『ウォーハンマーRPG』、ナラトロジー、そして自由(その2)

短期集中連載:『ウォーハンマーRPG』、ナラトロジー、そして自由


■0、はじめに
■1、『ウォーハンマーRPG』第2版の構造
ブログの過去記事をご参照下さい


■2、仮説:『ウォーハンマーRPG』は『クラシックD&D』(+ミスタラ世界)の正嫡?


 ▼運用感覚
 第1章で、『ウォーハンマーRPG』と他のシステムとの関わりを述べてきましたが、実際の運用感覚としては、『ウォーハンマーRPG』にいちばん似ているのは、オフィシャルの背景世界「ミスタラ」を導入した際の『クラシックD&D』ではないかと筆者は考えています。
 もともと『クラシックD&D』は、『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下『AD&D1st』)の初版を、プレイアビリティ向上のため大胆にリファインしたものでした。
 『AD&D1st』の運用感覚は、純粋なシミュレーションゲームといったものです。ところが『クラシックD&D』は、純粋なシミュレーションゲームとして遊ぶにも、ユーザーの側で、例えば移動スケールを自作したり、呪文が実際に適用された際どのような効果を引き起こすのかを(ルール的な記述を拡大解釈する形で)定めなければなりませんでした。
 実際に、公式のモジュールをプレイしてみるとわかりますが、何も考えず杓子定規にシナリオを使うだけでは、あっという間にPCは全滅してしまいます。マスターは必然的に、シナリオを独自に再構成する必要に迫られます。


 ▼カスタマイズの問題
 こうした『クラシックD&D』ならではの特徴は、現在においてはシステムの欠陥として理解されがちではありますが、ある種の柔軟性があり、システムを独自にカスタマイズしながら使用していく(うまい表現が思い浮かびませんが、半組みのキットを自分色に染めて行くような)メリットがあるのもまた事実です。今でも現役で『クラシックD&D』をプレイしている人たちは少なくありませんが、それにはこの「半組みの魅力」が少なくないものと筆者は睨んでいます。RPGに必要な基本的なパーツは全部揃っているが、あくまでそれは材料。料理するのはユーザー、というのが、『クラシックD&D』の設計思想にあるのではないかと思います。
 『クラシックD&D』が、RPGの原型として語られることが多いのも、RPGに必要な最低限のパーツをそろえていながら、こうしてマスター色に染めていく作業があるからではないかと思います。
 高橋志臣氏(id:gginc)は、ある種のWeb職人文化「MOD」(あるいは改造マリオ)を例に出して、こうしたRPG独自の調整作業を解説しました。この例は非常にわかりやすいものですが、一方で、それほど大仰なものでもなく、どちらかと言えば「マスター」が「システム」を自家薬籠中のものとするために必要な「メンテナンス」の一種ではないかという思いも筆者のなかにあります。
 つまり、完全に「システム」を規格化してしまっては、「規格」に合わない「マスター」は排除されてしまう。そうではなく、ある程度可塑的な原型を提示することにより、「システム」を自分のものとして「自在に組み替える余地」を残しているところに、『クラシックD&D』の面白さは根付いているものだと理解しています。


 ▼「背景世界」の支援
 もともと『クラシックD&D』にはオフィシャルな背景世界はありませんでした。しかしながら、『ルーンクエスト』など他の背景世界を重視したゲームがきちんとした地歩を獲得すると、『クラシックD&D』にも、それまで基本ルールブックやモジュールで細切れに発表されていた設定を、いちど大判の書籍を通して再整理しようという動きが現れました。それが1987年に発表された「ミスタラ」世界です。
 「ミスタラ」は、独自の時間軸を持っている世界観なのですが、特徴的なものは、中世のイングランドをモティーフとしているとおぼしきカラメイコス大公国、『千夜一夜物語』の雰囲気の色濃い「トゥルー教徒」の支配するイラルアム首長国連邦、幻想作家クラーク・アシュトン・スミスの創造した「アヴェロワーニュ」世界を大胆に設定へ取り入れた魔術師の国「グラントリ公国」、モンゴル風の「エゼンガール汗国」、北欧風の「ノーザンリーチ」など、文化的背景の異なる各国が、地理的に連関しているという面白い世界観でした。
 それぞれの国々が一冊のサプリメントとして詳細に提示され、マスターは、重厚な設定を、実在の歴史や神話とうまく交錯させる形で、セッションに深みのある背景を与えることができたのです。
 ここにおいて『クラシックD&D』の「軽さ」は、「簡易『AD&D』」ではなく「ミスタラ世界」を柔軟に表現するためのツールとして読み替えられることとなります。


(つづく)

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