『混沌の渦』プレイリポート"This Bullshit God Made"


 僕はRPGのプレイリポートを読むのが好きなのですが、なかには読んでいて、ついうっとりしてしまうプレイリポートというものがあります。僕にとってはその筆頭がこの、山寧さんの書いた『混沌の渦』のプレイリポートだったりします。


 RPGでこんなことができるなんて! と感動したものです。
 山寧さんの許可をいただくことができましたので、そのプレイリポートをこの場を借りてご紹介させていただきます。


 『混沌の渦』の詳しい説明については、こちらをご覧下さい
 また、このプレイリポートは『ヴィクトリアンエイジ・ヴァンパイア』や、"Cthulhu by Gaslight"の参考にもなるはずです。

ヴィクトリアン・エイジ・ヴァンパイア―日本語版 (『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』サプリメント)

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Ctholhu by Gaslight: Horror Roleplaying in the 1890's (Call of Ctholhu Roleplaying Game Series)

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■『混沌の渦』プレイリポート、"This Bullshit God Made"


ゲームマスター&レポート執筆:山寧
プレイヤー・キャラクター:ダニエル・ポプキンス、クロード・ブルックス、ヴィダ・バーミン


                                                                                                                                                              • -

≪STORY≫


 産業革命以後、仇敵フランスをも統治下に置き、欧州最大の、すなわち世界最強の国家となった大英帝国。その首都である大ロンドン1850年現在すでに人口五百万人を抱え、まさに文字通りの混沌の大渦巻といった様相を呈していた。その中でも、貧民窟と工場とが無秩序に入り乱れたスラム地域には人口の実に80%以上が集中し、人々は様々な都市問題と社会病理を日常としながら、流入していた当時抱いていた『可能性溢れる未来』への希望を唯一の拠所としつつ、脱出する勇気すら持てぬままに、労働貧民としての明日なき日々を這い進んでいた。
 そんな無間地獄的な環境の中、三人のPCはそれぞれに各人の方法で生存していた。そう、クロードは富める者どもの明るい暮らしを支える工場労働者として、ダニエルは虫けらどもに幻想の救いを与え賜う教会の見習いとして、そしてヴィダは、人々に平等に降り注ぐ死の恩寵から糧を得る墓堀人として。


 ―I― 


 クロードの同僚が苛酷な労働のため命を落とした。仕事のために出席できなかった労働者達は、自分達の流儀で仲間を弔うことにし、夜、酒を持って墓地に集まった。6フィート下に眠る友を思いながら、彼らは粗悪な酒を酌み交わす。そこでクロードは、独り輪の外にいたベンジャミンという労働者と語らう。ともに妻を亡くし、同じ位の年の息子を持つ彼らにとっては、自身の人生は子供達のもの。それを確認しあう二人であった。
 そんな労働者達の様子を尻目に、この墓地で働くヴィダは、同僚のグレン・ベントンと自分達の稼業について語らっていた。彼ら墓堀人と教会はウマの合う仕事仲間。今日もダニエルの勤める教会と組んで、貧民の死体一ケで美味しい商売をした、という具合。クズどもが倒れ、彼らは酒を呑む。至って順調な日々である。
 だが、同じく葬儀で一日を終えたダニエルには、そのような感慨はなかった。それより頭を悩ますのは、ここのところ毎晩のように師であるオグデン・グラズナー神父が外出すること。神父に引き取られて教会で暮らしているダニエルには、彼の行動が気になって仕方ない。


 数日後、クロードの工場で一騒動起こる。クロードが肩を並べて労働する同僚であり、年上の親友であるエドワード・ベイリーが、工場監督コールマンと大乱闘をやらかしたのだ。墓地での弔いの宴で、正義感溢れるベイリーは、死んだ仲間は工場に殺されたのだと語っていた。そのことに対する蓄積された怒りが、監督の無遠慮な言葉で爆発したらしい。監督の商売道具である棍棒で血まみれにされた栄養不良の労働者は、食堂の隅に放り出される。だが、昼休みにクロードが様子を見に行くと、すでにその姿はいずこかへと消えていた。落ち込むクロードに、ベンジャミンは自分の夢、息子のアダムを学校に入れ、この環境から脱出させるという夢が実現しそうだとポツポツと語り、気を紛らせる。



