと向かうエドワード。
一方、ベリーは気がつくと、ガレー船の上にいた。寝ている間に、ブラッドに売り飛ばされてしまったのだ!
これから一生を船の上で過ごすのかと思いきや、彼女は船がロンドンに着くとともに解放される。
解放を促したのはイエズス会の一員であるフランシスコ・ザビエルだった。
ザビエルは驚くべき事実を話す。それによると、実はイギリス王室のメアリ王女とスペイン国王フェリペ2世は裏で手を結び、王位継承者たるエドワード王子を暗殺して、カトリックの王国をつくりあげようと計画しているという。
実は、先にも暗殺者が派遣されていたのだが、官憲に追われたのか行方が知れないため、スペイン大使マグナス・ブロートが手勢を率いて直接乗り込もうとしているのだ。
だが、ザビエルはこの計画がカトリックの普及のためというよりも、スペインがイギリスを傘下に置こうとしていることを知っているし、血で達成された布教は望まないために、こうして打ち明ける気になったという。
依頼を受けたベリーは、王子暗殺計画を知らせるために単身ウェストミンスターに向かうことになった。
その頃、コーラスとアベリャネーダはヘンリ8世の訃報を耳にした。
それを聞いたアベリャネーダは顔色を変え、コーラスにすべてを打ち明けた。
実は自分はスペインの密使であり、エドワード王子を暗殺する任務を帯びていた、と。
彼は自分と同じ魔法の力をもつコーラスに結託を要請する。
引き受けたコーラスは、新王が広場に現れる認証式、戴冠式の日を目標に定める。
コーラスに一歩遅れてロンドンに入ったブラッドは、知り合いのカンタべリの司教に、新王の認証式の手伝いを要求された。
かくして舞台は整った。
ウェストミンスター広場に到着したエドワードは、偽王が現れると、群集の中から姿を現し、自分こそが本当の国王であると宣言した。
どよめく民衆。
それを見て、コーラスたちも混乱する。
とりあえず二人の王子の両方に魔法をかけたり、ドクニンジンを塗った短剣を投げる。
しかし、参列していたブラッドの機転、ベリーの自己犠牲によってエドワードは辛くも命を救われた。
と、突然、広場に矢が降り注いだ。スペインの軍隊が侵入してきたのだ。場の混乱は極度に達した。
その時だった。空を不気味な雲が包んだ。
「混沌の渦」だ。
極度の混乱と魔法の乱発により、「混沌の渦」が暴走したのだ。
次々に吸い込まれていく群集。
混乱を静めるためには、(たとえ封建的なお飾りであっても)国民の心の寄るべとなるべき者が、人々の心を結束させるしかない。
エドワードは、「自分は民衆のもとで、苦痛や迫害を理解した。これからは慈悲の名のもとに政治を行う」と宣言した。
人々の心は秩序のもとに結束し、「混沌の渦」は消えていった。しかし人々は知らなかった。「混沌の渦」はいまや為政者となったエドワードの内にこそ潜んでいるのだということを……。
▽5、慣れたら、史料からシナリオを創る
元ネタをもとに何度かシナリオを作って基礎を固めたら、今度は、史料を読み解いて、オリジナルのシナリオを作ってみましょう。
今回は、16世紀イギリスで起こった内戦、薔薇戦争の史料をもとに作製したシナリオのレポートを載せておきます。
■『混沌の渦』プレイリポート:「美徳の不幸」
【主な登場人物】
《PC》
・ジャン/フランスの貴族と自称しているペテン師。記憶喪失。影では黒魔術に手を染めている。
・スコット/真面目で学究的な性格の彫板師。
・ジョン・フランクリン/薬草師。パーティにおける影のリーダー。
・テレンス/絵描きを装う暗殺者。
《NPC》
・マグナス・ブロート/セント・オールバンスの街の領主。非常に悪名高い。
・ジョアン/マグナスに仕える怪しい老婆。正体は?
