児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる「猫のいぬ間に」リプレイ

 絶好調の齊藤飛鳥さんによる『コッロールの恐怖』リプレイですが、今回は表題作とカップリングで収められた「猫のいぬ間に」のリプレイになります。まさに抱腹絶倒といった塩梅ですが、同じく齊藤さんの『傭兵剣士』リプレイシリーズと一緒に、お楽しみいただければ幸いです。

 

『見習い魔術師たちのトラジコメディ』
~『猫のいぬ間に』リプレイ~

著:齊藤飛鳥

 ☆フェリッドの語り☆

ケチな魔術師の使い魔をしていて何が楽しいかって?
そりゃあ、あいつの弟子である見習い魔術師どもを観察することさ。
例えば、最初の弟子の見習い魔術師は、こんな奴だった。


Case1~〈魅力溢れし〉モーティマー~

やあ、僕は〈魅力溢れし〉モーティマー!
黒髪と黒い瞳が特徴で、魅力度17のイケメン見習い魔術師。種族は、人間。レベルはたったの1さ。ハハ!
お師匠様がつけてくれた二つ名は〈顔だけ男〉だったけど、センスを感じられないから自分で考えた二つ名の〈魅力溢れし〉の方を魔術師組合に届けておいたよ!
今日は、お師匠様がお留守だから、お城の普段は行けない所を探検するぞ!
ハハ! まずは東の廊下の奥の部屋を探検だ!
中には、いったい何があるのかな?
ハハ!入ってみたら、辺りに満ちる魔力が一気に上がった!
左側にカーテンのかかった部屋があるから、ちょっとのぞくか!ハハ!
これはすごい!
部屋の中に、クリスタルでできた建物がある!
詳しく見てみよう。
風呂かサウナかな……おや?中に入れるぞ!
さっそく入ってみよう。ハハ!
床のタイルがすべりやすいから、転んじゃったよ!
鋭い金属の柱にぶつかっていたら、大怪我どころではすまなかった!
あれ?
いつの間にか、外にフェリッドがいるぞ?
何をし……グワアァァーッ!!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛…。


~Case1:End~


☆フェリッドの語り☆

ヒャッヒャッヒャッヒャッ!!
今思い出しても、モーティマーの最期は傑作だったぜ!
見習い魔術師ってのは、どうしてああもマヌケなのかねぇ!
さて、モーティマーの死は、皮むき器に自分から入った不慮の事故として片づけられた。
それから、あのケチな魔術師は、新しい弟子を見つけてきた。
それが、これから話す二人目の見習い魔術師さ。


Case2~〈か弱き〉オズワルド~

我が名は、〈か弱き〉オズワルド。
耐久度が3と、極端に低いため、我が師サーバルドによって、この二つ名をつけられたエルフの見習い魔術師。
髪は金髪、瞳は緑だ。
我が二つ名の付け方から推し量れるように、サーバルドは唾棄すべき人物である。
そこで、我はかの悪漢へのささやかなる叛逆として、今まで行ったことのないサーバルドの書斎に向かった。
書斎は、長くて脆そうな螺旋階段の頂点に懐かれていた。
この螺旋階段、初めこそ大工の腕を疑ったが、どうやら我が師の悪意を反映したものらしい。
すなわち、侵入者を拒む罠だ。
ここは引くか、否か?
否に決まっている。
書斎に行き、あの唾棄すべき悪漢サーバルドを倒す呪文の一つや二つを手に入れるまで、我は決して引かぬ!
だが、我を嘲弄するかのごとく、螺旋階段の揺れはますます大きくなる。
ついに、我はふり落とされてしまった!
そんな!
書斎まで、あと三段だったのに…!!
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…!!


~Case2:End~

 

☆フェリッドの語り☆

あひゃひゃひゃひゃひゃ!
螺旋階段の頂上付近から落ちたオズワルドときたら、バラバラのグチャグチャだったぜ!
転がり出た眼球を試しになめてみたら、けっこう美味だったね!
これは、家庭内の不幸な事故として処理された。
ただし、オズワルドの右目だけは行方不明だったんとよ。怖いねぇ。
そして、こりずに魔術師の奴は、三人目の見習い魔術師を弟子にした。
それが、これから話す奴のことさ。


