東海大学文芸創作学科2019年秋学期シラバス(ゲームデザイン論)

※春学期に引き続き、東海大学文化社会学部文芸創作学科で教えます。こちらでは利便性を鑑み、シラバスを公開いたします。

 

2019年度 秋学期  
授業科目名 サブカルチャーと文学
曜日 時限 水-3
テーマ 文学を媒介とした“反”サブカルチャー論としてのゲームデザイン
キーワード ゲームデザイン 幻想文学 創作


【授業要旨または授業概要】


 シラバス編成の都合上、本講義タイトルには「サブカルチャー」と掲げられていますが、講師はこの水曜3限の講義を「ゲームデザイン論」と呼ぶことにしています。
 本講義(ゲームデザイン論)では、創作の一環として、古くて新しい表現形式であるところのゲーム、とりわけストーリーゲーム/ナラティヴゲームと呼ばれるものをワークショップ形式で体験し、実際に創作することを目指します。
 過去の受講生たちは、ロールプレイングゲームのシナリオやソロアドベンチャーをデザインしたり、あるいはリプレイ小説を書いたりしてきました。シナリオのなかには講師が監修のうえでリライトし、商業誌への掲載を果たしたものもあります。
 しかしながら、創作には必ず発想の源泉となる教養が必要です。そのため、古典的な幻想文学や文学理論を、時間をかけて講読することで、土台の構築をしていきます。
 また、巷では「ゲーム」というと、日本製の“アニメ・漫画・ゲーム”という粗雑なくくりに置かれ、のみならず、それらが語られる際には、従来「文学」とされてきた領域を敵視して「日本」の文脈に閉じこもることがままあるのですが……本講座はそういった“クールジャパン”的な文脈とは基本的に無関係です。
 むしろ、この講義では「世界文学」との連関性を重視し、その一環としてゲームを捉えています。真に“クール”なのは、ゲームを「サブカルチャー」として居直らない姿勢だと考えるからです。その意味で、本講義は文学を媒介とした“反”サブカルチャー論」言うのが正確でしょう。このことは、講義内でも絶えず強調していくので、忘れずにいてほしいと思います。

 同名の講座が水曜3限・水曜4限で展開されます。意欲のある受講者は、両方の受講も歓迎します(ただし、単位は片方しか出ません)。既習者の受講も歓迎します(自由聴講扱いとなります)。

※より詳しくは、続けて【授業計画】の項目をご参照ください。

 


【学修の到達目標】

 

◆授業で育成するスキル
自ら考える力・文章情報を読み解く力・批評的な思考力

◆学習の到達目標
・日常的に接する文化環境に対しての批判的な視座を持ち、そのルーツを探り新たな表現を産むために必要な(最低限の)知識と好奇心を涵養します。
・文学を中心にしつつ、哲学・歴史学・美学といった人文科学についての基本的な知識をも習得します。
アリストテレス以降の古典的な文学理論を習得します。
・カルチュラルスタディーズ、ジェンダーポストコロニアル理論といった、文化批評の基礎を習得します。
ゲームデザインクリエイティヴライティングの基礎をも学ぶことで、学術的な視座の批評や創作への応用を目指します。

 

 

【授業計画】

 

◆スケジュール

 

<注意:水曜3限では、ゲームデザイン幻想文学(ヒロイックファンタジー)の講読を中心に学習します。水曜3限と4限では、授業内容が異なります>

 ブロンテ姉妹が架空の王国を創造して「ごっこ遊び」を展開した19世紀から、21世紀、スマートフォンを駆使したAR(拡張現実)ゲームまで、ストーリーゲームは多様な形態が存在しています。
 そこで本講座では、ゲームと「文学」が交錯したわかりやすい事例として、会話型(テーブルトーク)のロールプレイングゲームを中心に扱います。
 ただし、意識するのは、規範となる海外の(主として英語圏の)作品です。
 文献講読とストーリーゲームの体験を前半回での講義では組み合わせて行い、後半回の講義では本格的なワークショップで実際にゲームをプレイします。
その過程で、文学研究や文芸批評の方法論を軸に、学術的なゲーム研究における最新の成果も紹介しながら、他ジャンルにまたがる普遍的なストーリー構造や、原型となる神話素、「語り」をはじめとした表現スタイルの微妙な差異などを検証することで、総合的な教養を培うことが目標です。
 本気でゲームや小説の仕事につきたい人は、大いに歓迎します。講師の仕事も講義内でその都度、紹介し、現場の空気を知ってもらうきっかけといたします。
 しばしば誤解されますが、「サブカルチャー」と授業名で冠されているからといって、「ラク」というわけではありません!
 前期履修者の継続出席、学部・他学科からの聴講も歓迎しますが、途中で離脱するケースが少なくないので、いちどやると決めたら、最後まで受講することを推奨します。さもなければ、実になりません。