・シンディ/セント・オールバンズの宿「チップス・イン」で働く娘。すれっからし。
・グリムバルド・ナップ/怪しい薬草師。
・「狂えるスコットランド人」ジョック・ハンフォーサム/熊のような怪力と赤子の頭脳を有する化け物。
・ヘンリ6世/現イングランド国王。愚鈍な男。
・マーガレット/フランス王の娘にしてヘンリーの妻。
・サマーセット伯/ランカスター家の主要貴族。マーガレットの愛人。
・ヨーク公/サマーセットと対立し、自らが手にするはずだった、「王位継承権」を主張している。
・ウォーリック伯/貴族。ヨーク公と手を結び、王国の覇権を狙っている。
・ジャンヌ・ダルク/英仏百年戦争で活躍した英雄。魔女との告発を受け、処刑されたはずだったが……。
【ストーリー】
西暦1545年、イングランドはセント・アルバンス。
英仏百年戦争の惨禍も未だ根強いこの街で、今、新たな悲劇が生まれようとしていた。
自分をフランスの貴族、アンジュー伯だと信じている記憶喪失のペテン師、ジャン。
ジャンの虚言を信じ慕い続ける、勤勉で若き彫版師、スコット。
一行の頭脳にして牽引力でもある精力的な薬草師、ジョン・フランクリン。
そして、絵描きを装いながらも裏では暗殺稼業に手を染める、テレンス。
彼らこそが、惨禍の渦中に巻き込まれる、哀れな犠牲者だ。
行く当てのない旅を続ける一行。
とりあえず、首都ロンドンに向かおうと、はるばるハンプシャーから北上してきたのはいいものの、いざ、セント・オールバンズの街にさしかかると、 そこではとんでもない大騒ぎが巻き起こっていたのだった。
なんと、30年に一度現れるという化物、「マン・イン・ザ・オウク」が、大暴れしているのだという。
野次馬根性でそちらに向かったはいいものの、怪物は既に抑えられ、後に残っているのは無惨に打ち負かされた衛兵の死体だけだった。
そのとき、ジャンの頭に天啓が沸き起こった。自分に備わったペテンの技術で、この地の領主を煙に巻き、旅費をせびりとってやろうというのである。
だが、その目論見は泡と費えた。
ようやく目通りが適ったこの地の領主、「マグナス・ブロート」は、非常に怪しく、かつ邪悪な臭いを撒き散らしていたからだ。
おまけに、彼の背後には「ジョアン」という名の怪しい老婆が控えているらしい。
とりあえず、マグナスが投げかけた食事の誘いを辞し、その場を後にすることにした。
一行が立ち去ろうとしたとき聞こえてきたものすごい悲鳴が、さらに拍車をかけたせいもあった。
しかし、ジャンは諦めない。
近くの食堂、「チップス・イン」の女給、シンディをたぶらかし、あれこれと重要な情報を得ようとする。結果、どうやらこの領主がひどく邪悪で、かつこの地に傭兵どもを召集しているのだということがわかった。
そして、同時に「マン・イン・ザ・オウク」の詳しい外見的な様子も明らかになったのだった。
けれども、彼らは功を急ぎすぎた。
ロンドンから「マグナス・ブロートに呼ばれて」やってきた薬剤師、グリムバルド・ナップから情報を得る際、不審に思われてしまったのだ。そのせいかどうかはわからないが、一行はその日泊まった宿屋で、謎の覆面男たちの襲撃に遭う羽目に陥った。
そして、相手の隙を狙って命からがら逃げ出した先には、かの「マン・イン・ザ・オウク」が立ちはだかっていたのだった。「マン・イン・ザ・オウク」の正体は、身の丈2メートル半を越える、「狂えるスコットランド人」ジョック・ハンフォーサムだった。
ジョックの隣の「調教師」の掛け声を受けて、この化け物は一行に挑みかかった。
その時だった。ジャンが小声で黒魔術の呪文を唱えたのである。
結果、ジョックはその攻撃の矛先を変えた。
そして、調教師と「狂えるスコットランド人」、そして追っ手たちの巻き起こした混乱の中から、一行は辛うじて脱出を遂げたのだった。
テレンスの勧めで、とりあえず彼らはセント・オールバンズの町はずれにある、「コーニー・グリーン」という地区を訪れ、そこにある「おんどり亭」という名の宿に泊まることにした。
その晩、一行は、夜盗の襲撃を受けた。だが、テレンスの機転で、難なく打ち倒しすことができた。そのうえ、毒の塗ってあった短剣を巻き上げることにすら、成功したのであった。
翌朝。朝食に出かけた一行の前に、「ウォーレン伯」と名乗る一行が現れた。彼は、ジャンと話がしたいと言い、自らの部屋へと連れていった。
そして、自分がジャンと同じ、黒魔術を信奉する者であることを告白した。そのうえで、伯爵は協力を要請してきたのである。
彼が言うには、ウォーレンという名は実は偽名であって、本当の名前はウォーリック伯というらしい。
元来、このイングランドは、国王ヘンリ6世が統治しているはずだった。
しかし、現実は違った。ヘンリ6世は実に愚鈍な王であり、そのため、王妃マーガレットと、愛人と目されるサマーセット公爵の傀儡となってしまっていたのである。
そして、それに反対する勢力の主要なメンバーが、ヨーク公リチャードと、ウォーリック伯その人だったのだ。
彼らの小競り合いは今まで水面下で行われてきた。だが、その規模は大きくなる一方で、ついにはセント・オールバンズの地を巡る一大戦争にまで発展しようとしていたのである。
戦争の鍵を握るのは、なんといっても魔術師たちだ。だからこそ、伯爵はジャンに協力を要請していたのである。
ウォーリックは、しばらく考えるがいい、と言い放ち、ジャンを退出させた。
その後現れたのが、伯爵に付き添っていた謎の美女、ジャンヌ・ダルクだった。そして、彼女はジャンに、さらなる衝撃の事実を語ったのだった。
「もう一人の自分が、イングランドにいる」と。
一方、テレンスは困惑していた。雇い主から、暗殺者としての自分に与えられた「指令」に関してである。
彼の雇い主は、サマーセット公爵だった。そして、暗殺の対象は、明らかにウォーリック伯爵を指している。
仲間をとるか、忠実に職務を遂行するか……。しばしの逡巡の後、彼の決意は固まった。
決行の時。
「二重スパイ」マグナス・ブロートの手下どもと、「ウォーレン伯爵」の護衛たちと間に沸き起こる剣劇の嵐。
そして、背後からは火に頭を包まれた、「マン・イン・ザ・オウク」が迫ってくる。
テレンスの、煌めく毒刃。
狂乱の渦中、果ててしまったウォーリック伯。
ジャンの扇動で走り続ける衛兵たち。
「罪」は誰にあるのか。
ジャンとテレンスの果てしない議論。
美女と老婆、二人の「ジャンヌ」。フランスの希望、イギリスの脅威。
明日を夢見る彫板師スコットと薬草師ジョン。
すべてを飲み込む、戦火の嵐。