内閣官房アイヌ総合政策室の「アイヌ施策の総合的かつ効果的な推進を図るための基本的な方針案に関する意見募集について」にパブリック・コメントを提出しました。

 内閣官房アイヌ総合政策室の「アイヌ施策の総合的かつ効果的な推進を図るための基本的な方針案に関する意見募集について」に、以下のパブリック・コメントを提出しました。
 以下、4点に分けて提出しました。その内容を、以下に紹介していきます。


 文芸評論家・法政大学講師の岡和田晃です。意見を論点ごとに提出していきます。


【1】本件について、いわゆる「ネット右翼」とされる人たちの煽動により、「アイヌ新法で日本が分断される」、「中国や北朝鮮の侵略を許す」、「(実際には存在しない)アイヌ利権が強化される」などといった、陰謀論や差別の煽動がなされています。
 現行のパブリック・コメントの制度では、こうした荒唐無稽な陰謀論でも、1票とカウントされてしまい、相応の影響力を有してしまいます。
そこで、「新法によって日本が分断されることはありえない」、「いわゆるアイヌ利権は存在しない」、「政策の背後に中国や北朝鮮がいるわけではない」と、公的なステートメントを行っていただければと思います。
 ご検討をいただけましたら幸いです。

 

【2】私は、『アイヌ民族否定論に抗する』(共編著、河出書房新社、2015)および『反ヘイト・反新自由主義の批評精神』(寿郎社、2018)等で、文芸評論の立場から、アイヌ民族に対する差別の煽動を問題視してきました。
 今回のアイヌ施策推進法については、「飛揚」69号(視点社、2019)に私見をまとめていますが、第四条および付帯決議において、アイヌへの差別が明確に禁止されたことは、大いに前進として評価できると思います。
 ただし、現状は施行後も、アイヌに対するヘイトスピーチ(差別煽動表現)は、インターネットを中心に止む気配がありません。
そのため、具体的なガイドラインの明確化、識者およびアイヌ当事者を含む機関を設け、またアイヌ差別の禁止について、積極的なアナウンスをしていただければと思います。

 

【3】アイヌ施策推進法については、いわゆる「ネット右翼」におる「日本が分断される」などといった空想的な陰謀論のほか、識者による具体的な批判が各紙誌で発表されました。
 とりわけ重要な批判が、第一条でアイヌを「日本列島北部周辺、とりわけ北海道の先住民族」と明記したという点では画期的であるものの、それに伴う歴史的な加害のへの反省が盛り込まれておらず、アイヌの自決権の尊重されていないというものです。
 こうした批判的意見を真摯に受け止め、改善を期待します。

 

【4】先述した『アイヌ民族否定論に抗する』や『反ヘイト・反新自由主義の批評精神』などで繰り返し指摘したことですが、現在のアイヌ差別は、在日外国人差別・部落差別・障碍者差別等・女性差別等のナラティヴ(語り)を、そのまま借用することで成り立っている部分が大きくあります。
 さらには、それらと連動した複合差別というものもあります。
 例えば、寿都町義が発して「北海道新聞」等で問題視された「ザイヌ」というのは「在日コリアンがなりすましたアイヌ」という意味で、アイヌ差別であると同時に、在日コリアンに対する差別でもあります。
 第四条を有名無実なものとしないためには、複合差別の問題についても視野に入れた取り組みを、むしろ政府の側が積極的に進めていくことが期待されます。
 川崎市では具体的な罰則規定を含んだヘイトスピーチを規制する条例案が提出されました。
 こうした動向と連動しうるような形を念頭に置き、法案に関するアナウンスや、ガイドライン制定・審議機関等の設置をしていただければ幸いです。

 

19.08.20追記:同内容を「北海道におけるアイヌ施策を推進するための方針(素案)への意見提出」にも送りました。