日本SF作家クラブの公認ネットマガジン、SF Prologue Waveに、「『現代作家ガイド6 カート・ヴォネガット』(彩流社)YOUCHAN氏・巽孝之氏・増田まもる氏インタビュー」を掲載いただきました。
YOUCHAN渾身の一冊というか、ほんわか系の表紙に騙されてはいけません。中身は、極めて密度の濃い一冊です。かく言う私も、ヴォネガットはかなり以前に長篇をすべて読破しました。私がSFに覚醒するきっかけとなった作家の一人です。10代〜20代前半の時、自転車旅行をやっていて、北海道の釧網線の無人駅に泊まった際、雨露でボロボロになりながらも『母なる夜』を読んだ時のえも言われぬ感動は、忘れられません。
本書は、ヴォネガット関連地図、邦訳作品ガイドをはじめ、微に入り細を穿つ研究がずらり。再確認にも非常に役立ちました。大江健三郎との対談再録が刺激的。なかでも収穫だったのが、ヴォネガットがアメリカ社会のいかなる変動を軸に小説を書いてきたのかが俯瞰できたところです。
ちなみに、深く私の記憶に刻まれていたのは、『ジェイルバード』の題材になっているウォーターゲート事件でした。そして、この本を読んで得た「気づき」とは、現代SFで往々にして軽視されているように見える、テクノロジーへの批判的視座を、ヴォネガットはきわめてラディカルに提示していたことですね。まさしくラッダイト的な思想。
加えて、現代日本の「サブカルチャー」に座りの悪さを感じている部分がわずかでもある人は、この本をガイドとしてヴォネガットを再読なさることをお薦めいたします。とりわけ、この本の中で論じられるnew sincerityという潮流についての解説(吉田恭子)が、きっと役に立つはず。
しかし、本書は、まさしくヴォネガット徹底解剖とも言うべき、素晴らしい概説書ですね。何度となく読み返したいし、そういう価値がある。ヴォネガットを知っている方ならわかると思いますが、ヴォネガットって、良きにしろ悪しきにしろ、こういう細かな研究と相性が悪いように見えるのです。
こういう言い方は言葉足らずでしょうが、ヴォネガットって、手持ちのトリヴィアルな知識に拘泥せず、「生活人」として、一日一日を生きている人にこそ、もっともすんなり入り込んでくる小説の書き手だと思うんですよ。だから、ヴォネガットを語るには、バランス感覚がとても重要だと思うのです。
『スローターハウス5』を読むと、なんか言葉にはできないけれど、貴重な経験をしたと思う。その経験をあえて不器用に言語化するよりも、たとえば彼女に優しくしたくなるとか(笑)、そっちの方向にエネルギーを割きたくなる。私は、ヴォネガットをそういう作家だと考えています。
・「『現代作家ガイド6 カート・ヴォネガット』(彩流社)YOUCHAN氏・巽孝之氏・増田まもる氏インタビュー」聞き手宮野由梨香・岡和田晃
http://prologuewave.com/archives/2449
- 作者: 伊藤典夫,増田まもる,永野文香,中山悟視,吉田恭子,渡邉真理子,巽孝之,伊藤優子(YOUCHAN)
- 出版社/メーカー: 彩流社
- 発売日: 2012/08/31
- メディア: 単行本
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