東海大学文芸創作学科2019年春学期シラバス(幻想文学・SF論)

サブカルチャーと文学(水曜4限)

2019年度 春学期 水曜4限

 

授業科目名 サブカルチャーと文学

 

テーマ サブカルチャーから文学を読み替える「文学を介した“反”サブカルチャー論」

 

キーワード サブカルチャー 幻想文学・SF 文芸批評

 

担当教員 岡和田晃

 

【授業要旨または授業概要】

 大学で「サブカルチャー」を勉強すると聞いて、面食らった方もいるのではないでしょうか?

 もともと「サブカルチャー」は社会学の用語ですが、昨今では日本製の“アニメ・漫画・ゲーム”のことを指す場合が多いようです。こうした周縁的と思われてきた分野のインパクトを、もはや大学教育の現場でも、無視できなくなっているということです。

 他方で、これらを「クールジャパン」と一括りにして闇雲に称揚する言説が存在しています。しかし、その文脈においては、従来「文学」とされてきた領域はむろんのこと、狭い日本における商業的な価値観に閉じこもり、海外との(相互的な)影響関係に関する視点が、すっぽりと抜け落ちてしまっています。

 本講座は、そうした「サブカルチャー」観を再生産するものではないことを、まずは強調しておきます。むしろ、かねてから「サブカルチャー」として軽んじられてきた表現を、「文学」と等価に扱い、それどころか、既存の「文学」を読み替える可能性を内包したものとして捉えていくというのが、本講座の趣旨なのです。

 

 資本主義が高度に発達した現在においては、私たちの接する文化は中心を欠いたものとなってしまっており、経済効果のみが作品を語る指標として用いられがちです。

 しかしながら、欲望の無自覚な肯定に終始し、「文学」をはじめとした人文科学の成果を敵視するような悪しき意味での「オタク」を再生産するのでは、わざわざ大学で学ぶ意味がありません。

 本講座は、狭い世界に閉じこもらず、外へ向けての「窓」となる、認識の枠組みと教養の土台づくりを目指します。

 

 ゆえに、正確に言うと本講座は「サブカルチャー論」ではありません。反対に、「文学を媒介とした“反”サブカルチャー論」です。このことは、講義内でも絶えず強調していくので、忘れずにいてほしいと思います。

 

 

 同名の講座が水曜3限・水曜4限で展開されます。水曜4限の講座では、幻想文学とSFの批評について総合的に学びます。ブックガイド的な「レビュー」や、現代思想の「ダシ」にして終わらない幻想文学批評のあり方は可能かを模索していきたいと思います。

 

※より詳しくは、続けて【授業計画】の項目をご参照ください。

 

【学修の到達目標】 

◆授業で育成するスキル

 自ら考える力・文章情報を読み解く力・批評的な思考力

 

◆学習の到達目標

・日常的に接する文化環境に対しての批判的な視座を持ち、そのルーツを探り新たな表現を産むために必要な(最低限の)知識と好奇心を涵養します。

・文学を中心にしつつ、哲学・歴史学・美学といった人文科学についての基本的な知識をも習得します。

・カルチュラルスタディーズ、ジェンダーポストコロニアル理論といった、現代批評理論の基礎を習得します。

・ヌーヴェルクリティーク以降の文芸評論の基礎を習得します・

・批評の基礎を学ぶことで、学術的な視座の批評や創作へ応の応用を目指します。

 

【授業計画】

 

 

◆スケジュール

<注意:水曜4限では、幻想文学・SFの講読と批評を中心に学習します。水曜3限と4限では、授業内容が異なります>

 

 映像資料の分析も交えますが、基本的には小説・批評を講読していきます。

 いま、創作や批評を試みるにあたって、もっともネックになるのが、絶対的な読書量の不足です。ただ、やみくもに数をこなせばよいというわけではありません。プロの作家や書評家でも、作品の読み込み、全体的なパースペクティヴの提示、状況への批判の三つを兼ね備えている人は少ないのが現実です。

