児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる「魔法の酒樽を取り返せ!」リプレイ

 児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんの『傭兵剣士』リプレイシリーズ、第4作は、『傭兵剣士』に収められた多人数用シナリオ「〈黒のモンゴー〉の塔ふたたび」のソロアドベンチャー版「魔法の酒樽を取り返せ!」(「Role&Roll」Vol.177)のリプレイストーリーとなります。ご堪能ください。

 

『屈強なる翠蓮とシックス・パックの魔法の酒樽を取り返せ』
~リプレイ『魔法の酒樽を取り返せ』~

著:齊藤飛鳥 

傭兵剣士 (T&Tアドベンチャー・シリーズ7)

傭兵剣士 (T&Tアドベンチャー・シリーズ7)

 

 

Role&Roll Vol.177 (ロールアンドロール)

Role&Roll Vol.177 (ロールアンドロール)

 

 

0:屈強なるプロローグ

あたしの名は、〈屈強なる翠蓮〉
18歳。人間の女戦士で、黒髪色白黒目のロリ体型がご自慢ネ。
知性度は9と低めだけど、気にしないヨ。
ひょんなことから、アル中悪魔のシックス・パックと冒険をすることになってしまったネ。
何しろ、岩悪魔のシックス・パックは、酒が切れると人間嫌いになるは、酒を見るとドワーフトロールでもおかまいなしに襲いかかって酒を奪うは、いかにも友達いなさそうなろくでなしだから、あたしが相棒になってやらなきゃダメだ。
今だって、赤魔術師の迷宮から帰って来て、次の冒険で何をするかという話になったら、迷わずに
「モンゴーの野郎に奪われた“空にならない”魔法のビール樽を取り戻そうぜッ!!」
と言い出す始末サ。
こいつの日常は酒を中心に回りすぎネ。
でも、考えてみたら、“空にならない”魔法のビール樽があったら、あたしがこのアル中のために荷車引いて大量の酒を運ぶ苦労を背負いこまなくてすむヨ。
「わかったわかった。シックス・パックがそこまで言うなら、一緒に行ってやるネ」
「そう来なくちゃな、相棒!」
シックス・パックは、がっしりとあたしの手を握った。
これで、相談は終了。
あたしらは、再び“黒のモンゴーの塔”を目指した。


1:屈強なる“黒のモンゴーの塔”前

“黒のモンゴーの塔”へ行く途中の田舎の辻に〈青蛙亭〉という居酒屋が見えた。
シックス・パックは、自慢げにこう言った。
「ここは俺の兄貴のクォーツが経営している店なんだぜ!」
「ふーん」
「えらく反応薄いな、おい!待てよ、置いていくなよ!」
シックス・パックには悪いが、あたしはクールに〈青蛙亭〉の前を通りすぎた。
前にあたしが〈青蛙亭〉で支払いができなくて叩き出された過去をシックス・パックには知られたくないからヨ。許せ、シックス・パック。
“黒のモンゴー”の塔には、前に来たことがあるので、迷わずに着けたネ。
でも、本番はこれからヨ。
あたしらを追い出した“黒のモンゴー”に見つからないように、塔に侵入しないとならないネ。
こういう時に活躍するのは、シックス・パックだ。
辺りを嗅ぎまわり、水路とひっくり返ったボートを見つけ出したヨ。
これで水路を遡れば、塔の地下迷宮に入れるネ。
と、喜んでボートに乗ったら、オールがないことに気づいたヨ。
「仕方ない、近くの木を切ってオールを作るネ」
「簡単そうに言っているが、器用度9のおめえが作れるのか?」
「大丈夫、工作は体力勝負ヨ!」
あたしは、剣で木を板状に切り、難なくオールを完成させた。
「オールと言うか、ただのでかい板きれじゃあねえかよ」
シックス・パックはブツブツ言っていたけど、自分で作るのは面倒だったみたいだから、結局受け入れた。
あたしらは、できたてのオールを使ってボートで水路を遡っていった。


2:屈強なる登攀

あたしとシックス・パックがボートで水路を進むうちに、滝が見えてきたヨ。
水路は、この滝で終わっていて、滝の裏にはいかにも地下迷宮の入り口っぽい洞穴があったネ。
ボートを捨てて、洞穴目指して登攀することになり、今度こそ本当に器用度を試される時が来たことを悟ったヨ。
まあ、考えるよりも行動あるのみサ。
あたしは、登攀に挑戦した。
常に手足の角度が三角形になるように登れば、バランスが取れて安全に登れると、故郷の一番上の兄ちゃんの四番目の花嫁が教えてくれたから、間違いないネ。
右手、左足、左手、右……うわ!
マヌケな右足め!
足を滑らせたネ!
体が宙に舞ったと思った直後、激しい痛みが臀部に走ったヨ……。
あぁ、もうダメだ……。
〈屈強〉の翠蓮、ここに死す……。
転落死だから、きっとあたしの死体はぐっちゃぐちゃネ……。
どうか、ジーナにはあたしの死がマイルドに伝えられて欲しいヨ……。
「登攀の最初に足をらせて尻もちついたくらいで、どうして人生のしめに入っているんだよ!?まったく、大袈裟な奴だぜ」
あきれた調子で、シックス・パックがあたしの顔をのぞきこむ。
アル中悪魔がいるということは、ここは天国ではない。
地獄だって、こんなアル中悪魔は入場規制するだろうから、あたしはまだこの世にいる。すなわち、生きているネ!
生きているって素晴らしい。
単純ながらも深遠なる真実を噛みしめつつ、あたしはシックス・パックに肩車をしてもらって登攀したネ。


3:屈強なる岩トロールとの戦い

登攀し終えて、湖のほとりを進むうちに橋を見つけた。
橋の手前には中くらいの山羊がいて、向こう側には凶悪そうな岩トロールがいたヨ。
山羊が橋を渡った後、あたしらも橋を渡ろうとしたら、岩トロールがこちらを向いた。
しかも、舌をペロリとしてやがるネ。
どうやら、あの山羊があたしらを食えと言っていたらしい。何て山羊サ!
でも、あたしだって負けないネ!
ここは舌先三寸で煙に巻いてやるヨ!
あたしは知性度と魅力度を合わせて、岩トロールへ愛想よく微笑んで見せた。
「もっと大きいアミルスタン羊がこの後に来ますネ」
「羊? 山羊じゃあないトロか?」
「隙ありー!」
シックス・パックの不意討ちが、きれいに決まった。
ここから、岩トロールとの戦いが始まったヨ。
何とか岩トロールを倒すと、岩トロールの胸がひび割れて宝石のような石が現れる。
体の中にあったことからして、この石は岩トロールのはらわたか何かネ?
シックス・パックが、あたしにこれは岩トロールの核であるハートストーンだとか何だとか小難しい説明をしてくれたけど、知性度9だからよくわからなかったヨ。
わかったことは、もらっていってもいいということネ。
あたしは、岩トロールのハートストーンを手に入れた。


4:屈強なる山羊達

トロールを倒して橋を渡ると、牧草地だった。
そこには小さい山羊と中くらいの山羊がおいしそうに食事をしていたヨ。
あたしらが眺めていると、橋を渡って大きな山羊が現れ、食事に加わった。
「おまえ達、モンスター来るような所なのによく来たネ」
「山羊に言葉がわかるわけ……ヒィ! 山羊がしゃべりやがったぜ!」
山羊があたしの声かけに応じて、ここがおいしい牧草地だから食べに来たと答えたので、シックス・パックが腰を抜かしたネ。
そこへ、山羊を食べにフログルが現れたヨ!
どうして、地下迷宮の近くに一大牧草地があると思ったら、モンスターが山羊をおびき寄せるために開墾していたからネ!
「メエエ、ボクたちの食事を邪魔するモンスターは容赦しないよ!」
おぉ、まさかの山羊達も戦いに参加ヨ!
山羊達の戦いを横目に、あたしらもフログルと戦った。
あたしが、剣でフログルAを斬る。
山羊達が角でフログルBを突き刺す。
シックス・パックが剣でフログルAを斬る。
山羊達が後ろ脚でフログルBを蹴り飛ばす。
戦いが終わる頃には、フログルBの惨殺体ができあがっていたヨ。
「俺、今度から居酒屋行っても酒のつまみに絶対山羊料理は注文しねえわ」
「シックス・パックもか。あたしもネ」
地下迷宮の近くでモンスターが出没する危険地帯へ一匹ずつノコノコやって来た時点で、山羊達の強さに気づくべきだったヨ。
モンスターよりも、山羊達に脅威を感じながら、あたしらは先を進んだ。 

三びきのやぎのがらがらどん (世界傑作絵本シリーズ)

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5:屈強なるチェーン店

山羊たちの牧草地を後にして、地下迷宮の通路を歩くうちに、いきなりシックス・パックが走り出した。
いい匂いがするとかで、そう言えば、焼き肉の匂いがするネ。
シックス・パックの後を追って匂いのもとへ行ってみると、こんな地下迷宮に屋台があったヨ!
思わず二度見したその屋台の看板には、こう書かれていたネ。
「ラット・オン・ア・スティック(串刺しネズミ)・チェーン店」
まだ若くて肉の軟らかいネズミを何種類かのスパイスを混ぜて作ったタレにひたし、二匹ずつ串刺しにして、丁寧に遠火であぶったその一品は、香ばしい香りを辺りに漂わせている。
一見単純な串刺し料理ながらも、その実じっくりと手間ひまかけて作られているヨ。
それなのに、お値段はたったの4spぽっきり!!
これは、お買い得ネ!
「しかも、酒は8spだぜ!」
「よし、串刺しネズミも酒も買ったァァーッ!!」
あたしとシックス・パックは、屋台の親父であるゴブリンに金を払うと、さっそく串刺しネズミを食べた。
ただの丸焼きかと思いきや、ちゃんと歯も爪もはらわたも丁寧に抜き取って食べやすくなっているから、まるでノウサギの肉のような歯触りと食感ヨ!
噛むと口の中に、スパイシーな香りと一緒に深いうまみのある肉汁が口の中に広がるのが、たまらないネ!
この屋台のゴブリンの親父、一流の料理人ヨ!
感動のあまり、耐久度が4上がったところで、あたしは紫色に泡立つ酒を飲んだ。
「ホワッシャアァァーッ!!」
それは、口の中に雷雨が発生したに等しい衝撃だったネ……。
アルコール界の暴君に出くわしてしまったヨ……。
「何だ、翠蓮。ドワーフ・クラッシャー程度の軽口でのびちまったのかよ? 酒に弱いお子ちゃまだなぁ」
「これを軽口とか、おまえ、どんだけ酒に強いのサ……?」
体力度が2下がるのを感じながら、ドワーフ・クラッシャーを浴びるように飲み続けるシックス・パックを見るとはなしに見ていると、屋台の親父のゴブリンが、すごくいい笑顔で近づいてきたヨ。
何と、シックス・パックに屋台のフランチャイズをやらないかと持ちかけてきちゃったネ!
嘘! ありえないほど、シックス・パックを気に入っちゃっているヨ!
しかも、シックス・パックがめちゃくちゃ乗り気だヨ!
「俺の兄貴も叔父貴も居酒屋経営者と言った具合に、俺にも経営者の才能があるからな」
得意げなのが腹立つが、シックス・パックに居酒屋経営者の才能があるのは、確かかも。
何せ、ウルクワーウルフが、あたかもシックス・パックのバカ笑いに引き寄せられたように、客としてひょっこりやって来たのだからネ。
「いっちょ、飲み比べをするか!」
シックス・パックの提案に、止める奴は誰もいなかったヨ。
酔いつぶれているあたしをよそに、屋台の親父のゴブリンが審判となって、シックス・パックとウルクワーウルフの飲み比べが始まっ……。
……あれ?
「どうして、あたしも屋台に座らされているネ?」
「バカだなぁ。俺達は仲間だろう?」
答えにならない答えをシックス・パックがかました後、恐怖の飲み比べが始まった。