 同日。ダニエルは神父から小遣いをもらい、何処かへ遊びに行くように言われていた。不慣れな盛り場でウロウロしているうちに墓堀人達と会い、酒場へと連れて行かれる。途中、引ったくりにやられて泣いていた子供に金を与えたりしつつ、墓掘り行きつけの店へ。すると、なにやら店内は緊張感に包まれていた。聞けば、ふらりと現れた血まみれの労働者が客にサイコロ勝負を挑み、勝ち続けているとか。早速ヴィダ達が挑戦するも、あえなく敗退。ダニエルも戦い、その結果彼は要求されるままに賭けた大金――神父にもらった全てを失った。続いて彼は金の十字架――教会から授かった聖なる物品――を賭けることを申し出たが、男はその輝きをめにするや落涙、呻きながら十字架を奪って酒場を飛び出して行く。追いかけると、彼はテムズ河に架かる橋の上に立ち、水面を呆けたように見詰めている。ダニエルは気を取り直すよう諭した。否、そうしようとしたのだが、大して熱心でもない聖職者見習いの言葉には何の説得力もない。一声叫びを上げると、工場労働者エドワード・ベイリーは河に身を投げた。
 目の前で人が死を選んだためなのか、大事な十字架を失ったためなのか、ともかくダニエルはいささかショックを受けた。墓掘りと別れて街を彷徨っているうちに、彼はフランス系の男、ポールに『エジプトのファラオのダンス』と題された怪しげなショーに誘われる。金を払って芝居小屋に入ると、舞台では半裸の踊り子達が色鮮やかな香の煙の中で身をくねらせていた。その光景に魅了されたダニエルに、ポン引きポールは「次のステップ」を提案する。彼は踊り子の一人、外国人のマリアを指名し、ポール・クライスト氏に料金を支払った。
 暫の後、ダニエルは再び通りに出た。脱力感に襲われ、ボンヤリしながら歩く彼は、三人組の少年達に財布をひったくられる。それは先に墓掘り達が金を与えていた子供達。ダニエルは悪童の一人を追いかける。だが、遂に追いついたという瞬間、少年は馬車にはねられた。叩きつけられ、ボロクズのようになって即死。泥にまみれた汚らしい死。居合わせた人々はそれを呆然と見詰め、御者はショックに硬直。だが、馬車の中の客はカーテンの向こうから顔を出しもせず、馬車を出すように命じる。怒ったダニエルが馬車の扉を引き開けると、そこにはグラズナー神父、そして娼婦マリアがいた。二人はダニエルを認識し、ダニエルは師の外出の目的を知る。死体は忘れられ、見苦しい言い争いが始まった。そのうちに警官達が飛び出した浮浪児に全責任があると宣言し、手早く死体を処理すると、人々はすっかり興味を失った。
 翌朝ダニエルが起床すると、すでに新しい神父、ロバート・プラモンドンが来ており、ダニエルをこき使う。結局グラズナーは罪の意識に耐えかねてロンドンを離れたのだという。



 死んだのはベンジャミンの子、アダムだった。息子が盗人だったこと、そしてゴミのように始末されたこと。その二つの事実がベンジャミンの精神を破壊した。仕事中、放心状態に陥っていた彼はクロードの眼前で紡績機械に腕を巻き込まれてしまう。血しぶきが飛び散り、オゾンの臭気が立ち込める修羅場で、仲間達は必死に救出作業を行った。意識を失ったベンジャミンの傍らでは、彼の一部分が手順通り見事に紡がれていた。
 その数日後、病室に彼を見舞った帰り、クロードは街角の古道具屋で素晴らしい義手を見掛ける。それは、片腕を失ったベンジャミンのために何かしてやれることはないかと考えていた労働者仲間達にとっては、丁度良い贈り物だった。工場での相談で、その義手を皆で購入し、ベンジャミンに贈るという話がまとまる。
 翌日、店に入ったクロードは、ナサニエルと名乗る若い店主と対面する。彼の言った義手の価格は、仲間達で金を出し合えば何とか手の届く金額だった。ナサニエルが言うには、このクラスの義手は持ち主に合わせて製作されているので、古道具としてはあまり価値がないのだという。「何しろ、ぴったり合わないと役に立ちませんので。ですから、もし貴方の御友人にお試しになって駄目なようでしたら、返品してくださって結構ですよ――」


