児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる「ソーサラー・ソリテア完全版」リプレイ

 「ヴァンパイアの地下堂」(『コッロールの恐怖』所収)や、「廃都コッロールのトークティパス」(「Role&Roll」Vo.183)のリプレイを寄稿してくださった齊藤飛鳥さんが、新しく「ソーサラー・ソリテア完全版」(「ウォーロック・マガジン」Vol.7)のリプレイを書いてくださいました。『フォーチュン・クエスト』風(?)のユカイなタッチは健在です。お愉しみください。なお、内容の核心に触れているので、読まれる際にはご諒解ください。

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『見習い魔術師のカプリチオ』
~『ソーサラー・ソリテア完全版』リプレイ~

著:齊藤飛鳥

ウォーロックマガジンvol.7

ウォーロックマガジンvol.7

  • 作者:安田 均
  • 発売日: 2020/05/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 
0:小賢しきプロローグ

ワタチの名前は、ビストロウシュカ。
二つ名は〈小賢しき〉。
職業は、見習い魔術師。
種族は、レプラコーン。
狐色の髪と瞳を持つ乙女デチ。
因業じじいな前のお師匠様を見限り、今のお師匠様〈年経りしもの〉の弟子になって早くも3年がすぎたデチ。
なんと〈年経りしもの〉が、新しい弟子を迎えたので、ワタチに初級魔術師に上がる〈試練〉を受けるように勧めてくれたデチ!
お師匠様が違うと、こんなにも対応が違うものなのデチね!
ワタチの後に見習い魔術師となるタウランに、後で姉弟子として「お師匠様に巡り会えたことは、幸運なことデチたよ」と、伝えておくデチ。
さて、〈年経りしもの〉が、ワタチに与えた〈試練〉は、〈ヴァニング荘園〉で何が起きているのか突き止めること。
50年前に不吉なことが立て続けに起きて無人になっただけではなく、最近ではロバーツ・ホールドのナヌス姫までこの荘園付近で姿を消したとか。
ここまでくると、もう完全に悪の魔術師とかデーモンとかが一枚かんでいるデチ。
初級魔術師になる〈試練〉にもってこいデチね。
〈年経りしもの〉は、ワタチが〈試練〉を受けるために、まずは〈川の縁〉の村へ行って、案内人になってくれる老狩人のケッセル・ジョリスと会うようにと教えてくれたデチ。
ワタチは、旅の支度をすませると、さっそく〈川の縁〉村のケッセル・ジョリスに会いに行ったのデチた。


1:小賢しき開幕

運良く老狩人のケッセル・ジョリスは、すぐに見つかったデチ。
でも、運悪く彼が臆病風に吹かれて慎重に慎重を重ねすぎたおかげで、〈ヴァニング荘園〉に到着した時には、夜になってしまったデチ。
ただでさえ薄気味悪い土地へ夜に到着したせいで、ケッセル・ジョリスはずっと怖がりっぱなしデチ。
でも、ケッセル・ジョリス。あんたが慎重と称して、とろとろと歩いていたせいで、到着が夜になったんデチよ?
ワタチの予定では、お日様がさんさんと明るい午前中に到着する予定だったんデチよ?
でも、ケッセル・ジョリスはこちらの都合なんて、いっさいおかまないなしデチ。
ワタチの荷物を放り出して樫の木の下に身を隠し、全力で案内を拒否したデチ。
……料金分の仕事もろくにできない人デチね。
でも、いいデチ。
一緒にいても、足手まといになるのが目に見えているから、ここは一人でさっさと荘園の大邸宅〈ヴァニング屋敷〉の中に入るデチ!

 

