児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる「無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中」リプレイ

子ども食堂かみふうせん』の作者・齊藤飛鳥さんの連載第3回は、『傭兵剣士』に収録されている「無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中」第1話のリプレイとなります。

 

『屈強なる翠蓮とシックス・パックの珍道中』
~『無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中』リプレイ~

著:齊藤飛鳥 

傭兵剣士 (T&Tアドベンチャー・シリーズ7)

傭兵剣士 (T&Tアドベンチャー・シリーズ7)

 

 

 0:屈強なる目覚め

あたしの名前は、えーっと……〈屈強なる〉翠蓮。
思い出すのに時間がかかったのは、知性度9のせいだからじゃないヨ。
頭と全身の節々が痛いせいネ。
で、あたしの目の前にいる、ごついあんたは誰サ?
「忘れちまったのか、相棒?俺様は岩悪魔のシックス・パックだぜ」
ここで、シックス・パックの熱い武勇伝が始まった。
体力度11、耐久度16、器用度9、速度14という体力値で、幸運度12、知性度9、魔力度12、魅力度13という精神値の、よーするに「魔力の才能はそこそこあるけど知性が足りないし、耐久度が高いから戦士になった」人間の女戦士(18)を見かねて魔法の契約を結んだナイスガイ岩悪魔の笑いあり涙ありの武勇伝だった。
知性度9のあたしだけど、シックス・パックの話は9割引きで聞いとくヨ。
最初の旅の仲間だったエルフの魔術師〈幸薄き〉ジークリットちゃん言わく、悪魔と魔術師組合のお偉方の話は誇張ばかりだからネ。
そーいや、ジークリットちゃん、元気かな?
あたしは、一番上の兄ちゃんが冒険から連れ帰って来た5人の花嫁と結婚したおかげで、祖父母の介護から解放され、冒険者として復帰できたから元気だけどサ。ジークリットちゃんは、どーしてるかな?
「おい、翠蓮。心の声が口に出ているぜ?」
マジ?
「マジだぜ。ちなみに、〈幸薄き〉ジークリットだが、俺様も前に一緒に冒険したから知っているぜ。魅力度15のいい女エルフだった。だが、運悪くドワーフの野郎に騙されて、ガレー船の奴隷として売り飛ばされちまった」
〈幸薄き〉の二つ名がシャレになってないヨ、ジークリットちゃん!!
「おいおい、今は遠い海のどこかにいるジークリットより、目の前にいる俺様に同情してくれよな」
そう言って、シックス・パックは〈黒のモンゴー〉に大切な魔法のビール樽を奪われたこと、ついでにあたしらがどこかに飛ばされたことを教えてくれた。
もしかして、モンゴーの塔の地下迷宮を探索する傭兵が二度と帰って来ないのは、毎回こういう一悶着があるからなんじゃ……?
知性度9のあたしの疑惑だから、違うかもしれないけどサ。
で、今あたしらが飛ばされたのはどこヨ?
辺りを見回すと「カサールの街」という標識が出ていたので、現在地がすぐにわかった。
金貨一枚しか残ってないけど、シックス・パックの叔父さんが酒場をやっている街だから、食事と寝る所には困らないみたいだし、 ついているネ。


1:屈強なるトロールの脳漿亭

あたしらは、まっすぐにシックス・パックの叔父さんが経営する〈トロールの脳漿亭〉に向かった。
そこで、素寒貧だから新しい冒険の仕事をしたいと言ったら、シックス・パックの叔父さんは奥にいるファビュラスな雰囲気の人間の姐御を紹介してくれたヨ。
彼女の名前は、ジーナ。名字は長いから覚えられなかったネ。
ふむふむ、甥っ子と姪っ子が〈赤の魔術師〉の迷宮に行ったきり帰って来ないから、心配だとか……イタッ!! 突然飛んできた椅子が背中にぶつかって、ダメージ3を食らったヨ!
でも、ジーナは気にせず、話を続けたネ。
甥っ子の名前は、ソーンで、姪っ子の名前は、ローワン。それぞれの特徴と事情を詳しく教えてくれた。
報酬の話になったら、不意にジーナが流し目を送ってきたヨ。
最初に予定していた報酬よりも倍額にしてくれたのは、個人的にあたしを気に入ったからみたいネ。
身長150㎝、体重45㎏の黒髪色白黒目ロリ体型の良さがわかるとは、ジーナはお目が高いヨ!
酒を酌み交わすうちに、シックス・パックの叔父さんがビールを5本も奢ってくれたネ。
何か少し飲みすぎたから、そろそろ部屋に戻って休むヨ……。
……あれれ?夜中に誰か来たと思ったら、ジーナだヨ。
しーって、どーいうこと……?
マジで、どーいうことォォーッ!?
……。
……フゥ。
色々と新鮮な驚きと言うか、未知の領域に片足どころか、両足突っこんじゃったヨ!