 ―II―


 一日の仕事を終えると墓掘りヴィダは近所の酒場へ向かった。得意先の神父が交代してからそろそろ一ヶ月になろうとしているが、これまでのところ特に問題は起こっていない。本人の弁によれば新しい神父は前任者より遥かに良識派であるそうだが、実際のところはどうだろうか。何しろオグデン・グラズナーは、見たところは穏やかで常識的な――そう、新任の神父よりもずっと常識的に見える――良い神父だったのだから……。
 酒場に労働者の一団が入ってくる。彼らは仲間の一人の全快祝いに久々の酒宴を催そうとしていた。早速主賓である見事な義手をした男を中心に、楽しげな輪ができ上がる。だが、当の主賓はどうも妙な感じだった。皆が祝ってくれているというのに、いささか冷笑的な雰囲気を漂わせているのだ。そのうちにある程度場が落ち着くと、男は労働者仲間達を相手に語り始める。彼の語る内容は、どうやら彼らの職場の環境に対する攻撃のようだった。
 酒場に教会の見習いが入ってくる。彼はバーテンに用件を告げる。ブランデーとワインを何本か、教会に買っていくのだという。と、それを聞いて、先ほどから演説をぶっていた男が笑い声を上げる。「蝿教会の蛆虫神父様は少々きこしめしていらっしゃるって訳か! ハハ!」
 それを機に男は教会攻撃を展開し始める。曰く、現在の英国国教会の堕落ぶりには目に余るものがあり、元々があの欺瞞に満ちた薄汚い紙束を脆弱な柱として成り立っているものに、さらに二千年にも渡って積み重ねられてきた嘘と悪徳の数々は、もはやあの悪臭ふんぷんたる豚小屋を崩壊寸前にまで追い込んでいるのだとか何とか。教会とのコンビで商売をしている墓掘り人としては、少々ちょっかいを出したくなる内容であった。ヴィダはその労働者、ベンジャミンと舌戦を展開する。と、そこに話の発端となった男が登場する。
 酒場に蛆虫神父が入ってくる。教会のワインのストックを空にし、手に最後の一本を持って戸口に現われたその男は、酒場にいる誰よりも酒臭い息を吐きながらダニエルに文句を言う。ダニエルがベンジャミンの教会攻撃のただ中にあって酒場を出るに出られないでいる間に、プラモンドンはしびれを切らしたという訳だ。彼は手に持った瓶を空にし、そのまま床に仰向けに倒れると、白豚よろしく嵐のようないびきをかき始めた。
 彼の攻撃を補強する絶好の材料を前にして、ベンジャミンの舌はますます滑らかに、言葉はより痛烈に、語りはよりエネルギッシュになる。工場、教会、搾取する者達、そして英国政府を標的として、彼は饒舌に攻撃的演説を続ける。そんな、以前とは明らかに変わってしまったベンジャミンの語り口調に驚きながらも、そのカリズマティックなムードに労働者仲間達は徐々に魅きつけられていく。だがその中で唯一、クロードだけは何処か納得のいかないものを感じていたのだった。



 酒場から神父を引きずって帰ったダニエルは、彼の巨体を何とか寝台に横たえる。そのうちにホプキンスは寝言を言い始めた。そしてこの破廉恥漢は、マリアの名を唱えながらニヤニヤと卑しく笑う。それが聖母ではなく、あの娼婦の名であることは明らかであった。だが、かつて彼が取り仕切ったベンジャミンの子アダムの葬儀の際に、すでに信仰を失っていたサタニストのダニエルにとっては、それは大して意外なことではなかった。



 続くわずかな期間に、事態は急激に展開した。ベンジャミンが奇蹟を成したという噂が流れ、工場労働者達の一部には次第に彼への崇拝の感情が発生する。暴力的な待遇改善要求行動を求める動きが進行し、クロードはベンジャミンらに度々グループに加わるように言われるが、彼は納得しない。しかし、ベンジャミンは何故かそんな彼を無理には誘おうとしなかった。
 食堂で食事をしているクロードの所に、ベンジャミンに心酔している粗野で無知な労働者ルーカス・スタフォードがやってくる。彼は熱心にベンジャミンのグループに加わるように勧めるが、彼自身もそうしなければならない理由を理解してはいないようだった。どうしても納得しないクロードにルーカスはいらいらし始めるが、そのうちに近くで騒ぎが起こる。食堂ではさかんにベンジャミンと彼に関する幾つかの噂が話題にされていたのだが、彼を認めるか否かを原因として激しい喧嘩が起こったのだ。その内にベンジャミンを否定していた男が徹底的に打ちのめされ、重症を負う。食堂内に不穏当な空気が漂う中、静かに食事をしていたベンジャミンがゆっくりと立ち上がり、怪我人に手を、義手を差し伸べる。すると彼の義手が光を放ち、男の傷は癒されていった。
 ホール内が静寂に包まれる中、ベンジャミンは最後の演説を行う。その言葉は労働者達を一つにまとめ、暴動へと促す引き金となった。彼らは津波のように工場内へと突入し、工場長や現場監督を呑み込む。吊し上げ、打ち壊し、蹂躙しながら、彼らは外の世界に溢れ出す。周辺の工場労働者を巻き込みながら、群集は貧民街をねり歩いた。