2:小賢しき変身

〈ヴァニング屋敷〉の扉を開けるとすぐに、荒れ果てた室内が見えたデチ。
かつては立派だったお屋敷も、50年にわたる無人の歳月で、見る影もないデチね。
うにゃ!急に扉が閉まったから、びっくりしたデチ!
これは、簡単に開きそうにないデチよ。
だけど、これは〈試練〉デチ。
すぐに取りかかれと運命がワタチにささやいたと考え、いざ屋敷内の探索に出発デチ!
まず、淡く光る髑髏が置かれた台があって、左右の壁にはそれぞれ扉があるデチね。
よく見たら、階段もあるデチ。
他にも何かないか、魔法で調べてみるデチ!
ワタチは、《魔力感知》を使ったデチ。
うにゃ! 台座の髑髏が輝いたデチ!
これには、何らかの魔力が含まれているようデチね……。
ワタチは、髑髏を調べようと近づいたデチ。
とたんに、髑髏の輝きが増して、まぶしいデチ!
体が変形していくのを感じるデチ……。
……何時間すぎたのデチか。
わからないデチけど、目が覚めたら、ムキムキになっていたデチ!
力こぶはすごいし、腹筋はきれいに六つに割れているデチ!
おかげで、体力度が5上がったのは嬉しいデチが、器用度が3下がったのはありがたくないデチ。
気がつくと、部屋は暗くなり、ワタチをムキムキに変えた髑髏は粉々に砕け散っていたデチ。
水晶でできていたんデチね、これ。
それはさておき、気絶していた時間を取り戻すために、早く探索に取りかかるデチ!
ワタチは、ムキムキになった手で錆びたドアノブをねじ切らないよう力を加減して右側の扉を開けたのデチた。


3:小賢しき遭遇

右側の扉を開けると、ブーツを保管する小部屋に出たデチ。
そこには使用人用の扉があって、開けると長い廊下に通じていたデチ。
廊下の端から物音は聞こえるし、薄ぼんやりと明かりも見えるし、絶対に誰かいるデチよ、これ!
ワタチは、《鬼火》の魔法を使って廊下を進んだデチ。
《鬼火》の淡い光に照らされながら、物音のする方向を目指し、ゴミや埃や骨に足を取られないよう、気をつけて歩くうちに、埃に足跡がついているのを発見デチ!
足跡と言い、物音と言い、この屋敷の中には、絶対にワタチ以外の何者かがいるデチよ!
これは、ますます用心する必要があるデチね!
ワタチは、ついに物音のする所にたどり着くと、そっとのぞいてみたデチ。
とたんに、縁のたれたソフト帽をかぶってぼろをまとった人間…人間でいいんデチよね?……人間の男が現れたデチ!
「ほーい!嬢ちゃん。おまえさんみたいな若くて立派な魔法使いがどうしてこんなみすぼらしい館をうろつき回っておられるのかね?」
怪しい!
やるしかないデチ!
ワタチが魔法を使おうとすると、集中するのを邪魔するように人間の男が語り続けてきたデチ。
彼の話によると、かれこれ一週間もこの館は中をさまよって腹ぺこだとか。
これから、この館を探索する身として、彼みたいな目には遭いたくないデチ。
「もっとくわしく話をきかせてほしいデチ」
ワタチはそう言って、持っていた水筒の水を男にあげたデチ。
男は、水を飲んで元気になると、自分がどうして館をさまよっているのか語り出したデチ。
それによると、男はこの〈ヴァニング荘園〉近くで行方不明になった姫を探している盗賊で、館に入ったもののデストラップと化け物に襲われて現在に至るとか。
それから、男はちょっとしたアドバイスとして、危険な闇から逃れるのが大事で、《鑑識眼》を使うといいと教えてくれたデチ!
「どこが『ちょっとした』デチか?とても大事なアドバイスをありがとうデチ!そうだ、お礼に魔法を教えるデチ!」
ワタチは男が唯一知らないという《これでもくらえ!》を、昔のお師匠様のペットだったフェリッドを倒した武勇伝を交えつつ、教えたデチ。
「ありがてえ、嬢ちゃん!」
男は、大喜びで、全財産である100gp相当のダイヤモンドと8gp相当の銅のダガーをくれたデチ。
うにゃにゃ……?
これでは、お礼をした意味が……。
でも、男が受け取ってくれと言っているのを返すのも、彼の好意を踏みにじったようで悪いデチ。
ワタチは、お礼のお礼をもらったお礼を男に言ってから、先を進んだデチ。


