『PANDEMONIUM!』プレイリポート「BILLS」


 皆様は、『PANDEMONIUM!』というRPGをご存知だろうか。
 友野詳『バカバカRPGをかたる』(新紀元社)でも紹介された未訳RPGのことだ。

バカバカRPGをかたる (Role&Roll Books)

バカバカRPGをかたる (Role&Roll Books)

 初版は1994年だが、2006年にはAtlas Gamesから再版され、サプリメントも出ている。
 サプリメントにはRob Heinsoo、 Robin D. Laws、John Tynesといった後に『D&D 第4版』でブレイクする連中も名を連ねていたりするぞ!


・Atlas Games
http://www.atlas-games.com/pandemonium/index.php


 これはひとことで言えば「東スポRPG」。
 そう、タブロイド新聞の事件がすべて現実である世界を舞台に、前世がエルヴィス・プレスリーだったりナポレオンだったりする連中がスラップスティックで「PANDEMONIUM」(大混乱)な状況を生き抜くというコンセプトのRPGなのだ。
 雰囲気は映画『レポマン』とか『サウスパーク』みたいな感じね。

 この『PANDEMONIUM!』は知る人ぞ知る良作システムとして知られている。現在でもまるで古びていない。
 そして幸運なことに、私の周りには同システムの達人である漫画家の山寧さんがいるのだ。
 そこで山寧さんにお願いして許可をいただき、ここに同システムのプレイリポートを転載させていただいた。
 さあ、堪能されたい。


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『PANDEMONIUM!』プレイリポート:「BILLS」 


ゲームマスター&プレイリポート執筆:山寧


◆プレイヤー・キャラクター:


マイケル・マイケルズ……人間、27歳、男。低学歴のワックス訪問販売員。まあルックスも悪くない。マインドコントロールとサイキックインターファーレンス(超能力妨害)が特技。前世はヨーゼフ・メンゲレ


ジョン・ポール……人間、25歳、男。マルチメディアクリエイター、狂信的Mac user。WASP。前世エンタツ。納期恐怖症。


リチャード・ケイン……人間、22歳、男。占い師兼エロ雑誌のゴーストライター三島由紀夫の生まれ変わり。コンピューター嫌い。ひ弱。 < STORY >


 リチャード・ケインはLAの路上で占いをしていた。エロ雑誌のライターでもある彼の客はと言えば、チンケなラッパーやなんかばかり。収入もサッパリ。住んでる家もビヴァリーヒルズで一番薄汚ないアパートメント。すえたゲロの臭いが染み付いた糞の様な建物。だが、彼の占いは本物だ。超能力者だから。
 1997年の7月のある夜、一人の男が彼に予言を求めた。男は彼の能力が確かである事を知っていた。与えられた予言は、世界で最も力のある3人のビルを殺せば、男が世界を手に入れられると言う事。理由なんかは知らないが、ともかくそう言う事らしい。男が条件を満たしたその時には、色んな偶然が巡り巡って、そう言う事になるんだろう。で、男はそうする事にした。超常現象は男の生きて来た世界だったから、疑う理由はなかった。
 男はもう80年以上も生きて来た魔法使いだが、1955年に生まれたアメリカ人と言う経歴を語っていた。男の名前はスティーヴ・ポール・ジョブスと言った。前日にアップルとマイクロソフトとの提携を、世界に向けて発表した男だ。


 1997年9月1日、マイケル・マイケルズはカーワックスを売っていた。LAの郊外、真っ昼間の暑苦しい住宅地で。客の女はヘッドフォンから聞こえるラジオのニュースに夢中で、彼の売り文句なんて聞いちゃいなかった。突然、女が奇声を上げた。狂喜していた。彼女は叫んだ。
「あの女が死んだのよ! あのアバズレが! この女が!」
 女が衣服の前をはだけて見せると、そこには英国の元皇太子妃の笑顔がプリントされたTシャツがあった。笑顔には非常にメッセージ性の強いこんな文句が添えられていた。『SHE IS A BITCH』。マイケルはたった今聞いたショッキングなニュースよりも、女の衣服のふくらみ具合が気になっている様子だったが、話を合わせた。女の家でのささやかな祝宴。延々と続く性交。彼女はいかにして自分が元皇太子妃の後釜にすわるかについての大演説をぶち、マイケルはよく頑張った。我に帰ったのは9月5日の朝。つけっぱなしになっていたTVをぼんやりと眺めると、別の有名人の死が報道されていた。


