日本文藝家協会入会スピーチ

 昨年、岡和田晃日本文藝家協会に入会したのですが、今年は総会と懇親会に参加することができました(2018年5月10日)。その場で、新入会員14名の代表として、なぜか私にスピーチをご依頼いただきました。急だったのですが、なんとか即興で噛まずにスピーチができました。自己紹介としてもわかりやすいかと存じますので、以下、その内容を思い出しつつ書いてみます。

 このたびは伝統ある日本文藝家協会に入会推薦をいただき、たいへん光栄でございます。
 推薦理事の三田誠広さんには、18年前、北海道から上京して早稲田大学に入った最初の年に、教えを受けたことがあります。文学を「深くて美味しい」ものにするには実存を掘り下げるのが必要ということ、また作品に根付く神話的な構造を読み解く必要があると教えていただき、フラフラしていた当時の私には重要な指針となりました。
 今では文芸評論を手がけるようになり、今年の1月には、もう1人の推薦理事である川村湊さんと「北海道文学の可能性」と題し、地域と文学をテーマに2時間半ほどの対論を熱っぽく行なって参りました。
 文藝家協会に入ることを決めたのは、昨年の7月20日に亡くなった山野浩一会員に相談したところ、「弁護士にとっての弁護士会、医師にとっての医師会のようなもので、是非入っておくといい」と、勧められたからです。(会場笑)
 その山野浩一さんは競馬評論の仕事でとりわけ著名ですが、SF作家としてスタートした方で、従来の「科学小説、サイエンス・フィクション」としてのSFを「思弁小説、スペキュレイティヴ・フィクション」に読み替え、最先端の世界文学に接続しました。
 私は山野さんの本を作っており、来月か再来月には自分の新しい批評集も出るのですが……昨今、複雑な世界を過剰に単純化する言説が蔓延していることが気になります。私はむしろ思弁性をもって複雑さを擁護し、嫌な空気にできるだけ抗いたいと考えています。
 自己紹介をせよとのことなのでもう少しお話させていただきますと、私は三田先生に小説作法を教わったのに批評を書いています。これはよく言われるように、作家になろうとして挫折し、批評家に転身したわけではありません。
 いまは批評を書くにあたっても創作者の視点がなければ、優れたものは書けません。実際に私は、英語圏の流れを汲むロールプレイングゲームの翻訳やシナリオの執筆、ゲームブックの執筆なども行なっており、キャリアとしてはそちらの方が古いくらいです。つまり発想が同じなのです。複雑な構造を持つ新しいメディアにも積極的に目配りすることで、他の13人の新入会員とともに、文藝がいっそう豊かになるように微力を尽くせればと思います。

 同伴者として参加してくれた東條慎生さんが、会場の写真を撮ってくれました。