東海大学文芸創作学科2019年秋学期シラバス(ゲームデザイン論)

※春学期に引き続き、東海大学文化社会学部文芸創作学科で教えます。こちらでは利便性を鑑み、シラバスを公開いたします。

 

2019年度 秋学期  
授業科目名 サブカルチャーと文学
曜日 時限 水-3
テーマ 文学を媒介とした“反”サブカルチャー論としてのゲームデザイン
キーワード ゲームデザイン 幻想文学 創作


【授業要旨または授業概要】


 シラバス編成の都合上、本講義タイトルには「サブカルチャー」と掲げられていますが、講師はこの水曜3限の講義を「ゲームデザイン論」と呼ぶことにしています。
 本講義(ゲームデザイン論)では、創作の一環として、古くて新しい表現形式であるところのゲーム、とりわけストーリーゲーム/ナラティヴゲームと呼ばれるものをワークショップ形式で体験し、実際に創作することを目指します。
 過去の受講生たちは、ロールプレイングゲームのシナリオやソロアドベンチャーをデザインしたり、あるいはリプレイ小説を書いたりしてきました。シナリオのなかには講師が監修のうえでリライトし、商業誌への掲載を果たしたものもあります。
 しかしながら、創作には必ず発想の源泉となる教養が必要です。そのため、古典的な幻想文学や文学理論を、時間をかけて講読することで、土台の構築をしていきます。
 また、巷では「ゲーム」というと、日本製の“アニメ・漫画・ゲーム”という粗雑なくくりに置かれ、のみならず、それらが語られる際には、従来「文学」とされてきた領域を敵視して「日本」の文脈に閉じこもることがままあるのですが……本講座はそういった“クールジャパン”的な文脈とは基本的に無関係です。
 むしろ、この講義では「世界文学」との連関性を重視し、その一環としてゲームを捉えています。真に“クール”なのは、ゲームを「サブカルチャー」として居直らない姿勢だと考えるからです。その意味で、本講義は文学を媒介とした“反”サブカルチャー論」言うのが正確でしょう。このことは、講義内でも絶えず強調していくので、忘れずにいてほしいと思います。

 同名の講座が水曜3限・水曜4限で展開されます。意欲のある受講者は、両方の受講も歓迎します(ただし、単位は片方しか出ません)。既習者の受講も歓迎します(自由聴講扱いとなります)。

※より詳しくは、続けて【授業計画】の項目をご参照ください。

 


【学修の到達目標】

 

◆授業で育成するスキル
自ら考える力・文章情報を読み解く力・批評的な思考力

◆学習の到達目標
・日常的に接する文化環境に対しての批判的な視座を持ち、そのルーツを探り新たな表現を産むために必要な(最低限の)知識と好奇心を涵養します。
・文学を中心にしつつ、哲学・歴史学・美学といった人文科学についての基本的な知識をも習得します。
アリストテレス以降の古典的な文学理論を習得します。
・カルチュラルスタディーズ、ジェンダーポストコロニアル理論といった、文化批評の基礎を習得します。
ゲームデザインクリエイティヴライティングの基礎をも学ぶことで、学術的な視座の批評や創作への応用を目指します。

 

 

【授業計画】

 

◆スケジュール

 

<注意:水曜3限では、ゲームデザイン幻想文学(ヒロイックファンタジー)の講読を中心に学習します。水曜3限と4限では、授業内容が異なります>

 ブロンテ姉妹が架空の王国を創造して「ごっこ遊び」を展開した19世紀から、21世紀、スマートフォンを駆使したAR(拡張現実)ゲームまで、ストーリーゲームは多様な形態が存在しています。
 そこで本講座では、ゲームと「文学」が交錯したわかりやすい事例として、会話型(テーブルトーク)のロールプレイングゲームを中心に扱います。
 ただし、意識するのは、規範となる海外の(主として英語圏の)作品です。
 文献講読とストーリーゲームの体験を前半回での講義では組み合わせて行い、後半回の講義では本格的なワークショップで実際にゲームをプレイします。
その過程で、文学研究や文芸批評の方法論を軸に、学術的なゲーム研究における最新の成果も紹介しながら、他ジャンルにまたがる普遍的なストーリー構造や、原型となる神話素、「語り」をはじめとした表現スタイルの微妙な差異などを検証することで、総合的な教養を培うことが目標です。
 本気でゲームや小説の仕事につきたい人は、大いに歓迎します。講師の仕事も講義内でその都度、紹介し、現場の空気を知ってもらうきっかけといたします。
 しばしば誤解されますが、「サブカルチャー」と授業名で冠されているからといって、「ラク」というわけではありません!
 前期履修者の継続出席、学部・他学科からの聴講も歓迎しますが、途中で離脱するケースが少なくないので、いちどやると決めたら、最後まで受講することを推奨します。さもなければ、実になりません。