 1997年9月5日、ジョン・ポールがドアを開けると、彼の大嫌いなビル・ゲイツが戸口に立っていた。ジョンはすかさずパイをその顔面に叩き付ける。相手はクリームまみれになったお面を取り、太った顔を露にした。ゲイツの甥、ウィリアムだ。高校時代同様の懐かしいおふざけに微笑むウィリアム。ジョンは彼の事も、彼の叔父同様に大嫌いだったが、ともかく家に入れた。彼は最近、叔父が自分のところにさかんに電話をかけて来るので悩んでいるとか。なんでも「叔父さんは誰かに殺されるんじゃないかと恐れて」いるらしい。ジョンには興味のない話題だ。だが、ウィリアムが持ち出したもう一つの話題は重要だった。今朝早くだかにマザー・テレサが心臓マヒで死んだ時、付き添っていた尼僧も同じ死因で死んだのだと言う。で、その尼僧と言うのが、二人のハイスクール時代のアイドル、二人が恋人の座を争って幾度も決闘した憧れのチアリーダー、何年か前に神に目覚め、インドに渡ってしまったブレンダだと言うのだ。彼女の葬儀に僕達は出席しなくてはいけないと語るウィリアムは泣いていた。彼は昔から泣き虫だった。


 同日の昼、LAの公園でマイケルと女はファックしていた。女はモバイルギアを取り出し、自分の英国の親友、同じ王室マニアのエミリイのホームページを見せる。マイケルは他の事に夢中だったのだが。
 そんな2人の様子を、リチャード・ケインはピーピングしていた。同時に、凄まじい速度でエロ小説の原稿を書き上げて行く。あまりに熱中していたので、黒いリムジンが近付くのに気付かなかった彼は、全く同じ外見をした、身長6フィート5インチのボールドヘッドの大男4人に囲まれる。彼は連れ去られそうになったが、前世の能力を駆使してなんとか危機を脱出。退散して行った大男達はジョブスのブロマイドを落として行ったのだが、それと、落ちていたリチャードの原稿を拾ったのはマイケルだった。


 帰宅したリチャードが、書き上げた原稿を騒ぎのドサクサで失くしてしまった事を悔やんでいると、上の部屋から激しい振動と共に漂って来るファックの臭いを嗅ぎ付ける。職業柄と言うべきか。椅子を積み上げると、なにやら女がリチャードが失くした原稿を朗読しているのが聞こえた。傑作を取り戻そうと怒鳴り込むリチャード。そこにいたのはマイケルと女で、この部屋は女の4番目の住居だったのだが、リチャードにはどうでもいい事だ。小説のモデルとしての報酬を要求する女。著作権者の権利を主張する作者。乱闘。マイケルの暴力に屈し、意識を失ったリチャードはアパートメントの裏口にあるゴミ入れにブチ込まれた。
 そこへ大男達がやって来る。ゴミ入れの上に座る恋人達(と、大男は思った)に、彼らはリチャードの居所を訪ねる。知らぬと嘘をつく。話をする内にリチャードが意識を取り戻し、呻き始めたので、マイケルと女はゴミ入れの上で飛び跳ね始める。大男達も加わり、童心に帰ってのお遊技。その内に彼らは、詳しい話をしようと酒場へ繰り出す。残されたリチャードは脱出を試みるが、できない。ゴミ入れがひしゃげていたから。
 酒場での話し合いは決裂し、隠し事をしていると踏んだ大男達はマイケルと女を拉致しようとする。マイケルは前世の能力で大男の一人に重傷を負わせ、逃れるが、女は連れ去られる。アパートメントに戻るマイケル。と、まだリチャードがゴミ入れから脱出しようと奮闘している。なんとなく手伝うが、蓋を焼き切ろうとするうち、ゴミが燃え上がり、リチャードは焼死してしまう。
 カーペットにくるんだリチャードの死体を彼の部屋に運び込んだところに、ジョブスが現れた。マイケルは相手の事をよく知らなかったが、相手は何でも知っている様だ。のらりくらりとしたやり取り。ジョブスの発言の要約。自分はリチャードの予言を実行しようとしており、事情を知っている彼を殺したい。色々と知ってる風だから、マイケルにも死んでもらいたい。シンプルな話だ。リチャードは話の途中、臨死体験を経て蘇ったが、事態はまったく好転しない。ぞろぞろと現れた大男達に連れ去られる2人。