2:屈強なる旅立ち

次の日の朝、旅立ちの前にジーナの姐御が旅に必要な装備を奮発してくれた。
中でも、シックス・パックが喜んだのは荷車いっぱいの酒樽だった。
この酒樽がからになる前に、早いところダンジョンを目指した方が得策ネ。
と、言うわけで、あたしらは、直接ダンジョンに向かった。
この間7日間。モンスターに一度も出会わずに済んだのは幸運だったヨ。
ダンジョンは、山の上にあるから、酒樽を乗せた荷車は運べないヨ。どこかに隠さないとならないネ。
よし、うまく隠せたヨ。
さあ、山登りを始めるネ。
幸運度が12あるから、楽勝大成功だったヨ!
ダンジョンの入り口は、元は天然の洞窟だったのが、悪趣味に赤く塗りたくられていた。
正面突破するか、知性度を使って周囲を調べるか、迷った結果、あたしの知性度だと失敗する確率が高いから、正面突破することにした。
洞窟に入ったら、人工的な造りで驚いたけど、いきなり悪魔に会ったのもびっくりしたヨ。
“見えざる悪魔”のリッペルという声だけの悪魔だったけどサ、色々と情報くれたし、耐久度も一時的に5くれたけど、なーんか恩着せがましい感じがして、複雑ネ。
シックス・パックも、気に食わないみたいに、酒をがぶ飲みしていたしサ。
あたしらは、さっさと先を急いだ。


3:屈強なる迷宮レベル1

長い階段を下りると正方形の部屋があって、東西南に行ける扉がついていた。
シックス・パックはどれも行きたそうにしているけど、ちょっと待つネ。
南の扉はガタついて何度も人が使った形跡があるみたいだから、ここが一番安全な扉かも。
あたしは、南の扉を開けた。
すると、細長い通路が、さらに南へと続いていたヨ。
幸いモンスターに出会わず、南の通路のその先の扉を見つけたので、開けた。
そこは、グリム……グリス……グリッスグリム・ドワーフという知性度9にはきつい名前の連中が酒盛りをしている真っ最中ネ!
酔っ払いドワーフに、こちらのアル中岩悪魔が喧嘩を売ったから、さあ大変、戦闘開始ヨ!
襲いかかってくるドワーフの数は二人。後のドワーフ達、酔いつぶれているから戦えないみたいネ。
速度14を生かして、奴らを通路に誘き出して、こっちが優位に戦えるようにしたから、これで勝てる!!
こうして、ドワーフ達を倒すと、金貨が6枚手に入った。やっていることが、居酒屋のチンピラそっくりだけど、シックス・パックはチンピラそのものだから、かまうことないネ。
ところで、トロールは巻物を持っていた。
でも、入り口で話しかけてきた“見えざる悪魔”リッペルとの約束を思い出したヨ。
このダンジョンで宝物を入手しても、帰りに入場料としてあいつに支払わないといけない約束ネ。
だったら、重量点減らしてまで、巻物を手に入れる必要はないヨ。
部屋には、南に続く扉があるので、あたしらはそこへ開けてみた。
Y字路になっていて、突き当たりに扉がある。
シックス・パックが確認したら、冷や汗を垂らして嫌がった。
こいつは大口野郎だけど、命に関わることには嘘をつかない正直野郎だから、開けるのはよしとくヨ。
かと言って、北の扉を開けると、またドワーフ達が酒盛りしている部屋に逆戻り。
それは嫌だから、知性度9でも果敢に周囲を調べるネ!
およよ、失敗ヨ。
L字型の通路に出たけど、ぐねぐねした細い通路を通ったら、今度はT字路に出たネ。
東からパタパタという音がして、西は丸きり音がしないとなると、北はどーなっているのサ?
あたしが北へ進むと、ダンジョンの裏口だった。
こんなに簡単に裏口が見つかっていいネ?
呆れていると、レッド・キャップ4体が現れた!
何とか倒して、金貨11枚を手に入れた。
それから、西へ進むと、さっき来たL字型の道に出た。いい機会だから、また知性度を使って挑戦してみるネ!
よし、今度は成功したヨ!
あたしは、隠し扉を見つけた。


4:屈強なる迷宮レベル2

隠し扉を開けると、螺旋階段が地下へとのびていた。
ポンコツなせいか、下りるたびに、グラグラと揺れるヨ!
知性度と並んで低い器用度で、持ちこたえられるか、頑張った結果、どうにか持ちこたえられたネ!
下りたら、北に扉があって、シックス・パックが大丈夫だと保証してくれたから、開けてみた。
そこには、見るからに罠くさい魔方陣が描かれていた。
これは避けるに限るヨ。
器用度で回避をしてみたら、今度は失敗!
避けきれず、うっかり魔方陣を踏んでしまったネ!
たちまち、私もシックス・パックも、加齢臭くさい部屋……じゃあなかった、次元の狭間にある〈赤い魔術師〉の事務所に送りこまれてしまったヨ!
おや、どこかで見覚えある黒いローブの魔術師のおっさんと、赤いローブの魔術師のじじいが、何か言い争っているネ。
シックス・パックは、黒いローブの魔術師のおっさんは、あの〈黒のモンゴー〉だと言ったので、あたしはようやく思い出せた。
魔法のビール樽をモンゴーに奪われた腹いせに、モンゴーの戦利品をちょろまかそうと、シックス・パックが言い出したけどサ。
冷静に思い出すネ。おまえ、モンゴーにしてやられたから、魔法のビール樽を取られたんだろ?ここで戦利品ちょろまかそうとしたのがバレたら、またどこかに飛ばされるヨ。
「前は前、今は今だろう、相棒?」
「うるせえ。言うこときかねえと、てめえの大好物の酒をケツから飲ませてやるネ」
相棒の誠意ある説得にシックス・パックが納得したので、あたしらはそっと魔方陣に乗った。


