今年度も東海大学文芸創作学科での非常勤講師として勤務します。以下、利便性を鑑み、シラバスをこちらにも公開しておきます。
2020年度 秋学期
授業科目名 「サブカルチャーと文学」
曜日 時限 水-4
テーマ 「反サブカルチャー」としての幻想・SF論
キーワード 幻想文学・SF 現代詩 批評
【授業要旨または授業概要】
シラバス編成の都合上、本講義タイトルには「サブカルチャー」と掲げられていますが、講師はこの水曜4限の講義を「幻想文学・SF論」と呼ぶことにしています。
本講義(幻想文学・SF論)では、古典と現在の幻想文学、とりわけ英語圏からの翻訳作品を徹底的に読み込むことを重視します。課題のテクストを、時には声を出して精読していきながら、その表現されている細部を身体レベルで自家薬籠中の物としていきます。
というのも、いま、創作や批評を試みるにあたって、もっともネックになるのが、絶対的な読書量の不足なのです。ただ、やみくもに数をこなせばよいというわけではありません。プロの作家や書評家でも、作品の読み込み、全体的なパースペクティヴの提示、状況への批評意識の三つを兼ね備えている人は少ないのが現実です。
しかしながら、複雑化する現実を、既存のリアリズムでは捉えきれなくなっている現状は確かに存在します。幻想文学やSFの講座は英語圏では普通に存在しますが、日本では限られた大学でしか講じられていません。それゆえ、これらの方法を身に着けていれば、並み居る(広義の)作家志望者たちから、一歩抜きん出ることが可能になるでしょう。実際、過去の受講生のなかには、講師の監修のもと、商業芸術批評誌においてデビューを果たした者もいます。
大学で講じられる文学の多くは、戦前から戦後まもない時期に確立されたカノンに基づいており、それ以外は「サブカルチャー」として周縁に追いやられがちなのですが、本講義はそのような立場を採りません。
大学生ならば知っていて当然である世界文学の古典と連関させながら、古典とみなされていないテクストをも貪欲かつ批評的に解釈していきます。その意味で、本講義は「幻想文学やSFを媒介とした“反”サブカルチャー論」と言うのが正確でしょう。このことは、講義内でも絶えず強調していくので、忘れずにいてほしいと思います。
講師は現役の幻想文学・SFについての評論家・編集者・ゲームデザイナー・現代詩作家として活動しているため、現場で得られた知見も随時伝えていきます。
■
同名の講座が水曜3限・水曜4限で展開されます。意欲のある受講者は、両方の受講も歓迎します(ただし、単位は片方しか出ません)。既習者の受講も歓迎します(自由聴講扱いとなります)。
<実務経験のある教員による授業>
【学修の到達目標】
・日常的に接する文化環境に対しての批判的な視座を持ち、そのルーツを探り新たな表現を産むために必要な(最低限の)知識と好奇心を涵養します。
・文学を中心にしつつ、哲学・歴史学・美学といった人文科学についての基本的な知識をも習得します。
・現代文学とSF・ミステリ・幻想文学の各「ジャンル」で蓄積されてきた批評理論の基礎を習得します。・カルチュラルスタディーズ、ジェンダー/ポストコロニアル理論といった、文化批評の基礎を習得します。
・批評の執筆の基礎をも学ぶことで、学術的な視座の批評や創作へ応の応用を目指します。
【授業計画】
◆スケジュール
<注意:水曜4限では、幻想文学・SFの講読と批評を中心に学習します。水曜3限と4限では、授業内容が異なります>
【原則対面講義、場合によっては遠隔講義へ移行の可能性あり】
映像資料の分析も交えますが、基本的には小説・批評を講読していきます。
本気でプロの物書きになりたい人は、大いに歓迎します。前期履修者の継続出席、他学部・他学科からの聴講も歓迎しますが、途中で離脱するケースが多いので、いちどやると決めたら、最後まで受講することを推奨します。さもなければ、身につきません。
しばしば誤解されるのであらかじめお断りしておきますが、「サブカルチャー」と授業名に冠されているからといって「ラク」というわけではありません!