 

※2019年前期(春学期)の内容を、参考までに以下に示します。受講生の関心や状況に応じ、随時変更を加えていきます。教室での指示を聞き逃さないようにして下さい。

 

1:オリエンテーションヒロイック・ファンタジー概論
【ワークショップ:カードゲーム『ワンス・アポン・ア・タイム』をプレイする(1)】
・ガイダンス
・スプレイグ・ディ・キャンプによるヒロイック・ファンタジーの定義を紹介。
・ストーリーゲーム・ワークショップはアイスブレイク。

 

2:ゲーム・スタディーズの基礎
【ワークショップ:カードゲーム『ワンス・アポン・ア・タイム』をプレイする(2)】
・『ドラゴンクエストⅠ』に至るコンピュータゲーム史を概説、『ドラゴンクエストⅠ~Ⅲ』の構造を分析する。
・プロット構造、映画的なシークエンス、インターフェイスレベルデザインといった批評的ポイントを確認。
・ワークショップは同じルールを再戦することで、プレイングにどのような深みがもたらされるかを体感してもらう。

 

3:ゲーム企画の立案訓練
【ワークショップ:カードゲーム『ワンス・アポン・ア・タイム 騎士の物語/動物の物語』をプレイする】
・ゲーム作品の構造を学び、実際に企画を立ててみる。
・ワークショップでは、拡張ルールを導入することでのプレイ感覚の変化を体感してもらう。

 

4:三幕構成の研究(1)
【ワークショップ:カードゲーム『知ったか映画研究家』をプレイする】
井手聡司「三幕構成の研究」および、アリストテレス詩学』新訳(三浦洋訳、光文社古典新訳文庫)を介して、三幕構造の古典的解釈および現代的な応用を探る。
ロジェ・カイヨワ、ツヴェタン・トドロフおよびローズマリー・ジャクスンの理論も紹介する。
・ワークショップでは、『ワンス・アポン・ア・タイム』とは違うナラティヴ・ゲームを体感してもらう。

 

5:三幕構成の研究(2)
【ワークショップ:RPG『聖珠伝説パールシード』をプレイする(1)】
井手聡司「三幕構成の研究」および、アリストテレス詩学』新訳(三浦洋訳、光文社古典新訳文庫)を介して、三幕構造の古典的解釈および現代的な応用を探る。
ロジェ・カイヨワ、ツヴェタン・トドロフおよびローズマリー・ジャクスンの理論も吸収する。
・ワークショップでは、本格的なロールプレイングゲームのキャンペーン(連続)ゲームを開始する。まずはキャラクター創造とレベル1用の導入シナリオ。

 

6:フリッツ・ライバー「淒涼の岸」を講読
【ワークショップ:RPG『聖珠伝説パールシード』をプレイする(2)】
・ファンタジー文学の構造と文体を解析・考察する。
・ワークショップではレベル2用のシナリオをプレイする。

 

7:エリザベス・ダンフォース「ミッション:インプッポシブル」を講読
【ワークショップ:RPG『聖珠伝説パールシード』をプレイする(3)】
シェアード・ワールドとは何かを整理・考察する(二次創作とは違う)。
・ワークショップでは、レベル3用のシナリオをプレイする(NPCとのインタラクション)。

 

8:ケン・セント・アンドレ「カザンで最低の盗賊二人」を講読
【ワークショップ:RPG『聖珠伝説パールシード』をプレイする(4)】
・ファンタジー文学とライトノベルの違い、そして小説とゲームの違いを考える。
・ワークショップでは、レベル4用のシナリオをプレイする(一気に戦闘が激しくになる)。

 

9:キャサリン・カー「たった一つの小さな真実」を講読
【ワークショップ:RPG『聖珠伝説パールシード』をプレイする(5)】
・ファンタジー文学とジェンダーについて考察する(吉里川べおの批評を用いる)。
・ワークショップでは、レベル4用のシナリオをプレイする。

 

