※画像は、「Lead&Read」掲載の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』リプレイ、「Secret Struggles in Sharn」における最後の注釈にて"大陸横断鉄道"ライトニング・レイルのイメージとして紹介させていただいた、クロード・モネの連作「サン・ラザール駅」のうちの1枚(実際には、ライトニング・レイルは蒸気を出しておらず、エレメンタルの力で雷閃をひらめかせながら運行しているわけですが)。やはり、この絵ははずせないでしょう。
『Role&Roll Extra Read&Lead vol.1』に掲載された『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(『D&D』)のリプレイ「Secret Struggles in Sharn」ですが、『D&D』の最新ワールド「エベロン」を舞台にしたこのリプレイでは、ルールブックにはない、オリジナルの術語を使用しています。それは、「魔法工学」という言葉です。
『幼年期の終わり』や『2001年宇宙の旅』で名高い、作家のアーサー・C・クラークは、「充分に発達を遂げたテクノロジーは、魔法と見分けが付かない」と述べました。逆説的な表現ではありますが、おそらくクラークの説明以上に、エベロン世界における魔法の立ち居地を示すため、適切と思われる解説はないでしょう。
エベロンでの魔法は、基本的にテクノロジーと同義です。そしてテクノロジーであるがゆえに、舞台となる社会システムそのものに、ダイレクトに影響を及ぼしてきます。
飛空艇、大陸横断鉄道"ライトニング・レイル"、そして通信技術、さらには銀行ネットワークなど、魔法が生活やインフラストラクチャーを、ほとんど工学的に統御しているわけです。
例えば、(現行の『D&D』の前身である)『AD&D』第2版の頃は、(魔法はあくまで秘儀的なものであるがゆえ)「魔法のアイテムは流通していない」という旨の記述が、基本ルールブックにありました。これは、おそらく『AD&D』が基本的に、中世騎士道物語的なロマンティシズムと、中世ヨーロッパの社会史的なリアリズムを折衝させようとしたからであり、それゆえ過度に近代的な、工学志向の導入を避けていたのでしょう。
しかし、『D&D』の第3.5版の舞台であるエベロン世界は、非常にマジックリッチな環境であるがゆえに、市場経済が発展していることでしょうし、経済原理が働く場所には権力が介入してくる。まさしく、近代的な資本主義の原理が支配する世界だ、というわけです(少なくとも、メインの舞台と思われるコーヴェア大陸は)。
なので、当然、インフラストラクチャーの種別によって、それらを取り扱う氏族の派閥などが同時に存在します。もちろん、それぞれの氏族が現在の地歩を手にするまでには、まさに壮絶なまでの血塗られた歴史が介在したわけです(代表的なのは、氏族同士の交配の結果産まれるという「特異型ドラゴンマーク」の持ち主たちを排斥しようとした、「マーク戦争」でしょう)。
『D&D』の面白いところは、サプリメントにおける微に入り細を穿つような記述の密度によって、こうした世界設定の構造をうまく可視化させているところにある、と個人的には思うのですが、不思議なことに、世界観の軸となる考え方(ここでは、アーサー・C・クラーク的な「テクノロジーと化した魔法」という考え方)については、明確な定義は下されておりません。
これはおそらく、「魔法」という制御しがたい力を、狭く定義してしまうことなく、常に(背景世界の拡張性とともに)発展させていくだけの余地を残すことを意図しての措置でありましょう(あるいは、個々のユーザーの創意工夫を重視する、という意味合いもあるに違いありません。いずれにせよ、本質的には同じことです)。
しかし、実際にゲームとして「エベロン」のような特異な世界観を運用していくためには、設定の肝となる考え方を、もっとも明快な形でプレイヤーに説明しなければなりません。参加者間でイメージが共有できなければ、そもそもゲームがまわりませんから。
特に、リプレイという形式では、ルールブックのように、外堀から埋めるような形で説明を行なっては、非常に冗長なものとなってしまいます。魔法でありながら、テクノロジー。かような相矛盾する要素の本質を、ひとことで言い表すためには、いったいいかような表現を用いればよいのだろうか。
そこで、ない知恵を絞って思いついたのが、「魔法工学」という術語であったという次第です。
必ずしも最適な術語ではないかもしれませんが、意図するところはかなり見えやすくなったのではないかと個人的には考えています。
リプレイとは、ユーザーが独自の創意工夫をセッション時に行なっている様子を「いかに見せるか」ということ(つまりシステムをどれだけ噛み砕いて使っているか)が、重要な役割であると思います。
とりわけ『D&D』のような世界設定の分量が多いゲームを扱ううえでの、ちょっとしたコツのようなものとして、「魔法工学」という一点を核に据え、今回のリプレイでは提示してみたというわけなのです。
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