6:屈強なる飲み比べ

屋台の親父のゴブリンが、この飲み比べはチームプレイだと説明する。
今すぐ変えろヨ、そんなルール!
こちとら、すでに酔っ払ってダメージ食らっているネ!
だが、あたしの抗議もむなしく、飲み比べが始まった。
組み合わせは、あたし対ウルク。シックス・パック対ワーウルフだ。
どう考えても、あたしに不利だよネ?
ちびりちびり酒を飲んでいたけど、もう限界ヨ……。
シックス・パック、後はおまえに任せたネ……。
「任せとけ!」
シックス・パックは、胸を叩いて調子よく返事した。
たのもしいネ……と、思ったのは30分前のこと。
今、あたしらは飲み比べに負けて酔いつぶれていたヨ……。
「頭痛がする! 吐き気もだ!足に力が入らねえ!このシックス・パック様が酔いつぶれて立てないだと!?」
シックス・パックのわめき声が頭蓋骨に反響して頭痛いネ……。
“黒のモンゴー”から魔法の酒樽を取り戻す前に、地下迷宮で二日酔いで死ぬゥゥ……。
力尽き、絶望に打ちひしがれ、藁にもすがる思いで手を差し伸べると……。
「生きよ。そなたは美しい」
どんな不審者!?
いきなり現れた白髭のじじいは、あたしとシックス・パックを神殿みたいな場所に連れこんだ。
これから、じじいのダディにあたしらを紹介するとのことだ。
初対面で、もう親に紹介されるとか、これはまずいヨ!
「気持ちは嬉しいが、あたしには、ジーナというファビュラスな美人の恋人がいるから勘弁ネ!」
ややこしくなる前に白髪のじじいに前もってごめんなさいしていると、顔面が時計で年齢不詳なムキムキマンが現れたヨ。
じじいのダディであるムキムキマンは、“黒のモンゴー”が嫌いなので、じじいに地下迷宮を見張らせていたそうだ。
“黒のモンゴー”って、シックス・パックだけでなく、じじいやムキムキマンにも嫌われているネ。
まあ、あたしもあのおっさん好きじゃないからかまわないヨ。
この正直さが気に入られたのか、ムキムキマンはあたしらが酔いつぶれる前に時間を戻して送り届けてくれたネ!
神対応とは、まさにこのことヨ!
あたしらは、飲み比べをする前の時間へと送りこまれた。


7:屈強なるチェーン店と飲み比べ

気がつくと、あたしは串刺しネズミを食べ終え、今まさに因縁のドワーフ・クラッシャーの入ったグラスを飲むところだった。
今度は、酔いつぶれないように一気飲みはなしネ。
あたしは、ちびりちびり飲む。
おかげで、体力度が1上がった。
そこへまた、ウルクワーウルフがふらりと現れたヨ!
シックス・パックは、こりずに飲み比べを挑むし、えい、どうにでもなるがいいサ!
屋台の親父のゴブリンを審判にして、いざ尋常に勝負ヨ!
やった!!
今度は、勝てたネ!
先を急ごうとするあたしは、屋台のライセンスを購入したいと言い出したシックス・パックを引きずって行ったのだった。


8:屈強なる醸造施設

屋台から歩いてしばらくすると、酒の匂いがするとシックス・パックが言った方向に引きずられ、T字路に出たヨ。
東の扉から機械音がするので開けてみると、そこはダアクの秘密醸造施設だった。
酒で我を忘れたシックス・パックが、ダアクに襲いかかったので、戦闘開始になってしまったネ!
ダアクには悪いが、楽勝だったヨ。
シックス・パックは、ウキウキしながら、サーバーをいじくる。
「先に飲めよ、相棒!」
「ほう、今の戦闘であたしのありがたさが理解できたネ。だが、デモンズ・エールはてめえだけで飲みやがるネ!」
あたしは、シックス・パックの口にデモンズ・エールを押しこんでやった。
「うめえ!こいつは、絶品だぜ!」
シックス・パックは、目を輝かせる。
まったく、危うくあたしを毒殺しかけたとも知らず、いい気なものサ。
あたしらは、また元の場所に引き返して、別のルートを進むことにした。


9:屈強なる剣

引き返して西の扉の前に行ったら、怪しい音がしたので入るのをやめて直進することにした。
直進すると、またも東西に扉がある所に出たネ。
しかも、東からは地下迷宮なのにトンテンカンと大工仕事する音が聞こえて、とてつもなく怪しいヨ。
あたしらは、音がしてない西の扉を開けた。
そこには、岩に刺さった剣があったネ。
岩には何やら小難しいことが書かれていたけど、かまわずに剣を引っこ抜きにかかるヨ!
ドワーフ・クラッシャーの影響で、まだ体力度が1少ないけど、挑戦あるのみネ!
よし、剣を抜けたヨ!
「モンゴーの歪みの剣」という剣で、ちょっと面倒くさい使い心地だけど、使える物は使うネ。
剣を携え、あたしは意気揚々と部屋を出て、直進した。
しばらくして、穴のあいた扉があった。
今までの扉には穴が開いてなかったのに、ここだけこれ見よがしに穴が開いているのは怪しいヨ。
あたしらは、穴をのぞかず、そのまま南西の道に直進した。
すると、今度はY字路にぶつかった。
「どっちの道も嫌な感じで行きたくないぜ」
シックス・パックは、不機嫌そうに言い捨てる。
「うるせえ。誰のために、冒険しているネ。魔法の酒樽を取り返したかったら、つべこべ言わず先に進めヨ」
あたしは、優しくシックス・パックを励ますと、南南西を進んだ。


10:屈強なる螺旋階段

着いたところは螺旋階段で、上に登って行けるようになっている。
あたしらが登ると、何と13階段が噛みついてきたネ!
「やべえ! モンゴーのプロテクション・スペルだ!」
「だったら、器用にこいつらの牙をかわしていくまでヨ!」
器用度9でも、人間様の力をなめないことネ!
あたしらが半ば根性で螺旋階段を登りきると、中央に窪みのある、怪しげな鉄の扉があったヨ。
「こいつは形と言い、大きさと言い、ひょっとして、岩トロールから出てきたハートストーンをはめるんじゃあねえか?」
「はらわたを鍵に使うような悪趣味野郎だから、モンゴーはおまえだけでなく、じじいやムキムキマンにまで嫌われているんだと、よくわかったネ」
あたしは、そう言いながら持っていたハートストーンを扉の窪みにはめた。
扉は低い音を立てて開き、その先には赤いローブの僧侶集団が11人もいたヨ!
部屋の中央には、いかにもお宝くさいアミュレットが彫像に下げられているけど、今は撤退するに限るネ!
あたしらは、螺旋階段まで撤退して、追いかけてきた赤いローブの僧侶集団と戦い始めた。


11:屈強なる海ドラゴンのスープ

赤いローブの僧侶集団を全滅させた後、あたしらはアミュレットが下げられた彫像を調べることにした。
彫像はいきなり目を見開き、海ドラゴンのスープという謎かけをしてきたヨ!
知性度9に謎かけはきつすぎるけど、頑張るネ!
あたしとシックス・パックがしゃべる彫像に質問して、以下のことがわかった。
ドワーフは一人を相手に戦っていた。
・戦いは、リスクを負う試みではなかった。
ドワーフは相手と毎日勝負をしていた。
・この勝負の内容は、戦闘ではなかった。
・勝敗が決まったのは一度だけだった。
ドワーフが絶対負けない勝負に勝って髭がますますのびたのは、超常現象だった。
うん、ドワーフが勝負に勝った決め手が超常現象だったのか、勝って髭がのびたのが超常現象だったのか、ちょっとわからないけど、だいたい答えは見当ついたヨ。
あたしは、しゃべる彫像に自信たっぷりに答えを言ってやることにした。
「正解は、『面白い顔をしたドワーフが、無表情の友人ドワーフと、毎日にらめっこの勝負をしていた。ある日、ついに友人ドワーフが面白い顔をしたドワーフの顔に我慢しきれず爆笑。負けた友人ドワーフは、勝ったドワーフに巻物を贈った。しかし、その巻物は《しゃれたヒゲだね》と書いてあったので、これを読んだ勝ったドワーフの髭がますますのびた』ネ!」
彫像は、一瞬ののち、ためらいがちな声で正解を教えてくれた。
あたしは、恥ずかしさのあまり、穴があったら入りたい心境で、特に気になる音がしない北東の扉のある部屋へ飛びこんでいったヨ。
すると、その部屋にはソーンとローワンの実家を没落させて、ジーナを悲しませた極悪貴族の悪事の証拠となる書簡があったネ!
「こいつは……!」
あたしの後からやって来たシックス・パックも、息を飲む。
シックス・パックも、とんでもないものを見つけたとわかったのだろう。
あたしが振り向くと、シックス・パックはモンゴー秘蔵のブランデーに感動しているだけだったヨ。
呆れるな、あたし。シックス・パックは元からこーいう奴サ。
あたしは、書簡を手に入れて元の部屋に戻る。
しゃべる彫像が、あたしに気を使って、そっと目をそらしているのが、かえっていたたまれない気持ちにさせられたけど、あたしは男の笑い声がする部屋に行ってみることにした。