10:ベア・ピーターズ「魔術師あるところ道あり」を講読
【ワークショップ:RPG『聖珠伝説パールシード』をプレイする(6)】
・ファンタジー文学における建造物と戦術の描写から、リアリズムの位相について考察する。
・ワークショップでは、レベル5用のシナリオをプレイする。

 

11:マーク・オグリーン「オーガー・ポーカー」を講読
【ワークショップ:RPG『聖珠伝説パールシード』をプレイする(7)】
・ファンタジー文学における異種族描写の手法を分析する(吉里川べおの批評を用いる)。
・ワークショップでは、レベル5用のシナリオをプレイする。

 

12:岡和田晃「魔法の酒樽を取り返せ!」を講読
【ワークショップ:RPG『ピークス・オブ・ファンタジー』をプレイする(1)】
RPGのソロアドベンチャーをプレイし、一人用シナリオの基礎を考える。
・1 on 1 専用RPG『ピークス・オブ・ファンタジー』をプレイする。それぞれ学生がゲームマスター・プレイヤーの双方に挑戦する。

 

13:拡大版ワークショップ:RPG『ピークス・オブ・ファンタジー』をプレイする(2)
・1 on 1 専用RPG『ピークス・オブ・ファンタジー』をプレイする。それぞれ学生がゲームマスター・プレイヤーの双方に挑戦する。

 

14:『ピークス・オブ・ファンタジー』のシナリオ創作講座
・学生が考えてきたシナリオ素案をもとに、ルールと設定から肉付けを行い、レポート用に『ピークス・オブ・ファンタジー』のシナリオを創作する骨子を作る。

 

 

◆予習・復習

 毎回、前回の講義で課題に指定されてきたテクストを読んできて下さい。
 毎回のフィードバックと、途中で行う小レポートのために、ハードな予習復習が必要となります。
 また、レポート作成のためには、自分たちで実際にゲーム会を、最低1回は運営してもらうことになります(楽しく、やりがいのあることです!)。

 

【履修上の注意点】

 講義の際には、相当分量の論文や小説を読み進めていくことになります。関連して文献も紹介しますが、少々難解かもしれない理論も含まれます。自前でのゲーム会の運営など、授業外でも相当な努力が必要になります。講義へのフィードバックを毎回記入してもらい、それを講師が講義内容へ反映させていきます。その他、双方向的な講義になりますので、積極的な協力・参加が求められます。

 

【成績評価の基準および方法】

 評価のポイントは、以下の4点です。

1)ゲームデザインという作業の特性が理解できているか(約20%)
2)作品の内実や、周辺に存在する文脈が理解できているか(約20%)
3)課題へ積極的に取り組み、読解・創作ができているか(約40%)
4)批評的であることの意義が理解できているか(約20%)

 毎回、フィードバックシートへの記入を行い、それを小テストの代わりとします。それとは別に、期末レポートを課します。なお、レポート執筆の際にWikipediaを参考資料に用いることを禁止します。代返等・コピペ等の不正行為に関しては厳正に対処します。各種文章がしっかり書けていることは、評価の前提条件とします。
 上記の学習目標が達せられているかどうかを、フィードバックを含む出席点(40点)、レポート(60点)、のウエイトで評価して総合的に判定します。具体例として、その合計が90点以上をS評価、80点以上90点未満をS評価、70点以上80点未満をB評価、60点以上70点未満をC評価とします。
 ただし、出席回数が7割未満の場合、この限りではありません。

 なお、2019年後期(秋学期)のレポート課題は、RPG『ピークス・オブ・ファンタジー』のシナリオをデザインするという試みでした。

 


【教科書・参考書】

 

区分・書名・著者名・発行元・定価
教科書 『傭兵剣士』/J・ウィルソン、岡和田晃/書苑新社/1800
参考書  〈永遠の戦士エルリック〉/マイクル・ムアコック早川書房  
参考書  「層 映像と表現」Vol.11 /北海道大学大学院  
参考書  『ピークス・オブ・ファンタジー』/Fuyuki(伏見健二)/グランペール  
参考書  『ミッション・インプポッシブル』/K・S・アンドレほか/書苑新社  
参考書  『モンスターメーカー リザレクションRPG』/伏見健二/エンターブレイン  


【その他の教材】
ウォーロック・マガジン」Vol.5(グループSNE/書苑新社)掲載、岡和田晃/豊田奏太「ドルイドの末裔」(2018年度の最優秀レポートを、受講生の同意のもとに講師が商業水準まで徹底改稿した作品です)。本講義の一つの成果として参考になさってください。

