『真・女神転生RPG』プレイリポート「雨が降るたび、月を見るたび」


 3月にTOKON10実行委員会に新鋭SF評論家たちが寄稿した「東京SF大全」の中の「東京SF論」において、『真・女神転生』のメイン・シナリオを担当されたゲームデザイナー・鈴木大司教こと鈴木一也さんへお願いし、贅沢にも 「東京SF大全特別編 東京SF論「メガテンの記憶」」を寄稿していただきました。『女神転生』シリーズ・ファンは必読であります。

http://blog.tokon10.net/?eid=1033238


 これに併せる形で、「メガテンの記憶」をふまえたうえで、私の論文も記載させていただきました。
http://blog.tokon10.net/?eid=1033236

 
 その拙稿において、以下のような記述で、とある優れた物語について語ったことがあります。

 『真・女神転生』の発表の翌年、鈴木一也は『真・女神転生RPG』という会話型RPGを発表している。
 これは『真・女神転生』の世界観を統制しているブラック・ボックスを、ユーザーが自在に活用できるように公開しつつ、ユーザー独自の色付けを加えていくことで、ユーザー自らその枠組みに従いながら、自分だけの物語を創造し、友人とともに体感できるように工夫された作品であった。
 そこでは、『真・女神転生』に登場したダヌー神族(ダーナ神族)などの西洋・東洋の垣根を越えた各種神族の設定、ヴードゥーマントラへ至る魔術の設定、ひいては真言立川流からオウム真理教さえもが含まれるカルト集団までもがデータ化されて紹介されていた。そのこだわりはある意味において、『真・女神転生』の世界を補完する役割を担っていたと言ってよいだろう。
 そしてユーザーはそれを受け止めた。例えば筆者の私淑する人物は、『真・女神転生RPG』の枠組みを用いて、さながら諸星大二郎の劇画にも相通じるような、天津神族と国津神族との対立にインド系の神々の侵略や、国津神族と姻戚関係にあるとされるヘブライ神族が介入する様が、『竹取物語』など日本の古典文学へと表象されるという壮大な物語を創造していた。
 こうした事例は、商業的な現場にあまり表出されることはないのかもしれないが、ユーザー間に『真・女神転生』を母体にした物語が確かに引き継がれてきたということを意味している。かような姿勢は『真・女神転生』の二次創作と捉えるよりも、『真・女神転生』を核に据えたサーガが、各々のユーザーによっても創造され続けてきたということを証し出すものとして理解すべきだろう。

 その物語の全貌を、シナリオ・デザインを行ない、執筆を担当された「ゼッカ」さんの許可をいただき、ここに全文を掲載させていただくことが可能になりました。ありがとうございます。
 このブログをご覧の皆様にも、ぜひとも、ご堪能いただけましたら幸いです。

