法政大学経済学部2019年度シラバス(演習・現代マイノリティ文学)

※2019年度、サバティカルの代講として、1年の任期で法政大学経済学部の兼任講師にとして「演習」を担当します。以下、シラバスを公開します。

 

LIT207CA
演習
岡和田 晃
開講時期:通年 単位:8 単位 木曜4・5限

授業コード:
K7054

 

【授業の概要と目的(何を学ぶか)】
 「大学」という場で「文学」を学ぶことの意義は何かといえば、答えのない問いに向き合う粘り腰の姿勢、あるいは煽動に流されない確固たるリテラシーを獲得し、さらには自らの考えを適切に表現する技術を身につける、ということが一つの答えになるだろう。
 加えて、こと文学の場合、他に専門があっても、あるいは大学を出て働きながらでも、自分なりに考えを深め学習を続けていくことが可能だという強みがある。
 この演習では、受講生の皆さんとともに様々な観点から「独学者」として立つために必要な知的体力を培い、「読み」のダイナミズムの体感を通して、自分なりの表現スタイルを確保してもらうことを目標とする。
 すでに創作や批評など、何らかの表現を行っている人の参加を歓迎するが、これから手がけてみたいという人のきっかけ作りにもなればよいと考えている。

 

【授業の概要と目的(英文表記)】
The purpose of this seminar is to discuss and analyze representations of ethnic minorities in contemporary literature. In each session, a single participant will take charge of the class and present a report. Before the discussions, each student must read the assigned texts. Student grades will be evaluated according to the extent of their contribution to the seminar.

 

【到達目標】
 1 年という限られた期間ではあるが、そのなかで、できるだけ悪あがきをする。最終的には、「文学」のプロとして自分の手段と媒体を見つけ、思考を表現する道筋をつけることを目標とする。


【この授業を履修することで学部等のディプロマポリシーに示されたどの能力を習得することができるか(該当授業科目と学位授与方針に明示された学習成果との関連)】
ディプロマポリシーのうち、「DP8」「DP9」「DP10」「DP11」に関連

 

【授業の進め方と方法】
 ゼミは自由な思考実験の場であるが、散漫になることを避けるため、特定のテクストを事前に指定し、レポーターがそれを発表・主導する形で議論を進めていく。よくあるパワーポイント的な整理だけではなく、ロジカルな分析、小説や詩などの創作的な応答も認める。しかしながら、いずれの場合も、元のテクストへの敬意をないがしろにしてはならない。
 テクストは、講師が「図書新聞」で連載中の文芸時評で取り上げているような現代文学を扱う。とりわけマイノリティ(アイヌ民族在日コリアン、女性、LGBT など)からの視点や、作中でのマイノリティ表象に注目していきたい。
 政治を概観するに、現代社会は、すでに広義の紛争状況のさなかにあると言わねばならず、そのなかで言葉を紡いでいくこととは、どのような営為であるのかを、常に自覚していくこと。とはいえ、ただ単に「思想」を抽出するのではなく、表現の技術的な側面への目配せをも怠らないのが肝要である。
 また、必要に応じ、ゼミ内では世界の文学、哲学、歴史を随時参照していく。SF やミステリ、双方向的なストーリーゲーム等、従来の「日本文学」のパラダイムではマージナルに見られる領域の手法も軽視しない。
 ベースは読書会形式ではあるが、流れに応じて、フィールドワーク等の課外実習を行う可能性がある。


【アクティブラーニング(グループディスカッション、ディベート等)
の実施】
あり/ Yes

 

【フィールドワーク(学外での実習等)の実施】
あり/ Yes

 

【授業計画】
回 テーマ内容
1 ガイダンス・参加者自己紹介
ガイダンス・参加者自己紹介
2 『反ヘイト・反新自由主義の批評精神』を読解し、討議を行う
『反ヘイト・反新自由主義の批評精神』を読解し、討議を行う
3 読解・討議読解・討議
4 読解・討議読解・討議
5 読解・討議読解・討議
6 読解・討議読解・討議
7 読解・討議読解・討議
8 読解・討議読解・討議
9 読解・討議読解・討議
10 読解・討議読解・討議
11 読解・討議読解・討議
12 読解・討議読解・討議
13 読解・討議読解・討議
14 読解・討議読解・討議
15 読解・討議読解・討議
16 読解・討議読解・討議
17 読解・討議読解・討議
18 読解・討議読解・討議
19 読解・討議読解・討議
20 読解・討議読解・討議
21 読解・討議読解・討議
22 読解・討議読解・討議
23 読解・討議読解・討議
24 読解・討議読解・討議
25 読解・討議読解・討議
26 読解・討議読解・討議
27 読解・討議読解・討議
28 読解・討議読解・討議