12:屈強なるエンディング

扉を開けると、酒をかっくらっている、でっぷり太った司祭服の男がいた。
よく見ると、男が酒をついでいるビヤ樽は、探し求めていた魔法の酒樽ネ!
シックス・パックも気づいて、今まで見たこともないほど殺気立った動きで男に飛びかかった。
そして、アル中悪魔対酔っ払い司祭という、魔法の酒樽をめぐる、飲んだくれ頂点対決が繰り広げられたヨ。
あたしは、見守ることしかできなかった。
関わりたくない気持ちでいっぱいだったから…ではなくて、飲んだくれどもの神聖なる戦いを邪魔したくなかったからネ。
「どんな酒でも、最高にうめえのは、勝利の美酒だァァーッ!!」
司祭を倒したシックス・パックは、勝利の雄叫びを上げながら、魔法の酒樽から直接ビールを飲み干した。
こうして、冒険は無事に終了。
あたしらは、カサールの街に帰ってきた。
現在本拠地にしている〈トロールの脳漿亭〉へ行くと、ちょうどジーナが酒を卸しているところだったので、あたしは走って手に入れた書簡を見せたヨ。
「翠蓮!あなた、シックス・パックの魔法の酒樽を取り戻しに旅立ったはずなのに、どうやって“漆黒の鷲”子爵の悪事の証拠を入手したの!?」
嬉しさ半分驚き半分で、ジーナはあたしを見つめる。
まさか、謎かけを答えたものの、思いきりはずした答えだったから恥ずかしくて駆けこんだ部屋で、たまたま見つけたとは言いづらい。
あたしは、見栄をはった。
ジーナへの愛の力で見つけたネ!」
ジーナは、あたしを力いっぱい抱きしめてくれた。
見栄をはったのは、ずるかったかな……との思いは、シックス・パックを見て消し飛んだ。
シックス・パックは、カウンターに腰かけて、九割増しの武勇伝を、酒を片手に居酒屋の客達を相手にまくし立てていたからだ。
まったく、それでこそシックス・パックだヨ!
あたしとジーナは、気持ちよさそうに武勇伝を語るシックス・パックを温かく見守ってやったのだった。

(完)

 

子ども食堂 かみふうせん

子ども食堂 かみふうせん

 
 

 

児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる「無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中」リプレイ

子ども食堂かみふうせん』の作者・齊藤飛鳥さんの連載第3回は、『傭兵剣士』に収録されている「無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中」第1話のリプレイとなります。

 

『屈強なる翠蓮とシックス・パックの珍道中』
~『無敵の万太郎とシックス・パックの珍道中』リプレイ~

著:齊藤飛鳥 

傭兵剣士 (T&Tアドベンチャー・シリーズ7)

傭兵剣士 (T&Tアドベンチャー・シリーズ7)

 

 

 0:屈強なる目覚め

あたしの名前は、えーっと……〈屈強なる〉翠蓮。
思い出すのに時間がかかったのは、知性度9のせいだからじゃないヨ。
頭と全身の節々が痛いせいネ。
で、あたしの目の前にいる、ごついあんたは誰サ?
「忘れちまったのか、相棒?俺様は岩悪魔のシックス・パックだぜ」
ここで、シックス・パックの熱い武勇伝が始まった。
体力度11、耐久度16、器用度9、速度14という体力値で、幸運度12、知性度9、魔力度12、魅力度13という精神値の、よーするに「魔力の才能はそこそこあるけど知性が足りないし、耐久度が高いから戦士になった」人間の女戦士(18)を見かねて魔法の契約を結んだナイスガイ岩悪魔の笑いあり涙ありの武勇伝だった。
知性度9のあたしだけど、シックス・パックの話は9割引きで聞いとくヨ。
最初の旅の仲間だったエルフの魔術師〈幸薄き〉ジークリットちゃん言わく、悪魔と魔術師組合のお偉方の話は誇張ばかりだからネ。
そーいや、ジークリットちゃん、元気かな?
あたしは、一番上の兄ちゃんが冒険から連れ帰って来た5人の花嫁と結婚したおかげで、祖父母の介護から解放され、冒険者として復帰できたから元気だけどサ。ジークリットちゃんは、どーしてるかな?
「おい、翠蓮。心の声が口に出ているぜ?」
マジ?
「マジだぜ。ちなみに、〈幸薄き〉ジークリットだが、俺様も前に一緒に冒険したから知っているぜ。魅力度15のいい女エルフだった。だが、運悪くドワーフの野郎に騙されて、ガレー船の奴隷として売り飛ばされちまった」
〈幸薄き〉の二つ名がシャレになってないヨ、ジークリットちゃん!!
「おいおい、今は遠い海のどこかにいるジークリットより、目の前にいる俺様に同情してくれよな」
そう言って、シックス・パックは〈黒のモンゴー〉に大切な魔法のビール樽を奪われたこと、ついでにあたしらがどこかに飛ばされたことを教えてくれた。
もしかして、モンゴーの塔の地下迷宮を探索する傭兵が二度と帰って来ないのは、毎回こういう一悶着があるからなんじゃ……?
知性度9のあたしの疑惑だから、違うかもしれないけどサ。
で、今あたしらが飛ばされたのはどこヨ?
辺りを見回すと「カサールの街」という標識が出ていたので、現在地がすぐにわかった。
金貨一枚しか残ってないけど、シックス・パックの叔父さんが酒場をやっている街だから、食事と寝る所には困らないみたいだし、 ついているネ。


1:屈強なるトロールの脳漿亭

あたしらは、まっすぐにシックス・パックの叔父さんが経営する〈トロールの脳漿亭〉に向かった。
そこで、素寒貧だから新しい冒険の仕事をしたいと言ったら、シックス・パックの叔父さんは奥にいるファビュラスな雰囲気の人間の姐御を紹介してくれたヨ。
彼女の名前は、ジーナ。名字は長いから覚えられなかったネ。
ふむふむ、甥っ子と姪っ子が〈赤の魔術師〉の迷宮に行ったきり帰って来ないから、心配だとか……イタッ!! 突然飛んできた椅子が背中にぶつかって、ダメージ3を食らったヨ!
でも、ジーナは気にせず、話を続けたネ。
甥っ子の名前は、ソーンで、姪っ子の名前は、ローワン。それぞれの特徴と事情を詳しく教えてくれた。
報酬の話になったら、不意にジーナが流し目を送ってきたヨ。
最初に予定していた報酬よりも倍額にしてくれたのは、個人的にあたしを気に入ったからみたいネ。
身長150㎝、体重45㎏の黒髪色白黒目ロリ体型の良さがわかるとは、ジーナはお目が高いヨ!
酒を酌み交わすうちに、シックス・パックの叔父さんがビールを5本も奢ってくれたネ。
何か少し飲みすぎたから、そろそろ部屋に戻って休むヨ……。
……あれれ?夜中に誰か来たと思ったら、ジーナだヨ。
しーって、どーいうこと……?
マジで、どーいうことォォーッ!?
……。
……フゥ。
色々と新鮮な驚きと言うか、未知の領域に片足どころか、両足突っこんじゃったヨ!


2:屈強なる旅立ち

次の日の朝、旅立ちの前にジーナの姐御が旅に必要な装備を奮発してくれた。
中でも、シックス・パックが喜んだのは荷車いっぱいの酒樽だった。
この酒樽がからになる前に、早いところダンジョンを目指した方が得策ネ。
と、言うわけで、あたしらは、直接ダンジョンに向かった。
この間7日間。モンスターに一度も出会わずに済んだのは幸運だったヨ。
ダンジョンは、山の上にあるから、酒樽を乗せた荷車は運べないヨ。どこかに隠さないとならないネ。
よし、うまく隠せたヨ。
さあ、山登りを始めるネ。
幸運度が12あるから、楽勝大成功だったヨ!
ダンジョンの入り口は、元は天然の洞窟だったのが、悪趣味に赤く塗りたくられていた。
正面突破するか、知性度を使って周囲を調べるか、迷った結果、あたしの知性度だと失敗する確率が高いから、正面突破することにした。
洞窟に入ったら、人工的な造りで驚いたけど、いきなり悪魔に会ったのもびっくりしたヨ。
“見えざる悪魔”のリッペルという声だけの悪魔だったけどサ、色々と情報くれたし、耐久度も一時的に5くれたけど、なーんか恩着せがましい感じがして、複雑ネ。
シックス・パックも、気に食わないみたいに、酒をがぶ飲みしていたしサ。
あたしらは、さっさと先を急いだ。


3:屈強なる迷宮レベル1

長い階段を下りると正方形の部屋があって、東西南に行ける扉がついていた。
シックス・パックはどれも行きたそうにしているけど、ちょっと待つネ。
南の扉はガタついて何度も人が使った形跡があるみたいだから、ここが一番安全な扉かも。
あたしは、南の扉を開けた。
すると、細長い通路が、さらに南へと続いていたヨ。
幸いモンスターに出会わず、南の通路のその先の扉を見つけたので、開けた。
そこは、グリム……グリス……グリッスグリム・ドワーフという知性度9にはきつい名前の連中が酒盛りをしている真っ最中ネ!
酔っ払いドワーフに、こちらのアル中岩悪魔が喧嘩を売ったから、さあ大変、戦闘開始ヨ!
襲いかかってくるドワーフの数は二人。後のドワーフ達、酔いつぶれているから戦えないみたいネ。
速度14を生かして、奴らを通路に誘き出して、こっちが優位に戦えるようにしたから、これで勝てる!!
こうして、ドワーフ達を倒すと、金貨が6枚手に入った。やっていることが、居酒屋のチンピラそっくりだけど、シックス・パックはチンピラそのものだから、かまうことないネ。
ところで、トロールは巻物を持っていた。
でも、入り口で話しかけてきた“見えざる悪魔”リッペルとの約束を思い出したヨ。
このダンジョンで宝物を入手しても、帰りに入場料としてあいつに支払わないといけない約束ネ。
だったら、重量点減らしてまで、巻物を手に入れる必要はないヨ。
部屋には、南に続く扉があるので、あたしらはそこへ開けてみた。
Y字路になっていて、突き当たりに扉がある。
シックス・パックが確認したら、冷や汗を垂らして嫌がった。
こいつは大口野郎だけど、命に関わることには嘘をつかない正直野郎だから、開けるのはよしとくヨ。
かと言って、北の扉を開けると、またドワーフ達が酒盛りしている部屋に逆戻り。
それは嫌だから、知性度9でも果敢に周囲を調べるネ!
およよ、失敗ヨ。
L字型の通路に出たけど、ぐねぐねした細い通路を通ったら、今度はT字路に出たネ。
東からパタパタという音がして、西は丸きり音がしないとなると、北はどーなっているのサ?
あたしが北へ進むと、ダンジョンの裏口だった。
こんなに簡単に裏口が見つかっていいネ?
呆れていると、レッド・キャップ4体が現れた!
何とか倒して、金貨11枚を手に入れた。
それから、西へ進むと、さっき来たL字型の道に出た。いい機会だから、また知性度を使って挑戦してみるネ!
よし、今度は成功したヨ!
あたしは、隠し扉を見つけた。


