佐々木美智子/岩本茂之『新宿、わたしの解放区』へのノート

 寿郎社http://t.co/LP81prti)さまから、『新宿、わたしの解放区』をご恵送いただきました。あまりの面白さにページをめくる手が止まりませんでした。「政治の季節」真っ只中の東京で、写真家・佐々木美智子のオーラル・ヒストリーを、新聞記者・岩本茂之がまとめたもの。日活の編集部に入り、バーの経営と全共闘へのコミットを両立させた、佐々木美智子氏のエネルギー、そして「語り」から漏れる人柄がとても魅力的でした。いつも淡い夢を見ているような、それでいて他人の夢を受け止めれる包容力が伝わってくる感じとでも言うべきでしょうか。新宿近辺の民衆史としての価値もあるでしょう。年譜も詳細。こういう本は、どうしても“臭く”なってしまうのですが、そうした臭みがなく、適度にノスタルジックでありながら、新しい読者を許容する、何気なく知らないバーに行くような面白さがあります。新宿ゴールデン街では何回も呑んで暴れたもの(笑)だけど、こんな愉しそうなお店には当たったことありませんよ。新宿近辺に長らく住んだり、各種肉体労働をして、この世代のリアリティに近いものを体感してきたという思いもありますが、31歳になる自分でも、佐々木美智子の20代前半くらいを生きているような、奇妙な感覚があるのが事実です。佐々木美智子氏のスタンスは、おそらく現代の読者の目線にもかなり近しい(親しみがもてる)ものであると思うので、「68年」への入門にもなりそうです。秋田明大の写真が迫力。カメラが私にとってのゲバ棒、っていい言葉だなあ。
 『新宿、わたしの解放区』はとても面白かったので、もう少し紙幅をかけて紹介したいところ。この人のオーラル・ヒストリーを形にするとは、なんとアグレッシブでステキな企画なんでしょう。また、真面目な話、『新宿、わたしの解放区』のような本を読んでおくと、山野浩一の小説の理解度がグンと増すと思います。

新宿、わたしの解放区

新宿、わたしの解放区