【授業時間外の学習(準備学習・復習・宿題等)】
 演習で扱うテクストについては、その前の回に告知や配布を行っておき、レポーターを含めた参加者が事前に読んでおくことを前提とする。演習外においても、可能な限り多くの作品に触れておくことが望ましい。

 

【テキスト(教科書)】
 マイノリティに対するバックラッシュの問題を現代文学の観点から扱った、岡和田晃『反ヘイト・反新自由主義の批評精神 いま読まれるべき〈文学〉とは何か』(寿郎社)。まずは、これを読むところから始めるので、初回授業までに入手しておくこと。以後、ゼミ生の人数や志向に合わせて、適宜課題となるテクストを選定していく。

 

【参考書】
 『骨踊り 向井豊昭小説選』(幻戯書房)。ほか、講義内で指示する。

 

【成績評価の方法と基準】
 演習への参加度(発言、応答、進行)による(100 %)。

 

【学生の意見等からの気づき】
 本年度授業担当者変更によりフィードバックできません。

 

【その他の重要事項】
 質問や教員へのフィードバックについては、学籍番号と本名を表題に記載のうえで、akiraokawada@gmail.com にまでメールすること。テストを兼ねて、初回の講義では、自己紹介文を、上記に送ること。
 なお、講師は2007 年から本名でライター活動を開始し、文芸評論とゲームデザイン(創作)の両方において仕事をなしてきた。「図書新聞」での「〈世界内戦〉下の文芸時評」(2015 年3 月より、月刊)ほか、現場で得られた知見も伝えてきいきたい。

東海大学文芸創作学科2019年春学期シラバス(幻想文学・SF論)

サブカルチャーと文学(水曜4限)

2019年度 春学期 水曜4限

 

授業科目名 サブカルチャーと文学

 

テーマ サブカルチャーから文学を読み替える「文学を介した“反”サブカルチャー論」

 

キーワード サブカルチャー 幻想文学・SF 文芸批評

 

担当教員 岡和田晃

 

【授業要旨または授業概要】

 大学で「サブカルチャー」を勉強すると聞いて、面食らった方もいるのではないでしょうか?

 もともと「サブカルチャー」は社会学の用語ですが、昨今では日本製の“アニメ・漫画・ゲーム”のことを指す場合が多いようです。こうした周縁的と思われてきた分野のインパクトを、もはや大学教育の現場でも、無視できなくなっているということです。

 他方で、これらを「クールジャパン」と一括りにして闇雲に称揚する言説が存在しています。しかし、その文脈においては、従来「文学」とされてきた領域はむろんのこと、狭い日本における商業的な価値観に閉じこもり、海外との(相互的な)影響関係に関する視点が、すっぽりと抜け落ちてしまっています。

 本講座は、そうした「サブカルチャー」観を再生産するものではないことを、まずは強調しておきます。むしろ、かねてから「サブカルチャー」として軽んじられてきた表現を、「文学」と等価に扱い、それどころか、既存の「文学」を読み替える可能性を内包したものとして捉えていくというのが、本講座の趣旨なのです。

 

 資本主義が高度に発達した現在においては、私たちの接する文化は中心を欠いたものとなってしまっており、経済効果のみが作品を語る指標として用いられがちです。

 しかしながら、欲望の無自覚な肯定に終始し、「文学」をはじめとした人文科学の成果を敵視するような悪しき意味での「オタク」を再生産するのでは、わざわざ大学で学ぶ意味がありません。

 本講座は、狭い世界に閉じこもらず、外へ向けての「窓」となる、認識の枠組みと教養の土台づくりを目指します。

 

 ゆえに、正確に言うと本講座は「サブカルチャー論」ではありません。反対に、「文学を媒介とした“反”サブカルチャー論」です。このことは、講義内でも絶えず強調していくので、忘れずにいてほしいと思います。

 

 

 同名の講座が水曜3限・水曜4限で展開されます。水曜4限の講座では、幻想文学とSFの批評について総合的に学びます。ブックガイド的な「レビュー」や、現代思想の「ダシ」にして終わらない幻想文学批評のあり方は可能かを模索していきたいと思います。

 

