『GAME JAPAN』連載『ウォーハンマーRPG』リプレイ「混沌狩り」第2話
6月30日発売予定の『GAME JAPAN』(ホビージャパン)の8月号に、『ウォーハンマーRPG』の連載リプレイシリーズ「混沌狩り」の第2話「尽きぬ悦楽」が掲載されております。
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舞台は荒野から“白狼の都”ミドンヘイムへと移り、7月31日発売予定の都市設定集&キャンペーンシナリオ集『ミドンヘイムの灰燼』に先駆けて、城塞都市ミドンヘイムの様子を読み物として体感することができるようになっています。
- 作者: グレアム・デイヴィス,岡和田晃
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
- 発売日: 2008/07/31
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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魔書『堕落の書:トゥーム・オヴ・コラプション』を全面的に取り入れたこの連載ですが、いよいよ第2話では、禍つ神々のなかでも異彩を放つあの快楽神スラーネッシュ信徒のご登場と相成ります。
スラーネッシュ信徒って何ぞや? というお方は、ぜひとも『堕落の書:トゥーム・オヴ・コラプション』の表紙を凝視してやって下さい。
スラーネッシュの道を究めると、もれなく彼女(彼?)のような素敵な力を授かることができるでしょう。
そして、今回のセッションのラストは、『ウォーハンマーRPG』とともに、私が絶大な影響を受けた傑作ストーリーテリングゲーム『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』(現行版では『ヴァンパイア:ザ・レクイエム』)を初めとした『ワールド・オブ・ダークネス』シリーズへのオマージュともなっています。
ヴァンパイア:ザ・マスカレード―日本語版 (TRPG series)
- 作者: 徳岡正肇
- 出版社/メーカー: アトリエサード
- 発売日: 2000/08
- メディア: 単行本
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ワールド・オブ・ダークネス (Role & Roll RPG)
- 作者: ホワイトウルフゲームスタジオ,徳岡正肇
- 出版社/メーカー: 新紀元社
- 発売日: 2005/08
- メディア: 単行本
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ヴァンパイア:ザ・レクイエム (Role & Roll RPG)
- 作者: ホワイトウルフゲームスタジオ,坂本雅之,中山てい子,田中克明
- 出版社/メーカー: 新紀元社
- 発売日: 2006/12
- メディア: 単行本
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『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』の衝撃は、今でも忘れられません。
もともと『ウォーハンマーRPG』は、単なる「秩序」VS「混沌」、「善」VS「悪」という二元論では掬い上げることの適わないものを志向する所がありました。これは、ダークファンタジーの世界では、「何が正義か」という「正義」の指針が、限りなくぐらついていためです。
つまり、プレイヤー演じるところのキャラクターは、単なる「正義の味方」ではなく、多面的かつ多義的な世界に翻弄されないよう、さながらピカレスク小説の主人公のごとく、地を這い泥水を啜りながらも臨機応変に機を窺うことを要求されることになります。それが、お座なりではない、「リアリティ」を生み出していたのでした。
『ウォーハンマーRPG』の初版時には存在していた「属性」の廃止や、フレーバーテクストの大幅強化を鑑みるに、現行版の『ウォーハンマーRPG』は、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の対抗軸としてアメリカを中心に大いに興隆した『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』を端緒とする『ワールド・オブ・ダークネス』シリーズの影響が甚だしいのではないかと私は思います。
もちろん、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』などのシステムに(現在でも)組み込まれている「属性」(アラインメント)のルールには、優れた面も多々あります。
それはつまり、キャラクターの人生観や思想・社会的に要求される役割などを、「属性」によって一言で表現できるということです。
「属性」が存在することでロールプレイに深みを増すことができたり、あるいは「属性」ごとの価値観の違いをシミュレートすることで、価値観のすり合わせそのものを図ることも可能になったものでした。
例えば、かつて『オフィシャルD&Dマガジン』(新和)という雑誌の前身に、『ドラゴンマガジン』という雑誌がありました。
そこに掲載されていた『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(クラシック)のプレイレポートに、次のようなものがあります。その梗概を記しておきましょう。
狭い部屋で、パーティがワイト(幽鬼、『指輪物語』に登場する「塚人」をモティーフにしたアンデッド・モンスター)に不意打ちを受けた。
「属性」が「混沌」(ケイオティック)である魔法使い(マジックユーザー)の女性*1は、先に逃げて外から鍵をかけ、他のパーティの面々が犠牲になっている間に、自分だけは助かった。
倫理的には明らかにマナー違反で悪しき行ないに違いない。
だが逆を言えば、その魔法使いは自らの奉ずる「混沌」という「属性」に従っただけの話で、そう考えれば許容できる部分もあるのではないか?