 9月7日、ジョンとウィリアムはデリーに到着した。不思議の国インド。香辛料と汚物の臭気。マザー・テレサの葬儀で大騒ぎのこの国では、しかし、ブレンダの葬儀場を知っている者はいなかった。うろつき、聞き込みを続ける2人。異文化の衝撃。疲れ果てて入ったカフェでは、言葉は愚か手ぶりも通じない。指一本を立ててコーヒー1杯を要求。うなづくウェイター。動こうとしない。やはり2杯にすると、指2本を立てて要求。悲しそうに首を振るウェイター。動こうとしない。どうにもならない。
 隣の席にいた男が注文をしてくれた。彼が言うには、今、ジョンはウェイターと真理について会話をしていたらしい。一本の指は宇宙の真理は1つである事を示し、2本の指はその真理の絶対性を疑うべきであるとの主張を示すとか。想像を絶する。男はアダムと名乗った。新聞記者だそうだ。彼の案内でブレンダの死体が置いてある警察署へ。その死に不審な点が多かったので、取り敢えず葬儀は延期されていると言う。と、そこへインド風の格好をした禿の大男の集団が乗り込んで来た。警察にトランク一杯のドルを渡し、ブレンダの遺体をゲットして去ろうとする彼らをジョン達は止めようとするも、(マック信者なので)やんわりと退けられる。義憤に駆られたアダムはタクシーで男達を追跡する事を主張。ジョンは運転手と中指で熱心にコミュニケーション。車はノロノロとデリー郊外に向かって進んで行く。


 遡る事2日。リチャードとマイケルはどこかの地下施設でジョブスと話していた。ジョブスはビル殺害計画についてひとしきり喋った後、TVのスイッチをオン。そこでは、ダイアナ追悼の為に遅ればせながら英国入りしたビル・クリントンと、それを出迎えるチャールズ皇太子の姿が写っていた。ロンドンから生中継だ。何故か人生が楽しくてたまらないと言う笑顔のチャールズは、クリントンと固い握手を交わす。その瞬間、ジョブスが指をパチンと鳴らした。画面の中で燃え上がる大物2名。ニュースカメラは彼らが消し炭になるまでをバッチリスクープ。計画の第一段階を終えたジョブスは、次の獲物はこれで英国王になる事が決まったウィリアム王子と、提携以降いつもジョブスの御機嫌を伺っている(「彼は私のファンのようだね」)ゲイツだと言う。
 ジョブスはインドに向けて発った。マザー・テレサの葬儀に出る為で、彼女は自分が若い頃のビジネスパートナーだったのだと言う。で、ジョブスがいなくなってからマイケル達は脱出を計画。ジョブスが土をこねて魔術で作ったと言う大男達の製法をなんとか探り出し、一体製作して力ずくで脱出に成功する。
 出た所はカリフォルニア州ロス・アルトス。ジョブスの実家の裏庭。生まれたばかりで全裸の大男の処置に困ったマイケル達は、自分達も全裸になってスローガンを掲げ、ヌーディストの人権を主張。警察登場。逮捕。事情聴取。お叱り。釈放。開放的な西海岸流。その後、彼らはLAでエミリイと出会う。マイケルのパートナーであった女(もう殺されていた。彼女の名前がベッツィであった事をマイケルはこの時初めて知った)の友人、ウィリアム王子を愛する金持ちのピンクハウス女だ。彼女に金を借り、マイケル達はインドへ飛ぶ。


 ジョンの乗った車は小さなホテルに到着。ここが大男達の本拠地になっている様だ。ブレンダの死体を取り戻そうと突進する3名。あっさり捕まる。ジョンはマック信者と言う訳で丁重に扱われ、大男の手になる美味いカレーを喰いながらTV鑑賞。クリントン達が炎上するビデオと、大男達のボスがテレサの葬儀に参列している様子を見せられる。目を泣き腫らして帰って来たボスとジョンは御対面。変装してはいるものの、相手がスティーヴ・ジョブスである事をジョンは直ちに看破。林檎屋同士の絆で意気投合。ブレンダの件はジョブス自らインド風の葬儀を執り行う事で話がついた。2人は夜を徹してアップル社の未来について熱く語り合いながら、いつしかゲイツ殺害計画を練り始める。興奮したジョブスは直ちにゲイツを電話でインドに呼びつける。ゲイツは3月9日の夜、デリー空港に到着する事となった。