※より詳しくは、続けて【授業計画】の項目をご参照ください。

 

【学修の到達目標】 

◆授業で育成するスキル

 自ら考える力・文章情報を読み解く力・批評的な思考力

 

◆学習の到達目標

・日常的に接する文化環境に対しての批判的な視座を持ち、そのルーツを探り新たな表現を産むために必要な(最低限の)知識と好奇心を涵養します。

・文学を中心にしつつ、哲学・歴史学・美学といった人文科学についての基本的な知識をも習得します。

・カルチュラルスタディーズ、ジェンダーポストコロニアル理論といった、現代批評理論の基礎を習得します。

・ヌーヴェルクリティーク以降の文芸評論の基礎を習得します・

・批評の基礎を学ぶことで、学術的な視座の批評や創作へ応の応用を目指します。

 

【授業計画】

 

 

◆スケジュール

<注意:水曜4限では、幻想文学・SFの講読と批評を中心に学習します。水曜3限と4限では、授業内容が異なります>

 

 映像資料の分析も交えますが、基本的には小説・批評を講読していきます。

 いま、創作や批評を試みるにあたって、もっともネックになるのが、絶対的な読書量の不足です。ただ、やみくもに数をこなせばよいというわけではありません。プロの作家や書評家でも、作品の読み込み、全体的なパースペクティヴの提示、状況への批判の三つを兼ね備えている人は少ないのが現実です。

 しかしながら、複雑化する現実を、既存のリアリズムでは捉えきれなくなっている現状は確かに存在します。幻想文学やSFの講座は英語圏では普通に存在しますが、日本では限られた大学でしか講じられていません。それゆえ、これらの方法を身に着けていれば、並み居る(広義の)作家志望者たちから、一歩抜きん出ることが可能になるでしょう。

 そこで講座では、実際に幻想文学論、SF評論、文芸評論、ロールプレイングゲーム創作の現場における最新の知見を、随時紹介する予定です。

 本気でプロの物書きになりたい人は、大いに歓迎します。前期履修者の継続出席、他学部・他学科からの聴講も歓迎しますが、途中で離脱するケースが多いので、いちどやると決めたら、最後まで受講することを推奨します。さもなければ、身につきません。

 しばしば誤解されるのであらかじめお断りしておきますが、「サブカルチャー」だからといって「ラク」というわけではありません!

 

※2018年前期の内容を、参考までに以下に示します。受講生の関心や状況に応じ、随時変更を加えていきます。教室での指示を聞き逃さないようにして下さい。

 講義では、担当テクストを輪読し、解釈に必要なキーポイントとして、文学史現代思想に関するトピックを解説していきました。

 2019年前期(春学期)は、ローズマリー・ジャクスンや今泉文子等の幻想文学批評の検討を中心にする予定なので、2018年とは扱う内容が大きく異なります。ご注意ください。

 

1:オリエンテーション~Huluのドラマ『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』から

【キーポイント】反知性主義ジェンダーバックラッシュに伴い、SFがどう「政治的」な問題意識を作中へ組みこんでいるのかを考察

2:SFの起源とSFの定義

【キーポイント】ユートピアの両義性について、『宇宙戦争』、『フランケンシュタイン』、『ガリヴァー旅行記』、『ユートピア』にまで遡行して考察

3:小川項(=川上弘美)「累累」、アラン・ロブ=グリエ「帰り道」の講読

【キーポイント】テマティスムの基礎、ヌーロヴォー・ロマンの基礎、文学における「顔」の問題

4:フランツ・カフカ「掟の門」、イアン・ワトスン「超低速時間移行機」の講読

【キーポイント】「掟」と「律法」、父と子の表象、ハードSFの定義、シンギュラリティ

5:ロバート・シェクリィ「危険の報酬」を講読、レニ・リーフェンシュタール監督「民族の祭典」を鑑賞

【キーポイント】リアリティショーとファシズム、政治の美学化、管理社会と監視社会、パノプティコン

6:笙野頼子「冬眠」、渡邊利道「エヌ氏」の講読

【キーポイント】私小説と思弁小説、デカルト方法序説』、機械論的人間観、決定論と可能世界論、基本的人権レイシズム

7:アイラ・レヴィンブラジルから来た少年』(ラジオドラマ版)の鑑賞、アーシュラ・K・ル=グウィン「帝国よりも大きくゆるやかに」の講読

【キーポイント】ヴェトナム戦争と「チャウシェスクの子どもたち」、「世界大戦」から「世界内戦」へ、母性と死、ディスコミュニケーションという出発点

8: 谷崎由依野戦病院」の講読

【キーポイント】「世界内戦」とジェンダー

9:批評の書き方(1)~山内士朗『ギリギリ合格への論文マニュアル』、笠井美希『デュラスのいた風景』の講読

【キーポイント】「パクリ」とオマージュの違い、800字程度の書評の構成と工夫

10:ゲスト講師による特別講義~蔵原大先生(東京電機大学非常勤講師)による、H・G・ウェルズ宇宙戦争』についての講義

11:批評の書き方(2)

