ゲーム文化の弱点としてよく指摘される事柄に、「ゲームというものは気に入らない展開になるとリセットができてしまうから、堪え性が育たないので教育効果が薄いし、何より(一回きりの)実人生に比べて圧倒的に(物語として)貧しい」という類のものがあります。もちろん、それはそれで考慮されるべき問題ではあるのですが、少なくとも(会話型の、テーブルトークの)RPGは、「それで何が悪い」と開き直らずにこうした批判を実体的に乗り越えることができるだけのポテンシャルがある、と私などは考えてしまうのです。
なぜならば、RPGで語られる物語は、たとえ同じシナリオをもとにしていても、参加者がひとり入れ替わるだけでまるで異なるものとなるからです。
多人数が実際に顔をつき合わせて遊ぶため、(少なくとも優れたプレイヤーが集まれば)誰か一人が気に入らないからといって安易に「リセット」などできませんし、仮に意思決定に失敗したり、不幸な事故によって全滅し、そのシナリオを「やり直す」羽目になったとしても、(例えば全滅という憂き目にあったがための)圧倒的な敗北感が参加者を包んでいるがゆえに、よもや「気に入った展開になるまでリセットを繰り返す」といった安易な願望充足的展開にはなりません。
ゲーム文化のなかにおいても、RPGの立ち居地が特異であり、かつ独自の面白さを秘めている理由のひとつとして、このようなRPGならではの「一回性」すなわち「リセットの利かなさ」という要因を、挙げてしまっても問題ないのではないかと思われます。
つまり、RPGにおいては、下手すると漫然と小説を読んだり映画を観ていたりするよりも、物語に「参加」している時間が強調されたものとなることがある、と私は言いたいわけです。
そのため、よい意味で濃厚かつ充実した物語を体験することができたとしたら、参加者が享受し得た経験は、他の何にも代え難い、素晴らしいものとなるのではないかと考えます。
さて、堅苦しいことを書きましたが、ここまではマクラ。本題は、1月27日に新宿で開催された、ホビージャパン主催の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』、『ウォーハンマーRPG』の合同コンベンションにて、『ウォーハンマーRPG』のゲームマスターをしてきたので、そちらの報告ということになります。
今回、私は『GAME JAPAN』誌で連載が始まった『ウォーハンマーRPG』のリプレイ「魔力の風を追う者たち」の第1回で使用したシナリオ『破滅の天使』を持っていきました。
このシナリオは、経験点2000前後のキャラクターを対象として作られているので、念のため、まったく『ウォーハンマーRPG』をやったことがない人が参加者の大半を占めた場合に備え、もう少しルール的に易しめの冒険ができるように、翻訳もののシナリオを1つ、サブで用意もしていきました。
久々のコンベンションで、かつ『シャーンの群塔』、『シルバーネイル』、『若獅子の戦賦 監獄島編』、そして『魔道師大全』の先行販売があったこともあってか、イベントは大盛況。
とりわけ『ウォーハンマーRPG』卓は、3卓が立卓して全卓満員という素晴らしい状況になりました。
すごいよ『ウォーハンマーRPG』。
みんなありがとうっ!
さて、卓配分のときですが、私の卓には7名が希望を出されました。定員は5名なので、申し訳ないのですがじゃんけんをしていただき、2名の方には別の卓へ移っていく形となりました。漏れた方、すみません。
幸い、『ウォーハンマーRPG』をまったくの初めてという方はお一人だけで、その方も『トラベラー』など、色々なRPGに精通しておられるようでしたので、無事、『破滅の天使』を卓にかけることができたのでした。
作成されたキャラクターは、以下の通り。「魔力の風を追う者たち」に出てきた4人とは、全然違うメンバー構成ですが、これもなかなか味があるでしょ?