真・女神転生RPG『雨が降るたび 月を見るたび』


文・シナリオ・GM:ゼッカ


CAST:
斉藤 進
荒木 仁
橋本 裕次郎


                                                                                                                                                              • -

≪STORY≫

 発端は千数百年前に遡る。当時日本を支配していた(今もそうだが)天津神族は、国津神族への征服戦争を終えたばかりで疲弊していたところに、西方からインド系の神々の侵略(人間界には仏教伝来として知られる)を受けて窮地に陥っていた。そこで彼等は一計を案じ、国津神族に生まれた大地の生の力を象徴する強力な女神を差し出すかわりに、血縁関係にあったヘブライ神族に助けを求めたのだ。
 ヤーヴェから派遣された大天使タリエルは、大量のMPを供与してインド系勢力の阻止に貢献した上に、自ら軍を率いて北方のカムイ神族の征伐にあたった(人間界には坂上田村麻呂蝦夷征伐として知られる)。これは実は日本列島の地脈の集積地のひとつ、恐山を支配下において、いずれ来るべき天津神族との戦いへ向けての布石とするという裏の目的があったのだが、天津神族の中にそのことに気付いたものはいなかった(このほかにも青森県戸来村の事例など、東北地方のヘブライ神族の影響の証拠となる事例は多い)。
 そして差し出された女神は、キリスト教の下でマリアという名を与えられ地母神的な役割を果たし、キリスト教の拡大に大きく貢献することになる(実際、マリア信仰が生まれたのは4〜6世紀である)。一方日本は地母神を持たない特異な神話となってしまう。
 しかしこの契約に反した男達がいた。彼等は運命に流されるままのその女神に同情し、自分達のそれぞれの神族を裏切ってでも彼女を守ろうとした。しかし奮戦空しく敗れた彼等は、「裏切りの五皇子」と呼ばれ、来世での勝利を願いつつ転生していくのであった。
 以上のような話を、勝者・天津神族の立場から書いたものが『竹取物語』俗に言う『かぐや姫』である。


‡‡

 やがて時は流れ、現代。かつてかぐや姫――あるいはマリア――と呼ばれた女神が人間として転生を果たした。彼女の存在は唯一神ヤーヴェの名の下に天界・人界・魔界の完全統一を目指すヘブライ神族には不可欠であり、前回の契約を盾に引き渡しを要求する。一方天津神族は契約はすでに終了したと考え、女神の利用法を独自に計画していた。さらに彼女の本来の出身である国津神族はこの機会に打倒天津神族を狙い、他の神族達も彼女に大きな関心をよせていた。
ヘブライ天津神を始め各神族間の緊張が急速に高まり、世紀末の感が漂うなか、裏切りの五皇子達も転生を果たす。もと国津神の「倉持の皇子」こと荒木仁は拳法の修行にはげむ大学生として、もと仙族の「大伴の大納言」こと斉藤進は中国からの帰国子女高校生として、そして天津神族の「安倍の右大臣」こと橋本裕次郎は、コンピュータ好きの大学生として、それぞれの人生を送っていた(彼等の本当の名前は神族を裏切った時点で神話から抹消されており、ここに挙げた名は竹取物語に語られる名である)。しかしある夜、夢を見たときから、彼等は少しずつ自分の運命に目覚めてゆく。そしてその側には、日になり影になりして彼等を助ける老人・榊冬十郎(竹取の翁こと「さかきの造(みやつこ)」が薬の力で不死を得たもの)の姿があった。
 そして彼等の前の現れる不気味な三人組。田村真比呂・その従者レオナルド・友人アイザック=ミューラーと名乗る彼等の真の姿はそれぞれ、大天使タリエルの転生した人間・それに召喚された堕天使レオナルド・そして五皇子の一人「石造の皇子」の転生した姿であった。レオナルドの命を受け、コロボックルが、ボディコニアンが三人を襲う。そして五皇子ながら敵側につくミューラーの存在は彼等の心を暗くするのであった。
榊冬十郎に教えられ、彼等三人は現世ではまだ会ったことのない「彼女」に会うため新宿の新都庁に向かう。エレベーターの扉が開き、いよいよ彼女と相まみえようとする瞬間、関東大震災の何倍という超弩級の大地震が東京全土を襲う!
 恐山に戻り地脈の力を使った田村真比呂/タリエルの、天津神と五皇子に対する先制攻撃である。