【キーポイント】「ネタバレ」の可否について、構成・タイトルの付け方の問題

12:『D・G・ロセッティ作品集』(岩波文庫)の講読

【キーポイント】オーブリー・ビアズリーなど世紀末文化との連関、ウィリアム・モリスとD・G・ロセッティ、イコノロジーの基礎

13:川端康成「片腕」の講読、現代詩入門(白石かずこ「死んだジョン・コルトレーンに捧ぐ」)

【キーポイント】鈴木牧之『北越雪譜』の書き換え、「美しい日本の私」と「あいまいな日本の私」、ページターナー球体関節人形優生学新自由主義(に対する抵抗)

14:夏目漱石夢十夜」、『漾虚集』の講読

【キーポイント】イギリス世紀末文学、ドイツ・ロマン主義との関わり。江藤淳以降の批評からの解釈

 

◆予習・復習

 

 毎回、前回の講義で課題に指定されてきたテクストを読んできて下さい。

 また、書く力を鍛錬するため、毎回、メールを介して書く課題が与えられます。

 授業で与えられたテクストだけではなく、積極的に自分でテクストを探して読み込んでいく姿勢が求められます。

 当然、新刊で書店にて入手できるものだけではなく、図書館や古書店を活用した調査も必須です。

 

【履修上の注意点】 

 講義の際には、相当分量の論文や小説を読み進めていくことになります。関連して文献も紹介しますが、少々難解かもしれない理論も含まれます。講義へのフィードバックを毎回記入してもらい、それを講義内容へ反映させていきます。その他、双方向的な講義になりますので、積極的な協力・参加が求められます。

 

【成績評価の基準および方法】

 

 評価のポイントは、以下の4点です。

 

1)取り扱った作家・作品の内在的特性が理解できているか(約20%)

2)作品の周辺に存在する文脈が理解できているか(約20%)

3)テクストへ積極的に取り組み、読解・創作ができているか(約40%)

4)批評的であることの意義が理解できているか(約20%)

 

 毎回、フィードバックシートへの記入を行ってもらい、それを小テストの代わりとします。それとは別に、期末レポートを課します。なお、レポート執筆の際にWikipediaを参考資料に用いることを禁止します。代返等・コピペ等の不正行為に関しては厳正に対処します。各種文章がしっかり書けていることは、評価の前提条件とします。

 上記の学習目標が達せられているかどうかを、フィードバックを含む出席点(40点)、レポート(60点)、のウエイトで評価して総合的に判定します。具体例として、その合計が90点以上をS評価、80点以上90点未満をS評価、70点以上80点未満をB評価、60点以上70点未満をC評価とします。

 ただし、出席回数が7割未満の場合、この限りではありません。

 

 なお、2018年度前期(春学期)および後期(秋学期)のレポートは、書評SNS「シミルボン」を活用し、「文学」と「SF」の間にあるようなスリップストリーム作品について、6000字程度の批評を執筆するというものでした。

 最優秀作を、以下に公開しています。参考までにご覧ください。

https://shimirubon.jp/columns/1690934

 

【教科書・参考書】

区分  書 名  著者名  発行元  定価

 

教科書 岡和田晃 『世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷 SF・幻想文学・ゲーム論集』 アトリエサード/書苑新社 2970円

 

参考書 岡和田晃 『反ヘイト・反新自由主義の批評精神 いま読まれるべき〈文学〉とは何か』、寿郎社

参考書 ローズマリー・ジャクスン『幻想と怪奇の英文学Ⅲ 転覆の文学編』、春風社

参考書 今泉文子『幻想文学空間 世紀転換期のベルリン・ウィーン・プラハ』、ありな書房

参考書 クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国』シリーズ、アトリエサード

参考書 「ナイトランド・クォータリー」、アトリエサード

※その他、随時、講義内で教示していきます。

 

