新刊2冊

 やはり、この2冊を取り上げないわけにはいかないでしょう。


 『激しく、速やかな死』。
 待っていました!
 もちろん、雑誌初出作品はすべて読んでおりました。
 いろいろな復刊運動を進めているわりには、こうして、国会図書館で必死に探した作品群が単行本に載っているのを見ると、なんだか悔しいような不思議な気持ちになる。マニア気質というやつでしょうか。


 収録作では「フリードリヒ・Sのドナウの旅」が以前からけっこう好きでした。メルヴィルの『代書人バートルビー』よりもこちらの方が秀逸。
 今ならば小論を書けそうな気もするが、ブログでやるよりももちっと違うアウトプットを目指した方がよい気も。
 「荒地」も初出時に読み込みました。これも語りのなかで事件が起こるという複合構造がニクいのですが、エリオットの同名の詩を使って意図的に誤読するとかいかがでしょう。


 「漂着物」はボードレール。これは傑作です。
 何が傑作というかとうと、可能な限り削られた言葉で、意味が生成するぎりぎりのラインが追究されているのですね。『雲雀』所収の「猟犬」あたりの延長線上にある作品だと言いましょうか。
 言葉そのものの興趣に留まるのではなくて、ゲームブックみたいにパラグラフ同士の繋がりを追究しているのでもなく、行間より浮かび上がる意味のラインみたいなものの繋がりに、このテクストが示した「作品」としての可能性を感じます(もちろん意味のラインの繋がりはあからさまではなく、絶えず見え隠れしたものとなっている)。
 散文詩であると誤解しそうにもなりますが、構造はあくまでも小説のものでしょう。それに散文詩でしたら「パリの憂鬱」がありますから、わざわざ本歌取りする必然性がないわけです。

激しく、速やかな死

激しく、速やかな死

 続いてこちら。入手したばかりで、未読。しかし、佐藤哲也、実に4年半ぶりの長編です。
 タイトルから、ベイリー「災厄の船」がごときワイドスクリーン・バロックな響きがするので大いに期待。

下りの船 (想像力の文学)

下りの船 (想像力の文学)