「三人が、読む!『北園克衛モダン小説集 白昼のスカイスクレエパア』」の第6回が更新・完結

 シミルボン連載の「三人が、読む!『北園克衛モダン小説集 白昼のスカイスクレエパア』」の第6回が更新され、完結いたしました。最終回はこの連載で最長の14000字、全体では60000字に及ぶ、充実した座談会になりました。ボリュームたっぷりでお届け、すべて無料で読むことができます!

shimirubon.jp

 

 

シミルボン連載の「三人が、読む!『北園克衛モダン小説集 白昼のスカイスクレエパア』」、連載第5回

シミルボン連載の「三人が、読む!『北園克衛モダン小説集 白昼のスカイスクレエパア』」、連載第5回が更新されました。今回も10000字の大ボリュームです! フーゴ・ハルさん、黒澤俊邦さんとのセッションです。

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「図書新聞」2019年9月14日号に、連載「〈世界内戦〉下の文芸時評 第五五回 立ち消えた声を聞くための異なるテーブル」を寄稿

 早いところでは本日より発売の「図書新聞」の2019年9月14日号に、連載「〈世界内戦〉下の文芸時評 第五五回 立ち消えた声を聞くための異なるテーブル」を寄稿しました。今号では地上派TVで連日のように繰り出される嫌韓キャンペーンほか、以下を批判しました。

菅義偉×小泉進次郎(司会:田崎史郎)の対談「令和の日本政治を語ろう」(「文藝春秋」
「文藝春秋」嫌韓記事
古市憲寿「百の夜は跳ねて」に関する芥川賞の制度(「文藝春秋」
・千葉雅也「デッドライン」(「新潮」)
・「文芸評論家・渡部直己はなぜ、早稲田大学文学学術院教授を「解任」されたのか」(「映画芸術」)

 小説としては、以下を取り上げています。

・「文藝」の「韓国・フェミニズム・日本」特集および、イ・ラン「あなたの可能性を見せてください」(斎藤真理子訳)、チョ・ナムジュ「家出」(小山内園子/すんみ訳)、パク・ソルメ「水泳する人」(斎藤真理子訳)、ハン・ガン「京都、ファサード」(斎藤真理子訳)
・パク・ミンギュ「デウス・エクス・マキナ」(斎藤真理子訳、「文藝」)
・宮内悠介『偶然の聖地』(講談社
・鴇澤亜妃子『飢え渇く神の地』(創元推理文庫
・睡蓮みどり、石黒健治『BAD MOOD 睡蓮みどり写真集』(彩流社
・間宮緑「語り手たち」(「群像」)
・高尾長良「音に聞く」(「文學界」)
・子安ゆかり『聴くヘルダーリン/聴かれるヘルダーリン 詩作行為における「おと」』(書肆心水

 その他、チョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』、グレアム・ハーマンのオブジェクト指向存在論、『ファイナルファンタジー』とナーシャ・ジベリアラン・ロブ=グリエ監督『囚われの美女』等にも言及しました。

TRPGフェス2019「TRPGサポート書籍編集トークショー」(9月8日14:00~15:00)に出演

本日からTRPGフェス2019が熱海の大野屋で開催ですね。告知解禁とのことでお知らせします。岡和田晃は日曜(9/8)に開催される「TRPGサポート書籍編集トークショー」(14~15時)に出演します。「ウォーロック・マガジン」と「GMマガジン」に書いている面々、安田均先生、中村俊也先生、謎のGMマガジン編集長等が出演予定です!

trpgfes.jp

「Role&Roll」Vol.179に、『エクリプス・フェイズ』のシナリオ・ソース「トランスヒューマンは知性化イルカの夢を見るか?」が掲載

 発売中の「Role&Roll」Vol.179に、『エクリプス・フェイズ』のシナリオ・ソース「トランスヒューマンは知性化イルカの夢を見るか?」が掲載されています。今回はデータ中心の仕上がりです。追加義体あります!「ネオピッグの海兵隊員」、「ウィップラッシュの探索者」の新サンプルキャラクター付き!

