ウォーゲームを製作する歴史学の講義 その2


 先日紹介した蔵原大さんの「ウォーゲームを製作する歴史学の講義」ですが、けっこうな反応をいただきました。こうした研究が人目に触れる場所になかなかでてこない現状、やはり興味ある方は多いようですね。
 「氷川TRPG研究室」さまからトラックバックをいただきました。ありがとうございます。こちらも刺激的な内容なのでご紹介いたします。

興味を引かれる研究です。近代の外交や戦争の歴史を教科書で習っていると「なんて馬鹿なんだろう」と思ったりもしますが、『ディプロマシー』とかやると身に染みて理解できますね(^ ^;。


さて、ウォーゲームとはややずれますが、『日経サイエンス』2006年1月号に「バーチャル考古学 シミュレーションで迫る古代社会」という記事が載ってまして、そこでは数百年にわたりプエブロ族の世帯推移をシミュレーションで再現し、考古学的な発掘結果と比較した研究が紹介されています。これもすごい興味深い。
このシミュレーションでは、家族を単位とするエージェントに振る舞いと属性値を与え、環境変数を設定して、どう増減していくか、どのような土地に広がっていくか、といった点を追っています。たぶん、シムシティを思い浮かべればいいんだと思う。


もちろんこうしたシミュレーション結果が、歴史学(考古学)において史料として採用されることはありえません。とはいえ無価値というわけではなく、現実を模して作られたシミュレーションの結果と、現実との差が出れば、それは何らかの要因を見逃しているか、過大評価しているか、過小評価しているということです。自分の認識を検討しなおす、よいきっかけになります。


また、シミュレーションを作ること自体、「自分がわかっていないこと」をはっきりとあぶりだしてくれます。
Thorn さんが紹介されていた講義も、それが大きな目的なんだろうと思います。
自律型のロボットを作るのと同じですね。


http://www.trpg-labo.com/modules/wordpress/index.php?p=835

 ここで氷川さんは「シミュレーションの結果」に着目して興味深いエントリを書かれていて、興味深くあります。勉強になりました。ただしもちろん結果も重要ではありますけれども、岡和田としてはどちらかといえば「シミュレーションのモデル」そのものに関心があります。
 文献史学においては研究者は一定の知見を出さなければなりません。だから初学者はまず史学発達史から学ばされ、資料批判を教えられるのでしょうし、「シミュレーションのモデル」と「結果」の差を検討することが重視されてくるのでしょう。
 シミュレーションの結果から帰納的に結論を導き出すのはその大きな方法です。が、一方で学者ではない私たちにとっては、「モデル」そのものに注目する、「モデル」の面白さに驚くことも充分可能なはずです。エベロンやオールドワールドが文学の見地から、グローランサが人類学の見地からそれぞれ興味深い「モデル」を提示できているように、です。そして、RPGがSFやミステリと親和性が高いのはまさにこの点によっているのでしょう。
 RPGは「歴史」を下敷きとしたシミュレーションゲームよりも、はるかに「物語」に近いと思います。と申しますか、これまでRPGは「物語」を工学的に捉えるジャンルとばかり見なされてきましたが、そろそろその先に行ってもよいのではないでしょうか。つまり、「物語」のあり方を整理し、そこから再帰的に物語そのものの強度を上げる方向にも進むことができるのではないでしょうか。自律型のロボットを創るというよりは、『ディファレンス・エンジン』みたいに蒸気コンピュータの夢を見たい。