【その他の教材】

 

 必要に応じ、講義内で指示ないし配布を行います。

 

【担当教員への連絡方法】

 

 eメールでアポイントを取って下さい。akiraokawada@gmail.com

 初回の授業終了時に、自己紹介を上記アドレスへ送ってください。

東海大学文芸創作学科2019年春学期シラバス(ゲームデザイン論)

※2019年度も継続任用となり、東海大学文化社会学部文芸創作学科で教えます。こちらでは利便性を鑑み、シラバスを公開いたします。

 

2019年度 春学期 水曜3限

授業科目名 サブカルチャーと文学

テーマ サブカルチャーから文学を読み替える「文学を介した“反”サブカルチャー論」

キーワード サブカルチャー ヒロイックファンタジー ロールプレイングゲーム

担当教員  岡和田 晃

 

【授業要旨または授業概要】

 

 大学で「サブカルチャー」を勉強すると聞いて、面食らった方もいるのではないでしょうか?

 もともと「サブカルチャー」は社会学の用語ですが、昨今では日本製の“アニメ・漫画・ゲーム”のことを指す場合が多いようです。こうした周縁的と思われてきた分野のインパクトを、もはや大学教育の現場でも、無視できなくなっているということです。

 他方で、これらを「クールジャパン」と一括りにして闇雲に称揚する言説が存在しています。しかし、その文脈においては、従来「文学」とされてきた領域はむろんのこと、狭い日本における商業的な価値観に閉じこもり、海外との(相互的な)影響関係に関する視点が、すっぽりと抜け落ちてしまっています。

 本講座は、そうした「サブカルチャー」観を再生産するものではないことを、まずは強調しておきます。むしろ、かねてから「サブカルチャー」として軽んじられてきた表現を、「文学」と等価に扱い、それどころか、既存の「文学」を読み替える可能性を内包したものとして捉えていくというのが、本講座の趣旨なのです。

 

 資本主義が高度に発達した現在においては、私たちの接する文化は中心を欠いたものとなってしまっており、経済効果のみが作品を語る指標として用いられがちです。

 しかしながら、欲望の無自覚な肯定に終始し、「文学」をはじめとした人文科学の成果を敵視するような悪しき意味での「オタク」を再生産するのでは、わざわざ大学で学ぶ意味がありません。

 本講座は、狭い世界に閉じこもらず、外へ向けての「窓」となる、認識の枠組みと教養の土台づくりを目指します。

 

 ゆえに、正確に言うと本講座は「サブカルチャー論」ではありません。反対に、「文学を媒介とした“反”サブカルチャー論」です。このことは、講義内でも絶えず強調していくので、忘れずにいてほしいと思います。

 

  同名の講座が水曜3限・水曜4限で展開されます。水曜3限の講座では、古典的な幻想文学を講読し、その成果を、ロールプレイングゲームの(シナリオ)デザインやヒストリカルノート、ソロアドベンチャーの作成、リプレイ小説の執筆という形で表現することを目指します。

 

※より詳しくは、続けて【授業計画】の項目をご参照ください。

 

【学修の到達目標】 

◆授業で育成するスキル

自ら考える力・文章情報を読み解く力・批評的な思考力

 

◆学習の到達目標

・日常的に接する文化環境に対しての批判的な視座を持ち、そのルーツを探り新たな表現を産むために必要な(最低限の)知識と好奇心を涵養します。

・文学を中心にしつつ、哲学・歴史学・美学といった人文科学についての基本的な知識をも習得します。

・カルチュラルスタディーズ、ジェンダーポストコロニアル理論といった、現代批評理論の基礎を習得します。

・ヌーヴェルクリティーク以降の文芸評論の基礎を習得します。

ゲームデザインクリエイティヴライティングの基礎をも学ぶことで、学術的な視座の批評や創作へ応の応用を目指します。

 

【授業計画】

◆スケジュール

<注意:水曜3限では、ゲームデザイン幻想文学(ヒロイックファンタジー)の講読を中心に学習します。水曜3限と4限では、授業内容が異なります>

 

 ブロンテ姉妹が架空の王国を創造して「ごっこ遊び」を展開した19世紀から、21世紀、スマートフォンを駆使したAR(拡張現実)ゲームまで、ストーリーゲームは多様な形態が存在しています。