 しかも時を同じくして悪魔達の攻撃。ソロモン72魔神の一柱にして死人の王・ビフロンズがゾンビを率いて三人を足止めしている間に、同じくソロモン72魔神の一柱、悪魔崇拝の伝道師にして性欲を司る悪魔・レオナルドがその本性をあらわにして「彼女」をさらっていった。しかも聞き捨てならない置きゼリフを残して。
「ぬはははは、女はもらって行くぞ! これで世界は私の物だ。ついでに五皇子達よ、お前達の宝器をも頂いて行くとするか」
 どうやらレオナルドは田村真比呂を裏切って独自の野心を抱いているらしい。もっともDark/ChaosのレオナルドとLight/Lowの田村真比呂とは本来まったく相容れぬ存在であり、神族全体にかかわる重要な任務のために仕方なく協力していたにすぎなかったのだが。
 彼女を守って死んだ老婆(言うまでもなく竹取の翁の妻である。翁が五皇子の面倒を見る一方、媼は「彼女」の世話をするという役割分担だったのだ)の最期の言葉で、宝器とはかつて五皇子がそれぞれの神族から持ち寄り戦いに使ったアイテムであることが判明する。そしてそれらは来世での再会を誓った時に、ある霊山に封印したということも……。
 三人は迷うことなく(本当は少しあったけど)富士山を目指す。地下洞穴の奥深くに五つの宝器が彼等を待っていた。そしてレオナルドも。本来ならこの洞穴には五皇子しか入れぬはずが、ミューラーの力により可能となったのだ。「せめてもの情けだ。自分達の宝器で殺してやろう」レオナルドが宝器に手を伸ばすが、しかし衝撃とともに弾かれる。その瞬間、今まで一切の感情を浮かべなかったミューラーが満面の笑みを浮かべて言い放つ。「我等が宝器をお前ごとき下郎が使えるとでも思ったか!
 私はこの時を待っていた!」彼もまた、昔の心を忘れてはいなかったのだ。だがヘブライ神族に生まれ、しかも最も早く覚醒した彼は田村らの注意を強くひいたため、こうせざるを得なかったのだ。「な、何! そうか、貴様はやはり永遠の裏切り者か!」
 レオナルドとその下僕との戦闘は熾烈を極めた。しかし皇子達の手には宝器が握られていた。
 すなわち、荒木仁には「蓬莱の玉の枝」こと黄金の七支刀。
 橋本裕次郎には「火鼠の皮衣」ことサラマンダーローブ。
 斉藤進には「龍の頸の玉」こと龍頸宝珠。
 そしてアイザック=ミューラーには「仏の御石の鉢」こと流血の聖杯。
 レオナルドは四人の手にかかって倒れた。
 しかし「彼女」の居場所へと急ぐ四人の前に、恐山にいるはずの田村真比呂が立ちはだかる。「レオナルドの裏切りは予期していたよ。彼女は返してもらった。追って来るなとは言わんよ。言っても来る気だろう。その時は手加減しない」去っていく田村を見守る四人の肩に、降り出した雨が染みをつくる。
 その時、名前も知らず、見たこともなく、声さえ聞いたことのない「彼女」の声が、四人の心に甦る。
「私、雨って嫌いだな。どんなつらいことがあっても泣かないようにしようって心に決めてるのに、雨が降るのを見てると悲しいことばかり思い出しちゃうんだもん」


 四人は立ち上がった。これから進むのが苦難の道であると知りつつ、一人の少女のために彼等はその道を進んでいこうとするのだった。なぜなら……。


(最後にもう一度タイトルを見よ)


・参考資料
岩波文庫竹取物語』,網野善彦『異人論』,SFC『真・女神転生』の攻略本,一文専門教養B「キリスト教研究」(小山宙丸版ではなく岩波哲男版),日本宗教学会で聞いた聖杯に関する発表,菊地秀行『エイリアン黙示録』,田島昭宇『摩蛇羅』弐,中津賢也『黄門じごく変』,車田正美風魔の小次郎


・印象に残ったシーン

ボディコニアンに手ごめにされる裕次郎
プレイ中じゃないけど、シナリオ考えている時に「自身で日本がむちゃくちゃになる事にしよう」とか思ってたら、本当に兵庫で活断層(=地脈)による地震が起きた事。
GM

(1995年2月21日、ゼッカ)

真・女神転生RPG基本システム (LOGOUT BOOKS)

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新世黙示録 (ログインテーブルトークRPGシリーズ)

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