D&D日本語版公式サイトにて、リプレイ「竜の予言に選ばれし者たち」の連載が開始しました!


 表題の通り『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)日本語版公式サイトにて、D&Dの第4版(最新版)のリプレイ「竜(ドラゴン)の予言に選ばれし者たち」の連載が始まりました。


 D&Dとは、世界で最初のRPGのこと。1974年に発売されてからバージョン・アップと多様化を繰り返し、今に至るまで連綿と遊ばれています。
 D&Dは『指輪物語』といったファンタジー作品を起源のひとつに持ち、その後のゲーム・カルチャーを初めとしたエンターテインメント、ならびに広義のSFや物語(文学)の発展に絶大な影響を与えてきました。
 最近では『SFが読みたい! 2010年度版』で見事1位にランクインもされたウィアード・ファンタジーの超傑作『ペルディード・ストリート・ステーション』(あらゆる異形のクリーチャーが、近未来の暗黒都市でくんずほぐれつ妖怪大戦争大騒乱! それを通して「愛と人間関係(リレーションシップ) と政治について書こうとした本」)の作者チャイナ・ミエヴィルがD&Dの影響を公言し、D&Dの前の版や後継作品に関わっているということは、よく知られた話です。

ペルディード・ストリート・ステーション (プラチナ・ファンタジイ)

ペルディード・ストリート・ステーション (プラチナ・ファンタジイ)

 現在の第4版と他のジャンルの関わりを示すならば、第4版は開発中のオンラインゲーム『NEVERWINTER』のベースになっているということで、期待できます。


 幸いなことに私はいちファンとしても、また翻訳や紹介を通しても、D&Dという伝統あるタイトルに携わることができております。これ以上の幸せはありません。
 私の感じているD&Dの面白さをD&Dについてよく知らない人にも理解していただけるよう、リプレイ(D&Dを遊んだ様子を記録し読み物として整理したもの)を作成してみました。日本語版の発売元であるホビージャパンのご厚意を得まして、D&D日本語版の公式サイトにて無料公開されております。
 まずはリプレイをダウンロードしてみて下さい。
 私は僭越ながら、ダンジョンマスター(司会・進行・判定役)とライティング全般を担当させていただいております。

http://www.hobbyjapan.co.jp/dd/article/web_replay_eb/index.html

※リンク先から、リプレイが記載されたPDFファイルを無料ダウンロードすることが可能となっております。


 今年の5月に第4版対応の『エベロン・キャンペーン・ガイド』が発売され、アドベンチャー集『失われし王冠を求めて』など、日本語展開も行われている世界、エベロン
 つまり、さながら近代科学のように魔法が発達した「魔法工学」が世界観の基板になっているスチーム・パンクならぬマジカル・パンクな世界*1を舞台にした『ダンジョンズ&ドラゴンズ』最新版のリプレイでございます。

エベロン・キャンペーン・ガイド (ダンジョンズ-ドラゴンズ第4版サプリメント)

エベロン・キャンペーン・ガイド (ダンジョンズ-ドラゴンズ第4版サプリメント)

 イラストはD&DウォーハンマーRPGの翻訳でも知られる、イラストレイター/漫画家の見田航介さんにご担当いただきました。私の一押しはティーフリングの“ヒットマン”ジュス。イメージそのまま!


 特に今回は、初心者向けの記事を意識しました。
 リプレイを書く時にはどのような伝え方をしたものかいつも悩むのですが、今回は「ステップアップ式に段階を踏んで内容を理解していくことのできる」というコンセプトを目指しております。
 じっくりと、お読みいただけましたら幸いです。


 まずはD&Dのコンセプトを説明し、私が各種イベントで耳にしたD&Dに対する不安を解消することにつとめ……*2


・「遅刻」に始まるマナーの問題を提示(マナーの重要性を指摘)
・プレイヤーが演じることになるキャラクターの創造部分
・彼らが生きる舞台である背景世界
・ルールの最も基礎的な部分である行為判定の実際


 以上の事柄が、リプレイ記事を通して自然と理解していただけるような構成となっています。


 特に背景世界については、私がコンベンション等で実演を重ねていちばんプレイヤーのリアクションが活き活きとしていた「世界観のグランドデザインを伝え、そこから少しずつ照準を絞っていく」という方法を採ってみました。
 エベロン世界の神話から始まり、舞台であるコーヴェア大陸の歴史背景、そして終結したばかりの大戦争「最終戦争」の模様を、ある程度簡潔に伝えるところから始めるやり方です。
 ファンタジー小説や映画などで、往々にして採られる方法ですが、この方法のメリットは、プレイヤーが早いうちから世界観の因果律を理解できるため、ストーリーに関わる行動や意志決定が滑らかに進むというところにあります。