 3月7日。インドにはエミリイもついて来ていた。死んだ母親が敬愛していたマザー・テレサを悼み、ウィリアム王子が9日の夜にデリーに到着する事になっているからだ。チャールズの突然の死で葬儀の予定とはずれたが、とにかく来るらしい。興奮して判断力を失っているエミリイはマイケル達の絶好の資金源だ。なんだかんだあって、マイケル、リチャード、エミリイ、そして大男は、ジョブスのインドでの本拠地になっているホテルの向いに宿を取り、色々と探り始める。その夜、リチャードは怒りに燃えるマザー・テレサの霊に訪問され、ジョブスの計画を妨害し得る唯一の人間である自分をジョブスが殺した事を伝えられる。殺しておいて葬儀では涙を流したジョブスに、彼女は本当に怒っている様子。まるで復讐鬼だ。生前の彼女とは似ても似つかない。


 ジョブス殺害計画が完成した。デリー空港で歓迎のパイ投げ大会を催し、混乱に乗じてゲイツの顔面に毒入りパイをぶつける事になったのだ。その役には、捕まってからもカレーばかり喰って快適に過ごしていたゲイツの甥のウィリアムを大抜擢。ジョンは彼をうまくおだてて無自覚な暗殺者に仕立て上げる。町での宣伝活動でパイ投げの参加者は大量に集まった。


 そして当日。デリー空港では物凄い群集が国賓の到着を待っていた。そこへ着陸する飛行機。殺到する群集。出て来たのはクリームパイを両手に掲げた笑顔のビル・ゲイツだ。王子ではないと知ると多くの人々は去って行ったが、まあとにかくパイ投げの参加者はパイを構えた。タラップを降りるゲイツを笑顔で迎えた甥は、パイで一撃を加える。クリームまみれのゲイツは満面に笑みをうかべながら両手のパイで甥に逆襲。その直後、悶絶し始めるが、パイ投げ大会の混乱で気付いた者は殆どいなかった。リムジンの中で喝采するジョブスとジョン。そこへ、混乱に乗じてリムジンに近付いて来た一人の大男が、窓ごしにジョンにパイをぶつける。ジョンは死に、ジョブスは慌てる。


 車の中にはジョブスしかいないと思っていたマイケル達は、自分達の暗殺計画が予想外の失敗に終わった事を知る。そこへウィリアム王子の飛行機が到着。群集は興奮。その群集の全てを、リチャードは前世、ミシマユキオの煽動能力を使ってパイ投げに参加させる。パイが飛び交う大混乱。甘い香り。ソフトコアな暴力。リムジンをガードしていた大男達は排除され、車内からはジョブスが引きずり出されて直ちにクリームまみれにされる。そこに毒入りパイを持って近付いたマイケルは自らの手で全てにケリをつけ、結果的に故ベッツィに筋を通す事になったのだった。


 メデタシメデタシ。 < GAME MASTER >


★まあ、なんだ。即興のクソマスタリング(MAGIUS PUNKとTSNのこと)を除けば、もう何年もマトモにプレイしてなかったから相当不安だったけれども、なんとかなったっぽい。ジョブスの設定と彼の計画だけ考えて、ストーリー進行とか展開とか殆ど白紙で臨んだんだけど、スリリングで面白かった。NPCもビル3名とエミリイ、ブレンダ、テレサ以外はみんな即興で考えたんだが、割と面白い奴等を創造できたかと思う(ゲイツの甥なんかはかなり好きなキャラだ)。ただ、ベッツィはやり過ぎだった。そもそも死ぬまで参加者全員から『A BITCH』とか『アバズレ』とか『イカレ女』としか呼ばれないキャラって、何だかとても哀れだ。名前を付けられたのが死んだ後なんてなあ。


 それと、口調がみんな似た様な感じになったのはキャラを練ってなかったからで、それは非常に心残りではある。小ネタを連続して繰り出すのに手一杯で、情景描写とかする余裕なかったし。テレサとジョブスの関係とか、ブレンダの事とか、わずかに考えてた設定が殆どフッ飛んだのはまあいいや。
 このゲームのマスタリングは、いかに即興で面白い事を言えるかが勝負だと思うのだけども、その点、過去の幾つかのセッションと比べるとイマイチだったかも。クライマックスとか、昔やったやつ(ワシントンD.C.が溶けたアイスクリームの大雨で壊滅し、発狂したクリントンジェットスキーで登場するとか。マンハッタン島に降った異常豪雪が空飛ぶ悪魔の炎で溶け、全市民が海に流されてプカプカ浮かびながら、人種や宗教の壁を超えて手を取り合い、愛と平和を叫ぶとか)よりかなりパワー不足だったし。まあ、最後に題名通りの大混乱(PANDEMONIUM)にしてオシマイと言う、このゲームのセオリーを守れたからよしとするか。
(山寧)


(1998年3月7日)