4:小賢しき幽霊

暗く入り組んだ通廊を進むうちに、不意に寒気がしてきたデチ!
たくさん鳥肌が立ったし、この先の道は真っ暗だし、危険がたくさんありそうデチ!
ここは、《魔力感知》の呪文で隠された呪文や魔力がないか調べるのデチ!
さあ、いったい、どんな呪文や魔力が隠されているデチかねぇ……。
「う~」
「ら~」
「め~」
「し~」
「や~」
《魔力感知》でワタチに見つかったと悟るなり、幽霊達がいっせいに向かってきたデチ!
危険な闇から逃れるのが大事だと、さっき会った男に教えてもらったから、ここは闇を照らす《鬼火》を使って明るくしてやるデチ!
ワタチが《鬼火》の呪文を唱えると、幽霊達が苦しみだしたデチ!
「闇を好む恐ろしきデーモン〈飲血者クルウォンスク〉様に仕える我々が、こんなレプラコーンの小娘ごときに……!」
幽霊達は、口々にそう言いながら、不死の生命を終わらせていったデチ。
こんな幽霊達が館の中にさまよっていたということは、50年前に〈ヴァニング荘園〉を襲った数々の不幸の原因は、〈飲血者クルウォンスク〉という奴の仕業のようデチね。
〈ヴァニング荘園〉で起きていることの手がかりをやっと手に入れられたことに安心してから、ワタチは探索を続けたデチ。


5:小賢しき気配

壁に青白く光る茸がはえた通廊を歩いていると、突然茸の光が消えたデチ!
たいまつ、ランタン、ろうそくなどの照明器具も、《鬼火》《猫目》の呪文も使えなくなったデチ!
暗闇の中、邪悪な存在がワタチに近づいてきているのを感じるデチ!
こういう時こそ、男のアドバイスどおり、《鑑識眼》を使うデチ!
うにゅにゅう…何てことデチ。
強力な呪いが作動しているし、すでに呪いの効力の深みにとらわれているから、来た道を帰ることもできないデチよ!
どこかに別の出入り口はなあいデチか?
ワタチが辺りを調べ始めると、すぐに誰かがいる気配を感じたデチ!
これは、〈年経りしもの〉が前に教えてくれた闇のデーモンの気配の特徴とそっくりデチ!
低レベルの呪文でも、適切なやり方なら闇のデーモンの呪いを解くことができると、〈年経りしもの〉の講義で習った記憶があるデチ。
でも、お昼ご飯の後の講義だったから、うとうとしていて、黒板に書かれていた呪文の記憶だけが空白デチ!
呪いを解くには、何の呪文デチたか……。
わからないデチけど、呪いは、厄みたいなもの。だったら、ここは《厄払い》を使うデチ!
「呪文詠唱《厄払い》」
思い切って唱えると、 暗闇が晴れていったデチ。
よかった…古くて弱い呪いだったのデチね。
ワタチは、ほっとしてから先を進んだデチ。


6:小賢しき既視感

ワタチが進むうちに、通廊の先に縁のたれた帽子をかぶってぼろをまとった人間の男の姿が現れてきたデチ。
「ほーい!嬢ちゃん。おまえさんみたいな若くて立派な魔法使いがどうしてこんなみすぼらしい館をうろつき回っておられるのかね?」
さっき会った男デチね。
なのに、初対面みたいな挨拶をするとは怪しいデチ。
もしかしたら、偽者かもしれないデチ!
ここは、大都会の流儀で相手にしないに限るデチ!
ワタチが男を無視して脇を通ると、後ろから剣を抜く音がしたデチ。
「あっしが、ロバーツ・ホールドのロイヤルガード隊長ガイ・ル=ウェッベと知っての無礼か?このレプラコーンめが!」
えー!?
さっきの男とは別人だったデチ!!
……と、びっくりしているうちに、背後から突撃してきたデチ!
なんて、危ない奴!
こうなったら、戦うしかないデチ!
ワタチも負けずに突撃デチ!
前のお師匠様の下で何年もモップがけをしてきたから、突進力には自信があるデチ!
うきゅ!
……かなり、ダメージを食らったけれど、どうにか男を倒せたデチ。
危うく殺されそうになった慰謝料として、男の持ち物をあさると、100gp相当のダイヤモンドと幸運のウサギの足、それにダガーがあったデチ。
ウサギの足とは、確かお守りだったデチね……うにゃ!調べてみたら、幸運度が2上がったデチ!
これはすごいお守りと喜んだそばから、ウサギの足は崩れてしまったデチ。
残念デチ。
では、ダガーやダイヤモンドを持って先を進むとするデチか。