 そこで本講座では、ゲームと「文学」が交錯したわかりやすい事例として、会話型(テーブルトーク)のロールプレイングゲームを中心に扱います。

 ただし、意識するのは、規範となる海外の(主として英語圏の)作品です。

 文献講読とストーリーゲームの体験を前半回での講義では組み合わせて行い、後半回の講義では本格的なワークショップで実際にゲームをプレイします。

 その過程で、文学研究や文芸批評の方法論を軸に、学術的なゲーム研究における最新の成果も紹介しながら、他ジャンルにまたがる普遍的なストーリー構造や、原型となる神話素、「語り」をはじめとした表現スタイルの微妙な差異などを検証することで、総合的な教養を培うことが目標です。

 本気でゲームや小説の仕事につきたい人は、大いに歓迎します。講師の仕事も講義内でその都度、紹介し、現場の空気を知ってもらう縁といたします。

 しばしば誤解されますが、「サブカルチャー」と授業名で冠されているからといって、「ラク」というわけではありません!

 前期履修者の継続出席、学部・他学科からの聴講も歓迎しますが、途中で離脱するケースが多いので、いちどやると決めたら、最後まで受講することを推奨します。さもなければ、実になりません。

 

※2018年後期(秋学期)の内容を、参考までに以下に示します。受講生の関心や状況に応じ、随時変更を加えていきます。教室での指示を聞き逃さないようにして下さい。

 2019年度前期(春学期)は、幻想文学のなかでも、ヒロイックファンタジーフリッツ・ライバー〈ファファード&グレイ・マウザー〉等)を講読し、その流れを汲んだゲームデザインを行う予定なので、2018年とは扱う内容が大きく異なります。ご注意ください。

 

1:オリエンテーションモダンホラーとゴシックホラーの差異

【ストーリーゲーム実践:『ストーリーキューブ』をプレイする】

・怪奇幻想文学研究・創作の基本的な考え方を解説する。

・アイスブレイクとしてナラティヴ・ゲームを体感する。

2:19世紀の幻想文学を読む~フィオナ・マクラウド「鳥たちの祝祭」を読む(1)

【ストーリーゲーム実践:『キャット&チョコレート 幽霊屋敷編』をプレイする(1)】

幻想文学の根幹にある「ケルト」のイメージを、マクラウドのテクスト経由で調査する。

・『キャット&チョコレート』はルールを少し変え、代表者5人に、カードを参考に即興で物語を作成させ、残りの学生に妥当かどうかを審判させる。

3:19世紀の幻想文学を読む~フィオナ・マクラウド「鳥たちの祝祭」を読む(2)

【ストーリーゲーム実践:『キャット&チョコレート 幽霊屋敷編』をプレイする(2)】

・原文に即して、ゲール語地名の解釈を検討する。別の角度から、ジョン・ディクスン・カー『火刑法廷』や、健部伸明『虚空の神々』についても解説。

・文芸評論で言う「ナラティヴ」と、ストーリーゲームの交錯点を考える。

4:19世紀の幻想文学を読む~フィオナ・マクラウド「最後の晩餐」を読む(1)

【ストーリーゲーム実践:『キャット&チョコレート 幽霊屋敷編』をプレイする(3)】

・中野善夫訳(2018)と松村みね子訳(1925)をそれぞれ輪読する。また、『薔薇物語』や『農夫ピアスの夢』といった中世文学の要素の内在性を考察する。

・プレイヤー・スキルの訓練として『キャット&チョコレート』をプレイする。

5:19世紀の幻想文学を読む~フィオナ・マクラウド「最後の晩餐」を読む(2)

【ストーリーゲーム実践:『ブラックストーリーズ』をプレイする(1)】

・同じマクラウドの「女王スカァアの笑ひ」、「アンガス・オーグの目覚め」も読み、比較分析を行う。

ゲームマスター・スキルの訓練として各班に分かれて『ブラックストーリーズ』をプレイする。

6:フィオナ・マクラウドとA・E(ジョージ・ラッセル

【ストーリーゲーム実践:『ブラックストーリーズ』をプレイする(2)】

叙事詩現代文学の相違点。ホメロスオデュッセイア』とジェイムズ・ジョイスユリシーズ』の違い、アドルノ&ホルクハイマー『啓蒙の弁証法』について。

・『ブラックストーリーズ』を持ち回りでリドルマスター(ゲームマスター)に挑戦。

7:H・P・ラヴクラフト「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」および「レッド・フックの恐怖」を読む

