『ウォーハンマーRPG』、ナラトロジー、そして自由(その1)


短期集中連載:『ウォーハンマーRPG』、ナラトロジー、そして自由


■0、はじめに


 筆者はRPG、SF、文学(あいうえお順)と多方面の分野に関心を寄せているのですが、本格的にものを書いていると、少しずつ、自分の考え方を整理しておく必要にかられてきます。
 どこどこの企業のゲームが好きだなどという「立ち居地」という話ではなく、傍からは雑多なものとしてみられがちな自分の活動を、いちど、ある程度の強度がある言説でまとめ直しておいたほうが、今後、ものを書くうえで楽なのではないかと思った次第です(題材としては『ウォーハンマーRPG』を使います)。
 そのため、これまで茫漠と考えていたRPGと物語の関わりについて、実際にRPGを遊んだり小説を読んできたりした経験をふまえ、仕事の合間を見て少しずつ考えを書き留めてきました。


 こうした論考を発表するには〈R・P・G〉誌が最適だったのですが、同誌が休刊したいま、受け皿を持たないない論考ではあります。
 そこで、初稿となる部分を私見的にブログで発表し、完結したらそれをまとめて「Scoops RPG」にでも出そうかと考えております。


 基本的にRPGを知っている人向けの記述となっています。
 RPGについては、以下のサイトが詳しいです。


 ・ロールプレイングゲーム(Wikipedia)
 ・「Alternative Stories」より、うらべっちさんの解説(わかりやすさ、親しみやすさを重視した解説です)
 ・「馬場秀和ライブラリ」より、「初心者のためのRPG入門」RPGのジャンルとしての独自性を重視した解説です)


 しかしながら、本稿で意識を向けているのは、なるべく批評的な強度を上げたうえで、RPGを通じて物語論に切込みを入れるということです。
 論考の性質上、リーダビリティを向上させることよりも、論考の強度を上げることへ精力を傾注しています。粗削りなところも多いことでしょうが、どうぞ暖かく見守ってください。


 なお、この論考は個人の所感をまとめたものであり、各タイトルのオフィシャルな版元とは一切関係がありません。



■1、『ウォーハンマーRPG』第2版の構造


 ▼システムの説明について
 『ウォーハンマーRPG』とは、主にルネッサンス期からドイツ30年戦争のころのヨーロッパをモティーフにしたダークファンタジーです。
 血と泥水を啜りながら、社会の底辺にいる連中が、見るもおぞましき混沌変異の脅威を受けながら、栄光の果実を掴もうとして転落し、糜爛した地獄穴で犬死にするか、たとえ生き延びてもおぞましき混沌変異の魔の手に絡み取られるか、という絶望に直面した冒険が堪能できます。


 ▼オールド・ワールド
 『ウォーハンマーRPG』の舞台は旧き良き「オールド・ワールド」と呼ばれます。
 この「オールド・ワールド」こそが『ウォーハンマRPG』の肝です。グローランサともグレイホークとも異なり、「オールド・ワールド」は、中世からルネッサンス期にかけてのヨーロッパの「語られざる」歴史にスポットを当てることで、『指輪物語』の影響を受けた「お上品」なRPGでは見過ごされがちだった歴史の真実(例えば種村季弘アナール学派の歴史家が検証したような歴史の複合性を示す事例)にスポットを当てるとともに、ピカレスク小説やパンクロックにも通じる反骨精神を前面に押し出すことで、既存のファンタジー世界とは一線を画した評価を獲得することが出来たのでした。


 ▼システムの体系化と再整理
 『ウォーハンマーRPG』第2版の発売元はイギリスのGames Workshop傘下のBlack Industries社ですが(後にFantasy Flight Games社に移行)、システム部分はアメリカのGreen Ronin社が手がけています。 『ウォーハンマーRPG』の初版のデザイナーズノートにある通り、第2版では初版時にまま見られたゲーム開始時におけるデータ的な不平等(例えば、初版ではキャリア「街道巡視員」は、技能が一つしかない明らかな「外れ」キャリアでした)が是正され、たとえ社会的地位の低い「骨拾い」や「小作農」といったキャリアでも、充分に活躍できるものに改められました。
 加えて、技能の再整理(基本技能と上級技能の区分)、「異能」や「幸運点」の導入、タクティカル・コンバット用にルールを再整理することによって、システムの体系化が図られました。


 ▼『d20システム』の影響
 『ウォーハンマーRPG』のシステムを体系的に捉えるためデザイナーが明らかに意識していたのは、言うまでもなく世界でいちばん普及していた汎用システム、『d20システム』(ここでは、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第3.5版を基盤とした汎用RPGシステム)でしょう。ルール周りの感触からも、そのことは明らかです。加えて言えば、Green Ronin社はもともと、d20システムサプリメントを多く発売している会社です。
 しかしながら、システム設計時において、『d20システム』の異様に細かいところまでルールによって規定されているという特性とBAF(呪文などによる強化)重視の傾向とは、別の方向性を志向していたように思えます。
 初版時から、『ウォーハンマーRPG』において何よりも重視されていたものは、「オールド・ワールド」の世界観そのものを再現することでした。
 つまり、『ウォーハンマーRPG』のデザイン作業にあたっては、ルールのある種の側面にGMの自由裁量を取り入れる余地を残すことで、GMとプレイヤーの相互認識の位置づけを、「ルールそのもの」から「オールド・ワールド」という世界観へとシフトさせることが重要視されていたのではないかと思います。


 ▼『クトゥルフの呼び声』と『ワールド・オヴ・ダークネス』の影響
 この際に活用されたのが、ホラーRPGの嚆矢である『クトゥルフの呼び声』(現行版では『クトゥルフ神話TRPG』)における「恐怖まわりのシステムと、シナリオの表記法」、それに『ワールド・オヴ・ダークネス』全般におけるフレーバーテキストの最重視(ルールよりも参加者間のフレーバーテキストの「解釈」が重視される。そのことはルールに書いてある!)ではないかと僕は推理しています。
 ただ、『ワールド・オヴ・ダークネス』にまま見られるメタプロット(サプリメントによって、背景世界の時間軸を進行させたりや設定を変化させたりすること)の多用、過剰なまでの装飾・造本へのこだわりといった要素を、あえて『ウォーハンマーRPG』は採用していません。
 確かに、シナリオのフックとなるようなフレーバーは充実していますが、あくまでもそれはユーザーのヒントとして扱われます。また造本やレイアウトはシンプルな美しさを追究しているように思えます。


 ▼まとめ
 以上をまとめると、『d20システム』、『クトゥルフの呼び声』、『ワールド・オヴ・ダークネス』など、名作システムの優れた点を貪欲に取り入れたうえで、「オールド・ワールド」という独自な世界観に見合うように現状の『ウォーハンマーRPG』は仕上げられたということになるのではないかと思います。
 もちろん、こうしたシステム相互の関係性を、厳密に論証するのは難しいでしょうが、例えば『d20システム』というタイトルに代表されるある種の流れを受け入れていると推測することは可能でしょう。本稿では、こうした推測を軸に、考えを進めていきます。


(つづく)


ウォーハンマーRPG 基本ルールブック

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クトゥルフ神話TRPG (ログインテーブルトークRPGシリーズ)

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