 しかしながら、複雑化する現実を、既存のリアリズムでは捉えきれなくなっている現状は確かに存在します。幻想文学やSFの講座は英語圏では普通に存在しますが、日本では限られた大学でしか講じられていません。それゆえ、これらの方法を身に着けていれば、並み居る(広義の)作家志望者たちから、一歩抜きん出ることが可能になるでしょう。

 そこで講座では、実際に幻想文学論、SF評論、文芸評論、ロールプレイングゲーム創作の現場における最新の知見を、随時紹介する予定です。

 本気でプロの物書きになりたい人は、大いに歓迎します。前期履修者の継続出席、他学部・他学科からの聴講も歓迎しますが、途中で離脱するケースが多いので、いちどやると決めたら、最後まで受講することを推奨します。さもなければ、身につきません。

 しばしば誤解されるのであらかじめお断りしておきますが、「サブカルチャー」だからといって「ラク」というわけではありません!

 

※2018年前期の内容を、参考までに以下に示します。受講生の関心や状況に応じ、随時変更を加えていきます。教室での指示を聞き逃さないようにして下さい。

 講義では、担当テクストを輪読し、解釈に必要なキーポイントとして、文学史現代思想に関するトピックを解説していきました。

 2019年前期(春学期)は、ローズマリー・ジャクスンや今泉文子等の幻想文学批評の検討を中心にする予定なので、2018年とは扱う内容が大きく異なります。ご注意ください。

 

1:オリエンテーション~Huluのドラマ『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』から

【キーポイント】反知性主義ジェンダーバックラッシュに伴い、SFがどう「政治的」な問題意識を作中へ組みこんでいるのかを考察

2:SFの起源とSFの定義

【キーポイント】ユートピアの両義性について、『宇宙戦争』、『フランケンシュタイン』、『ガリヴァー旅行記』、『ユートピア』にまで遡行して考察

3:小川項(=川上弘美)「累累」、アラン・ロブ=グリエ「帰り道」の講読

【キーポイント】テマティスムの基礎、ヌーロヴォー・ロマンの基礎、文学における「顔」の問題

4:フランツ・カフカ「掟の門」、イアン・ワトスン「超低速時間移行機」の講読

【キーポイント】「掟」と「律法」、父と子の表象、ハードSFの定義、シンギュラリティ

5:ロバート・シェクリィ「危険の報酬」を講読、レニ・リーフェンシュタール監督「民族の祭典」を鑑賞

【キーポイント】リアリティショーとファシズム、政治の美学化、管理社会と監視社会、パノプティコン

6:笙野頼子「冬眠」、渡邊利道「エヌ氏」の講読

【キーポイント】私小説と思弁小説、デカルト方法序説』、機械論的人間観、決定論と可能世界論、基本的人権レイシズム

7:アイラ・レヴィンブラジルから来た少年』(ラジオドラマ版)の鑑賞、アーシュラ・K・ル=グウィン「帝国よりも大きくゆるやかに」の講読

【キーポイント】ヴェトナム戦争と「チャウシェスクの子どもたち」、「世界大戦」から「世界内戦」へ、母性と死、ディスコミュニケーションという出発点

8: 谷崎由依野戦病院」の講読

【キーポイント】「世界内戦」とジェンダー

9:批評の書き方(1)~山内士朗『ギリギリ合格への論文マニュアル』、笠井美希『デュラスのいた風景』の講読

【キーポイント】「パクリ」とオマージュの違い、800字程度の書評の構成と工夫

10:ゲスト講師による特別講義~蔵原大先生(東京電機大学非常勤講師)による、H・G・ウェルズ宇宙戦争』についての講義

11:批評の書き方(2)