【ストーリーゲーム実践:『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』のキャラクター創造】

・語りやモチーフが対になっているようなラヴクラフト作品の講読。

・『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』の簡易ルールを用いたキャラクター創造の訓練

8:H・P・ラヴクラフト「魔女屋敷で見た夢」を読む

【ストーリーゲーム実践:『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』の実演】

・先行作品「アッシャー家の崩壊」(ポー)や「るつぼ」(アーサー・ミラー)との関わりについて考察し、フリッツ・ライバー「ブラウン・ジェンキンとともに時空を巡る」を読む。

・『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』を参加者間で1 on 1でプレイする。

9:ワークショップ準備

 ロールプレイングゲーム「Tunnles and Trolls ラヴクラフト・バリアント」のキャラクターメイキングを試し、セービング・ロール、戦闘、射撃等の基本的なルールの確認。

10:ワークショップ(1)

 ロールプレイングゲーム「Tunnles and Trolls ラヴクラフト・バリアント」を、6卓に分かれてプレイ。ゲストのゲームマスターに蔵原大先生を招きました。

11:ワークショップ(2)

 ロールプレイングゲーム「Tunnles and Trolls ラヴクラフト・バリアント」の続きを、6卓に分かれてプレイしました。

12:ゲームデザイン入門(1)

 ゲームシナリオの記述スタイル、既存のシナリオの書式を学ぶ方法、ヒストリカルノートとは何か、2d6上方ロールとd100下方ロールの違いを学ぶ。 

13:ゲームデザイン入門(2)

 宿題としてオリジナルのゲーム・ルールを創作してもらい、その講評を行った。

14:ゲームデザイン入門(3)

 宿題として、エドワード・ルーカス・ホワイト「ルクンドオ」をゲームシナリオ化してもらい、その講評を行う。 

 

◆予習・復習

 

 毎回、前回の講義で課題に指定されてきたテクストを読んできて下さい。

 毎回のフィードバックと、途中で行う小レポートのために、ハードな予習復習が必要となります。

 また、レポート作成のためには、自分たちで実際にゲーム会を、最低1回は運営してもらうことになります(楽しく、やりがいのあることです!)。

 

◆集中授業の期間

 

【履修上の注意点】 

 講義の際には、相当分量の論文や小説を読み進めていくことになります。関連して文献も紹介しますが、少々難解かもしれない理論も含まれます。自前でのゲーム会の運営など、授業外でも相当な努力が必要になります。講義へのフィードバックを毎回記入してもらい、それを講師が講義内容へ反映させていきます。その他、双方向的な講義になりますので、積極的な協力・参加が求められます。

 

【成績評価の基準および方法】

 

 評価のポイントは、以下の4点です。

 

1)ゲームデザインという作業の特性が理解できているか(約20%)

2)作品の内実や、周辺に存在する文脈が理解できているか(約20%)

3)課題へ積極的に取り組み、読解・創作ができているか(約40%)

4)批評的であることの意義が理解できているか(約20%)

 

 毎回、フィードバックシートへの記入を行い、それを小テストの代わりとします。それとは別に、期末レポートを課します。なお、レポート執筆の際にWikipediaを参考資料に用いることを禁止します。代返等・コピペ等の不正行為に関しては厳正に対処します。各種文章がしっかり書けていることは、評価の前提条件とします。

 上記の学習目標が達せられているかどうかを、フィードバックを含む出席点(40点)、レポート(60点)、のウエイトで評価して総合的に判定します。具体例として、その合計が90点以上をS評価、80点以上90点未満をS評価、70点以上80点未満をB評価、60点以上70点未満をC評価とします。

 ただし、出席回数が7割未満の場合、この限りではありません。

 

 なお、2018年後期(秋学期)のレポート課題は、プロジェクトチームに分かれ、それぞれRPGのシナリオ、ヒストリカルノート、リプレイ小説、ソロアドベンチャーを製作するという課題でした。

 

 

【教科書・参考書】

区分  書 名  著者名  発行元  定価

 

教科書 岡和田晃 『世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷 SF・幻想文学・ゲーム論集』 アトリエサード/書苑新社 2970円

 