4:屈強なる迷宮レベル2

隠し扉を開けると、螺旋階段が地下へとのびていた。
ポンコツなせいか、下りるたびに、グラグラと揺れるヨ!
知性度と並んで低い器用度で、持ちこたえられるか、頑張った結果、どうにか持ちこたえられたネ!
下りたら、北に扉があって、シックス・パックが大丈夫だと保証してくれたから、開けてみた。
そこには、見るからに罠くさい魔方陣が描かれていた。
これは避けるに限るヨ。
器用度で回避をしてみたら、今度は失敗!
避けきれず、うっかり魔方陣を踏んでしまったネ!
たちまち、私もシックス・パックも、加齢臭くさい部屋……じゃあなかった、次元の狭間にある〈赤い魔術師〉の事務所に送りこまれてしまったヨ!
おや、どこかで見覚えある黒いローブの魔術師のおっさんと、赤いローブの魔術師のじじいが、何か言い争っているネ。
シックス・パックは、黒いローブの魔術師のおっさんは、あの〈黒のモンゴー〉だと言ったので、あたしはようやく思い出せた。
魔法のビール樽をモンゴーに奪われた腹いせに、モンゴーの戦利品をちょろまかそうと、シックス・パックが言い出したけどサ。
冷静に思い出すネ。おまえ、モンゴーにしてやられたから、魔法のビール樽を取られたんだろ?ここで戦利品ちょろまかそうとしたのがバレたら、またどこかに飛ばされるヨ。
「前は前、今は今だろう、相棒?」
「うるせえ。言うこときかねえと、てめえの大好物の酒をケツから飲ませてやるネ」
相棒の誠意ある説得にシックス・パックが納得したので、あたしらはそっと魔方陣に乗った。


5:屈強なる酔っ払い

方陣に乗ると、部屋の端に到着した。
北側の奥に狭い通路が口をあけている。
その先はワイン蔵になっていて、ジーナの姐御が言っていたソーンとローワンの特徴とぴったりの若い兄妹がいたヨ!
ジーナの姐御のおかげで、おまえ達は他人とは思えないネ。ジーナの姐御の甥っ子姪っ子なら、あたしの甥っ子姪っ子だァァーッ!! 今、助けに行くヨ!
「なに、おめえのテンション!? どうしちまったんだよ!?」
シックス・パックが珍しくツッコミを入れてきた。
「ソーンとローワンを見張っているアンフィスバエナが見えてねえのか!?」
シックス・パックが指差したのはワイン蔵の前の暗がりだ。
よく見ると、赤い目をした巨大な双頭の蛇と目が合ってしまったネ!
これで、戦闘開始!
激闘の末、アン……アンチョコ……アンフィスバエナという知性度9にきつい名前のモンスターを倒すことに成功した。
ソーンとローワンを助け出し、ジーナの姐御の名前を出したら、二人ともあたしらは敵ではないとわかってくれて、仲間に加わった。
シックス・パックは、ゲットした赤ワインを「エルフくさい」を連呼しながらおいしそうに飲んでいた。
エルフくさいとはどんなにおいなのか気になったので、シックス・パックに訊いてみた。
「エルフくさいってのは、例えるなら、春の訪れを告げるかのごとく、白銀の雪原にそよぐ南風のようなにおいだぜ」
こいつ、ソムリエかヨ!
シックス・パックの知性度があたしよりも高かったことを思い出して、ちょっぴりやるせなくなりながら、あたしらは魔方陣の部屋を抜けようとした。


6:屈強なる結末

部屋を抜けようとしたまさにその時、魔方陣から五人の“赤いローブの僧侶団”が現れやがったヨ!
でも、大丈夫。
ソーンとローワンが仲間に加わっているから、こちらも四人ネ!
時間はかかったし、ちょっとあたしが死にかかったけど、見事に勝利ヨ!
元来た道を遡って入り口に出られれば、この冒険は終了ネ!
あたしらは、無事に遡って、ダンジョンを出ることができた。
出る時、約束通りに“見えざる悪魔”リッペルに、入場料として金貨2枚を払った。
「ダンジョンを冒険したのに、これっぽっちしか金貨を入手してないでヤスかァァーッ!?」
「ゲットできたの、金貨17枚だから、正確には1.7gpが入場料ネ。釣り銭3spよこせヨ」
「何でふてぶてしいんでヤスか、この人間は!?」
「おめえも悪魔なら、信義よりユーモアを重んじて、つべこべ言わずに釣り銭を払えよ」
「これのどこにユーモアがあるでヤスか!?」
「ユーモアは説明したら、ユーモアじゃなくなるネ。ほら、さっさと釣り銭よこせヨ」
こうして、入場料をきちんと払い、釣り銭もしっかりともらったあたしらは、山を下りた。
そして、ふもとに隠しておいた酒樽を乗せた荷車も回収した。
「会いたかったぜ、酒樽ちゃん!!」
最愛の恋人との再会を果たした時よりも熱烈にシックス・パックは荷車の酒樽に飛びついた。
ここから、また7日間。途中、徘徊するスライム・ミュータントとか言うモンスターに出くわしたけど、ソーンとローワンの攻撃でほとんどやっつけられたから楽勝だったヨ。
知性度9を使って、スライム・ミュータントの体内に残っていると言われる宝石を探したけど、見つからなかったネ。
そんなこんなでカサールの街に到着すると、ジーナの姐御がソーンとローワンと感動の再会を果たした。
あたしとシックス・パックは、ジーナの姐御から約束通り報酬を受け取り、仲良く山分けした。
報酬の多さに、ソーンとローワンはびっくりしていたけど、ジーナの姐御が「翠蓮と私は他人ではないの」と説明したら、おとなしくなった。たぶん、納得したネ。
人助けもできたし、報酬も得られたし、恋人もできたし、とっても、いい話ネ!
これだから、冒険者は三日やったらやめられないヨ!

 

子ども食堂 かみふうせん

子ども食堂 かみふうせん

 

 

児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる「青蛙亭ふたたび」リプレイ

好評につき、齊藤飛鳥さんに「青蛙亭ふたたび」リプレイを掲載します。「傭兵剣士」リプレイとあわせてお楽しみください。

 

『幸薄きジークリットの幸運な冒険Ⅱ』

~『青蛙亭ふたたび』リプレイ~

著:齊藤飛鳥

傭兵剣士 (T&Tアドベンチャー・シリーズ7)

傭兵剣士 (T&Tアドベンチャー・シリーズ7)

 

 

0:幸薄き幕開け

私の名は、ジークリット。
エルフの女性。303歳。成人女性。銀髪金眼褐色肌の160㎝/体重55㎏。
訳あって、3年ほどガレー船にて奴隷ライフをすごし、船長のペットのベティちゃん(巨大グモ)を毎日世話するうちに、体が鍛えられ、体力度19、耐久度15、器用度19に上昇。筋肉がついた分、体重が5㎏増えた。
ただし、ベティちゃんに何度も噛まれた後遺症から、前より速度は落ちて9になっている。
おまけに、ベティちゃんとの生活は、持てる精神値をフル活用せねばならず、その甲斐あって、幸運度12、知性度17、魅力度に至っては48にもなった。これは、ベティちゃんを手懐けるために一生懸命自分磨きをした成果だ。
ただし、ベティちゃんを船室いっぱいに成長させる魔法を使った反動で、魔力度は15に落ちていた。
そこで、ガレー船から脱出したのをきっかけに、魔術師から戦士に転職した。
こうした紆余曲折を経て、今は晴れて自由の身となった私は、居酒屋青蛙亭で飲んでいる。
決して〈黒のモンゴー〉に再雇用を断られて、ヤケ酒をあおっているわけではない。
蛙亭は、この3年の間にバーテンも変わったけど、このバーテンの話に寄れば、店の主人も変わったらしい。
諸行無常とはこのことだわ……と、毎度おなじみの異世界から流入してきた知識を実感していると、店の隅にいたドワーフと岩悪魔が喧嘩を始めた。
仲裁するように、店の用心棒のトロールが、岩悪魔を後ろからつかんで放り投げる。
岩悪魔は、私のテーブルを横切り、壁に激突して動かなくなった。
心なしか、この岩悪魔は、かつての旅の仲間だったあの岩悪魔、シックス・パックに似ている。
私は、岩悪魔を放り投げたトロールに向かって剣をかまえた。
すると、バーテンがけたたましく笑い出し、岩悪魔がこの店の新しい主人だと紹介してくれた。
つまり、主人の暴走を用心棒が止めたところだったのね。
なーんだ……という気持ちになったけど、考えようによっては、これはチャンス!
私は、岩悪魔を助け起こして、冒険の仕事はないか、訊いてみた。
岩悪魔は、クォーツと名乗り、私を気に入ったので用心棒の仕事をくれた。
しかも、今晩すぐに!
ガレー船から抜け出して来たばかりで、手元不如意な身には、とてつもなくありがたい仕事だ。
おまけに、報酬も雇用条件もいい。
引き受けると、クォーツは私をその場に残してさっき喧嘩していたドワーフと怪しいやりとりをしに行った。
ドワーフは、話がまとまったのか、クォーツの出した財布を丸ごと持って店を出て行った。
その後、クォーツは私を酒場の穴蔵に案内した。
そこで、今回の冒険の趣旨は青蛙亭のお守りである“青蛙のお守り”を取り戻すことだと説明し、魔法の契約を交わした。
“赤いローブの僧侶団”の地下寺院にあるとか言いながら、クォーツは酒場の地下へと私を案内し、地下への隠し扉を開けた。


1:幸薄き初戦

この隠し扉から、地下寺院に行けるとのことだけど、〈黒のモンゴー〉の塔の地下迷宮と言い、青蛙亭の地下迷宮と言い、個人宅と個人商店の地下に迷宮が広がりすぎじゃない?
素朴な疑問を抱きつつも、階段を下りていく。底には南に続く扉があったから、開けてみる。
そこは、南北東に通じる扉がある部屋だった。
なおかつ、アンフローラルな香りを醸し出す、アンデッドの兵士2体のいる部屋でもあった。
店の地下にアンデッド兵士がいたとは、とんだ事故物件だ。
脳内に流入してくる異世界の知識が私にそうささやいてきたが、今は耳を傾ける暇はない。戦闘開始だ!
用心棒に雇われた私だけど、実は持っている武器が上等な分、攻撃力はクォーツの方が高い。
別に私はいらなくない?と思うほど、クォーツの圧勝だった。
アンデッドの兵士を倒すと、箱が出てきた。
クォーツが、彼らの武器や防具は呪われているからやめるよう注意したので、私は今度こそ南北東の扉を開けることにした。
北の扉に抜けると、青蛙亭に帰る道になるから、南の扉を抜けてみよう。
抜けるとそこは短い暗い地下道だった。北側の扉に行くと来た道に戻るだけだから、南側の扉へ行こう。
私は、南の扉を開けた。