Case3~〈小賢しき〉ビストロウシュカ~

ワタチは、〈小賢しき〉ビストロウシュカ。狐色の髪と狐色の瞳をした見習い女魔術師デチ。
二つ名の由来は、種族がいたずら好きなレプラコーンだからという、差別と偏見に満ちたものデチ。
今日は、そんな因業じじいなお師匠様が留守のすきをついて、いつも奇妙な物音がするダンジョンに行ってみるデチ!
ダンジョンのドアの前に立つと、あの奇妙な声がいつもより大きく聞こえて怖いデチ!
でも、だからこそ、行きたくなるデチ!
うまい具合に、ドアには魔力も鍵もかかってないから、ダンジョンに入る好機デチ!
中はとっても暗くて、奇妙な声は泣き声から悲鳴に変わって、最後は小さなつぶやきに変わったデチ!
暗くて心細いから、《猫目》の呪文を使うデチ。
ダンジョンの奥へ進むと、廊下が二手に分かれていたデチ。
怪しい音が聞こえるのは右だけど、左の方がダンジョンの奥へ進めそうだから、左にするデチ。
左の通路を歩いて行くと、大きな魔力を感じる赤い絹のようなカーテンがあったデチ。
これは危なそうだから、引き返すデチ。
うにゅ!? ワタチのすぐ後ろにフェリッドがいるデチ!
しかも、ワタチをここにとどめたデチ!
こいつめ、魔法でとっちめてやるデチ!
《猫目》の呪文ですでに魔力度を消耗しているから、ここは残りの魔力度で唯一唱えられる《いっちまえ》を使うデチ!
「ギニャー!!」
呪文はきれいに決まり、フェリッドは死に物狂いで逃げていったデチ。
おかげで、ワタチはダンジョンを出て、モップ掃除に戻れたデチ。
それから、数日後。
お師匠様が帰ってきたデチ。
今まで、お師匠様のベッドの下に隠れていたフェリッドは、そそくさと出てきて、お師匠様に甘えるデチ。
ワタチを見て「ダンジョンのことは秘密にしてくれよ?」と言いたげなウィンクをしてきたので、笑いをこらえるのが大変だったデチ!
さあ、次にお師匠様がお留守にされるときは、何をするか今から考えておくデチ!


~Case3:End~


☆フェリッドの語り☆

くやしい!
くやしいくやしいくやしい!
このフェリッド様ともあろう者が、見習い魔術師にしてやられるなんて!
あの魔術師野郎がつけた二つ名どおり、なんて小賢しいんだ!
こんなの、ちっともおもしろくねえ!
こうなったら、とことんビストロウシュカを付け狙ってやるぜ!


~Case4:〈小賢しき〉ビストロウシュカ再び~

今日もまた、お師匠様がお出かけになられたすきに、ダンジョンを冒険するデチ!
この前は、ダンジョンの左の廊下に行ったから、右の廊下に行って、奇妙な声の正体を突き止めるデチ!
はりきって、ワタチはダンジョンに入ると、右へ曲がって、奇妙な物音がする方向をたどったデチ。
そこにいたのは、レプラコーンのワタチと同じくらい小柄な体格をした、茶色い毛むくじゃらだったデチ。
「困りますよ、お嬢さん。あなたが逃げてくれないと、私が大変な目に遭うんです」
毛むくじゃらは、奇妙なことを言い出したので、ワタチは詳しく話を聞いてみたデチ。
毛むくじゃらの名前は、インシ。
お師匠様に雇われて、ダンジョンに不法侵入者が入らないように、奇妙な物音を出す仕事をしているとのことデチた。
ワタチが、不法侵入者ではなく、お師匠様の弟子だと知ると、インシは安心したデチ。
それから、ワタチを自宅に招待してくれて、一緒にトランプで遊んだデチ。
そこで、ワタチは、銅貨30枚を稼いでから、モップ掃除に戻ったデチ。
冒険したおかげで、友達ができてよかったデチ!
またお師匠様がお留守にしたら、どこを冒険するか考えるのが、今から楽しみデチ!


~Case4:End~


☆フェリッドの語り☆

「よかったデチ」じゃねえよ!
何を無事に帰ってきているんだよ、てめえは!
しかも、銅貨30枚を稼いで帰ってきてやがる!
無言の帰宅を果たして、俺を喜ばすって気遣いはねえのか!?
こうなったら、ビストロウシュカをダンジョン以外に行くように仕向けるしかねえ。
俺は、モップ掃除をするビストロウシュカに、さりげなく東の廊下の奥にある秘密の部屋のことを話してやった。
ビストロウシュカは、無関心を装っていたが、狐色の瞳がキラリと光ったのを俺は見逃さなかったぜ!
ウェヘヘ!
こいつは、次の冒険が楽しみだぜ!


