『戦略原論』のご紹介


 中島浩貴さんから、執筆の一部を担当されたという『戦略原論 軍事と平和のグランド・ストラテジー』をご恵贈いただきました。

戦略原論

戦略原論

 この『戦略原論』は、アメリカで出版されている戦略学の基礎的な教科書を、日本でも作ることができないかというコンセプトで編まれたもので、とにかく明晰。冒頭、「戦略とは何か」、「何が戦略を決定するのか」をきちんと定義づけたうえで、みっちり定義づけられています。
 例えば批評の文脈だと、クラウゼヴィッツからカール・シュミットへという政治学的な流れが重視されますが、そこではなぜかジョミニ(社会科学としての戦略体系)やリデルハート(戦史研究)といった文脈が切り落とされてしまうということがままありました。
 『戦略原論』は、スタンダードを志向しているがゆえにかバランス感覚が絶妙で、戦略学という学問分野を形成してきた重要な理論や人物を満遍なく紹介することができています。
 各章には「キーワード」が据えてあり、内容の本質をコンパクトに確認することが可能となっています。そのうえで、章末には読書ガイドが添えられており、内容をより専門的な、幅広い文脈から追い直すことができるようになっているのです。

 それでは、目次と執筆者をご紹介いたしましょう。

■序章 日本における戦略研究のフロンティアを目指して(石津朋之、永末聡、塚本勝也)

第I部 戦略と戦争――その理論と歴史
 第1章 戦略とは何か――そして、何が戦略を形成するのか(石津朋之)
 第2章 戦争の起源と終結――戦争抑制へのアプローチ(塚本勝也)
 第3章 近代戦略思想(その1)――ナポレオン戦争から第一次世界大戦まで(中島浩貴)
 第4章 近代戦略思想(その2)――第一次世界大戦から第二次世界大戦まで(永末聡)
 第5章 近代戦略思想(その3)――第二次世界大戦から現代まで(永末聡)

第II部 現代の戦略と戦争――その理論と実践
 第6章 軍事力の本質とその統合運用――新たなシナジーに向けて(塚本勝也)
 第7章 政軍関係――シビリアン・コントロールの質的変化(三浦瑠麗)
 第8章 非対称戦の戦略――新しい紛争の様相(加藤朗)
 第9章 軍縮・不拡散――戦争を抑制する規範の形成(孫崎馨)
 第10章 戦争と技術――技術革新による戦争の変化(小窪千早)
 第11章 インテリジェンス――戦争と情報(小谷賢)

第III部 戦略研究の新たな視点――その理論と将来像
 第12章 大量破壊兵器核戦略――現代における核兵器の役割とは(小川伸一)
 第13章 平和思想――平和への戦略的アプローチ(中西久枝)
 第14章 人道的介入と平和維持活動――軍事力の新たな役割(山下光)
 第15章 戦争と国際法――法による秩序は実現可能か(森本清二郎)
 第16章 新しい戦略研究――環境・エネルギーなどを中心に(大槻佑子)

■終章 戦略研究の将来(石津朋之)

■戦争と戦略を学ぶための読書リスト

■人名索引

■事項索引

 さて、この本、何よりも「読書ガイド」と、巻末の「戦争と戦略を学ぶための読書リスト」が使えます。邦語文献だけではなく、英語の重要文献も網羅されており、とかく偏狭になりそうな独学の弊を避けられる、見晴らしのよい構成となっております。参考文献にはウェブサイトに掲載されているアメリカ軍の教範まで入っています。
 中島さんの担当された第3章もよく書けていて、ナポレオン時代の総力戦、ジョミニの思想、クラウゼヴィッツの思想、プロイセン軍のシステム、第一次世界大戦、さらにはマハンら海軍戦力についての分析までがコンパクトにまとめられており、近代の戦史の重要点がすぐに頭に入る仕様となっています。その他、特に新鮮さを感じたのは第8章の非対称戦についての解説です。9.11のテロ事件に象徴されるような、新しい形の戦いについて、考察を行なううえでの要点が記されており、今までにない「新しさ」を感じさせられた次第です。