 

Role&Roll Vol.179

Role&Roll Vol.179

 

 

 

「ナイトランド・クォータリーvol.18 想像界の生物相」および「ナイトランド・クォータリー・タイムス」Issue.03紹介

 「ナイトランド・クォータリーvol.18 想像界の生物相」が好評発売中です。

 国立民族学博物館の「驚異と怪異 想像界の生き物たち」とタイアップした企画で先行発売もあります。私はチーフ・エディターなのですが、プロジェクトマネージャーの岩田恵さんと二人三脚で作りました。

athird.cart.fc2.com
 以下、収録作を紹介! まずはアーサー・コナン・ドイルの怪奇短編「大空の恐怖」の新訳です。ご存知、名探偵ホームズの生みの親ですが、これ、クトゥルー神話ものに入れてもいいくらいじゃないかと思う名編。Vol.16でクラーク・アシュトン・スミスを訳した田村美佐子さんの、美しい新訳でご堪能ください!

 続いてE・ホフマン・プライス「クルディスタンの異邦人」。ラヴクラフトの盟友で「銀の鍵の門を越えて」を共作した作家ですが、小説の邦訳は極端に少ない! Vol.7で私が論じた作品を1925年の「ウィアード・テールズ」から全訳しました。この作品、D&DやT&Tにおける「邪悪な神殿」の原型だと思います。

 ポール・ヘインズ「マレクの復活」。これはなんとVol.1以来のショートショートです! オーストラリア圏を代表する短編作家で、オーストラリアのSF文学賞ディトマー賞の常連作家ですが、なんと本邦初紹介。2005年のSFウェブジンから版権をとって訳しました。凄絶なる世界観に打ちのめされてください!

 タラ・イザベラ・バートン「レオポルトシュタット街のゴーレム」。こちらも版権とって本邦初紹介です。著者は「ニューヨーク・タイムズ」「オブザーバー」ほかで書評された、英語圏で評価の高い作家。故・小川隆さんならば「スプロール・フィクション」と読んだであろう傑作。訳は待兼音二郎さん!

 クリスチャン・ライリー「山の中へ、母なる古齢の森の中へ」、ライリーも日本初紹介ですね。〈ウィアード〉なフィクションの書き手として注目されていますが、スペキュレイティヴな要素もあり、クトゥルー神話に興味がある人は、いっそう楽しめます。私はあの神格だと思うなあ。訳は大和田始さん。

 アンジェラ・スラッター「リトル・マーメイドたち」、世界幻想文学大賞受賞作家のスラッターがVol.17に引き続いて登場です。今回はアンデルセンやディズニーでおなじみ『人魚姫』の変奏ですが、そもそも伝承によって「人魚」って複数の解釈が出来ますよね。多義的に読み込める傑作。訳は徳岡正肇さん。

 ウィリアム・ミークル「書斎の中のもの」。本誌で紹介してきたミークルが、W・H・ホジスンの心霊探偵カーナッキを書き継いだ、その最新作をご紹介。2019年のアンソロジーに載る予定なのですが、日本語版の方が早くお届けできました。訳は「ウィアード・テールズ」などに参加されていた渡辺健一郎さん。

 そして、M・ジョン・ハリスン「ラミアとクロミス卿」。「ニュー・ウィアード」を提唱し、「純文学」の作家たちからも熱い尊敬を受けるイギリス文壇の大御所ですね。『風の谷のナウシカ』も影響を受けたという『パステル都市』の原型中篇サイエンス・ファンタジーを、大和田始さんの訳でお届けします。

 M・ジョン・ハリスンの他の作品は訳されないのか、というご質問をTwitterでいただきましたが、それはぜひ誌面でご確認を!(引っ張っていくスタイル)。そうそう、E・ホフマン・プライスとポール・ヘインズは岡和田晃が訳しました。これで翻訳作品紹介は一段落。


 日本人作家の紹介。仁木稔「ガーヤト・アルハキーム」は、小説としては4年ぶりの新作、マジック・パンクです。近年、「TH」で仁木さんはイスラーム世界に関する優れたエッセイを書いていましたが、それと連動するような内容です。今号のNLQですと山中百里子さんの仕事にも通じます。短編なのに重厚!

 朝松健「〈一休どくろ譚・異聞〉一休葛籠」は、読者の方から熱いリクエストが上がっていた、一休シリーズの新作です! 「すずめのお宿」の物悲しい歌に、一休と愛する森にまつわる、知られざる過去が重ねられます。『朽木の花』や、NLQのVol.4やVol.5とも響き合う内容で、朝松ファン必読ですね!