~Case5:〈小賢しき〉ビストロウシュカみたび~

待ちに待ったお師匠様がお留守にされる日が来たデチ!
今日は、東の廊下の奥にある秘密の部屋に冒険してみるデチ!
立ち入り禁止の札がかかっているけど、たからこそ入る価値があるのデチ。
中に入ったら、90㎝はある醜いドワーフの像があったデチ。
ワタチは身長60㎝なので、ちょうどドワーフ像の手と、その手にある瓶と目線が合ったデチ。
もしかしたら、お師匠様の大好物のフルーツジュースかもしれないデチね。
ちょっと飲んでみるデチ!
うにゃ!
耐久度が1上がるおいしさデチ!
いい気分になったところで、カーテンのかかったドアのある部屋を見に行ってみるデチ。
クリスタルの建物と台座が置いてあるデチね。
すぐに調べられそうだから、台座を調べてみるデチ。
台座は、ワタチと同じ60㎝。突起がたくさんあるデチ。
おもしろそうだから、押してみるデチ!
あれ? クリスタルの建物のドアが閉まってしまったデチ!
他の突起を押したら、元に戻る……と思って、色々と押したら、色々とクリスタルの建物の中が動いたデチ!
やっと元通りにドアが開いて中に入れるから、入ってみるデチ!
中には、金属が柱があったデチ。
もっとよく見ようと思ったら、いつの間にか来ていたフェリッドが、台座の突起を押して、クリスタルの建物のドアを閉め始めているデチ!
ワタチは、急いでドアを目指して走ったデチ。
ドアにはさまりかけた時、フェリッドがニヤリと世にも楽しげに笑ったデチが、何とか外に出られてよかったデチ。
ヒヤリとさせられたから、今日の冒険はここまでにして、モップ掃除に戻るデチ!
それからしばらくして、お師匠様が帰ってきたので、フェリッドもワタチも、何食わぬ顔で、お迎えしてやったのデチた。


~Case5:End~


☆フェリッドの語り☆

あと……あともう一歩のところで、ビストロウシュカを皮むき器にかけられたのに!
しかも、師匠のジュースをつまみ食いして肌つやよくなっているんじゃねえよ!
せっかくあいつの死にゆくさまを楽しもうと思っていたのに、とんだ番狂わせだぜ!
何なの、あいつ!?
幸運度8だが、測定不能の強運に恵まれすぎだろう!?
こうなったら、お次は書斎に誘導してやるぜ!
俺は肉片になったビストロウシュカを思い浮かべる。
それから、無心にモップ掃除をしている風のビストロウシュカに書斎の話を吹き込んでやった。
ビストロウシュカは、気のない相づちを打っていたが、耳がピクピクと小刻みにうごめいていたので、しっかりと興味を抱いたようだ!
これで、次の冒険のビストロウシュカの行き先は、書斎に決定だ!


~Case6:〈小賢しき〉ビシュトロウスカよたび~

待ちに待ったお師匠様の外出日が来たデチ!
今日は、書斎を冒険するデチ!
とても揺れる階段だけど、負けないデチ!
うにゃ!ふり落とされたけど、空中でもがいたおかげで、何とか階段に戻れて助かったデチ!
ふぅ……死ぬかと思ったけど、やっと階段を全部登りきったデチ。
これが書斎のドア?
気味悪いデザインだし、鍵がかかっているみたいデチね。
でも、大丈夫!
ワタチは、レプラコーンの乙女なら誰でも持っているお守り、別名針金を持っているデチ。
こうして、鍵穴につっこんでから、一度抜いて針金の先を微妙に曲げて、また鍵穴に入れて一回転。
やった、開いたデチ!
うわぁ、書斎の中には本だけではなく、怪しい物がたくさんあるデチ!
まずは、エルフの頭蓋骨を見てみ……しゃべったデチ!?
頭蓋骨さんと話すのは生まれて初めてなので、おしゃべりをしたら、お師匠様の秘密や、この書斎で調べ物をする場合の助言をポエム仕立てで教えてもらえたデチ。
何か最後の方に水晶と言っていたから、水晶を見てみるデチ!
うにゅ? 水晶の中にだんだん映像が見えてきたデチ!
おいしそうな果物!
レプラコーンサイズの使いやすそうなモップ!
良識のあるお師匠様!
友好的なフェリッド!
そしてそして、ワタチの理想のタイプの美しい男性がいるデチ!
あまりにも強く深く大きく美しいデチ……。

