東雅夫×下楠昌哉編『幻想と怪奇の英文学IV』に「E・F・ベンスン、拡散と転覆のオブセッション―「塔の中の部屋」および「アムワース夫人」を中心に」を寄稿

 東雅夫×下楠昌哉編『幻想と怪奇の英文学IV 変幻自在編』(春風社2020)、見本が届きました。岡和田晃は、「E・F・ベンスン、拡散と転覆のオブセッション―「塔の中の部屋」および「アムワース夫人」を中心に」を書き、巻末インタビューに答えています。

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 巻末の編者対談にあるとおり、拙稿はシリーズで初めて、英文学研究におけるカノン作家の幻想作品ではなく、怪奇幻想文学のど真ん中に挑んだ論。最新の評伝に基づくベンスン三兄弟の紹介、日本と英語圏の受容史の紹介を経て、三兄弟に通じるオブセッション(芸術を駆動させる「強迫観念」)を探ります。 

 主な分析対象は、エドワード・フレデリック・ベンスンの第一から第三幻想短編集、そしてアーサー・クリストファー・ベンスンの「閉ざされた窓」、および、ロバート・ヒュー・ベンスンの『シャーロットの鏡』です。原文主義の論集なので、原書をすべてあたり直しました。
 『カーミラ』を嚆矢とする近代の吸血鬼文学のフェミニズム的解釈の諸論もサーヴェイし、女性憎悪の正当化として幻想文学を悪用させないように腐心しました。「見えないもの」をめぐる考察では、岡和田としては久しぶりに思弁的実在論を援用。具体的にはチャイナ・ミエヴィルのM・R・ジェイムズ論です。
 すでに英語圏では、ブルーノ・ラトゥールを引き合いに出してベンスン三兄弟が語られているので、ラトゥールも。あと、ここが大事なのですが、現状ラヴウラフトらはオルタナ右翼の餌になってしまっている面があります。こうした潮流に抗うため、ローズマリー・ジャクスンの「転覆」概念を使いました。
 今回の論のために、オックスフォード運動を調べることができました。ピーター・ミルワード等。直接引いたわけではないのですが、サイドリーダーとしての吸血鬼文学論では、武田美保子「ヒステリー/メランコリー(上)(下)レズビアン吸血鬼小説「カーミラ」」(「英語青年」144(10)(11))がオススメ。

 本作を発表後、小野塚力さんから、今日泊亜蘭が、E・F・ベンスンの翻訳「妖虫」(「探偵倶楽部」1955年8月号掲載)を発表しているとご教示くださいました。おそらく大坪砂男の紹介だろう、とも。乱歩・平井・都築ラインと並走する受容史があったのかもしれませんが、いずれにせよ1950年代半ばが重要と思います。

 

幻想と怪奇の英文学IV――変幻自在編

幻想と怪奇の英文学IV――変幻自在編

  • 発売日: 2020/09/10
  • メディア: 単行本