東海大学文芸創作学科2019年秋学期シラバス(幻想文学・SF論)

2019年度 秋学期  
授業科目名 サブカルチャーと文学
曜日 時限 水-4
テーマ 幻想文学とSFの講読と批評を介した“反”サブカルチャー
キーワード 幻想文学 SF 批評


【授業要旨または授業概要】

 シラバス編成の都合上、本講義タイトルには「サブカルチャー」と掲げられていますが、講師はこの水曜4限の講義を「幻想文学・SF論」と呼ぶことにしています。
 本講義(幻想文学・SF論)では、古典と現在の幻想文学、とりわけ英語圏からの翻訳作品を徹底的に読み込むことを重視します。課題のテクストを、時には声を出して精読していきながら、その表現されている細部を身体レベルで自家薬籠中の物としていきます。
 というのも、いま、創作や批評を試みるにあたって、もっともネックになるのが、絶対的な読書量の不足なのです。ただ、やみくもに数をこなせばよいというわけではありません。プロの作家や書評家でも、作品の読み込み、全体的なパースペクティヴの提示、状況への批評意識の三つを兼ね備えている人は少ないのが現実です。
 しかしながら、複雑化する現実を、既存のリアリズムでは捉えきれなくなっている現状は確かに存在します。幻想文学やSFの講座は英語圏では普通に存在しますが、日本では限られた大学でしか講じられていません。それゆえ、これらの方法を身に着けていれば、並み居る(広義の)作家志望者たちから、一歩抜きん出ることが可能になるでしょう。実際、過去の受講生のなかには、講師の監修のもと、商業芸術批評誌においてデビューを果たした者もいます。
 大学で講じられる文学の多くは、戦前から戦後まもない時期に確立されたカノン(規範的作品)に基づいており、それ以外は「サブカルチャー」として周縁に追いやられがちなのですが、本講義はそのような立場を採りません。
 大学生ならば知っていて当然である世界文学の古典と連関させながら、古典とみなされていないテクストをも貪欲かつ批評的に解釈していきます。その意味で、本講義は「幻想文学やSFを媒介とした“反”サブカルチャー論」と言うのが正確でしょう。このことは、講義内でも絶えず強調していくので、忘れずにいてほしいと思います。

 

 

 同名の講座が水曜3限・水曜4限で展開されます。意欲のある受講者は、両方の受講も歓迎します(ただし、単位は片方しか出ません)。既習者の受講も歓迎します(自由聴講扱いとなります)。

※より詳しくは、続けて【授業計画】の項目をご参照ください。


【学修の到達目標】

 

◆授業で育成するスキル
自ら考える力・文章情報を読み解く力・批評的な思考力

◆学習の到達目標
・日常的に接する文化環境に対しての批判的な視座を持ち、そのルーツを探り新たな表現を産むために必要な(最低限の)知識と好奇心を涵養します。
・文学を中心にしつつ、哲学・歴史学・美学といった人文科学についての基本的な知識をも習得します。
現代文学とSF・ミステリ・幻想文学の各「ジャンル」で蓄積されてきた批評理論の基礎を習得します。
・カルチュラルスタディーズ、ジェンダーポストコロニアル理論といった、文化批評の基礎を習得します。
・批評の執筆の基礎をも学ぶことで、学術的な視座の批評や創作への応用を目指します。

 

【授業計画】

 

◆スケジュール
<注意:水曜4限では、幻想文学・SFの講読と批評を中心に学習します。水曜3限と4限では、授業内容が異なります>

映像資料の分析も交えますが、基本的には小説・批評を講読していきます。
 本気でプロの物書きになりたい人は、大いに歓迎します。前期履修者の継続出席、他学部・他学科からの聴講も歓迎しますが、途中で離脱するケースが多いので、いちどやると決めたら、最後まで受講することを推奨します。さもなければ、身につきません。
 しばしば誤解されるのであらかじめお断りしておきますが、「サブカルチャー」と授業名に冠されているからといって「ラク」というわけではありません!

 

※2019年前期(春学期)の内容を、参考までに以下に示します。受講生の関心や状況に応じ、随時変更を加えていきます。教室での指示を聞き逃さないようにして下さい。

 

1:ガイダンスおよび自己紹介
 批評的読解の訓練として、アーサー・マッケン「変身」(阿部主計訳)を講読する。

 

2:批評文の基礎
 感想文や小論文と、レポートの違いを解説する。

 

3:ゴースト・ストーリーとモダン・ホラー
 アンジェラ・スラッター「心は罪人の鏡」(植草昌実訳)および「すべての肉体の道」(友成純一訳)を講読し、19世紀のホラーと20世紀のホラーの違いを考える。

 

4:ロマン主義と「語り=騙り」
 アーサー・マッケン「翡翠の飾り」(南條竹則訳)より、「薔薇園」「妖術」「儀式」を講読する。

 

