『冒険者の宝物庫Ⅱ』が発売されています!


 発売からしばらく経過しているのに、紹介記事を執筆することができておらず、申し訳ありません。
 翻訳作業に協力させていただきました『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第4版のサプリメント冒険者の宝物庫Ⅱ』が、各書店・ゲームショップ・オンライン書店などで発売となっている模様です。

冒険者の宝物庫II (ダンジョンズ&ドラゴンズ サプリメント)

冒険者の宝物庫II (ダンジョンズ&ドラゴンズ サプリメント)

 なお「Ⅱ」とありますが、前作『冒険者の宝物庫』が必須というわけではありませんので、どうぞご心配なさらず。
 それではまず、いつものように裏表紙の解説文をご紹介いたします。

夢焦がれし力を
今こそその手に


苦闘の末、ついにモンスターどもを討ち滅ぼした君たちは、ねぐらの奧に積み重なった錆びついた武具の上に、古びた木製の宝箱がぽつんと載っていることに目をとめる。鍵穴から漏れ出ているのは摩訶不思議なる黄金色の輝き……はてさて、いかほどの魔法の宝が内部で眠っているのだろうか?


この『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のゲーム・サプリメントでは、どんなD&Dキャンペーンにも適用可能な数百もの新しい魔法のアイテムを、武器や鎧、矢弾から、魔道書(トウム)やトーテム、その他さまざまな小道具類にいたるまでを取りそろえて紹介している。さらにまた、「アイテム・セット」という、特定の故事来歴に由来する一揃いの装備品という概念を新たに導入してもいる。これは個別のキャラクターか、冒険者パーティの何名かが一式を身につけることによって、これまでにない効果を発揮するアイテム群のことである。

 で、具体的にどんな品物が収録されているのか、ということについては、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』公式サイトにあるプレビューをご覧下さいませ。
 本書収録のイラストとともに、内容の一部を参照することができますよ。
 『千夜一夜物語』や『ドイツ幻想小説傑作選』を連想させる、充実したアイテムの背景解説が『冒険者の宝物庫Ⅱ』の見所であります*1
 かつて『ドラゴンクエスト アイテム物語』や、『アイテム・コレクション』に熱狂した方ならば一読して損はありませんよ。吉井徹さんの紹介コミックもステキです。


・『冒険者の宝物庫Ⅱ』プレビュー
http://www.hobbyjapan.co.jp/dd/news/advv2/index.html

・吉井徹さんの紹介コミック「ゆるゆるSpeak Easy」
http://www.hobbyjapan.co.jp/dd/article/speak_easy/speak_easy31.htm


 さて、『冒険者の宝物庫Ⅱ』を翻訳して感じた第一印象は、強力なアイテムが増えたなあ、ということです(笑)
 ですが、ただ数値的に強力なだけではなく、ゲームのスケールそのものを抜本的に変革するだけのラディカルなアイテムが数多く収録されているのが面白いところ。
 逆に言えば、単に強化されるだけではなく、D&Dというゲームをマンネリ化させないための工夫が行間からにじみ出ているのです。その意味で、『冒険者の宝物庫Ⅱ』は、文字通りRPGシステムを「拡張」させるためのサプリメントと言ってよいでしょう。


 D&Dの面白さというと、戦闘が比類なくワクワクするというところが大きいと思うのですが、『冒険者の宝物庫Ⅱ』のアイテムを導入すれば、戦闘に一段と深みが増します。


 ポーション・バンドリアー、ボルトシャード・クロスボウ、セイクリッド・マスク、ウーンドスティッチ・パウダー、ホイッスル・オヴ・ウォーニングといったアイテム群は、まだ見ぬ興奮を、あなたの戦闘に与えてくれるものと思います。
 たとえばポーション・バンドリアー。このアイテムさえあれば、ポーションをフリー・アクションで取り出すことができます。しかしそのためには、あらかじめポーションをバンドリアーにはめておかなければなりません。ただ強くなるだけではなく、必ずジレンマがつきまとうわけですね(笑)
 その結果サプリメントの導入によるゲームの流れは、彼我の戦力がひたすインフレする中でのヒット・ポイントの削り合いという「作業」ではなく、アイテムの特性と使い手の個性を最大限に生かした戦術を駆使する方向へ促されていくわけです。