 教会に向かって地響きのような群衆の足音が近付いてくる。今日も宿酔いのプラモンドン神父はその音に怯え、ダニエルに様子を見てくるように命じた。ダニエルが外に出ると、教会は怒りに燃える暴徒の群れに取り囲まれていた。暴徒達は口々に教会の罪を叫び、手に手に武器や松明を振り上げてダニエルに迫る。彼は教会内に逃げ込もうとしたが、扉には内側から閂がかけられていた。プラモンドンが閉め切ったのだ。中から暴徒達を説得しろと命じる神父の声に絶望し、ダニエルはサタンの名を唱えて助けを求める。その言葉を聞くと暴徒は鎮まった…。だが、彼らはすぐに「蛆虫教会より始末の悪い」サタニストを高く吊るすことを決定した。


 クロードは離れた位置からその様子を見ていた。そこにベンジャミンが現われる。彼はもはや人々を率いてはいない。彼はきっかけを作っただけ。人々が心の底に蓄えていた憎悪と不満に火を放っただけなのだ。そう話すベンジャミンは、クロードにも心を解放することを促す。だが、この冴えない労働者はその点について決して譲ろうとはしなかった。そうこうする内、教会からは惨殺されたプラモンドンの首とともに、十字架に架けられたイエスの像が運び出される。二人の見る前で人々はそれを粉々に打ち砕いた。「おやおや、彼らはもはや信仰までも失ったようだな……。だが、なぜだろう……俺は……少し、疲れたみたいだ……」
 そういうベンジャミンの義手を、クロードは突然もぎ取った。教会に放火した群集は、新たな目標を求め、彼等の方へと押し寄せつつあった。



 その後、クロードはヴィダと出会い、ともに事態を打開するべく動くことになる。クロードが義手を外した時、ベンジャミンの口調は確かに元に戻り、親友クロードに逃げるよう言った。彼自身は群集に飲み込まれてしまったのだが、ともかく鍵はあの奇妙な義手にある。今やそれはベンジャミンの元を離れ、クロードの手中にあった。二人は、古道具商ナサニエルの店へと向かった。
 街中ではすでに暴動の噂が広まり、人々は屋内に立て籠もっていた。通りには人影はほとんどなく、何処か遠く離れた所からは、暴動によると思われる騒音や、暴徒達の歓声がかすかに聞こえてくる。この死んだような大ロンドンの街を二人は彷徨い、遂にナサニエルの店に、否、かつてそれがあった場所へと辿り着いた。あの店は、すでに引き払われていたのである。近所の者の話では、ナサニエルは一月と少し前にここに店を構え、ほんの僅かな期間で店を閉めてしまったのだという。
 その後、二人はテムズ河方面へ。見ると、群集がロンドン橋で警官隊と交戦しているところだった。その内に群集は行く手を塞ぐ者どもを打ち破り、何処かへと消えていく。二人は戦闘の場となった橋に赴く。そこには少数の警官達の死体と、おびただしい数の労働者の死体が転がっていた。そしてその中には、サーベルで幾度も刺し貫かれたベンジャミンの死体もあった。彼の顔は苦痛に歪んではいない。そこにはただ、困惑したような表情が浮かんでいた。
 彼の死体の見守る前で、クロードは義手をテムズ河へと投げ込む。悪臭を放つどす黒い流れの中で、小さな工芸品はすぐにその姿を消した。



 ―III―



 浜辺では、波に打ち寄せられた死者達が彼方までの海岸線を黒く縁取っていた。あの後、暴徒達は船を奪い、新天地を求めて船出したものの、領海から出ることもできずに撃沈されたのである。彼らから冥界への路銀をもむしり取ろうとする盗人や、好奇心を刺激された大勢の弥次馬達が、ここには集まっていた。そんな愛すべき人々に混じって、父と子は手を取り合い、とぼとぼと砂丘に足跡を刻んでいた。彼らは夢に現われたベンジャミンの導きに従って、この海岸にやって来たのである。夢の中でベンジャミンはクロードにこう言った。「奴らに一発お見舞いしてやってくれ」と。