 こうした方法のほかに、例えば『ドラゴンクエスト1』の冒頭部――王様の部屋から出るまでの間に、基本的な操作方法を習熟できる――のように、序盤の説明を最小限に押さえ、そこから少しずつ話を広げていくという手法があります*3
 こちらは、プレイヤーが手探りでゲーム世界を無理なく認知-学習していくことができるというメリットがあります。


 むろん、どちらにもメリットだけではなくデメリットもあるのですが、今回は試行錯誤を重ねた結果、まずは神話レベルのグランドデザインを理解してもらい、プレイヤーが落とし込まれている社会的・政治的な状況についての情報を与えることで、何よりもまず「物語」としてRPGを受け止めてもらえる――キャラクターとしての立ち居振る舞いを、私たちが各種メディアの情報に触れたうえで自分の行動を決めるように、自由な意志決定の成果として持ち込める――ようにできないかと心を砕いた次第です。
 おそらくダンジョンマスターをする際には、このように読んだ方が理解が進む部分がある。とりわけ海外RPGの場合は、ルールブックの豊穣な情報をどこから噛み砕けばよいのか、不鮮明な部分もあるでしょうから、そうした箇所の紹介をも兼ねています。そう、今回あえて「神話」についてじっくり語ったのも、後々のセッションにおいて、大きな意味があるからにほかなりません。
 それゆえ本リプレイは、「D&D入門と、エベロン世界の入門を兼ねたリプレイ」という性質のものだとご理解いただけましたら幸いでございます。


 なお、リプレイを読み終えた後に「待ちきれない、戦闘のルールに興味があるよ!」と思った人は、どうぞ、現在発売中の『D&D第4版 スターター・セット』がおすすめです。
 お気づきかもしれませんが、1985年に株式会社新和から日本語版が発売された(英語版は1983)『D&Dベーシックセット』(いわゆる“赤箱”)と同じラリー・エルモアの美麗なイラストが表紙を彩っています。一説では当時の“赤箱”は20万セットを売上げ「週刊少年ジャンプ」でも広告が出たといいますから、その影響力は相当なものであったと見るべきでしょう。
 こちらに収録されている「プレイヤーの書」のプレビューが無料ダウンロードできますので、ぜひお読み下さい。D&Dの戦闘が初歩からステップアップ式に理解できるようになっております。
 リプレイを通してD&D世界やキャラクターのあり方がわかったら、次はぜひ「戦闘」という局面から、D&Dを体感していただけましたら幸いです。
http://www.hobbyjapan.co.jp/dd/news/4th_starter/index.html

ダンジョンズ&ドラゴンズ第4版スターター・セット

ダンジョンズ&ドラゴンズ第4版スターター・セット

※こちらからPDFファイルで、「プレイヤーの書」の第1話「ゴブリン襲来!」をダウンロードすることができます。


 エベロン世界を理解するための参考文献としては、ハードボイルド・ミステリの元祖『さよなら、愛しい人』が、村上春樹の手で訳されました。
 一冊紹介するとしたら、こちらですね。

さよなら、愛しい人

さよなら、愛しい人

 ハードボイルドの美学――考えるより先に殴り、なのに何よりも他者への思いやりを行動の中心においた“漢”を描いた――参考資料としては、この小説もぜひ、お勧めしたいところです*4

*1:指輪物語』と『薔薇の名前』と『マルタの鷹』を混ぜたような世界観と、発表当時は喧伝されました

*2:D&D第4版は日本に紹介されてからしばらく時間が経過しているので、ネガティヴ・イメージが一人歩きしている部分もあるのです

*3:D&D第4版だと『フォーゴトン・レルム・キャンペーン・ガイド』が、そうした手法を採用していました

*4:ただし、旧版の『エベロン・プレイヤーズ・ガイド』では、調査員のアーキタイプをプレイ際には、『大いなる眠り』の劣化コピーになりすぎないよう、注意が促されました。魔法工学についても、1930年代の地球にあった科学を単に移し替えるのは避けるよう、明言がなされています