今期はウイルス禍のため、途中から遠隔講義となる可能性があります。学生とより密な連絡をとり、柔軟に変更していきますので、各種連絡を聞き漏らさないようにしてください。遠隔講義の場合、Zoomを用います。
まず重視するのは「読むこと、書くこと」です。このことを重視に、メール等での課題提出を例年以上に重視していきます。
<※2020年度前期(春学期)の内容を、参考までに以下に示します。受講生の関心や状況に応じ、随時変更を加えていきます。教室での指示を聞き逃さないようにして下さい>
1:ガイダンス、幻想文学入門
・ガイダンス、参加者自己紹介
・原民喜訳のジョナサン・スウィフト『ガリヴァー旅行記』からラピュータの章を講読
2:SFの起源
・ブライアン・オールディスやロバート・スコールズらをヒントに、SFの起源としてのメアリー・シェリーと『フランケンシュタイン』を解説
・ジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』を、高山宏の研究を交えつつ輪読
3:シュルレアリスムとオルタナティヴ・コミック
・ルイス・ブニュエル&サルヴァドール・ダリの映画「アンダルシアの犬」、アンドレ・ブルトン『シュルレアリスム宣言』、次いでつげ義春の「ねじ式」についての講義
・戦間期の想像力と大量死の問題、精神分析などについても確認
4:実存主義とヌーヴォー・ロマン
・アラン・ロブ=グリエの「新しい小説のために」を講読し、『スナップ・ショット』より「帰り道」を分析
・小説と映画の関係を、実際にロブ=グリエ監督の映画『エデン、その後』を介して考察
5:サイエンス・フィクションからスペキュレイティブ・フィクションへ
・『ガリヴァー旅行記』分析を、ラピュータ島の解釈から総括
・山野浩一のSF定義と「NW-SF宣言」を、小松左京の対比から論じ、J・G・バラード「死亡した宇宙飛行士」(山野浩一訳)を分析
6:ドイツ表現主義とモダニズム
・ロベルト・ヴィーネ監督の『カリガリ博士』、フリッツ・ラング監督『メトロポリス』や『ニーベルンゲン』、そして表現主義から、アルフレート・クビーンの「死の舞踊」絵画に、ダダイズム、キュビズムといった潮流を紹介
・同時期の、アーネストヘミングウェイのパリ時代についてのエッセイを輪読
7:「バベルの図書館」とは何か
・「ナイトランド・クォータリーVol.20 バベルの図書館」をテクストに『図書館情調』と「バベルの図書館」の解釈学を軸にしつつ、中島敦「文字禍」を輪読する。宮風耕治、ルスタム・カーツ、アレクセイ・ゲルマンについても考察
8:ジーン・ウルフと「信用できない語り手」
・ジーン・ウルフ「シュザンヌ・ドラジュ(遠藤裕子訳、「ナイトランド・クォータリー」Vol.20)の講読し、ジーン・ウルフと「信用できない語り手」の技法について、また作中で示唆される『ハムレット』の3通りの読み方と、それぞれの解釈を確認
9:M・ジョン・ハリスンと寓喩の機能
・M・ジョン・ハリスン「奇妙な大罪」(大和田始訳、「ナイトランド・クォータリー」Vol.20)を輪読し、現代文学の最先端で寓喩がどのように扱われているかを確認
10:W・B・イェイツと松村みね子
・学生が提出した小レポートを講評
・W・B・イエイツ「うすあかりの中の老人」、「クール湖の野生の白鳥」(それぞれ松村みね子【片山廣子】訳)を輪読し、ケルト表象の機能を分析
11:現代詩とアニマル・スタディーズ
・現代詩と小説の境界について。まずは、古川日出男『ミライミライ』、そして白石かずこの「死んだジョン・コルトレーンに捧げる」の朗読にふれる
・オフラハティ「野にいる牝豚」(松村みね子【片山廣子】訳)を読み、アニマル・スタディーズの観点を踏まえつつ、武子和幸「ブリューゲルの複製画のまえで」「蛞蝓の夢」「禁句」「夜」「旅の果てに」を比較文学の視点から購読
12:ゲスト講師・奥間埜乃先生特別講義