参考書 K・S・アンドレほか『ミッション:インプポッシブル』、アトリエサード

参考書 フリッツ・ライバー〈ファファード&グレイ・マウザー〉シリーズ、創元推理文庫

参考書 マーガレット・ワイス&トレイシー・ヒックマン〈ドラゴンランス〉シリーズ、KADOKAWA

参考書 ジャック・ヴァンス『天界の眼 切れ者キューゲルの冒険』、国書刊行会

参考書 伏見健二&わきあかつぐみ『聖珠伝説パールシード 復刻版』、オニオンワークス

参考書 伏見健二『モンスターメーカー リザレクションRPG』、エンターブレイン 

参考書 Fuyuki『ピークス・オブ・ファンタジー』、グランペール

参考書 マーク・ガスコイン編『タイタン』、グループSNE

参考書 岡和田晃RPG研究の現在と、伏見健二の「初期の仕事」(アーリー・ワーク)」、「層」vol.11、北海道大学大学院文学研究科 映像・表現文化論講座/ゆまに書房

参考書 「ウォーロック・マガジン」、グループSNE

参考書 「Role and Roll」、新紀元社

※その他、随時、講義内で教示していきます。

 

【その他の教材】

 

 必要に応じ、講義内で指示ないし配布を行います。

 

【担当教員への連絡方法】

 

 eメールでアポイントを取って下さい。akiraokawada@gmail.com

 初回の授業終了時に、自己紹介を上記アドレスへ送ってください。

 3月24日の文学フリマ前橋で、「THaNATOS6 小さなお茶会 図子慧✕岡和田晃ミニトーク~愛はこぼれるqの音色を聞いてみよう」が開催

 3月24日の文学フリマ前橋で、「THaNATOS6 小さなお茶会 図子慧✕岡和田晃ミニトーク~愛はこぼれるqの音色を聞いてみよう」が開催されます。
新刊の先行発売を記念したイベントで、図子慧さんをゲストに、聞き手を私が務めさせていただきます。
・13時~(参加無料)
文学フリマ前橋会場内特設コーナー

愛は、こぼれるqの音色 (TH Literature Series)

愛は、こぼれるqの音色 (TH Literature Series)

 

 

 

「ウォーロック・マガジン」Vol.3に「無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中(ワンダリング・アドベンチャー)“~そして、恐怖の街へ~”」および「FFによる遊戯史学のススメ」が掲載

ウォーロック・マガジン」Vol.3に、『トンネルズ&トロールズ完全版』のソロ・アドベンチャー「無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中(ワンダリング・アドベンチャー)“~そして、恐怖の街へ~”」および「FFによる遊戯史学のススメ」が掲載されています。万太郎も、3レベルまで成長。キャンペーンゲームのクライマックス! “恐怖の街”ガルをとりまく陰謀とは?!
 中山将平さんの漫画「はじめてのアンクル・アグリーズ・アンダーグラウンド」のゲームマスターもさせていただきました。
 「FFによる遊戯史学のススメ」も掲載。こちらでは、〈ファイティング・ファンタジー〉シリーズからの広がりとして、『混沌の渦』、フランスでのFFやゲームブック受容、そして、児童文学ファンタジーゲームブックの連動について触れています!

ウォーロックマガジンvol.3

ウォーロックマガジンvol.3

 

 

4Gamer.netに、『ゴブリンスレイヤーTRPG』の先行リプレイを書きました。

 4Gamer.netに、『ゴブリンスレイヤーTRPG』の先行リプレイを書いています。豪華コンポーネントで発売への期待が高まるオールドスクールファンタジーRPGゴブリンスレイヤーTRPG』の先行リプレイを4Gamerに寄稿しました。ゲームマスターは原作の蝸牛くもさん。プレイヤーはマフィア梶田さん、岡田篤宏さんと豪華メンバー、ボリューム満点の内容です!

 今回は、私にとって久しぶりの商業リプレイとなりました(監修はたくさんしてますが、メインとしては)。編集さんの親身なアドバイスを受けながら、「システムの醍醐味を伝えること」、「会話の自然な流れで臨場感を出すこと」、「実セッションで起きた意外な展開の面白さを書くこと」を意識しました。
 『ゴブリンスレイヤーTRPG』は「GMマガジン」で製作日誌が連載されています。特に『D&D』、『ソード・ワールド』、『ファイティング・ファンタジー』などが好きな方、この作品は響くはず。www.4gamer.net

幻戯書房noteに向井豊昭「竜天閣」が掲載

 『骨踊り 向井豊昭小説選』(幻戯書房)の発売を記念し、向井豊昭「竜天閣」(1966、「手」4号)が幻戯書房noteに全文掲載されました。

note.mu

  この作品については『北の想像力』で詳しく論じています。

北の想像力 《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅

北の想像力 《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