アルゴナウティカ


 アポロニオスの『アルゴナウティカ』を読み、叙事詩のみが持ちうる迫力に驚嘆する。
 ホメロスの『イリアス』は、トロイア戦争のある部分を特別にクローズアップするという、どちらかといえば近代文学的な手法で描かれたものであるが、対する『アルゴナウティカ』は「叙事詩の輪」と呼ばれる時系列がはっきりした形式に分類できる作品群に属しているがために、叙事詩ならではの特性がはっきりしている。すなわち彫塑性が高く、言葉に迫力があり、明快で、揺るぎがない。
 私はどちらかと言えば、ギリシア文学は悲劇の方が好きで、『アルゴナウティカ』よりは(共通する人物が登場する)エウリピデスの『メディア』の方が好みだったのだが、ようやく叙事詩の読み方が少しずつわかってきた。RPGにしろ文学にしろ、求められるのはこうした作品の有するアウラであり、それぞれのメディアに相応しい形で、アウラは快復、あるいは再発見されるべきなのだろう。
 ……こう書くと偉そうに響くかもしれない。ただ、もともと語り部叙事詩を語り、それを聴衆が聞くことで、語られた物語を通じて、生が、世界が、より豊かなものとなるとの認識がなされた時代(時代と言うのが大掛かりならば、瞬間)は確かに存在したようだ。少なくとも私の仕事は、そうした感動の原点に、僅かであっても近づいていけるだけのものを志向したい。


※「叙事詩の輪」については、いずれ『アルテウスの復讐』に始まる、『ギリシア神話ゲームブック三部作』との関連で語ってみたい。これは、ゲームと神話との幸福な結婚を示した最良の例のひとつだと思う。だが、なぜか語られることが少ないのだ。


アルゴナウティカ (講談社文芸文庫)

アルゴナウティカ (講談社文芸文庫)

ギリシア悲劇〈3〉エウリピデス〈上〉 (ちくま文庫)

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アルテウスの復讐 (現代教養文庫―ギリシャ神話アドベンチャーゲーム)

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