5:「ケルト文学」と再話の仕組み
 ピーター・トレメインの『アイルランド幻想』(甲斐万里江訳)より「石柱」を講読し、マッケンとの違いを考察する。

 

6:スペキュレイティヴ・フィクション入門
 ヴォンダ・マッキンタイア「火の河」(室伏信子訳)を講読し、テクノロジカル・ランドスケープ(科学によって変容する風景)を20世紀以降の文学がどう捉えるのかを考察する。

 

7:中間レポートとフィードバック
 レポート作成のために、予備訓練としてミニ・レポートを執筆し、その講評。参考として、OGの仕事(「TH」No.78に掲載された『海蛇と珊瑚』評(関根一華))の構造を分析。続いて、小中英之の歌集『翼鏡』より二首を精読し、短詩系文学としての幻想文学を考察する。

 

8:ドイツ表現主義本格ミステリ
 ハイミート・フォン・ドーデラー「ヨハン・ペーター・へーベル(1760-1826)の主題による七つの変奏」(垂野創一郎訳)」(垂野創一郎訳)を講読し、モダニズムと、モダニズムから文化した「ジャンル」のあり方を考察する。

9:民話の構造と「語り=騙り」
 ジェレマイア・カーティン「聖マーティン祭前夜」(下楠昌哉訳)、アンジェラ・スラッター「赫い森」(岡和田晃訳)を講読し、土俗的な要素がどのように把握されているのかを分析する。

 

10:アクション描写と身体感覚
 ジェフ・C・カーター「かかる警句のなきがゆえに」(待兼音二郎訳)を講読し、文字での表現が難しい、建築物、身体、アクションを通した両者の連関を考察する。

 

11:先行テクストの変奏
 ピエール・コムトワ「幻の巻狩」(大和田始訳)を、これまで読んできたアーサー・マッケンの文脈から分析する。

 

12:世界内戦とテロル
 松本寛大「ケルトの馬」を軸に、幻想文学が現代の社会状況を、どのように表象できるのかを考察する。

 

13:時間と予言、そして未来
 内田百けん(※けんは門構えに月)「件」、小熊秀雄「ある夫婦牛の話」、小松左京「牛の首」を軸に、幻想文学は時間をどう捉えるのか、過去と未来とはどのように表象されうるのかを考察する。

 

14:追憶と反復
 デヴィッド・テラーマン「木の葉のさだめ」(待兼音二郎訳)を講読し、文学が表象する記憶のメカニズムを考察する。

 

◆予習・復習

 毎回、前回の講義で課題に指定されてきたテクストを読んできて下さい。
 毎回のフィードバックと、途中で行う小レポートのために、相応にハードな予習復習が必要となります。
 また、最終的には書評SNSに登録して批評を書くのですが(匿名登録可能)、講義を離れても一般読者の評価に堪えるだけの作品を書けるようになるため、各種コンテストへの積極的な応募も推奨します。

 

◆集中授業の期間

 

【履修上の注意点】
 講義の際には、相当分量の論文や小説を読み進めていくことになります。関連して文献も紹介しますが、少々難解かもしれない理論も含まれます。講義へのフィードバックを毎回記入してもらい、それを講師が講義内容へ反映させていきます。その他、双方向的な講義になりますので、積極的な協力・参加が求められます。期末レポートのほかに、中間レポートがあります。

 

【成績評価の基準および方法】
 評価のポイントは、以下の4点です。

1)取り扱った作家・作品の内在的特性が理解できているか(約20%)
2)作品の周辺に存在する文脈が理解できているか(約20%)
3)テクストへ積極的に取り組み、読解・創作ができているか(約40%)
4)批評的であることの意義が理解できているか(約20%)

 毎回、フィードバックシートへの記入を行ってもらい、それを小テストの代わりとします。それとは別に、期末レポートを課します。なお、レポート執筆の際にWikipediaを参考資料に用いることを禁止します。代返等・コピペ等の不正行為に関しては厳正に対処します。各種文章がしっかり書けていることは、評価の前提条件とします。
 上記の学習目標が達せられているかどうかを、フィードバックを含む出席点(40点)、レポート(60点)、のウエイトで評価して総合的に判定します。具体例として、その合計が90点以上をS評価、80点以上90点未満をS評価、70点以上80点未満をB評価、60点以上70点未満をC評価とします。
 ただし、出席回数が7割未満の場合、この限りではありません。


【教科書・参考書】

区分 書名 著者名 発行元 定価
教科書 「ナイトランド・クォータリーVol.18 想像界の生物相」/岡和田晃ほか/アトリエサード/1700


【その他の教材】

 「TH(トーキング・ヘッズ叢書)No.79 人形たちの哀歌」、関根一華「ストップモーションが叶えうる〝永遠の少年〟――『犬ヶ島』から」が掲載。本講義のOGによる商業誌での批評です。参考にしてください。
 その他、随時、講義内で教示します。