7:小賢しき2階

しばらくして、T字路に出たデチ。右と左のどちらに行ったものか、迷った時には直感に従うデチ!
ワタチは、右の道へ行ったデチ。
……嫌な感じに急速に寒く暗くなってきたデチよ……。
ここは《魔力感知》で危険の正体を突き止めるデチ!
うにゃにゃ? 通廊の端に誰かいるデチね?
ずんぐりむっくりした男デチ。
彼はワタチの目をじっと見つめたデチ。
「友よ、君は間違った道に来ておるよ。君は2階へと上らねばならん。この梯子を使うといい」
ワタチも男の目をじっと見つめたデチ。
信頼できそうデチね。
「ありがとう。そうするデチ」
ワタチは梯子を上って2階に行ったデチ。
そこはゴミの散らかった部屋だったデチが、テーブルの上にビーカーや蒸気釜があることから実験室だったことがわかったデチ。
本棚もあって、書物がそのまま残されていたデチ。
使える知識を得られるかもしれないので、読んでみるデチ。
何なに『神通力入門』デチね……。
ワタチが夢中になって読み進め、内容が頭に入ったところで、視界の端に黄緑色の触手が見えたデチ。
今のはいったい……?
よく見ると、部屋の角にガーディアン・デーモンが実体化しようとしているデチ!
確か、ちょうど今読んでいた本に、こういう時の呪文が書いてあったデチ!
ワタチは、神秘の言葉による呪文を唱え、デーモンがひるんだすきに、部屋から逃げ出す方法を探したデチ。
すると、床に金の輪っかが一つだけついているのを見つけたデチ。
これは、秘密の出口っぽいデチ!
ワタチは、すぐに金の輪っかを引っ張ったデチ。
たちまち床に仕組まれた落とし扉が口を開けたので、ワタチはそこへ勢いよく飛び込んだデチ。


8:小賢しき寝室

落とし扉の先は、寝室だったデチ。時の流れで傷んでいるけど、調度品などの豪華さからして、この館の主だったヴァニング卿の寝室だったようデチね。
ワタチが寝室を見回していると、ベッドから奇妙な光が放たれたデチ!
気がつくと、ベッドの上に横たわる、若くて美しい女性が現れたデチ。
「わらわは、シャーロット・ヴァニング夫人ぞ。そなたはわらわを救うてくれるかえ?」
救ってほしいということは、彼女は〈ヴァニング荘園〉で起き続けている不吉な出来事の原因をもっとくわしく知っているかもしれないデチ!
だったら、引き受けて原因究明をするにかぎるデチね。
ワタチの答えは決まったデチ。
「お救いするデチ。だから、くわしくお話を聞かせてほしいデチ」
レディ・シャーロットは、ワタチが救うと答えると、ベッドから身を起こしたデチ。
すごくやつれはてていて、幽霊なのに病弱そうデチ。
それもそのはずで、彼女によると、50年前にセマージという邪悪な魔術師に夫婦そろって屋敷ごと呪いをかけられてしまい、尊厳ある死を迎えられなかったそうデチ。
「だけど、セマージはどうして〈ヴァニング荘園〉に呪いをかけたのデチか?」
「その問には、わしが答えようぞ」
ワタチの質問に、レディ・シャーロットは答えず、いつの間にかいた若い男の幽霊が答えたデチ。
……いったい、いつの間にいたデチか?
若い男の幽霊は、ヴァニング卿と名乗ってから、この屋敷の下に〈クルウォンスクの大神殿〉が埋まっていたのを知らずに屋敷を建てたせいで、〈飲血者クルウォンスク〉の高司祭セマージに目をつけられてしまったと語ったデチ。
セマージは埋まっている神殿を掘り起こしたいので、立ち退きをしないヴァニング卿夫妻を排除するため、〈ヴァニング屋敷〉周辺に次々に呪いをかけて、〈ヴァニング荘園〉に不幸な出来事が度重なって起こるようになってしまったとのことデチ。
お師匠様が言っていた〈ヴァニング荘園〉で起こる不幸な出来事の諸悪の根源は、セマージだったデチね!
それにしても、セマージのやり方は、まるでたちの悪い地上げ屋のようデチ!
ヴァニング卿夫妻がセマージに復讐したい気持ちがよくわかるデチ!
「この宝箱の中に入っている〈赤のエデュアルクの心臓〉を〈クルウォンスクの大神殿〉の中枢にまで持って行くがよい。さすれば、アミュレットの聖なる力にて、クルウォンスクの邪悪な力のあらゆる残骸を確実に討ち滅ぼす!」
〈ヴァニング荘園〉の不幸な出来事の原因を解決できるし、ヴァニング卿夫妻の無念も晴らせるので、こんないい話はないデチ!
ワタチは〈エデュアルクの心臓〉を受け取ったデチ。
レディ・シャーロットは、ワタチがセマージ退治を引き受けた報償として、250gp相当のダイヤモンドを五粒くれたデチ。
「感謝する!」
そう言って、ヴァニング卿は〈クルウォンスクの大神殿〉に通じる秘密の扉を教えてくれたデチ。
さあ、心して行くデチ!