 開田裕治インタビュー「ノイズの中から生まれるイメージ」。怪獣や特撮関係でも著名なイラストレーターの開田さんに、ラヴクラフト、『モンスター・コレクションTCG』、フランク・フラゼッタへのオマージュなど、幻想文学という角度から切り込みました。素敵なギャラリーとあわせてご堪能ください!

 開田裕治さんには岡和田がお話を訊きましたが、三宅陽一郎インタビュー「AIは人間の幽霊を見るか」は徳岡正肇さんによるもの。ホラー誌らしく、AI(人工知能)にとって死とは何かという存在論的な観点から、三宅さんの知見が開陳されていき、スリリング。デリダならば「憑在論」に分類したでしょうね!


 【小特集】国立民族学博物館・特別展「驚異と怪異―想像界の生きものたち」
では、同特別展を紹介! ぜひ本誌を片手にみんぱくへGO! “怪異の音”を収集した貴重な映像資料/深泰勉、マンタム・選 想像界の生き物図鑑、能楽「土蜘蛛」──日常と地続きの怪異の恐ろしさ/待兼音二郎、の各氏の仕事です。

 「〜夜の国の幻視録 その2〜イブン・バイタール「マンドラゴラ売りの口上」は、藤原ヨウコウさんのヴィジュアルストーリー。妖しくも迫力がある美の世界。山中由里子さんの英語論文から、マンドラゴラの売り口上を私が訳し、松島梨恵さんが「「犬とマンドレイク」中国へ渡る」と解説を添えました。


 お待たせしました。安田均さんの新連載〈アンソロジーに花束を〉が始まります! 「第一回 謎の物語」では、紀田順一郎さんのアンソロジー『謎の物語』から始まり、近年、安田さんが注目しているゲームにおけるリドル・ストーリーとの関係が論じられ、さらには未訳のアンソロジーにまで踏み込みます!

 映画について。私の「塹壕からの「準創造」 ――『トールキン 旅のはじまり』」は注目の新作を詩の観点から論じました。その他、深泰勉さんが「ヴンダーカンマーの時代とモンスター映画の間 ゴーレム編」および「人魚編」、加藤浩志さんが「台湾土俗ホラーが怖い!」と、該博な知識で映像文化を紹介!

 深泰勉さんは、石神茉莉『蒼い琥珀と無限の迷宮』の紹介も書いています。また、ゲームについては徳岡正肇さんが、「「DOOM」 ――怪物と踊るビデオゲームの快楽」と題し、FPSの古典にして最新系でもある『DOOM』を紹介していますよ。


 ブックガイドは岡和田が4本担当。「眩惑と驚異のメタテクスト空間へようこそ」は海外作家。ウナムーノ、アンジェラ・カーター、イアン・バンクスについて。「人間ならざるもの」が未来と過去を相対化する」は日本人作家。内田百閒、小熊秀雄小松左京、酉島伝法、上田早夕里について、それぞれ紹介。

 ブックガイドはノンフィクションも扱っています。「双角の預言者、あるいは錬金術師の父祖──山中由里子アレクサンドロス変相』を素描する」は博士論文ベースの研究書について。「想像界の生物相を探究するために」は、『幻想世界の住人たち』、『ゴーレムの表象』、『憑霊信仰論』や未訳書など。

 「「想像界の生物相」に寄せて」は、いわためぐみさんによる巻頭言。友成純一さんは迫真のエッセイ「バリ、ダイビング・ポイントの怪」と「バリのレヤック」で、実話怪談(?)めいた恐怖の逸話を開陳します。深泰勉さんが、「「サンヒャン・ドゥダリ」に描かれる魔女の系譜」で背景をカバー! 

 

 なお、今号から編集体制が強化されて、優秀な編集者さんたちが増えました。そのことは、誌面のいっそうの充実という形で反映されていると思います!

 ちなみに古典以外はいずれの作品も、版権を取得して出しております。念のため。

ナイトランド・クォータリーvol.18 想像界の生物相

ナイトランド・クォータリーvol.18 想像界の生物相

 

 版元およびFujisan.co.jp経由での定期購読者の方々に「ナイトランド・クォータリー」Vol.18と、特典「ナイトランド・クォータリー・タイムス」Issue.03が届いている頃です。私は「「トーテンレーベンの三博士」と「怪奇小説翻訳概況」が最高!」と題し、「ミステリーズ!」Vol.96の「怪奇・幻想小説の新しい地平」を紹介していますよ。