 

※2019年前期(春学期)の内容を、参考までに以下に示します。受講生の関心や状況に応じ、随時変更を加えていきます。教室での指示を聞き逃さないようにして下さい。

 

1:オリエンテーションヒロイック・ファンタジー概論
【ワークショップ:カードゲーム『ワンス・アポン・ア・タイム』をプレイする(1)】
・ガイダンス
・スプレイグ・ディ・キャンプによるヒロイック・ファンタジーの定義を紹介。
・ストーリーゲーム・ワークショップはアイスブレイク。

 

2:ゲーム・スタディーズの基礎
【ワークショップ:カードゲーム『ワンス・アポン・ア・タイム』をプレイする(2)】
・『ドラゴンクエストⅠ』に至るコンピュータゲーム史を概説、『ドラゴンクエストⅠ~Ⅲ』の構造を分析する。
・プロット構造、映画的なシークエンス、インターフェイスレベルデザインといった批評的ポイントを確認。
・ワークショップは同じルールを再戦することで、プレイングにどのような深みがもたらされるかを体感してもらう。

 

3:ゲーム企画の立案訓練
【ワークショップ:カードゲーム『ワンス・アポン・ア・タイム 騎士の物語/動物の物語』をプレイする】
・ゲーム作品の構造を学び、実際に企画を立ててみる。
・ワークショップでは、拡張ルールを導入することでのプレイ感覚の変化を体感してもらう。

 

4:三幕構成の研究(1)
【ワークショップ:カードゲーム『知ったか映画研究家』をプレイする】
井手聡司「三幕構成の研究」および、アリストテレス詩学』新訳(三浦洋訳、光文社古典新訳文庫)を介して、三幕構造の古典的解釈および現代的な応用を探る。
ロジェ・カイヨワ、ツヴェタン・トドロフおよびローズマリー・ジャクスンの理論も紹介する。
・ワークショップでは、『ワンス・アポン・ア・タイム』とは違うナラティヴ・ゲームを体感してもらう。

 

5:三幕構成の研究(2)
【ワークショップ:RPG『聖珠伝説パールシード』をプレイする(1)】
井手聡司「三幕構成の研究」および、アリストテレス詩学』新訳(三浦洋訳、光文社古典新訳文庫)を介して、三幕構造の古典的解釈および現代的な応用を探る。
ロジェ・カイヨワ、ツヴェタン・トドロフおよびローズマリー・ジャクスンの理論も吸収する。
・ワークショップでは、本格的なロールプレイングゲームのキャンペーン(連続)ゲームを開始する。まずはキャラクター創造とレベル1用の導入シナリオ。

 

6:フリッツ・ライバー「淒涼の岸」を講読
【ワークショップ:RPG『聖珠伝説パールシード』をプレイする(2)】
・ファンタジー文学の構造と文体を解析・考察する。
・ワークショップではレベル2用のシナリオをプレイする。

 

7:エリザベス・ダンフォース「ミッション:インプッポシブル」を講読
【ワークショップ:RPG『聖珠伝説パールシード』をプレイする(3)】
シェアード・ワールドとは何かを整理・考察する(二次創作とは違う)。
・ワークショップでは、レベル3用のシナリオをプレイする(NPCとのインタラクション)。

 

8:ケン・セント・アンドレ「カザンで最低の盗賊二人」を講読
【ワークショップ:RPG『聖珠伝説パールシード』をプレイする(4)】
・ファンタジー文学とライトノベルの違い、そして小説とゲームの違いを考える。
・ワークショップでは、レベル4用のシナリオをプレイする(一気に戦闘が激しくになる)。

 

9:キャサリン・カー「たった一つの小さな真実」を講読
【ワークショップ:RPG『聖珠伝説パールシード』をプレイする(5)】
・ファンタジー文学とジェンダーについて考察する(吉里川べおの批評を用いる)。
・ワークショップでは、レベル4用のシナリオをプレイする。

 