9:小賢しき礼拝堂

ヴァニング卿は、自分が通れる限界まで案内すると、帰って行ったデチ。
ワタチは、静かに扉を開けて、垂れ下がる綴れ織りをよけてその先を覗いてみたデチ。
どうやら、ここは〈クルウォンスクの礼拝堂〉らしいデチね。
部屋の片方の端にある祭壇の上には、銀の鎖で縛られた若くて美しい女性がいたデチ。
その女性のそばには〈クルウォンスクの信者〉を示す法衣を着た女性がいるデチ。
「呪文詠唱《ニャーゴニャゴニャゴニャオニャンニャン》」(※編注、《変身強制》のことです)
〈信者〉が、秘術の呪文を唱えると、祭壇上の女性が黒猫になったデチ!
いったい、何がここで起ころうとしているデチか!?
ワタチは、息を潜めてこの状況を観察したデチ。
〈信者〉は、黒猫を檻に入れて、別の綴れ織りの後ろにある隠し部屋へ行ったデチ。
もしかしたら、あそこにセマージがいるかもしれないデチ!
ワタチが追いかけていくと、背後からガチャガチャと大きな音がしたデチ。
振り返ったら、クロスボウをセッティングして、いつでも発射できる状態で構える衛兵と思われる男がいたデチ。
時間がかかるクロスボウのセッティングを許してしまうほど、ワタチは隙だらけだったようデチね……。
反省はここまでにして、今は生きのびるために、両手を挙げて無抵抗に振る舞いつつ、様子をうかがうデチ!
「撃たないでほしいデチ!ワタチは、ただの迷子の見習い魔術師デチ!」
無害な見習い魔術師のふりをしても、衛兵は無反応かつ無言、けれども身振りで部屋の中に入れとうながしてきたデチ。
これだと、かつてのお師匠様を相手にペットのフェリッド殺しをごまかし通した実績のある、ワタチの名演技がこいつに通じたのかわからなくて不安デチ……。
礼拝堂の中に戻ると、さっきの〈信者〉が戻っていたデチ。
でも、猫の入った檻は持っていないデチ。
「別の生贄を見つけたのだな。こやつを祭壇に縛りつけよ!」
〈信者〉が衛兵に命じて祭壇に行こうとしてできた隙をついて、反撃開始デチ!
「呪文詠唱《これでもくらえ!》」
これに驚いた衛兵が、クロスボウを落としたところで、すかさず戦闘開始デチ!
前のお師匠様の下で何年もモップがけしてきて、棒状の物の扱いには、なれているデチ!
普通の魔法の杖を鈍器のようにして、衛兵にフルスイングするデチ!
切りつけられたけど、倒せたデチ!
次は〈信者〉にも攻撃デチ!
痛っ!
《これでもくらえ!》が来たデチ!
こちらも負けずに《これでもくらえ!》を唱えるデチ!
……ふぅ。二人とも倒せたデチ。
だけど、だいぶ魔力度も耐久度も減ったデチ……。
うにゅ?礼拝堂の中にまだ扉があるデチよ。
これは、ひょっとしなくても、親玉の居場所に通じているデチか?
ワタチが扉を開けると、長くて下り傾斜がきつい、廊下とは名ばかりのすべり台があっ……足をすべらしたデチィィーッ!!