2:幸薄きキング・コブラ

南の扉を開けたら、部屋の中央に10mもある巨大なキング・コブラがいた。
「ヒューッ!! コブラじゃねえか!」
クォーツも、私と同じく異世界の知識が脳内に流入してくる体質らしい。
そんな新発見をしつつ、キング・コブラとの戦闘開始だ。
このキング・コブラ、さっきのアンデッド兵士よりも厄介だわ!
だいぶ手を焼かされたけど、私とクォーツは何とかキング・コブラを倒せた。
キング・コブラは倒すと、サイコガン……ではなくて、暗緑色のロープになった。
便利なアイテムをゲットできて、私とクォーツは満足した。
それから、キング・コブラの部屋にあった北側の扉を開けた。
さらに北へと続く扉と、床に穴があった。
扉に入ると、さっき来た短い地下道に戻るだけだから、ここはさっそく元キング・コブラのロープを使って地下に下りるわよ!
私とクォーツは、ロープを使って慎重に地下に下りた。


3:幸薄き魔術師の部屋

今度は東西に扉がある地下道に出た。
上に上がる選択肢もあるけど、それでは来た道に戻るだけだから、西に行ってみよう。
すると、しばらくして南側の壁に扉を見つけた。
開けてみると、そこは「昼食外出中」というメモが残された生活臭のある部屋に出た。
クォーツ曰く、レベル21以上の魔術師のすみかだそうだ。
元魔術師の私だけど、レベル21以上になったら、もっと日当たり良好の快適な場所に住みたいなァ。
あれ? 部屋の南側に扉がある。
どこかにつながっているのかも!
はやる気持ちで部屋を横切ると、体が床にめりこみだした!
しまった! 魔術師のすみかなら、防犯のために罠くらいかけておくわよね!
でも、無限ループしたくないから、何としても新しい扉へ進んでやる!
私の執念に感じ入ったのか、それとも面倒くさいと思ったのか、クォーツが何か思いついたらしい。
「この足の形をした傘立てに体を入れろよ。そうしたら、俺が押してやるぜ!」
「気持ちは嬉しいけど、魔術師の傘立てなんかに体を入れたら呪いがかかりそうだから、パス。だったら、このまま進み続ける!」
私は床に体がめりこみ続けるのも構わず、南側の扉を目指した。
そして、やっと扉の前に来た時には、首から下の衣類、武器、防具、装備、宝など、あらゆるものが消えていた!
「キャー! ジークリットのエッチ!」
クォーツが叫び声をあげたが、それは私の台詞だ!
しかし、困った……地下迷宮の冒険中にすべてをなくすなんて……。
これなら、衣服を身に着けたままでいたガレー船の奴隷時代の方がまだマシよ!
〈幸薄き〉二つ名が、またも猛威をふるいだしたと嘆いていると、小さなノームが机の下から出てきて、部屋の主人の魔術師に代わって謝罪した。
お詫びと称して、私が元々持っていたよりもずっと高価な魔法の剣をくれた。
ありがたいけど、衣類はないかと尋ねたら、ホブ用の防具だけとの答えだった。
全裸で魔法の剣を装備とは、どんな罰ゲーム?
クォーツは、夜も遅いし、行かなくてはと、痴女同然の私を軽く受け流し、ノームに別れを告げた。
色々ありすぎたけど、これで南側の扉を開けられる。
私は、南へと向かった。


4:幸薄きまだあった魔術師の部屋

南の扉を開けると、また魔術師の部屋だった。
反対側の北側に扉があるから、今度は慎重に忍び足で進む……て、また沈んできた!
でも、今度は用心して魔法の剣は頭上に上げていたからセーフ!
……こんなしょうもないことにも喜びを見出さなければならないなんて、幸運度12になっても私はやっぱり〈幸薄き〉ジークリットだ……。
ちょっと感傷的になっていると、ポンと音がして魔術師が現れた!
え、この状況で部屋の主人が帰宅!?
かなりアホな格好で恥ずかしいので、巨大グモのベティちゃんすら手懐けた驚異の魅力度48で、私は不審者ではありませんスマイルを浮かべ、挨拶した。
魔術師は、ザンダーと名乗った。彼は、ごま塩頭のナイスミドルで、私に挨拶しつつ、床から頭だけ出演中の私にかがみこんでくる。
ザンダーのローブの丈は充分な長さではなかったから、その…ローブの下がもろ見えだった。
これに気づいたザンダーは、女子かよ……と言いたくなるほど怒り狂い、私を床の上に引き上げた。
……魔術師の部屋に、ローブの丈を押さえるナイスミドルな恥じらい魔術師と、全裸で魔法の剣を死守しているエルフの女戦士がいるという、喜劇的な光景が完成した瞬間だった。
ザンダーは、驚いてから満面の笑みをたたえ、申し訳ないと言いつつ、私にマントをかけてくれた。
「よければ、武器を置いて僕と一緒に書斎でワインを飲みませんか?」
確かに、魔術師の部屋に来てからのこの展開、酒を飲まずにはいられない。
私が承諾すると、ザンダーはノームを呼び出す。……さっき寝たばかりなのに、また起こしてごめんね、ノーム!
ちなみに、このノームの名前はスネイバリーと言うそうだ。
ザンダーはクォーツに酒を出すようスネイバリーに命じてから、書斎の扉を開けて私を招き入れた。
……しばらくして、私は元の部屋に戻ってきた。
何か頭がぼーっとしている。
ザンダーは、私にワイン・ソーダを入れたり、髪の一房を感謝してウィンクしたりした後、書斎に戻っていった。
振り返ると、机の上にはなくしたはずの私の武器と装備が置かれていた!
おかえり、キング・コブラのロープ! 地味にこのアイテム気に入っていたのよ!
喜ぶ私に、クォーツが声をかけてきた。
ジークリット、どうしてそんなにおかしな格好をしているんだ?」
私はクォーツの質問の意図をとっさによくつかめず、自分の体を見て、頭が真っ白になった。
いっそ全裸の方がいかがわしくない、黒光りするレザーの胴着とロングブーツ姿になっていたら、誰だってこうなるわ!
スネイバリーが、フォローを入れてくれたけど、私はこの上なく複雑な胸中で、南へ向かった。


5:幸薄きトロール

南の扉を出ると、南北に走る暗い地下道にいた。
北のホールへの戸口に進むとザンダーの家だから、ここは南の戸口へ進もう。
そこは、螺旋階段の頂上の踊り場だった。
踊り場の北側の扉に入ると、また元来た場所に帰るだけだから、階段を下りよう。
螺旋階段は、ぐるぐる回って下りるから、足を滑らせ……言ったそばから、足を滑らせたァァーッ!!
でも、どうにかクォーツが私をつかんでくれて助かった!
階段を下りると、途中の踊り場に東の扉があった。でも、階段はまだ地下に続いているから下りてみよう。
着いた場所は、暗いたて穴の底だった。
そこには、トロールがいた!
トロールは、ワイン袋一つよこせば通すけど、そうでなければ死闘あるのみと言ってきた。
あいにくと、ワイン袋を持っているのは、クォーツだけ。
でも、クォーツは絶対にワイン袋を渡さないと言い張る。
はぁ…戦いは避けられないようね。
こうして、トロールとの戦闘開始!
スネイバリーのくれた魔法の剣と、認めたくはないけどザンダーのくれた胴着とロングブーツのおかげで、トロールに快勝!
先へ進むことにした。
南北に走る短い地下道があり、北だとトロールのいた部屋に戻ってしまうから、ここは南の部屋に行こう。
私は、南の扉を開けた。


6:幸薄き狂ったノーム

扉を開けたら、部屋には見るからに目がいっちゃっているノームがいた。
クォーツは、露骨に関わりたがらないし、私も同感。
とりあえず、たいした額を持ってないから惜しみなく金貨を全部払って入場料にしたけど、食糧は交換せず、さっさと扉から出ることにした。
扉は、南北東とあった。元々南から来ていたので、無限ループを避けるため、私は南の緑の扉を開けた。
出た所は、L字型の通路で、東と北に扉がある。
北だと、またあの狂ったノームの部屋に舞い戻ることになるから、ここは東の扉だ。
私は、東の扉を開けてみた。


7:幸薄きキノコ部屋

扉を開けると、そこは雪国……ではなくキノコの群生地だった。
ここは地下迷宮でキノコにとっては優しい環境だから、すくすくと育ったのね。
クォーツは、小さなキノコの方は食べられると教えてくれたけど、余分な荷物は増やしたくない。
私は、キノコの部屋の中にある扉から外に出ようとしたところで、幸運度のチェック。
12もあるから、余裕で成功!
私は難なく部屋を出た。
部屋を出ると、東西南に道が続いている。
とにかく、無限ループを避けるために、迷ったら南に行ってみよう。
私は、南の通路に進んだ。


8:幸薄き魔法の鏡の部屋

通路は、南に傾斜していて、南北に扉がある。北の扉だと、キノコ部屋に戻るだけなので、私は南の扉を開ける。
そこでは、赤いローブの僧侶が3人、巨大な鏡を磨いているという、異様な光景が広がっていた。
「怪しい奴め!」
あんた達に言われたくないと言いかけ、ふと我が身の黒光りする胴着とロングブーツを思い出す。
これは、反論できない。
それはともかく、戦闘開始!
またも、新武器と新防具のおかげで、快勝!
すると、赤いローブの僧侶達の生前最後の仕事相手だった鏡が口をきいた。
クォーツをペット呼ばわりしたので、クォーツも私も腹を立てる。
変なペットは、ベティちゃんだけでこりごり!
鏡は、あまり有益な情報を持っていないので、私とクォーツは鏡を放って部屋にある東西南北の扉に目を向けた。
確か、南から来たので、北の扉に進めば戻るだけだ。
だったら、無限ループを回避すべく、また南の扉へいざ行かん!
私とクォーツは、鏡が「ねぇ、もらっていって!」と懇願するのを無視して、南の扉を開けた。