 おまけに、魔法のアイテムというものは、どのキャラクター・クラスであっても必ず考慮しなければならない要素です。
ダンジョンズ&ドラゴンズ』第4版が発売されたばかりの頃は、レベル・アップ時の成長処理が少なくて寂しいという話も聞きましたが、『冒険者の宝物庫』シリーズを導入すれば、第3.5版に勝るとも劣らない充実した選択岐が得られ、成長の楽しみがいや増します。
 私の主催しているキャンペーンでは、セッション前に『冒険者の宝物庫』シリーズから「ほしいものリスト」を作ってもらうのが習慣になっていますが、この取捨選択の作業というものが、なかなかに悩ましく、かつ面白いところでした。
 おまけに、『冒険者の宝物庫Ⅱ』は、パーティ・プレイを意識したアイテムが多く、設置型の魔法のアイテムというパーティの冒険の拠点を強化するアイテムまであります。
 また、パーティの面々がそれぞれ着用できる「集団用アイテム・セット」なんてものも。あげくの果てには、パーティを悩ませる地形そのものを望む形に変えてしまう「魔封空間」(イミュアメント)なんてものまで。
 これは反則だと思ったのはタトゥー。これでタトゥー・スロットが追加です。海外RPGでタトゥーが強いのは、『ファイティング・ファンタジー』の「謎かけ盗賊」からの伝統ですが(笑)、パンクな外観になる上に、付随効果まであるなんて……。


 それはさておき、私が特に面白いと思ったのは、本書後半の「アイテム・セット」です。
 これは、複数の魔法のアイテムによって、一つのセットを形成するといったアイテムで、すべて揃えば通常のパワーのほかに、「アイテム・セット・パワー」というものを使うことができます。シナリオを作成するにあたって、とても便利なギミックです。ある程度、キャンペーンを進めていくと、どうしても大きな謎がほしくなる。その謎をゲーム・システムに絡ませるうえで、この「アイテム・セット」はとても便利なんですよ。
 いや、アーティファクト出せばいいじゃん、という話もありますが、アーティファクトは扱いがすっごく大変ですし、迂闊に売りさばけないわ、勝手に流転していくわ……でダンジョンマスター泣かせ(笑)*2
 その点、アイテム・セットはシナリオフックに使いやすいし、もしパーティがスルーしてしまっても大丈夫だし……ということで、とっても扱いやすいのでした。
 特に伝説級、神話級のマジック・アイテムはすごいです。
「タイム・ウィザード・ツールズ」とか痺れました。「時間」というハイ・ファンタジーの根幹に迫るテーマに近いものを感じます。


 あとアイテムの訳語の選択も、無味乾燥にならないように気をつけました。
 ブラッド・ドリンカーを「血すすり丸」とかしていたり(笑)
 これはもちろん、『ホビットの冒険』に登場した「オルクリスト(かみつき丸)」や、「つらぬき丸」を意識しています。なるべく味のある和名を当てたつもりなので、そちらも味わってやって下さいませ。
 それではどうぞ、『冒険者の宝物庫Ⅱ』をお楽しみ下さい!

ドイツ幻想小説傑作選 ――ロマン派の森から (ちくま文庫)

ドイツ幻想小説傑作選 ――ロマン派の森から (ちくま文庫)

ホビットの冒険

ホビットの冒険

*1:ちなみに『ドイツ幻想小説傑作選』は個人的にも激しくお勧めです

*2:ただ、『失われし王冠を求めて』や『ダンジョン・マスターズ・ガイドⅡ』(近刊)ではアーティファクトが追加されていて、やっぱり魅力的なのでケースバイケース、といったところでしょうか