フェリックス/元用心棒→尋問者/パーティ唯一の肉体派。疫病をものともせず、波止場警備隊(ジャック・ヨーヴィルの『ウォーハンマーRPG』小説『ベルベットビースト』に出てきた奴らです)を説得したりと、諜報活動でもなかなかの活躍。
バルデマー/見習い魔術師→中堅魔術師(影)/「影馬」の呪文でアルトドルフ中を駆け巡るナイスガイ。恋人へのクールな態度が密かに美味しい。
カビンデル/似非魔術師→魔女/「似非魔法ってステキ!」とのたまうお方。「魔女」というキャリアには、似非魔術師上がりの「男」も含まれるのですが、今回は男。魔女ならではの異能《魔女の秘術》のおかげで、発動値15以下の呪文をたくさん取れるのですが、取った呪文はどれも強力で……。
メリオン/見習い魔術師→中堅魔術師(光)「癒しまくりですよぉ!」とうそぶく、戦闘系の魔法使いが多いなかでの屋台骨存在。他のメンバーが探索している間、しっかり留守を守っていつでも動けるように待機したり、堅実なロールプレイが光っていたのだが……。
マグナス/見習い魔術師→中堅魔術師(金属) 金属の魔術師の呪文は、とにかく強力なものが多いのだが、それを「わかってて」選んだご様子。ゲーム慣れしているようで、散らばりがちな一行のまとめ役だった。
さて、肝心の展開がどうなったかというと、まず、面白かったのは、「魔力の風を追う者たち」がスルーしていた、波止場警備隊方面への調査が光っていたこと、そして早々に真犯人(とつるんでいた貴族)の館へ押しかけることに成功したこと。そして、貴族の館で感づかれてしまい、口封じのため、馬車に乗って連れて行かれた裏路地で殺されそうになったこと、などなど……。結局、「魔力の風を追う者たち」とはまったく異なったストーリー進展と相成りました。
ちなみに、「魔力の風を追う者たち」に登場したドワーフのガンツ三兄弟は、今回はナーグル腐敗病で全員逝去なされてしまいました(きちんとダイスを振った)。
で、いちばん盛り上がったのがラスト。マグナスが武器を呪文で強化して、フェリックスが肉体的に脆弱なパーティをしっかりとカバーできる位置取りについて、いよいよ戦闘開始となったのも束の間、カビンデルが放った「突風」の呪文がうまく効果を発揮し、なんと敵全員が一瞬にして気絶=パーティの勝利! というとんでもない展開になりました。『ウォーハンマーRPG』の魔法は、とにかく(ドイツの民間伝承、あるいはゲーテが描いた)「ファウスト」的な危険性、混沌の力をもてあそぶものだと言う不確定性があるのですが、逆を言えば魔法が非常に強力な力の本流そのものをも表していると言えるので、うまく力を利用できれば、こういうグレイトな展開にもなるのですね。
しかし、それだけではありませんでした。シナリオの結果、バルデマーとメリオンがナーグル腐敗病にかかって、バルデマーには「野獣めいた両足」が生え、そしてなんとメリオンは、変異を決める表で(1d100して)100を振ったがために、「混沌の落とし子」(ケイオス・スポーン)に変異してしまったのでした! すげぇぞメリオン!
こうして、おそらくは『ベルベットビースト』に出てきた(そして『シルバーネイル』で詳細に語られた)、弟ウルフをビーストマンと化した状態から救ったヨハン・フォン・メクレンベルク男爵がこなしたがごとき冒険が、この後、パーティを待ち構えていることでしょう。
同じシナリオでも、ここまで異なるストーリーがつむぎ出されるとは。げに恐ろしきかな、『ウォーハンマーRPG』。
ちなみに、「混沌の落とし子」に関しては、次に翻訳される予定のサプリメント『堕落の書:トゥーム・オヴ・コラプション』に詳しい記述があります。
あと、驚くべきことにティーンチの呪いが1回しか出なかった。これは、おそらく中堅魔術師の皆さんが、「魔力点1点のみを使って発動ロールを行なう」ように工夫をしていたからだと思われます。ゲームのセンスがあるプレイヤーさんたちだった、というわけですね。
さて、以下は宣伝です(笑)
このように楽しい『ウォーハンマーRPG』が思う存分遊べるコンベンションが、次は来る2月24日に開催されます。私もゲームマスターとして参加する予定ですので、予定がある方はぜひ、遊びましょう!
シナリオ? もちろん、連載の第2回を持っていきますよ!(予備も用意しておきますが)
申し込みは以下のサイトから。まだ空きはあるようです。
http://www.hobbyjapan.co.jp/wh/event.html
ちなみに、24日のコンベンションは、終了後に『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のリプレイ『若獅子の戦賦』の参加者によるトークショーがあるようです。こちらも必見!
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