時事通信に藤野可織『爪と目』の書評記事を書きました。本日くらいから、全国の地方紙の書評欄に掲載されると思います。ふだん、小説をあまり読まない人にこそ読んでいただきたい、感情の妙。一見の価値はあります。
書評には二人称小説という形式についての分析や、「悪意」についての見解などを盛り込んでいます。「新潮」掲載時から注目していたので、芥川賞受賞は本当にめでたい。
さて、今回の書評では、ビュトールの『心変わり』との比較なども試みてみました。『爪と目』の技法に感銘を受けた方は、ぜひ『心変わり』に進んでみてください(二人称小説の最高傑作です)。
藤野可織は『パトロネ』も面白いのですが、岡和田としては、どうしようもなく暑苦しい『いやしい鳥』を偏愛しております。よい意味で、ある時代の文學界新人賞の空気を伝えてくれる作品です。この暑苦しさは、純文学の文芸誌でしか発表できない類のものでした。加えて『いやしい鳥』にカップリングされた「胡蝶蘭」はどう考えてもポストヒューマンSFなので、その点からも要注目です。めでたく増刷されたようですし。
ところで、藤野可織「爪と目」、語りは実は二人称ではない、あるいは語り手が三歳じゃない、という説というのも出ているようで、こうした議論は実に面白い! 三歳と明記されているのは確かですし、「あなた」という二人称も用いられているので、それを全否定するのは困難でしょうが、一方で、こうした議論が起るのは、二人称が形式のための形式として採用されているわけではない、ということに尽きます。三歳については、言わずもがなですね。
拙評では――ビュトールを経由しつつ――三歳でも時間や空間を超越して対象の全てを見通すこともあろう、という立場をとっています。それは、充分に「リアリズム」の範疇だと思うのです。
おそらく藤野可織作品を読むうえで重要なことは、「語られたこと」だけを目を皿にして追うのではなく、行間で「言い落とされた」ことがいったい何かを考えることでしょう。本格ミステリでいう「叙述トリック」のように解釈すると、豊かな成果が得られ、ひいては読者の世界認識に資するのではないかと思います。
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