J・G・バラードはまだまだ死なず

 自伝「Miracles of Life」で、末期癌であることを自ら明かしたJ・G・バラードですが、新作の梗概をエージェントに送付したとのこと。
 ワーキング・タイトルが"Conversations with My Physician"、サブタイトルが"The Meaning,if Any,of Life."となっていますから、なかなか壮絶です。
 バラードですから、おそらく並みの闘病記ではありますまい。かつて『結晶世界』や『沈んだ世界』においては、時間が硬直するその瞬間が、すさまじく甘美に描かれました。それゆえ新作を通して見えるのは苦闘ではなく、ましてや諦観でもなく、その先にある美なのではないかと期待します。
 土地に根ざす歴史の記憶に徹底的にこだわり、それを思弁に昇華したという意味で、バラードにも通じるところのあった向井豊昭は、医師に余命1週間と宣告されてから、新作「島本コウヘイは円空だった」を書き上げました。思うにバラードも同じ心意気であったのでしょう。私たちも、その想いを少しでも受け止めなければ。

Miracles of Life: Shanghai to Shepperton: An Autobiography

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