【キーポイント】「ネタバレ」の可否について、構成・タイトルの付け方の問題

12:『D・G・ロセッティ作品集』(岩波文庫)の講読

【キーポイント】オーブリー・ビアズリーなど世紀末文化との連関、ウィリアム・モリスとD・G・ロセッティ、イコノロジーの基礎

13:川端康成「片腕」の講読、現代詩入門(白石かずこ「死んだジョン・コルトレーンに捧ぐ」)

【キーポイント】鈴木牧之『北越雪譜』の書き換え、「美しい日本の私」と「あいまいな日本の私」、ページターナー球体関節人形優生学新自由主義(に対する抵抗)

14:夏目漱石夢十夜」、『漾虚集』の講読

【キーポイント】イギリス世紀末文学、ドイツ・ロマン主義との関わり。江藤淳以降の批評からの解釈

 

◆予習・復習

 

 毎回、前回の講義で課題に指定されてきたテクストを読んできて下さい。

 また、書く力を鍛錬するため、毎回、メールを介して書く課題が与えられます。

 授業で与えられたテクストだけではなく、積極的に自分でテクストを探して読み込んでいく姿勢が求められます。

 当然、新刊で書店にて入手できるものだけではなく、図書館や古書店を活用した調査も必須です。

 

【履修上の注意点】 

 講義の際には、相当分量の論文や小説を読み進めていくことになります。関連して文献も紹介しますが、少々難解かもしれない理論も含まれます。講義へのフィードバックを毎回記入してもらい、それを講義内容へ反映させていきます。その他、双方向的な講義になりますので、積極的な協力・参加が求められます。

 

【成績評価の基準および方法】

 

 評価のポイントは、以下の4点です。

 

1)取り扱った作家・作品の内在的特性が理解できているか(約20%)

2)作品の周辺に存在する文脈が理解できているか(約20%)

3)テクストへ積極的に取り組み、読解・創作ができているか(約40%)

4)批評的であることの意義が理解できているか(約20%)

 

 毎回、フィードバックシートへの記入を行ってもらい、それを小テストの代わりとします。それとは別に、期末レポートを課します。なお、レポート執筆の際にWikipediaを参考資料に用いることを禁止します。代返等・コピペ等の不正行為に関しては厳正に対処します。各種文章がしっかり書けていることは、評価の前提条件とします。

 上記の学習目標が達せられているかどうかを、フィードバックを含む出席点(40点)、レポート(60点)、のウエイトで評価して総合的に判定します。具体例として、その合計が90点以上をS評価、80点以上90点未満をS評価、70点以上80点未満をB評価、60点以上70点未満をC評価とします。

 ただし、出席回数が7割未満の場合、この限りではありません。

 

 なお、2018年度前期(春学期)および後期(秋学期)のレポートは、書評SNS「シミルボン」を活用し、「文学」と「SF」の間にあるようなスリップストリーム作品について、6000字程度の批評を執筆するというものでした。

 最優秀作を、以下に公開しています。参考までにご覧ください。

https://shimirubon.jp/columns/1690934

 

【教科書・参考書】

区分  書 名  著者名  発行元  定価

 

教科書 岡和田晃 『世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷 SF・幻想文学・ゲーム論集』 アトリエサード/書苑新社 2970円

 

参考書 岡和田晃 『反ヘイト・反新自由主義の批評精神 いま読まれるべき〈文学〉とは何か』、寿郎社

参考書 ローズマリー・ジャクスン『幻想と怪奇の英文学Ⅲ 転覆の文学編』、春風社

参考書 今泉文子『幻想文学空間 世紀転換期のベルリン・ウィーン・プラハ』、ありな書房

参考書 クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国』シリーズ、アトリエサード

参考書 「ナイトランド・クォータリー」、アトリエサード

※その他、随時、講義内で教示していきます。

 

【その他の教材】

 

 必要に応じ、講義内で指示ないし配布を行います。

 

【担当教員への連絡方法】

 

 eメールでアポイントを取って下さい。akiraokawada@gmail.com

 初回の授業終了時に、自己紹介を上記アドレスへ送ってください。