……いけない、意識が一瞬天国に到達しかけたデチ。
ワタチが水晶の中で見たもの……あれは何だったのデチ?
何か「貴様、見ているな!」と美声で言われた気がする……と思いをはせるうちに、知性度が1上がったデチ!
ちょっと賢くなったところで、次は本を読んでみるデチ!
ページがベタベタして読みにくいけど、何とかページを開けたデチ。
きれいな挿絵や飾り文字の本デチね。
うにゅにゅ!
呪文《治療》を覚えられたデチ!
こんなに早く呪文を習得できるのに、ワタチに雑用ばかりさせているとは、やっぱりあの因業じじいが本当に必要としているのは雑用係で、弟子ではないんデチね……。チッ。
むしゃくしゃしたから、カーテンをめくって中に何があるか見てやるデチ!
うにゃ!なんてきれいなステンドグラスの窓!
この窓の向こうには、どんな景色が広がっているんデチ?
「あらあら、かわいらしいお客様なこと。あなた、サーバルドの弟子ね?どうぞ、こちらへ来てわたしとお茶を飲まない?」
上品な赤毛の美女が、窓の向こうからワタチに語りかけてきたデチ!
因業じじい、こんな美しい女性を隠しているとは、助平じじいでもあったデチね!
さっきから、ワタチの中でどんどんお師匠様に対する評価が下がっていっているから、遠慮なく彼女のお誘いに乗るデチ!
ワタチは窓をくぐり抜け、彼女と一緒に楽しいティータイムをすごしたデチ。
久しぶりに同性と話せて、楽しかったデチ。
なので、ワタチは彼女が出した「酔っ払っていると好人物で、酔いが覚めると凶悪な岩悪魔について、どちらが彼の本性だと思う?」という話題に、もっと話を盛り上げようと、賢明ぶって「ランプに油を入れて火を灯そうと、油が切れて火が消えようと、ランプである本質に変わりがないように、どちらも岩悪魔の本性デチ」と答えたら、とてもほめられたデチ!
「とても賢いあなたに、わたしから提案があるの」
彼女は、わたしの頭をなで始めたデチ。
……このなで方、お気に入りのお人形さんやぬいぐるみをなでる時の手つきと同じデチ。
さては、レプラコーンのワタチがお人形さんぽいから、気に入ったみたいデチね。
サーバルドは、知ってのとおりケチな男でしょう?  だから、わたしからあなたへ呪文を教えるわ」
「ありがとうデチ!」
こうして、ワタチは《翼》の呪文を習得できたのデチた。
彼女と別れ、窓から書斎に帰って、お師匠様にばれないように、きれいに元通りにしたことだし、そろそろモップ掃除に戻るとするデ……チ……。
「よう、ビストロウシュカ」
書斎を出ようとドアを開けたら、フェリッドが待ちかまえていたデチ!
なんで、殺意と敵意を帯びた笑みを浮かべて、ワタチを見ているデチか!?
きっと、何かに腹を立ててご機嫌斜めなだけかもデチ。
機嫌がよくなるまで、待ってみるデチ……と思ったら、フェリッドの方が噛みついてきたデチ!
この噛みつき方、ワタチを殺す気デチ!!
「痛いデチ!なんで、ワタチに攻撃してくるデチか!?」
ワタチは、必死になってフェリッドに尋ねたデチ……。


☆フェリッドの語り☆

階段から落ちても、途中の手すりをつかんで無事。
書斎に入ってから、色々と魔法のかかった物をいじくりまわったのに無事。
しかも、呪文を二つも習得したし、知性度も上げてきやがった。
ビストロウシュカ。
どんだけおめえは俺を楽しませる気がないんだよ!?
どうして死なねえんだよ!?
おめえが生きている限り、こんなにつまらねえ気持ちを抱えこむなんざ、まっぴらごめんだ!!
死ね!!
そうしたら、あの魔術師野郎は、新しい弟子を取る!
俺は、ビストロウシュカに思いきり噛みついた。
「痛いデチ! なんで、ワタチに攻撃してくるデチか!?」
必死こいて叫ぶビストロウシュカ。
やっと俺を楽しませてくれたぜ!
だが、急所に今一歩とどかなかったせいで、ビストロウシュカはまだ生きていやがった。
そうは言っても、死ぬのは時間の問題だ。
さあ、ゆっくりいたぶってやるぜ、ビストロウシュカ!
「呪文詠唱《これでもくらえ!》」
二つ名どおり、小賢しい奴だ!!
だが、今の俺より、おめえの方がダメージが上だ!
とっとと、とどめを刺してやるぜ!
「呪文詠唱《これでもくらえ!》」
なにぃ!?
こいつ、まだ呪文を唱えられたのか!?
しくじった!
さすがに二度もあの呪文を食らうのは、やばい!
俺は、見習い魔術師どもが出演する悲喜劇の演出家かと思っていたが、俺もまた出演者にすぎなかっ……!
……
……
……