9:幸薄きドラゴン召喚

そこは地下道に沿って伸びた地下水路のある場所だった。
向かいの桟橋に、クォーツが落ち合う約束をしているドワーフが来るらしい。
だったら、善は急げだ。私は水路を飛び越して、向かいの桟橋に行った。
そこで、クォーツは持っていた角笛を吹く。
すると、水路からはしけに乗ったドワーフが迎えに来てくれた。青蛙亭で、クォーツとやりとりしていたドワーフだ。
クォーツは、ドワーフと話を始める。
そして、私はドラゴンを敵に仕掛けるための囮役に任命されたことに気づいた。
店の用心棒ではなく、あえて私のような行きずり冒険者を用心棒に雇ったのは、このためか!!
嫌だと言ったけど、クォーツもドワーフも聞き入れる気が全然なし!
仕方なく、私は囮役を引き受けることにした。
大丈夫よ、ジークリット…今は幸運度が12もあるじゃない。
覚悟を決めて、私はドラゴンの囮役を実行に移した。
結果は見事に成功!
クォーツに言われた通りに銀の笛を吹くと、ドラゴンは眠った。
そして、ドラゴンの飛びこんだ部屋を覗くと、赤いローブの僧侶達の変わり果てた姿が転がっていた。
しかし、それよりも注目すべきは、クォーツが部屋に隠されていた“青蛙のお守り”を取り戻したことだ!!
カエルの形をしているとは、お守りなのに随分とかわいいデザインをしている。
それから、僧侶達の部屋の西の扉には金貨があるから、持てるだけ持っていってもよいとクォーツに言われた。
やっていることが強盗と変わらないけど、冒険者なんて所詮は略奪者。だから、持てるだけ金貨を持った。
取るだけ取ると、部屋を出ることになった。
南…と思ったけど、帰るのだから逆にしないとね。私は北の扉を開ける。
起きてきたドラゴンに襲われないよう、クォーツがすかさず扉を閉めて、ドワーフがくさびを打ちこむ。阿吽の呼吸だな、二人とも!!
ひと仕事終えると、ドワーフがはしけに乗らないかと誘ってくれた。
はしけに乗った方が、早く地上に帰れそうだから、お言葉に甘えることにした。
思った通り、はしけは歩くより速く進んでくれた。
クォーツは、ドワーフのもてなしはあまり受けない方がいいと、こっそり教えてくれた。
私も〈黒のモンゴー〉の塔の地下迷宮で、灰色の髪をしたドワーフに騙されて飲んだワインが原因で、ガレー船に奴隷として売り飛ばされた過去があるので、ドワーフのもてなしがどんなに危険か知っている。
ようは、彼らが勧めた物を口にしなければいいのだ。
クォーツと、そんな密談を交わすうちに、ドワーフがこの桟橋で下りるかと訊いてきた。
いっそ、出口まで乗った方が楽なので、私ははしけに乗り続けた。

 

10:幸薄きはしけ

しばらくして、第2の桟橋が見えてきた。
ドワーフは、ここで下りるかと訊いてきた。
船酔いし始めたクォーツに気を使ったわけではない下船の提案、裏があるのかも!
クォーツには悪いけど、私ははしけに乗り続けた。
しばらくして、向こうから海賊達がやって来た!
こんなの予想外すぎる!
書類を見せろと言い出した海賊に、はしけを操縦していたドワーフはどうやら書類を持っていたらしく許されたけど、そんな物を持っていない、私もクォーツも大ピンチ!
私の〈幸薄き〉二つ名に巻きこんで、ごめんね、クォーツ!!
判断ミスに頭を抱える暇もなく、武装したドワーフ達が私とクォーツを取り囲む。
ここで奴らに捕まったら、ガレー船の奴隷ライフ再びになっちゃう!
こんな〈幸薄き〉という二つ名通りの人生を送るくらいなら、死んでも抵抗する!
私は、だめでもともと、ドワーフ達と戦うことにした。
ところが、ドワーフ達の様子が急におかしくなる。
何か、私のことをザンダーの新しいガール・フレンドだと言い出したかと思うと、えらく紳士的に早変わり。
私とクォーツを次の寄港地までエスコートすると申し出てくれた。
ザンダー……こんなに荒くれ者達をひれ伏させるとは、こいつらに、いったい何をしたの……?
私は、ザンダーについたうは、レベル21以上の魔術師で、スネイバリーというノームを召使いにしている他は、部屋の床に罠をしかけているのと、パンツはクマさん柄をはいていることくらいしか知らないけど、言い換えれば、何かよくわからないけど、あなたのおかげで助かったわ、ありがとう!!
クォーツは無事に“青蛙のお守り”を取り戻せたので、青蛙亭に続く桟橋で別れた。
私はどうしたかって?
私は、新天地目指してもう少し船旅を続けることにした。
〈幸薄き〉ジークリットが、〈幸運の〉ジークリットになったのを記念するためにね!
潮風が気持ちいい!
空がこんなに青いなんて、知らなかった!

子ども食堂 かみふうせん

子ども食堂 かみふうせん

 

 

児童文学・ミステリ作家、齊藤飛鳥さんによる「傭兵剣士」リプレイ

以前、私のサイトでも紹介したRPGの登場する児童文学子ども食堂かみふうせん』(2018年)の作者で、歴史ミステリ『屍実盛』で「第15回ミステリーズ! 新人賞」を受賞した作家の齊藤飛鳥さんが、なんと『トンネルズ&トロールズ』完全版に対応した『傭兵剣士』シリーズのリプレイ小説を書いてくださいました。

ご当人の許可をいただき、本サイトでの連載という形でご紹介させていただきます。 

気軽に読み進められるリプレイですので、肩の力を抜いてご堪能ください。

子ども食堂 かみふうせん

子ども食堂 かみふうせん

 

 ※以下、冒険の核心部分に触れる内容を含みます。また、作中には、齊藤飛鳥さんオリジナルの設定もありますが、あくまでも、プレイをしながら自由に想像と解釈を膨らませたということで、私からの手を入れてはおりません。どうぞご諒解ください。

 

 

『幸薄きジークリットの幸運な冒険』
~『傭兵剣士』リプレイ~

著:齊藤飛鳥

傭兵剣士 (T&Tアドベンチャー・シリーズ7)

傭兵剣士 (T&Tアドベンチャー・シリーズ7)

 

 0:幸薄き問わず語り

私の名は、ジークリット。
エルフの女性。300歳。成人女性。銀髪金眼褐色肌の160㎝/体重50㎏。魅力度15だから、中の上と言ったところかしら。
エルフ感覚での昔で言うところの「ちょい美人」ってやつ?
体力度8、耐久度11、器用度13、速度11だから、肉体の能力値は平均的と言えば平均的だと、自分では思っている。
精神的能力値の方は、魔力度24で、知性は11と言った具合に、体力よりも知性の方が大きくて魔力度が高いから、就職の際は魔術師を選んだ。
タレントは、癒し手と回避。体力度が中の下なのをフォローするために習得した。
魔術師組合卒業時、私に与えられた二つ名は〈幸薄き〉。
おい。
いくら、幸運度6だからと言って、手抜きすぎない?
前から気になっていたけど、この魔術師組合のお偉方は、新米魔術師達の能力値を嘲弄するような二つ名を授けすぎ。
能力が数値化されるこんな世の中はポイズンかPSYCHO-PASS……と、時々私の脳内に流入する異世界の知識が浮かんだけど、何はともあれ、私の人生の目標はできた。
こんな魔術師組合をぶっ潰せる力を持った魔術師になること。
魔術師組合を卒業して冒険に出る時、密かに組合の建物に後ろ足で砂をかけてから、私は旅立った。


1:幸薄き青蛙亭

「魔術師組合をぶっ潰す。そう思っていた時が私にはありました……。知性11の発想力って、思っていたよりおバカなのね。もう、過去の自分に会ったら、《炎の嵐》を食らわせたいわ…まだ習得できてないけど。くやしいけど、魔術師組合の言うとおり、私は〈幸薄きジークリット〉なんだわウワァァーンッ!!」
魔術師組合を卒業して3年。
私の冒険は、失敗と敗北にまみれていた。
最初のパーティーは、リーダーの座を巡る内紛で新米魔術師の私以外全滅。
大人数はダメだと思い、人間の女戦士と組んだら、故郷の祖父母を介護するために引退。
人間はしがらみが多そうだから、次はドワーフの男戦士と組んだら、連日連夜のセクハラに悩まされたので、持てる力すべてを賭けて、攻略中のダンジョンの最深部に封印。
魔術師組合卒業時と同じ能力値に戻り、現在に至る。
この運のなさ、魔術師組合がつけた二つ名〈幸薄き〉は伊達じゃあない。
「もういや。まともな仲間欲しい。まともな冒険したい」
最初こそ私の話を楽しんで聞いてくれていた青蛙亭の主人だけど、次第にからむ酔っ払い客な私を持て余したのか、レベル21の魔術師〈黒のモンゴー〉が傭兵を雇いたがっている話をして巧みに話題をそらした。
前に雇われた傭兵はその後行方不明になったとか、えらいきな臭い話だったけど、報酬がよいのは嬉しい。
ドワーフの一団が来た後、支払いができなくて主人に店からつまみ出されても、私が自分の幸運度の低さに嘆かずにすんだのは、その話が酔った頭に残っていたおかげだ。
親切な木こりさんにモンゴーの家を教えてもらい、私はモンゴーの暮らす塔の前に到着した。
「ごめん下さ~い、〈黒のモンゴー〉さん。傭兵をお求めと聞いてやって来た者です~」
酔った勢いで、私は大声で呼びかけた。


2:幸薄きファーストコンタクト

魔術師〈黒のモンゴー〉のレベル21というのは、ガセではない。
いきなり酔っ払いが家の前に来て大声で用件を告げたのに、動じずに招き入れてくれたし、仕事の話もしてくれた。
そのうちに、私の酔いも覚めてきた。この頃には、私の武器や装備の話になっていた。
地下迷宮へ行くのに、今の武器や装備だと通用しないから、モンゴーは新しい武器や装備を提供してくれた。
でも、すごく重い!
体力度8のか弱い冒険者には、どちらも重すぎる!
まさか、冒険を始める前から体力度が壁となって阻むとは思わなかった……。
ここで〈幸薄き〉という二つ名が発揮されるとは、どれだけついてないの?
ヨヨと泣き崩れる私に、〈黒のモンゴー〉は、かわいそうなものを見る眼差しで、ルーン文字が刻まれた小剣を提供してくれた。
いたせりつくせりとは、このことだ。すごい!
これがレベル21にまで上り詰めた魔術師のお気遣い力なのね!
私も、きっちり迷宮の地図を作って、モンゴーみたいな立派な魔術師目指すわよ!
私は、モンゴーに見送られて、たいまつを片手に意気揚々と迷宮へと入っていった。