10:小賢しき大神殿

足をすべらせた数秒後、ワタチは建物の最下部に到達していたデチ。
《鬼火》で辺りを照らして見ると、大きな部屋に通じる廊下にいることがわかったデチ。
あの部屋こそ、ヴァニング卿が教えてくれた〈クルウォンスクの大神殿〉デチね。
アーチ状の高い天井が、いかにも神殿ぽいから、間違いないデチ。
しかし、悪趣味な天井画デチねぇ。
そして、ワタチが入ってきた出入り口の反対側の壁には水晶の玉座があって…うにゃ!皺だらけの人間らしきものが座っているデチ!
あいつこそ、〈黒のセマージ〉デチね!
この手の最終決戦では、親玉がえらそうに話し出して、それを聞き終えたら戦闘開始というのがお約束デチが、こっちはもう魔力度も耐久度もほとんどないデチ。
だったら、〈黒のセマージ〉が話し出す前に、〈エデュアルクの心臓〉を取り出して、とっとと短期決戦するデチ!
いけない、そうこうするうちに〈黒のセマージ〉の口が動き始めたデチ!
語り出す前に、一刻も早く〈エデュアルクの心臓〉を取り出してかざすデチ!
うにゃ!
かざした途端、アミュレットから死語となった呪文が聞こえたと思ったら、いきなり部屋いっぱいに白い光が満たされて、目ェがァ~! 目ェがァ~!
ワタチが目を押さえてもがいていると、玉座からも同じようにもがく音がしたデチ。
セマージも同じように苦しんでいるのはわかったデチが、果たしてちゃんと倒せたのデチかね?
ワタチの不安に応えるように、どこからともなく、ヴァニング卿の声がしてきたデチ。
「そなたはセマージを滅ぼし、クルウォンスクの悪しき力を一掃した。心から礼を言うぞ!」
光が消えたのを感じてから、おそるおそる目を開けてみると、ヴァニング卿が言ったとおり、さっきまでいたセマージが跡形もなく消えてなくなっていたデチ!
「門の近くの樫の木に、素晴らしい宝を隠してある。褒美にそれを進ぜよう」
「ありがとうデチ!」
ヴァニング卿にお礼を言ったそばから、何やら館の中が煙くなってきたデチ。
これは火事デチ!
ワタチは、後ろも振り向かず、一目散に館の外へ飛び出したデチ。
館は、あっという間に全焼してしまったデチ。
…ワタチが放火したと思われなければいいんデチけどね。
そんな心配があったけれど、樫の木の下で待っていた案内人のケッセル・ジョリスは、「この土地の呪いの大元が浄化されたことで館が燃えた」と解釈して、ワタチを放火犯と疑いもしなかったのでよかったデチ!
「では、町までまた案内するべよ」
「その前に、まだやることがあるので、ちょっと待っていてほしいデチ」
ワタチは彼を荘園の外に待たせると、ヴァニング卿に教わった例の樫の木の根元を掘り起こしにかかったデチ。
ケッセル・ジョリスの見ている前で宝を見つけ出したら、料金分の仕事をしなかったくせに報酬の上乗せを要求してきそうなので、一人で掘るのが無難デチ。
館の中で手に入れたダガーをスコップ代わりにし、穴を掘ること10分。
ワタチは、ついに地中に眠っていた3000gp相当の財宝を発見したデチ!
本当ありがとうデチ、ヴァニング卿!
ワタチは、意気揚々と〈年経りしもの〉の至聖所に帰ったデチ。
そこで、一人前の魔術師になった証に、豪華な魔法の杖を授けられたデチ!
やったデチ!
ワタチは、気分よく至聖所の外に出てから、向かいにある掲示板が目についたデチ。
掲示板には、貼り紙があったデチ。

『探しています!
ロバーツ・ホールドのナヌス姫
年齢:若い
特徴:美しい
趣味:廃墟めぐり
備考:先日〈ヴァニング荘園〉近くで失踪しました。お心あたりのある方は、至急ロバーツ・ホールドのロイヤルガード室にご連絡を!』

貼り紙を見るうちに、ワタチの記憶が蘇ってきたデチ。
館の地下にある〈クルウォンスクの大神殿の礼拝堂で、〈信者〉に祭壇で黒猫にされて檻に閉じこめられ、どこかに連れて行かれた若くて美しい女性……。
館が火事になったので、後ろも振り向かず、一目散に外へ飛び出したワタチ……。
瞬く間に火の手がすべてにまわり、焼けてもろく崩れ落ちていく館……。
……。
……。
いけない!
姫を助けそびれたデチーッ!!

ワタチの声にならない叫びは、天まで高くこだましたのデチた……。

(完)

 

※齊藤飛鳥さんの新作「弔千手」が、「ミステリーズ!」Vol.101に掲載されています。
「どうすれば大姫は遠く離れた場所にいても、父・源頼朝の話の内容を言い当てることができるのか?「屍実盛」続編!」

ミステリーズ! Vol.101

ミステリーズ! Vol.101