G・K・チェスタトン『新ナポレオン奇譚』をご恵贈いただきました。


 解説を手がけられた佐藤亜紀さんから、G・Kチェスタトン『新ナポレオン奇譚』をご恵贈いただきました。
 かつてはチェスタトンの著作集10に入ってから入手困難な状況にありましたが、めでたくこのチェスタトンの処女長篇にして20世紀文学の膜上げを告げる傑作が、新しい読者の目に触れる機会が与えられた次第です。
 私も読み直して発見が多く、どうやら本格的に評論仕事へ援用できそうな この作品はバラード『スーパー・カンヌ』のように、ゲーテッドコミュニティSFの観点で読み直す意義を感じる重要な作品だと考えています。
 比較的若年層の人へ『新ナポレオン奇譚』を薦めるために、03年頃に同書を読んだ印象から、ひとつの視点をご紹介。
 1990年代後半から持続する大規模な文化的な地盤沈下と、その反映としてのネオテニイなものの素朴な称揚(その典型が例えば「セカイ系」)の問題点を、同作品は20世紀という殺戮の出発点にまで立ち返る形で根底からから洗い出しています。その意味で極めて批評性に富んだ作品であり、同時代の批評的言説の凡庸さをこれ1冊で打ち消せるだけの力を秘めた著作だと言えるでしょう。
 閉ざされた「孤独の島」な感性に共感する気持ちはわかるのですが、一方で自我の閉塞性を過大視することの歴史的危険性を箱庭シミュレートしてみたのが『新ナポレオン奇譚』という仮説を立てております。
 初読時に泣いて、再読時にはゲラゲラ笑って一歩前に進める、そんな作品でした。そして三度目には、進んだ先に見える既視感を考えるヒントを与えてくれる作品だとも考えています。
 この作品の思想的な意義を今構想中の批評仕事へ援用できたらと考えています。かなり面白いことができそうだと、今からワクワクしています。

新ナポレオン奇譚 (ちくま文庫)

新ナポレオン奇譚 (ちくま文庫)