3:幸薄きセカンドコンタクト

迷宮の階段を下りると小さな扉があった。
知性度でセービングロールすると、見事に成功!
早くも〈幸薄き〉二つ名を返上できそうだわ!
嬉々として私が扉を開けると、そこには岩悪魔がいた。
玄関開けたら二分でご飯…と、時々私の脳内に流入してくる異世界の知識を押しのけ、私は扉を開けたら二秒の場所にいた岩悪魔を観察した。
メタボぽんぽんしたゆるキャラ枠だから、彼は安心できる。
またも脳内に流入してきた異世界の知識を今度は活用し、私は岩悪魔に話しかけてみた。
思ったとおり、友好的だ。
名前は……シックス・パック!?
私は思わず、彼のどこも腹筋が割れていないメタボぽんぽんを見た。
シックス・パックは、私の奇行に気づかず、名前の由来を説明してくれた。
なーるほど。6本入りビール箱という意味なのね。酒好きの彼にふさわしい名前だ。
私も、お返しに自己紹介した。
ジークリットとは、とある子ども向けの本の作者の名前で、勝利を意味する。
「いい名前だ。だが、二つ名と合わせると、〈幸薄き勝利〉って意味になっちまうな」
シックス・パックの笑顔に、魔法を食らわせたくなったけど、不意にシックス・パックが真顔になった。
「まるで悲劇の英雄伝説の主人公みたいでイケているな。その仲間でナイスガイな岩悪魔のシックス・パック…俺様達、最高のパーティーになれるぜ!」
こんなことを言われたら、旅の仲間にするしかない。
私は、岩悪魔のシックス・パックと共に、迷宮の冒険を本格的に開始した。


4:幸薄き扉選び

シックス・パックと一緒に歩いていくと、東西南北に扉のある部屋に出た。
シックス・パックは、東西の扉に行きたがっている。
すでに迷宮を冒険したシックス・パックが行きたがっているから、きっと安全だろう。
幸運度6の私が選ぶよりは、ずっと安全だ。
東西なら、順番通り東から開けてみよう。
東の扉を開けて部屋の中に入る。
即座に錠が下りて閉じこめられた。
……何て、コテコテな罠にかかってしまったんだろう。
壁に〈我を押せ〉と上から目線なメッセージ付きの赤いボタンを見るたびに、自分の幸運度の低さを痛感する。
でも、いつまでも落ちこんではいられない。私は隠し扉がないか、探してみた。
幸運度で、セービングロールしたら、案の定失敗した。
もう嫌。
半ばヤケになって、私は止めるシックス・パックの話半分に、壁のボタンを押した。あ、ポチッとな。
たちまち、両側の壁が迫ってきた!
シックス・パック、私の幸運度の低さに巻きこんで、マジごめん!
早いところ、扉から脱出しなくちゃ!
扉に駆け寄り、勢いよく開ける。
まるで、それがスイッチだったみたいに、壁は元通りになった。
そして、壁が元通りになったのと引き換えに、扉の一部が開いて、ルビーのお守りを見つけた!
これは、ついている!
私はルビーのお守りを手に入れると、お守りの左のボタンを押した。
ルビーのお守りが隠されていた扉が閉まり、代わりに鍵がかかっていた西の扉が開いた。
進んだら、また似たような東西南北に扉のある部屋で、シックス・パックはまたも東西どちらかの部屋が気になっている。
まさか無限ループにならないわよねェ?
ルビーのお守りを手に入れた喜びも束の間、私は一抹の不安に襲われた。


5:幸薄き戦闘

せっかく西の扉の錠が開いたので、私は西の扉を開けて入った。暗い部屋で、何も見えない。モンゴーにもらったたいまつに火をつけてみるか……と、明かりをつけた途端、後ろで扉は閉まるし、部屋の中央には2メートル半もある〈ほうき拳〉というモンスターがいるし、さっそく戦おうと飛び出したシックス・パックはすってんころりんして気絶!?
いきなり、一人で戦う羽目になってしまったけど、こうなったら覚悟を決めるしかない!
私が一人で戦ううちに、ようやくシックス・パックが目を覚ました。
シックス・パックは意外と強くて、ゾロ目を連発してくれた。
あれほど私を苦しめた〈ほうき拳〉は、起きてほんの数分のシックス・パックに倒された。
〈ほうき拳〉の冷たくなった死体から離れると、木箱があった。
それも、汚い木箱だ。
宝箱なら、きれいだろうから、これは開けないでおこう。開けてモンスターが出てきたら、シャレにならないものね。
私はまた扉に引き返して、扉のたくさんある部屋に戻った。
うん、やっぱり無限ループ感ありすぎ。
でも、迷宮の地図作りが今の私の任務だ。
私は、どの扉を開けようか、思案した。


6:幸薄き扉巡り

シックス・パックが行きたがっていた東西の扉はもう行ったから、残るは南北の扉だ。
これも、南北の順番通りに南の扉から入ってみよう。
南の扉を開けると、二つの扉がついた部屋に出た。
シックス・パックがついてきたがらないので、仕方なく元来た部屋に引き返す。
こうなると、残るは北の扉だけだ。
私は、北の扉を開ける。
真っ暗な地下道が、どこまでも続いている。
たいまつを片手に進んでいき、地下道の中ほどで隠し扉がないか、幸運度のセービングロールしてみた。
はい、失敗!
南へ進んだら、またも隠し扉を探す幸運度のセービングロールがあった。
やってみた。
はい、失敗!
仕方なく、私は北へ向かった。
しばらくして、急にシックス・パックがたいまつを消すよう言ってきた。
危険な感じがしたので、言われた通りに私はたいまつを消した。
辺りはすぐに暗闇に閉ざされる。
数十秒もしないうちに、いかにも怪しい赤いローブを着た僧侶の集団がいた。
見つからないように祈ったけど、そこは幸運度6の悲しさ。
早々と見つかって、戦闘になってしまった!
今度は最初からシックス・パックが戦闘に加わっているから、気が楽だ。シックス・パックが弱らせた僧侶に私がとどめを刺すという、かなり姑息な戦闘だったけど、どうにか全員倒せた。


7:幸薄き地下道探索

シックス・パックは、僧侶は金を持ってないだの、魔法の杖に触ったら死ぬだの、やたらと詳しく教えてくれる。
もしかして、私の前に誰かと冒険して、魔法の杖を触って死んだ人を見たことがあるのと訊いたら、酒を勧めてきてごまかした。
でも、いいや。答えないということは、この場合は肯定に等しい。
私は、シックス・パックとまた地下道探索を継続した。
すると、また幸運度でセービング・ロールする場所に戻ってしまった!
こうなりゃ、やけだ!
あれ、成功しちゃったよ、おい!
というわけで、私はついに地下道で隠し扉を見つけることができた。
隠し扉を開けて歩くうちに、様々な方角に通じる扉がある部屋に出た。
扉は東西南とあるから、また順番通り東から開けてみよう。
東の扉を開けると、チェイン・メイルと皮袋のかかった部屋に出る。
シックス・パックは、どちらもエルフくさいと言うけど、私もエルフなんだけど?
それはさておき、チェイン・メイルとはよさそうね。
私が手に取って装着すると、ここで幸運度と魅力度によるセービングロール発生!
いけるか?いけるかしら?
いっけェェーッ!!
よっしゃ、成功よ!!
これは、「青きエルフ」って鎧なのね。
あ、まだ皮袋に触ってなかった。
…て、触ったら、またセービングロール発生!?
幸運度と知名度って、自信ない組み合わせ……あぁ、言っているそばから失敗だし、 床に穴が開いて落ちたし、穴の底には冷たい水が張られているし!!
〈幸薄き〉の二つ名がまたも猛威を振るい始めたわ!
でも、シックス・パックは穴に落ちてないから、よかった。
私はロープを投げて、彼に引き上げてもらうことにした。
一回目、失敗!
二回目……成功!
「ファイト~!」
「いっぱ~つ!」
シックス・パックのかけ声に、定例の異世界から流入してきた知識で応じる。
こうして、私は何とか冷たい水の中からはい出すことができた。


8:幸薄き再スタート

助かったのはいいけど、地図のインクが流れ落ちたし、皮袋は消えてしまっていた。
これでまた地下道探索は、やり直しだ。
私は、シックス・パックがくれたお酒で体を温めると、西の扉から出た。
また東西南の扉がある部屋に戻ってしまった。今度は順番通りに西の扉へ入ろう。
……ん?どこかで見た道と思ったら、前にも隠し扉を探してセービング・ロールをした道じゃない!
さらに、セービング・ ロールに失敗して歩いていたら、また東西南北の部屋に逆戻り!!
恐怖! 無限ループの始まりだ!!
でも、同じ失敗をしないですむ利点がある。
気を取り直し、私は再び扉を開けた。
そして、東の扉の部屋に入り、ルビーのお守りがあった部屋に来た。
今度は、右のボタンを押す。
すると、先程とは違うルートの道に進めた。
そこは、おなじみの東西南に続く扉のある部屋だった。
まだここで行ってないのは、南の扉だけだ。
私は南の扉を開けてみた。
何だかんだで、またここに戻ってしまった。
え? だったら、西の扉を開けてみようかしら……うぅん、だめだめ!
また無限ループな隠し扉探しの地下道に行くだけだ。
ここは、「青きエルフ」の鎧のあった東の扉をオープン!!
今は私が装着しているから、「青きエルフ」はないけど、あの皮袋はまたあった。
今度こそ、セービング・ロールを成功させてやる!
燃えろ! 私の小宇宙!
異世界から流入してきた知識と気合が功を奏したのか、今度はセービング・ロールは成功! 奇蹟ってあるんだね!
皮袋の中身は金貨100枚で、私の重量点だと他の装備を持てなくなるので、シックス・パックに持ってもらうことにした。
さあ、さらに冒険を続けよう!
気分よく部屋を出た私は、またも東西南の部屋に出て、奇蹟だけでなく、無限ループ地獄も本当にあるのだと思い知らされた。