5:屈強なる酔っ払い

方陣に乗ると、部屋の端に到着した。
北側の奥に狭い通路が口をあけている。
その先はワイン蔵になっていて、ジーナの姐御が言っていたソーンとローワンの特徴とぴったりの若い兄妹がいたヨ!
ジーナの姐御のおかげで、おまえ達は他人とは思えないネ。ジーナの姐御の甥っ子姪っ子なら、あたしの甥っ子姪っ子だァァーッ!! 今、助けに行くヨ!
「なに、おめえのテンション!? どうしちまったんだよ!?」
シックス・パックが珍しくツッコミを入れてきた。
「ソーンとローワンを見張っているアンフィスバエナが見えてねえのか!?」
シックス・パックが指差したのはワイン蔵の前の暗がりだ。
よく見ると、赤い目をした巨大な双頭の蛇と目が合ってしまったネ!
これで、戦闘開始!
激闘の末、アン……アンチョコ……アンフィスバエナという知性度9にきつい名前のモンスターを倒すことに成功した。
ソーンとローワンを助け出し、ジーナの姐御の名前を出したら、二人ともあたしらは敵ではないとわかってくれて、仲間に加わった。
シックス・パックは、ゲットした赤ワインを「エルフくさい」を連呼しながらおいしそうに飲んでいた。
エルフくさいとはどんなにおいなのか気になったので、シックス・パックに訊いてみた。
「エルフくさいってのは、例えるなら、春の訪れを告げるかのごとく、白銀の雪原にそよぐ南風のようなにおいだぜ」
こいつ、ソムリエかヨ!
シックス・パックの知性度があたしよりも高かったことを思い出して、ちょっぴりやるせなくなりながら、あたしらは魔方陣の部屋を抜けようとした。


6:屈強なる結末

部屋を抜けようとしたまさにその時、魔方陣から五人の“赤いローブの僧侶団”が現れやがったヨ!
でも、大丈夫。
ソーンとローワンが仲間に加わっているから、こちらも四人ネ!
時間はかかったし、ちょっとあたしが死にかかったけど、見事に勝利ヨ!
元来た道を遡って入り口に出られれば、この冒険は終了ネ!
あたしらは、無事に遡って、ダンジョンを出ることができた。
出る時、約束通りに“見えざる悪魔”リッペルに、入場料として金貨2枚を払った。
「ダンジョンを冒険したのに、これっぽっちしか金貨を入手してないでヤスかァァーッ!?」
「ゲットできたの、金貨17枚だから、正確には1.7gpが入場料ネ。釣り銭3spよこせヨ」
「何でふてぶてしいんでヤスか、この人間は!?」
「おめえも悪魔なら、信義よりユーモアを重んじて、つべこべ言わずに釣り銭を払えよ」
「これのどこにユーモアがあるでヤスか!?」
「ユーモアは説明したら、ユーモアじゃなくなるネ。ほら、さっさと釣り銭よこせヨ」
こうして、入場料をきちんと払い、釣り銭もしっかりともらったあたしらは、山を下りた。
そして、ふもとに隠しておいた酒樽を乗せた荷車も回収した。
「会いたかったぜ、酒樽ちゃん!!」
最愛の恋人との再会を果たした時よりも熱烈にシックス・パックは荷車の酒樽に飛びついた。
ここから、また7日間。途中、徘徊するスライム・ミュータントとか言うモンスターに出くわしたけど、ソーンとローワンの攻撃でほとんどやっつけられたから楽勝だったヨ。
知性度9を使って、スライム・ミュータントの体内に残っていると言われる宝石を探したけど、見つからなかったネ。
そんなこんなでカサールの街に到着すると、ジーナの姐御がソーンとローワンと感動の再会を果たした。
あたしとシックス・パックは、ジーナの姐御から約束通り報酬を受け取り、仲良く山分けした。
報酬の多さに、ソーンとローワンはびっくりしていたけど、ジーナの姐御が「翠蓮と私は他人ではないの」と説明したら、おとなしくなった。たぶん、納得したネ。
人助けもできたし、報酬も得られたし、恋人もできたし、とっても、いい話ネ!
これだから、冒険者は三日やったらやめられないヨ!

 

子ども食堂 かみふうせん

子ども食堂 かみふうせん