 クロードは見覚えのある男に会った。男は何か棒のようなものを、布にくるんで大事そうに抱えていた。男は言う。「なかなか楽しめたのではないですか?」
 クロードは男に理由を問う。すべての理由を。男は話し始めた。
「まあ、言ってみれば簡単な実験のようなものです。詳しくお話するつもりはありませんがね。我々が用意したのは最初のほんのきっかけだけで、後はすべて貴方達の意思でなされたことですが、まったくもって予想された通りの展開でしたよ。人間とその行動に関する我々のある仮説が実証されたのです。完全なる成功、と言えるでしょうね。結局のところ、すべては事前に分かっていたのです。一度『操作』がなされれば、もはやそこに貴方達の言う所謂自由意志の介入する余地はないのです。可能性も未来も、すべては幻想ですよ」
 そう言う男に対して、クロードは自分の夢を語る。彼の夢、すなわち彼の描く未来とは、この薄汚れた大ロンドンを離れ、自然の中で息子とともに牧場をやっていくことであった。その未来は彼と息子のものであり、ほかの誰のものでもない。そして、その未来を自らの手で作り出すことは彼らが自由であることの証なのである。
 それを聞くと男は親子に背を向け、砂丘の向こうへと歩み去っていく。振り返りもせず。男は冷笑的な口調で語る。「残念なことですがね、その牧場は失敗するんですよ。火事が起こるんです。2年目に、そう、落雷でね。……その後のことを語るのはよしましょう。まあ、慈悲というものですか。ともかく、楽しみにすることですな。これから何が起こるかを……」
 父は子の肩を抱きながら、無言で消えていく男の後ろ姿を見送る。そして日が暮れ、辺りに人影もまばらになると、彼らもまたこの地を去っていった。



 ―EPILOGUE―



 彼は振り返らなかった。もしそうすれば、彼の顔に浮かんだ表情をあの男に見られてしまうからだ。実験に生じた小さな傷。ただ一つの、そして必要充分の反証。それがあの男だった。彼は卑しい人間に嘘をついた。それは彼にとっては、まったく耐えがたい屈辱であった。



F I N

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≪GAME MASTER≫


 今回は、なんだろう。まあ、好きなんです。こういう話が。
 今回のシナリオはまず題名が決定し、そこから惨めな世界の惨めな人間を描く話、という線で膨らませていったのだが、システム選びは難航した。結局『混沌の渦』になり、内容にも『渦』の要素を加えたのだが、最終的には割とまとまったと思う。まあ多分この路線で何回かやるのではないかと。
 マスタリングについては、第一部にあまりに時間を取り過ぎたおかげで、第二部の展開を相当削る羽目になったのがいささか心残りではある(全編やろうとしたら後4時間くらいはかかったかも)のだが、第一部の超スローペースでドゥーミィな感じで全編通したら流石にイヤになるからな。まあ、緩急がついたというコトで。ちなみに第一部で先の見えないイラだちを感じさせたのは意図的な演出です。ちょっとやり過ぎてマスター側もマイってしまいましたが…。で、結局全編が終了したのは9時を大きく回った頃だったのだけれども、何か僕は最近長時間のセッションで燃え尽きる感じが好きなのかもしれないです。ハイ。
 ロールプレイについてだが、全編一人称の語りってのは、まあ、好きではあるんだけれども、とにかくもう疲労が激し過ぎる。他の部分をキチンとやる余裕が無くなってしまうのが、どうにもキビシイ感じだ。やはり三人称との使い分けをしっかりしよう。
 しかし今回は本当にゲームらしくないゲームであった。何しろルール的な判定をする場面はほとんど(2回くらいだけか?)なかったのだから、もうほとんどシステムレスである。どうも極端になってしまうんだよな。僕がもっとゲームっぽくやろうとすると、それはもう大昔のD&Dの王道的な、ちまちました感じになってしまうのだ。なんだろう。
 今回の元ネタは、『Kill the Christian (DECIDE)』、『Grim Luxuria (CATHEDRAL)』、『Enter the Worms (CATHEDRAL)』以上3曲の歌詞(特に最後のはセッション中も祈祷の文句として活用)、サルトルの幾つかの作品、英国産業革命時代の見世物や大衆風俗についての本(タイトル忘れた)、『反キリスト者』、『ヒーザーン』、『ディファレンス・エンジン』、あとは聖書関係の色々と、もちろん『鐘鳴』も。(山寧)

セッション日:1995/10/08