10:ベア・ピーターズ「魔術師あるところ道あり」を講読
【ワークショップ:RPG『聖珠伝説パールシード』をプレイする(6)】
・ファンタジー文学における建造物と戦術の描写から、リアリズムの位相について考察する。
・ワークショップでは、レベル5用のシナリオをプレイする。

 

11:マーク・オグリーン「オーガー・ポーカー」を講読
【ワークショップ:RPG『聖珠伝説パールシード』をプレイする(7)】
・ファンタジー文学における異種族描写の手法を分析する(吉里川べおの批評を用いる)。
・ワークショップでは、レベル5用のシナリオをプレイする。

 

12:岡和田晃「魔法の酒樽を取り返せ!」を講読
【ワークショップ:RPG『ピークス・オブ・ファンタジー』をプレイする(1)】
RPGのソロアドベンチャーをプレイし、一人用シナリオの基礎を考える。
・1 on 1 専用RPG『ピークス・オブ・ファンタジー』をプレイする。それぞれ学生がゲームマスター・プレイヤーの双方に挑戦する。

 

13:拡大版ワークショップ:RPG『ピークス・オブ・ファンタジー』をプレイする(2)
・1 on 1 専用RPG『ピークス・オブ・ファンタジー』をプレイする。それぞれ学生がゲームマスター・プレイヤーの双方に挑戦する。

 

14:『ピークス・オブ・ファンタジー』のシナリオ創作講座
・学生が考えてきたシナリオ素案をもとに、ルールと設定から肉付けを行い、レポート用に『ピークス・オブ・ファンタジー』のシナリオを創作する骨子を作る。

 

 

◆予習・復習

 毎回、前回の講義で課題に指定されてきたテクストを読んできて下さい。
 毎回のフィードバックと、途中で行う小レポートのために、ハードな予習復習が必要となります。
 また、レポート作成のためには、自分たちで実際にゲーム会を、最低1回は運営してもらうことになります(楽しく、やりがいのあることです!)。

 

【履修上の注意点】

 講義の際には、相当分量の論文や小説を読み進めていくことになります。関連して文献も紹介しますが、少々難解かもしれない理論も含まれます。自前でのゲーム会の運営など、授業外でも相当な努力が必要になります。講義へのフィードバックを毎回記入してもらい、それを講師が講義内容へ反映させていきます。その他、双方向的な講義になりますので、積極的な協力・参加が求められます。

 

【成績評価の基準および方法】

 評価のポイントは、以下の4点です。

1)ゲームデザインという作業の特性が理解できているか(約20%)
2)作品の内実や、周辺に存在する文脈が理解できているか(約20%)
3)課題へ積極的に取り組み、読解・創作ができているか(約40%)
4)批評的であることの意義が理解できているか(約20%)

 毎回、フィードバックシートへの記入を行い、それを小テストの代わりとします。それとは別に、期末レポートを課します。なお、レポート執筆の際にWikipediaを参考資料に用いることを禁止します。代返等・コピペ等の不正行為に関しては厳正に対処します。各種文章がしっかり書けていることは、評価の前提条件とします。
 上記の学習目標が達せられているかどうかを、フィードバックを含む出席点(40点)、レポート(60点)、のウエイトで評価して総合的に判定します。具体例として、その合計が90点以上をS評価、80点以上90点未満をS評価、70点以上80点未満をB評価、60点以上70点未満をC評価とします。
 ただし、出席回数が7割未満の場合、この限りではありません。

 なお、2019年後期(秋学期)のレポート課題は、RPG『ピークス・オブ・ファンタジー』のシナリオをデザインするという試みでした。

 


【教科書・参考書】

 

区分・書名・著者名・発行元・定価
教科書 『傭兵剣士』/J・ウィルソン、岡和田晃/書苑新社/1800
参考書  〈永遠の戦士エルリック〉/マイクル・ムアコック早川書房  
参考書  「層 映像と表現」Vol.11 /北海道大学大学院  
参考書  『ピークス・オブ・ファンタジー』/Fuyuki(伏見健二)/グランペール  
参考書  『ミッション・インプポッシブル』/K・S・アンドレほか/書苑新社  
参考書  『モンスターメーカー リザレクションRPG』/伏見健二/エンターブレイン  


【その他の教材】
ウォーロック・マガジン」Vol.5(グループSNE/書苑新社)掲載、岡和田晃/豊田奏太「ドルイドの末裔」(2018年度の最優秀レポートを、受講生の同意のもとに講師が商業水準まで徹底改稿した作品です)。本講義の一つの成果として参考になさってください。