「GAME LINK」第4号に記事を書きました。

 ブログでの告知がだいぶ遅くなってしまいましたが……版元をアークライトに移してますます絶好調のボードゲーム雑誌「GAME LINK」4号の連載「戦鎚傭兵団の手柄話」にある書評コーナー「おれらの戦利品」に、篠田節子『仮想儀礼』を取り上げました。

Game Link Vol.4

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 なぜボードゲーム雑誌に書評コーナーが? と疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、それはフィクションの中にも、ボードゲームと関わりの深い作品がたくさん混じっているからなんですね。
 連載1回目の書評は、千澤のり子の『マーダーゲーム』、2回目の書評は、ミロラド・パヴィチの『帝都最後の恋』、そして今回は篠田節子『仮想儀礼』の書評となります。

 篠田節子の『仮想儀礼』は、ひとえに言えばゲームブックの話。発売後すぐにゲームブック界隈で話題になりましたが、私はゲームブックの大ファンで、今でも古書店で『火吹山の魔法使い』を見かけたら、つい押さえてしまいます。いや、懐古趣味ではなく、文化として重要だと思うんですよ。
 『仮想儀礼』に出てくる「ゲグ王国の秘宝」は、桐原書店双葉社から出ていた独特のテイスト、あるいは二見書房の『タイガー暗殺拳』を連想させるもので、知らない人はまずこんなネーミングは思いつかないでしょう。
 書評の中身は読んでからのお楽しみにしていただくとしまして、状況論に話を移しますと、現在、ゲームブックは文芸ジャーナリズムでまともな評価を受けていないという現状があります。しかしながら、いまだ新作が発表され、熱心にゲームブックをデザインしている人たちがいらっしゃいます。
 フーゴ・ハルさんの『ドラキュラ城の血闘』(スタンドアローンで遊べる、超傑作)のように、古書界隈で信じられない高値がついていた海外作品でも、誠意ある出版社によって復刊したり、『モービィ・リップからの脱出』のような新作が発売されたりするようで、ジャンルとして死んだわけではありません。私の手元にも、未訳のゲームブックの私家訳が、出版の機会を待ってたくさん積まれている状態だったりします。
 『仮想儀礼』は、そうしたゲームブックの達成と、現代日本文学との垣根を取り払う素晴らしい作品だと思います。
 ひょっとすると現代日本文学というと、学校での国語(現代文)教育における忌まわしい経験から拒否感を持っている方がいらっしゃるかもしれませんが、心配することはありません。読み始めたら、止まりません。ぜひ『仮想儀礼』に触れてみて下さい。

 また、本篇の「手柄話」は、鈴木康次郎さんが、ボードゲームのオンライン化というテーマで、実用性の高い記事を書かれています。情報環境が発達する中、こうした問題はゲーマーにとっても身近なものになるでしょうから、そうした状況を考える際に必ずや役に立つでしょう。


 さらに、全体の特集はなんとライナー・クニツィア。こうした世界的に著名なボードゲーム・デザイナーの特集が組まれたのは、おそらく日本で初めての事態ではないでしょうか。
 『カルカッソンヌ』、『メディチ』、『モダンアート』。競りゲームのマエストロについて、日本語でアクセスできる中ではもっともよくまとまった、それでいて密度ある情報が手に入ります。
 ボードゲームはシリアス・ゲーム(教育や学習のために使われるゲーム)の状況と相性がよいこともあり、盛り上がりの気運を見せています。ぜひともこの機会に、クニツィア特集に触れていただければと思います。


 なお岡和田的に、ゲームブックでいちばんのお気に入りは、日によって変わるのですが、ロビン・ウォーターフィールドの『恐怖の幻影』ですね。未訳も入れてよいのなら、マイクル・スタックポールの“When The Cat's Away”(鬼の居ぬ間に)。