『ウォーハンマーRPG』シナリオ集レビュー、その1

 『ウォーハンマーRPG』の都市設定集&キャンペーンシナリオ集シリーズ「呪われし道」の第2部『アルトドルフの尖塔』が、Amazon.co.jpで予約が開始されているようです。

アルトドルフの尖塔 (ウォーハンマーRPG 冒険シナリオ)

アルトドルフの尖塔 (ウォーハンマーRPG 冒険シナリオ)

 幸いにして原書を読んでますが、これまたすごいシナリオですよ。

本書は、ウォーハンマーRPGの3部よりなる新しい叙事詩的冒険シナリオ「呪われし道」の第2部にあたります。冒険それ自体に加え、本書にはアルトドルフという都市のすべてが、街の歴史、主要スポット、この街にふさわしい雰囲気を醸し出すためのヒントなどを含めて事細かに紹介されています。このシナリオ単独でプレイすることも、「呪われし道」シリーズ第1部である『ミドンヘイムの灰燼』の続編としてプレイすることも可能です。

[内容]
本書『アルトドルフの尖塔』において、プレイヤー・キャラクター一行は大いなる都市に旅し、そのしきたりを学び、探索行を通じて2つめのアーティファクトを探しあてることになる。しかし、アルトドルフは権謀術数渦巻く魔都でもある。
この危険に満ちた街で生き延びるためには、剣をふるう腕前以上のものが求められるだろう。新旧の敵と対決し、秘術が綾なす魔法諸学府に分け入り、わずかな味方の助けだけを頼りに、プレイヤ―・キャラクターたちは死すべき運命に縛られない敵がめぐらす策謀を挫かなければならない。

 単発でももちろん遊べますが、第1部の『ミドンヘイムの灰燼』から遊ぶと、面白さもひとしおです。

ミドンヘイムの灰燼 (ウォーハンマーRPG シナリオ)

ミドンヘイムの灰燼 (ウォーハンマーRPG シナリオ)

 紹介文にもある通り、『アルトドルフの尖塔』の前半には、詳細極まりないエンパイアの首都アルトドルフの設定が収録されています。
 これで、アルトドルフを舞台にしたジャック・ヨーヴィルキム・ニューマン)の小説『ドラッケンフェルズ』や『ベルベットビースト』を読んだ際のモヤモヤも一気に晴れること、間違いなし。
ウォーハンマーノベル ベルベットビースト (HJ文庫G)

ウォーハンマーノベル ベルベットビースト (HJ文庫G)

 というかリプレイ「魔力の風を追う者たち」を書いたとき(と収録用セッションのとき)に、こっそりこのサプリの設定使ってました(笑)


 シナリオは『クトゥルフ神話TRPG』(『クトゥルフの呼び声』)の『ニャルラトテップの仮面』、『トラベラー』の『トラベラー・アドベンチャー』などと紛うようなクオリティです。
 輻輳的なプロット、唸る陰謀。登場人物の設定の豊かさ。これぞ、シティアドベンチャー
 たぶん、このシナリオをゲームマスターとしてこなすことができれば、マスタリング力は数段アップします。いやマジで。中級者以上向けのマスタリング・ドリルとして、最高の研鑽材料になること間違いありません。


 さて「呪われし道」シリーズのほかにも、『ウォーハンマーRPG』は、こうした設定付きシナリオ集が英語圏ではとんでもない数、出版されています。
 未訳のもののなかから手持ちのものをちょこっとご紹介しましょうか。ちょっとしたネタバレもありますが……。


● "Terror in Talabheim"

WFRP: Terror in Talabheim (Warhammer Fantasy Roleplay)

WFRP: Terror in Talabheim (Warhammer Fantasy Roleplay)

 「呪われし道」とは独立したシナリオ集ですが、構成はほとんど「呪われし道」と同じ。 ただ、シリーズとは関係なくスタンドアローンで遊べます。
 96ページ構成。タラブヘイムの設定が前半3分の1。大判の地図も付いています。 新キャリアは意外に多く4種登場。
 内容は、謎のクレーターから発せられた疫病を、死霊術師と混沌教団が陰謀で広めようとするのを食い止めるという話で、D&Dのキャンペーンシナリオ『赤い手は滅びのしるし』のように、タイムラインがあって敵が攻めてくるという「侵略される側シナリオ」になってます。そして、そこにスケイブン(ネズミ人間)が絡んでくる。
 このシナリオはスケイブン本“Children of the Horned Rat”の実践編として用意されたようで、スケイブン本から、一部設定とスケイブン魔法が抜粋されています。
WFRP Children of the Horned Rat (Warhammer Fantasy Roleplay)

WFRP Children of the Horned Rat (Warhammer Fantasy Roleplay)

 “Children of the Horned Rat”も愛に満ちたすごい本ですが、それはまた別の機会に解説できたらと思います。


●"Lure of the Liche Lord"

Lure of the Lich Lord: An Adventure in the Border Princes (Warhammer Fantasy Roleplay)

Lure of the Lich Lord: An Adventure in the Border Princes (Warhammer Fantasy Roleplay)

 オールド・ワールドの辺境ボーダー・プリンスから南、ネフェキーラの地へと続く一大シナリオ。Gen Con World RPG Awardノミネートのダンジョン・シナリオ。
 ボーダー・プリンス以南の設定は、前半3章(22ページ相当)に割かれています。主に、舞台となるThe Tomb of the Liche Lordの周辺の歴史・政治・地理の解説ですね。どちらかと言えば、ワイルダネス・アドベンチャー向けな設定の感じです。
 第4章がTombへの道のり。第5章以降の60ページ強がシナリオ部分で、残り20ページ程度が、追加クリーチャー5種、『オールドワールドの生物誌』に登場したクリーチャーの強化データが5種、呪い・病気・罠の追加データと作成済みキャラクターになります。
 全126ページ。ノリとしては、D&Dで言えば『邪悪寺院ふたたび』に近い印象です。手軽なダンジョンアドベンチャーとして楽しめます。
 ただ、恐るべきは、このサプリにはダンジョン探索にまつわるあらゆる判定の基準が、きっちりシステマティックに書かれているのです。特に罠回りのテスト方法が秀逸。この記述を応用すれば、もう、「『ウォーハンマーRPG』のシステムは微妙にアバウトだからなあ」なんて的外れな悪口を言ってくる外野の声とも完全にオサラバです。

Amazonの記法は間違い。正しくは“Liche”です。
※意図を正確に伝えるために、表現を少々修正しました。