~フェリッドの語り:End~
~Case6:End~


~エピローグ~

なんて惨状デチ……。
そこら中に散らばる血まみれの青い毛皮と肉片と骨片を、ワタチは愕然としながら見たデチ。
これまでの冒険でためていた冒険点で、魔力度を上げてなければ、ワタチがこんな姿になっていたかもしれないデチ。
そうは言っても、やりすぎたデチ……。
ワタチにはいけすかないフェリッドだったとは言え、お師匠様にとってはかわいい使い魔だったデチ。
それを殺してしまったなんて……。
……。
……隠蔽するしかないデチ!
ワタチは、モップを取ってきて、フェリッドの残骸を片づけ、床や壁をきれいにふきとったデチ。
そして、フェリッドの死体を袋にしまうと、急いでダンジョンのインシを呼んだデチ。
ワタチは、インシにすべて正直に打ち明けると、深々と頭を下げたデチ。
「インシ、ワタチが持っている全財産をあげるから、こいつの死体を始末するのを手伝ってほしいデチ!」
インシは、ワタチの肩に優しく手を置いてくれたデチ。
「顔を上げてください、ビストロウシュカ。私は常々サーバルドもフェリッドも気に食わなかったので、ちょっとした仕返しをしたいと願っていました。……フェリッドからは、よく胸の悪くなる話を語り聞かされていましたからね……」
インシは、苦々しげに顔をしかめたデチ。
「ビストロウシュカは、私に彼らへの仕返しの材料を提供してくれたのです。だから、全財産なんかいらないです」
インシは、心の底から嬉しそうな笑顔を見せたデチ。
「いいですか、ビストロウシュカ。その代わり、私の言うとおりにして下さい」
インシは、ワタチにとてもよいアイディアを授けてくれたのデチた。

数日後。
「帰ったぞ、ビストロウシュカ。モップ掃除はそこまでにして、食事の用意だ」
「もう用意できているから、ただ今よそるデチ」
ワタチは、お師匠様に具だくさんのシチューをよそったデチ。
「悪くない味だ。ところで、ビストロウシュカ。ワシのかわいいフェリッドはどこか知らんかね?」
お師匠様は、シチューを食べながら、部屋の中にフェリッドの姿を探し求めるデチ。
ワタチは、インシに教わったとおり、こう答えたデチ。
「『ダンジョンを制覇する』と、ダンジョンに入ったきり、かれこれ三日も帰ってこないんデチよ。ワタチも心配で心配で……」
ダンジョンの赤いカーテンの前に、ワタチとインシが協力しあってフェリッドの血まみれになった青い毛皮をばらまいておいたことを、ワタチはおくびにも出さなかったデチ。
「何だと!? それはいかん!! シチューを食べ終えたら、すぐにダンジョンへ行かねば!!」
お師匠様が、シチューを食べるペースが上がれば上がるほど、お師匠様とフェリッドとの永遠の別れが加速していくデチ。
そう言えば、次にお師匠様がお留守にされたら、インシがカードマジックを見せてくれると言っていたのを思い出したデチ。
今から、待ち遠しいデチ!

(完)

子ども食堂 かみふうせん

子ども食堂 かみふうせん

 
屍実盛

屍実盛

 

※歴史ミステリの『屍実盛』は、また一味違った齊藤飛鳥さんの顔が窺える作品です。平家物語で描かれる武家の苦悩に、首のない死体の特定という「本格」要素が重ね合わされ、新たな「謎」が生み出されるのが新鮮です。時代のコード、ということにこだわりがあり、それが二重、三重になっていく点にも興趣があります。この方法をヒントに、中世騎士物語で創作的応答もできそうですね。