9:幸薄き無限ループ

無限ループは、大げさでもなければ、誇張でもなかった。
何度も何度も同じ道を歩くうちに、私はついに地底のハゲ集団、別名赤いローブの僧侶達をやりすごせた。
これで、今までとは違った道を行ける。
私は、シックス・パックからもらったお酒を景気づけに一杯引っかけて、僧侶達の来た道へ行ってみることにした。
東西南のT字路だから、いつものように、順番通りに東の扉から開ける。
ルーン文字の書かれた扉があったけど、シックス・パックが調べて問題なさそうなので、私も入ってみた。
途端に、かわいい黄金の子豚の貯金箱と目が合った。
赤いローブの僧侶達のいる怪しい迷宮に似つかわしくないかわいらしさだ。
もし、子豚の貯金箱だけでなく、見るからに怪しげな炎熱の穴が見えなければすぐにでも手に取るところだった。
何なの、このあからさまに怪しい炎熱の穴は?
私は念のため、炎熱の穴を覗きこむことにした。
シックス・パックが出たがるような光景が広がっていた。
うん。これは、進まずに黄金の子豚の貯金箱をゲットしよう。
私は引き返して、貯金箱を手に取った。
たちまち、中からネズミが一匹現れた!
いやー! ネズミ! ネズミ!
地球破壊爆弾!
……と、お約束の異世界から流入してきた知識が頭に浮かぶうちに、シックス・パックの一撃でネズミはあっけなく倒された。
これで、安心して貯金箱を手に入れられる。
私が手に取った途端に、知性度と幸運度のセービング・ロールがまたも発生!
これ、一番苦手な組み合わせなんだよねェ……。
おそるおそる試してみる。
嘘! 両方とも成功したわ!
黄金の子豚の貯金箱を手に取ると、中にはすでに金貨50枚入っていた。
しかも、いくらお金を入れても、重さは10重量点だとか。
私は、シックス・パックと相談して、さっき見つけた金貨100枚を貯金箱に入れて、シックス・パック重量点の空きを増やした。


10幸薄き新ルート

貯金箱を手に入れた後、歩いて行くうちに、またT字路に出た。今度は西へ行ってみよう。
私は西に向かって歩き出す。
着いた所は、ルーン文字の刻まれた木の扉だった。
シックス・パックが警戒しているので、私も警戒してのぞき穴からのぞくことにした。
そこは、赤いローブの僧侶達の部屋だった。
見るからに、危ない。
シックス・パックが警戒したわけだ。私とシックス・パックは、来た道をそっと戻った。
えっと、そうなると、南へ行く道しか残ってないけど、あそこは隠し扉探しの無限ループゾーンだから行くのはなし。
そうなると、シックス・パックには悪いけど、炎熱の穴の底に見えたあの岩棚を進むしか新たなルートはない。
私は、また貯金箱の部屋に行くと炎熱の穴に入り、岩棚を進んだ。
と、ここで、セービング・ロール発生!
珍しく器用度でセービング・ロールときた!
でも、器用度は13あるから自信あるのよね!
はい、成功!
だけど、あと1違ったら失敗だったから、慢心はよくないでちゅね!
ハラハラしすぎて、ちょっとキャラがぶれかけたけど、気を取り直して私は進んだ。
あいにく、この岩棚は崩れていたので、西の岩棚に移る。
そうしたら、穴からガス噴出!
たたみかけるように、幸運度のセービングロール発生!
私、この冒険が終わったら魔術師組合に再入学するんだ……。年下からバカにされながら修行するのも悪くないな……。
……と、異世界から流入してきた知識で言うところの死亡フラグを立てたところで、まさかの成功!
しかも、シックス・パックたら、超イケメンに私を助けてくれた!
〈幸薄き〉な二つ名だけど、これはついている。
いい気分になったところで北側に進むと、色々とルートが現れた。
落とし穴の水にはまった時、たいまつをなくしたから、余分なたいまつはない。
前にシックス・パックが来たことのある道なら、暗がりでも何とかなりそう。
そう考え、私はシックス・パックを案内役にしてたいまつを持たずに地下道を進んだ。


11:幸薄き地下水路

やがて、不意にシックス・パックが私を地面に引き倒した。
何と、吸血コウモリが襲撃してきたのだ!
その数3羽。
岩悪魔の血は吸われないから、戦闘はシックス・パックが引き受けてくれるけど、ダメージ・ヒットはすべて私が引き受けることになった。
どうにか吸血コウモリを倒しきった後、しばらく進むうちに地下水路に出た。
シックス・パックが壁にかかった苔でおおわれた角笛を指差したので、よく拭いてから吹いてみた。
南の地下水路から、赤髭片目のドワーフがはしけの舵を取って現れた。
……赤いローブの僧侶達が住み着いていることと言い、ドワーフがはしけに乗って現れたことと言い、こんなに家族以外の連中が潜りこんでいるとは、モンゴーの地下迷宮は意外と開放的なのね。
密かにツッコミを入れていると、シックス・パックがドワーフに喧嘩を売りそうになっていたので、私は仲裁してはしけに乗せてもらった。
はしけは、北の地下水路を進む。しばらくして、船室から女ドワーフが出てきて、色々と飲み物を勧めてくれた。
だけど、シックス・パックは自分の酒を飲むだけで、口をつけようとはしていない。
ということは、何らかの毒が入っているかも。
私が丁重に断ると、ドワーフがこの先は危険だから、たいまつを消すように言った。
けっこううさんくさいけど、たいまつを消せとシックス・パックが言った時は、あの赤いローブの僧侶達がいたから、これも同じ意味合いの警告だろう。
私はたいまつを消した。
その甲斐あって、無事に別の地下水路に進み、岸辺に下ろしてもらった。
ドワーフに渡し賃を請求され、私は考えた。
腹に一物ありそうなこのドワーフのことだ。ケチったら、何をしでかすか、わからない。
私は、今後の安全を買うために、所持金の半額以上をドワーフに支払った。
でも、ドワーフは私の太っ腹には気づかなかったようで、何のリアクションもなかった。
でも、敵として襲いかかってこられなかっただけよしとするか。


12:幸薄き結末

私とシックス・パックは、西へ進んだ。
理由は、彼が西の方が出口に近そうだからということだ。
しばらくして、西の桟橋に出た。壁には、またも角笛がかかっている。
また吹いてみるか。私は角笛を吹いた。
予想通り、またはしけがやって来た。
今度は緑の目をした灰色の髭のドワーフだ。
船が遅れているから早く乗れとせかされたけど、さっきのドワーフと言い、このはしけは迷宮内定期船なの?
そんな疑問が頭に浮かんだけど、私とシックス・パックははしけに乗った。
すると、ドワーフが寒くなるからとワインを勧めてきた。
また怪しい飲み物ではないかと、シックス・パックの反応をうかがったら、まさかの無反応!
え? これは、何が正解なの?
わからないから、もう運を天にまかせるまでよ!
私はドワーフからワインを受け取ると、一口飲んだ。
そして、瞬く間に酔いつぶれ、目が覚めたら、鎖で縛られてガレー船の奴隷として売り飛ばされていた!
〈幸薄き〉二つ名を返上しようと思ったら、二つ名通りになっちゃったわよ、どうしよう!
そんな私を品定めするように、ガレー船の船長は子分達と共に見る。
「ウヒヒヒ。エルフの女か。こいつには力仕事は無理そうだな、ウヒヒヒ」
うわぁ……これは嫌な話の流れだ。
魅力度15だから、きっと公序良俗に反する意味での奴隷にされちゃうんだ、どうしよう!
鎖で縛られたままうろたえる私に、ガレー船の船長は悪い笑みを浮かべた。
「決めた!おまえは今日から、俺のペットのベティちゃんの世話係だ!」
あ……凶悪そうな見た目に反して、この船長さん、ホワイト経営者だわ。
こうして、私は、前任のベティちゃんの世話係から引き継ぎを受けるべく、船長室の隣のベティちゃんルームへ行った。
扉を開けようとしたら、その前に勢いよく前任者とおぼしき人間の男が飛び出してきた。
「ベティちゃんに噛まれた!医者を呼んでくれ!医者!」
そのまま、男は走り去っていった。
私は、猛烈な不安に襲われながら、部屋の中を覗いた。
そこにいたのは、船長のかわいいペットのベティちゃん、種族名巨大グモだった。
モンスターをペットにしとるんかいィィーッ!!
やっぱり、あの船長はブラック経営者だったァァーッ!!
……こうして、私は三年間ベティちゃんの世話係を務めた。
そして、隙をついてガレー船から脱出。
ベティちゃんを握り拳大から、船室いっぱいになるほど大きく育て上げ、船内お散歩をさせてあげたおかげだ。情けは人のためならずと言うのは、エルフにも適用されるものなのね。
何はともあれ、ガレー船を脱出してから、これと言って行くあてがないので、またモンゴーの所へ行った。
だけど、失敗した傭兵は当然採用されず。
行くあてのない私は、ふらりとまた青蛙亭に入った。
そこでまた新たな冒険に巻きこまれるけど、それはまた別の話。
これは、「生きているだけでも、人生はもうけものだ」という教訓を得られた私、〈幸薄きジークリット〉は、幸運だったという話。

 

子ども食堂 かみふうせん

子ども食堂 かみふうせん

 

 

 

第18回小熊秀雄朗読会での朗読の動画が公開

詩誌「フラジャイル」主宰の柴田望さんのご尽力により、第18回小熊秀雄朗読会(2019年8月24日 旭川市ときわ市民ホール)での岡和田晃の朗読の動画が公開されました。

朗読 岡和田晃(文芸評論家)
2019年8月24日 旭川市ときわ市民ホール

 

youtu.be

・「イシスのヴェエルをめくって」
・「恍惚のベアータ」
・「海賊コンラッドの出奔」(「フラジャイル」6号)
  ~詩集『掠れた曙光』(著・岡和田晃 幻視社)より

以上3作品の朗読に、簡単な解説を添えました。

岡和田晃の第一詩集『掠れた曙光』については初版が完売しており、増刷を検討中です。akiraokawada@gmail.comにまでご連絡いただければ、増刷時にお送りいたします。

 

「図書新聞」2019年10月19日号に、大川純彦『暁鐘 「五・四運動」の炎を点けし者 ―革命家 李大釗の物語―』(藤田印刷エクセレントブックス)書評が掲載

 発売中の「図書新聞」2019年10月19日号に、大川純彦『暁鐘 「五・四運動」の炎を点けし者 ―革命家 李大釗の物語―』(藤田印刷エクセレントブックス)の書評「五・四運動より百年、革命の源流と内実を読みやすく紹介 日本会議的なものが否定する反植民地主義の源流を知るために」が掲載されました。

暁鐘「五・四運動」の炎を点けし者―革命家李大釗の物語

暁鐘「五・四運動」の炎を点けし者―革命家李大釗の物語

 

 

 

 今回も並びが面白く、上にウェイリー版『源氏物語』(毬矢まりえ+森山恵訳)の書評(藤井貞和)も載っています。

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「図書新聞」2019年10月12日号に、高橋志行さんによる『傭兵剣士』書評が掲載

本日発売の学術書評紙「図書新聞」2019年10月12日号に、立命館大学衣笠総合研究機構研究員の高橋志行さんによる「古典ダンジョンは何度でも甦る」と題した、ジェームズ・ウィルソン、岡和田晃著、安田均清松みゆき訳『傭兵剣士』(グループSNE、書苑新社)の書評が掲載されています。ぜひお読みを!