・ゲスト講師に奥間埜乃先生をお招きし、特別講義を開催。幻想文学のなかでも現代詩について、1960年代詩、コンクリート・ポエトリー、岡田隆彦の詩と批評について講義されました
13:美学理論の基礎
・学生が書いた中間レポートへの講評を中心に、これを批評に仕上げていくためのポイントを解説
・レッシング『ラオコオン』を軸に、叙事詩と絵画における形式と表現の差異を確認
14:ジェンダーとポストヒューマン
・アンジェラ・スラッター「生ける本、ソフィア」(徳岡正肇訳、「ナイトランド・クォータリー」Vol.20)について討議
・パロールとエクリチュール、人間とAI、歴史と物語といったテーマを議論
◆予習・復習
毎回、前回の講義で課題に指定されてきたテクストを読んできて下さい。
毎回のフィードバックが出席のかわりとなります。
また途中で行う中間レポートのために、ハードな予習復習が必要となります。
また、最終的には書評SNSに登録して批評を書くのですが(匿名登録可能)、講義を離れても一般読者の評価に堪えるだけの作品を書けるようになるため、各種コンテストへの積極的な応募も推奨します。
予習:講義で指示された課題について構想を練り、具体的に批評文を執筆し、講義前日12:00までに提出する(100分)
復習:講義での講評に従い、批評文を改稿し、さらに完成度を高めていく(100分)
【履修上の注意点】
講義の際には、相当分量の論文や小説を読み進めていくことになります。関連して文献も紹介しますが、少々難解かもしれない理論も含まれます。講義へのフィードバックを毎回記入してもらい、それを講師が講義内容へ反映させていきます。その他、双方向的な講義になりますので、積極的な協力・参加が求められます。期末レポートのほかに、中間レポートがあります。
【成績評価の基準および方法】
評価のポイントは、以下の4点です。
1)取り扱った作家・作品の内在的特性が理解できているか(約20%)
2)作品の周辺に存在する文脈が理解できているか(約20%)
3)テクストへ積極的に取り組み、読解・創作ができているか(約40%)
4)批評的であることの意義が理解できているか(約20%)
毎回、フィードバックシートへの記入を行ってもらい、それを出欠確認と小テストの代わりとします。それとは別に、中間レポート、期末レポートが課されます。
なお、レポート執筆の際にWikipediaを参考資料に用いることを禁止します。共作を行う場合は、事前に申請して講師の許可を得てください。代返等・コピペ等の不正行為に関しては厳正に対処します。各種文章がしっかり書けていることは、評価の前提条件とします。
上記の学習目標が達せられているかどうかを、フィードバックを含む出席点(40点)、レポート(60点)、のウエイトで評価して総合的に判定します。具体例として、その合計が90点以上をS評価、80点以上90点未満をS評価、70点以上80点未満をB評価、60点以上70点未満をC評価とします。
ただし、出席回数が7割未満の場合、この限りではありません。
なお、2020年度前期(春学期)のレポートは、書評SNS「シミルボン」を活用し、「文学」と「SF」の間にあるようなスリップストリーム作品について、長い批評を執筆するというものでした。
最優秀作を、以下に公開しています。参考までにご覧ください。
https://shimirubon.jp/columns/1701319
【教科書・参考書】
区分 書名 著者名 発行元 定価
教科書 「ナイトランド・クォータリーVol.22 銀幕の怪異、闇夜の歌聲」 アトリエサード/書苑新社 1700
【その他の教材】
「TH(トーキング・ヘッズ叢書)」には、2020年刊行のVol.83ほか、本講義のOGである、関根一華さんの批評が、頻繁に掲載されています。
その他、講義内で随時指示していくので、聞き漏らさないようにしてください。
【教員との連絡方法】
akiraokawada@gmail.comで事前にアポイントを取ってください。
初回授業終了時に、自己紹介のメールを送ってください。