このレポートを契機として、日本において記録に残る最初期の「アラインメント論争」が惹き起こされたのでした。そして、「この魔法使いの行動は是か非か?」ということについて、さまざまな見地から積極的に議論が交わされました。
もちろん、この手の問題に答えは出ません。けれども無駄なことではまったくなく、「秩序」と「混沌」の相克に代表される「属性」ごとの差異を確認することで、議論をする者たちは、ファンタジー世界においては曖昧なものとしてしか規定されえない〈他者〉という概念(あるいは「他者性」)をリアルなものとして感じ取ることができたのでした。
とりわけ『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の第3.0版以降の版では、『不浄なる暗黒の書』、『高貴なる行ないの書』、『魔物の書』などのサプリメントによって、それぞれの「属性」を充分に掘り下げるに足るだけの思索が行なわれたのは、記憶に新しいところです。「属性」を「単純」と言って切り捨てようとする前にぜひ一度、『高貴なる行ないの書』を読まれることをお勧めいたします。
さらに最近刊行された『勇者大全』では、「悪」の神格を奉ずる者たちの立ち位置の拡充すら提案されました。
D&D3.5版サプリメント 「高貴なる行ないの書」 (ダンジョンズ&ドラゴンズサプリメント)
- 作者: ジェームズワイアット,鶴田慶之
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
- 発売日: 2006/01/31
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- 作者: エド・スターク,クリス・トマソン,アリ・マーメル,ライノン・ルーヴェ,ゲーリィ・アストルフォード,桂令夫,岡田伸,北島靖己,楯野恒雪,塚田与志也
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
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しかし一方、「秩序」VS「混沌」、「善」VS「悪」という「属性」のフレームでは、語ることのできないものを求めた人たちも存在しました。これはあくまでも私の憶測ですが、こうした「属性」の二元論的特性に、最も敏感に反応したのが、『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』で有名な、アメリカのWhite Wolf社の面々だったのではないでしょうか。
『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』のデザイナーには、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』に多大な影響を受けたコンピュータ・ゲーム『ウィザードリィ』で知られるアンドリュー・グリーンバーグ(『ウィザードリィ』に登場する魔術師ワードナの名前は、彼のファーストネームの逆さ綴りとなっています)が名を連ねていたり、そもそもWhite Wolf社そのものが、「秩序」VS「混沌」という軸を強く打ち出したヒロイック・ファンタジーシリーズ『エルリック・サーガ』のファン出版社から始まったことを思えば、「属性」を超克(あるいは解体・再構築)する何かが必要であると、痛烈に感じ取っていたということは、想像に難くありません。
『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』では、「属性」の代わりに、プレイヤー演じるキャラクター(ヴァンパイア)が属する「氏族」の思想・哲学やヴァンパイア社会での立ち居地を、あくまでも「氏族」同士の関わり、あるいは普通の「人間」との対比のなかから、描き出すことをモットーとしています。その際に強調された手法が、安易に「単純化」することを極限までに排した、フレーバーテクストの充実だったのでした。『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』においては、フレーバーは時としてルールをも凌駕します(そう、ルールに書いてあるのです)。
こうした「属性」に還元することのできないキャラクターの位置づけ方は、RPGのシーンに絶大な影響を及ぼしたのでした。
そして、そのような『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』が作り出した流れは、おそらくはよい意味で『ウォーハンマーRPG』にも反映されているのではないかと思います。“Night's Dark Masters”という未訳サプリメントを今回は部分的に使用しましたが、そのサプリメントにも『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』の影を感じました。
私は『ウォーハンマーRPG』のリプレイ用シナリオを書く際には、システムのみならずストーリーをも重視したセッションを心がけていますが、今回のセッションでは、『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』が作り出した、ストーリープレイの良い面をフィーチャーできる仕上がりになったものと思います。
もちろん、これはプレイヤーの方々のご協力によってこそ、成り立っています。
とりわけ金豹騎士アルブレヒト役のid:malamoさん、魔狩人コンラッド役のid:ggincさんが、頑張って下さいました。
特に序盤のアルブレヒトの怪演、ならびに終盤のコンラッドの「意思決定」のあり方は、『ウォーハンマーRPG』をよく知らない方はもとより、ベテランの方にも参考になるのではないかと思います。
どうぞ、よろしくお願いいたします!
*1:名前はミユキだというのだから可愛らしい